児童労働とは

サッカーボールと児童労働

サッカーボール産業の児童労働。世界には、働かなければならないために学校に行けず、けがや病気の危険にさらされている子どもが1億6000万人います(ILO/UNICEF:2021年発表推計)。インド・パキスタンでは手縫いのサッカーボール生産に多くの子どもが関わっていました。

サッカーボール産業における児童労働の実態

サッカーボール縫いをしていたソニアさん

記者会見でサッカーボール縫いについて話してくれたソニアさん

2002年の日韓サッカーワールドカップが開催される一年前の2001年5月31日。インドで子どもの権利を守るために活動されているカイラシュ・サティヤルティさんと共に、一人のインド人の女の子が来日し、記者会見が行われました。

来日したのは、5歳からサッカーボールを縫う仕事をしていた当時15歳のソニアさんです。ソニアさんはサッカーボール縫いについて話してくれました。

私は朝7時から夕方5時までボールを縫う仕事をしていました。1つのボールを縫うと5ルピー(約15円)もらえました。縫う時、手に針を刺してしまい、とても痛かったです。勉強をしたかったけど、病気の母を看病している父に『学校に行かせてほしい』とは言えませんでした。

ソニア(インド:15歳)

ソニアさんのメッセージの続きはこちら

※ソニアさん来日と記者会見は、2014年にマララ・ユスフザイさんと共にノーベル平和賞を受賞されたカイラシュさんが代表を務める「児童労働に反対するグローバルマーチ」が主導するキャンペーンの一環で日本でサッカーボール産業における児童労働の実態を知ってもらうために実施されました。

1日に作ることができるサッカーボールを2個~3個

サッカーボール縫いをしている女の子

サッカーボール縫いをしている女の子(インド)

手縫いのサッカーボール生産の世界第1位のパキスタンと2位のインドでは、イギリスの植民地時代に技術が移転されて以来、サッカーボールやバレーボール、ラグビー、クリケットなどの各種スポーツ用品の生産が行われてきました。中でも、パキスタンでは約1万5000人(ILO推計)の子どもたちがサッカーボールの縫製に携わり、インドでは約1万人(パンジャブ州のみ:NLI推計)の子どもがサッカーボールや他のスポーツ用品を作っていたと言われています。

パキスタンやインドでサッカーボール縫いに携わる人の多くは、ダリットと呼ばれる経済的にも社会的にも地位の低い社会グループ(カースト)に属しています。ボールの製造は、企業が直接労働者を雇っているのではなく、企業が仲介業者(コントラクター)へ下請けに出し、さらに縫製工場(スティッチングセンター)や各家庭で縫製が行われています。

例えば、インドではサッカーボールを1個を縫って得られる賃金は5~10ルピー(当時約15~30円)でした。おとなでも1日に2~3個を縫うのがやっとで、法律で定められている1日の最低賃金63ルピー(約189円)を下回る賃金しか得られません。

児童労働が子どもたちに及ぼす悪影響と原因

サッカーボール縫いに携わる子どもたちは、視力の低下、背中や首の痛みなど、時には指を切断したり、指が奇形してしまうこともあります。適切な治療を受けられず、障害を抱えて生きていかなければことも少なくありません。

このような状況の背景には、低水準の賃金やおとなの不安定な雇用状況、失業などが考えられます。賃金が低くおとなの収入だけでは家庭を支えることができないため、子どもは働かざるをえなくなります。

サッカーボール産業の児童労働をなくすための取り組み

業界や消費者が立ち上がれば産業単位で児童労働をなくせる

児童労働をなくす取り組みフェアトレードによって作られたサッカーボール

フェアトレードマークの入ったサッカーボール

1990年代後半に欧米のメディアがサッカーボール産業の児童労働を指摘したことで、スポーツ産業は大きな打撃を受けました。夢を売るスポーツ産業が、子どもの夢を奪うようなことをしてはならない。この問題に対し、国際機関やNGO、FIFAなどのサッカー業界が児童労働防止に取り組んできました。

スポーツ用品を製造・輸出している企業が参加した財団を立ち上げ、加盟企業が利益の一部を児童労働防止のために拠出し合い、FIFA(国際サッカー連盟)からもサポートを受けて活動をはじめました。児童労働を予防するためには、誰が縫っているかをはっきりさせる必要があります。縫う人(スティッチャー)を登録制にし、登録した人以外(主に子ども)が縫うことがないようにしました。児童労働のモニタリングだけでなく、子どもたちの教育を支援する取り組みや学校環境の改善、おとなの雇用や賃金の改善などが行われてきました。

これは、世界中で愛されているスポーツ「サッカー」で人種差別や人権侵害があってはならないと、FIFAが国際社会においてもフェアプレイの実現を呼びかけた結果です。これは、児童労働の問題が、企業や消費者、関係各者、産業全体が協力することで、児童労働の予防と撤廃が実現できることの証明でもあります。

日本でも2002年の日韓サッカーW杯で注目を集める

ワールドカップキャンペーンの様子

サッカーボール産業の児童労働を伝えるためウォークも実施

2002年、サッカーワールドカップ日韓大会の開催に合わせて、世界のサッカーボールなどの製造に携わる子どもたちがいることを伝えるためACEは、日韓アジア基金とフリー・ザ・チルドレン・ジャパンと協力して「ワールドカップ・キャンペーン~世界から児童労働をキックアウト」を開催しました。

今も、日本での児童労働問題に対する関心は必ずしも高いとはいえませんが、来日したソニアさんのメッセージをはじめ、サッカーボール産業の児童労働のことが新聞やラジオなど多くのマスメディアで取り上げられました。

チャリティフットサル大会やYahoo!チャリティーオークションを開催

SHIHOさんのサイン入りフェアトレードサッカーボール

SHIHOさんのサイン入りボール

その後もACEは『世界中の人に夢を与えるスポーツが、 子どもの未来を奪ってはいけない!』と、チャリティフットサル大会を開催してきました。サッカーにゆかりのある著名人にご協力いただき、Yahoo!チャリティーオークションにもサイン入りグッズなどを出品してきました。オークションの落札額やチャリティ大会の収益は、インドやガーナの子どもたちを危険な労働から守るための活動費として使わせていただいています。

日本では、まだまだ世界の児童労働問題に対する関心が高いとはいえません。しかし、多くの人が愛するサッカーを通じて、少しでも多くの人が児童労働に関心を持ち、サッカーやフットサルを通じて社会貢献に参加できるよう、ACEは取り組みを続けています。

ACEチャリティフットサル大会

これまでに出品した Yahoo!チャリティーオークション

チャリティフットサル大会やチャリティーオークションの収益を通じて、ACEはインドの村を支援してきました。いまでは、サッカーボール縫いをしていた子どもたちが学校へ通えるようになっていました。

サッカーボール縫いをする子どもがいなくなったインドの村を訪問

児童労働は産業単位でなくすことができる

サッカーボール産業では、消費者からの声と、業界全体の取り組みによって児童労働の問題を解決することができました。ACEが次に目をつけたのは、チョコレートの原料である「カカオ」とTシャツなど衣服の原料となる「コットン」です。サッカーボールと同じように、産業単位で児童労働の問題をなくすため働きかけています。

特集記事「チョコレートと児童労働」

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