サッカーボール産業の児童労働

世界には、働かなければならないために学校に行けず、けがや病気の危険にさらされている子どもが1億6800万人います。
インド・パキスタンでは手縫いのサッカーボール生産に多くの子どもが関わっていました。

2002年の日韓サッカーワールドカップのちょうど一年前の2001年5月31日。日本で、サッカーボール産業における児童労働の実態を知ってもらおうと記者会見が行われました。 その記者会見をするために来日したのが、5歳からサッカーボールを縫う仕事をしていた、当時15歳のソニアさんです。ソニアさんはサッカーボール縫いについて話してくれました。

私は朝7時から夕方5時までボールを縫う仕事をしていました。
1つのボールを縫うと5ルピー(約15円)もらえました。

縫う時、手に針を刺してしまい、とても痛かったです。
勉強をしたかったけど、病気の母を看病している父に
『学校に行かせてほしい』とは言えませんでした。ソニア(インド:15歳)

1日に作ることができるサッカーボールを2個~3個

手縫いのサッカーボール生産の世界第1位のパキスタンと2位のインドでは、イギリスの植民地時代に技術が移転されて以来、サッカーボールやバレーボール、ラグビー、クリケットなどの各種スポーツ用品の生産が行われてきました。中でも、パキスタンでは約1万5000人(ILO推計)の子どもたちがサッカーボールの縫製に携わり、インドでは約1万人(パンジャブ州のみ:NLI推計)の子どもがサッカーボールや他のスポーツ用品を作っていたと言われています。

ボールの製造は、企業が直接労働者を雇うのではなく、企業が仲介業者へ下請けに出し、さらに縫製工場や各家庭で縫製が行われています。 例えば、インドではサッカーボールを1個を縫って得られる賃金は5~10ルピー(当時約15~30円)でした。おとなでも1日に2~3個を縫うのがやっとで、法律で定められている1日の最低賃金63ルピー(約189円)を下回る賃金しか得られません。

児童労働が子どもたちに及ぼす悪影響とその原因

サッカーボール縫いに携わる子どもたちは、視力の低下、背中や首の痛みなど、時には指を切断したり、指が奇形してしまうこともあります。適切な治療を受けられず、障害を抱えて生きていかなければことも少なくありません。

このような状況の背景には、低水準の賃金やおとなの不安定な雇用状況、失業などが考えられます。賃金が低くおとなの収入だけでは家庭を支えることができないため、子どもは働かざるをえなくなります。

業界や消費者が立ち上がれば産業単位で児童労働をなくせる

1990年代後半に欧米のメディアがサッカーボール産業の児童労働を指摘したことで、スポーツ産業は大きな打撃を受けました。夢を売るスポーツ産業が、子どもの夢を奪うようなことをしてはならない。この問題に対し、国際機関やNGO、FIFAなどのサッカー業界が児童労働防止に取り組んできました。

スポーツ用品を製造・輸出している企業が参加した財団を立ち上げ、加盟企業が利益の一部を児童労働防止のために拠出し合い、FIFA(国際サッカー連盟)からもサポートを受けて活動をはじめました。児童労働を予防するためには、誰が縫っているかをはっきりさせる必要があります。縫う人(スティッチャー)を登録制にし、登録した人以外(主に子ども)が縫うことがないようにしました。児童労働のモニタリングだけでなく、子どもたちの教育を支援する取り組みや学校環境の改善、おとなの雇用や賃金の改善などが行われてきました。

これは、世界中で愛されているスポーツ「サッカー」で人種差別や人権侵害があってはならないと、FIFAが国際社会においてもフェアプレイの実現を呼びかけた結果です。これは、児童労働の問題が、企業や消費者、関係各者、産業全体が協力することで、児童労働の予防と撤廃が実現できることの証明でもあります。

 

日本でも2002年の日韓大会に合わせて「ワールドカップキャンペーン2002~世界から児童労働をキックアウト!」を開催

2002年、サッカーワールドカップ日韓大会の開催に合わせて、世界のサッカーボールなどの製造に携わる子どもたちがいることを伝えるためACEは、日韓アジア基金とフリー・ザ・チルドレン・ジャパンと協力して「ワールドカップ・キャンペーン~世界から児童労働をキックアウト」を開催しました。

今も、日本では児童労働問題に対する関心は必ずしも高いとはいえませんが、来日したソニアさんのメッセージをはじめ、サッカーボール産業の児童労働のことが新聞やラジオなど多くのマスメディアで取り上げられました。

 

 

チャリティフットサル大会やYahoo!チャリティーオークションを開催


SHIHOさんサイン入りボール

その後もACEは『世界中の人に夢を与えるスポーツが、 子どもの未来を奪ってはいけない!』と、チャリティフットサル大会を開催してきました。サッカーにゆかりのある著名人にご協力いただき、Yahoo!チャリティーオークションにもサイン入りグッズなどを出品してきました。オークションの落札額やチャリティ大会の収益は、インドやガーナの子どもたちを危険な労働から守るための活動費として使わせていただいています。

日本では、まだまだ世界の児童労働問題に対する関心が高いとはいえません。しかし、多くの人が愛するサッカーを通じて、少しでも多くの人が児童労働に関心を持ち、サッカーやフットサルを通じて社会貢献に参加できるよう、ACEは取り組みを続けています。

チャリティフットサル大会やチャリティーオークションの収益を通じて、ACEはインドの村を支援してきました。いまでは、サッカーボール縫いをしていた子どもたちが学校へ通えるようになっていました。

>> サッカーボール縫いをする子どもがいなくなったインドのポーリ村を訪問

※サッカーボール産業の児童労働と、その取り組みについて詳しくは、ACEが発行したワーキングペーパーVol2 ワールドカップキャンペーンブックレット「ボールの向こうに世界が見える」もご参照ください。

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いまなお世界で働く1億6800万人の子どもたちを救うため、ACEはチョコレートの原料である「カカオ」の生産地や、Tシャツなどの原料「コットン」の生産地での児童労働の問題に取り組んでおり、ACEの活動は、みなさんの応援によって成り立っています。ACEでは月々1,000円から寄付ができる「マンスリーサポーター」を募集しています。ぜひ、世界の子どもの笑顔のため、ご協力よろしくお願いします!

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