児童労働とは

チョコレートとサステナビリティ

近い将来、チョコレートが食べられなくなるかも?!

発酵後に天日干しで乾燥させたカカオ豆

昨日2/2から東京でチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」が始まりました。何を隠そう私もチョコレート好きのひとり。街にチョコレートが溢れるこの季節はワクワク度が上がります。朝イチで潜入しようと会場に向かったところ、長蛇の列で残念ながら断念。チョコレート好きのエネルギーをあらためて感じました。多くの人を魅了してやまないチョコレートですが、ただ楽しんでもいられない事情が実はあります。

IMG_3304チョコレートの主要な原料カカオが抱える2020年問題というのをご存知でしょうか?現在世界では1年間に約440万トンのカカオ豆が流通していますが、2020年にはその4分の1に相当する約100万トンが不足するとの予測があるのです。チョコレート、カカオ業界においては、いかにカカオを安定的に調達しつづるけることができるか、そのためにカカオの生産量をどうやって増やしていくかが大きな課題となっています。

なぜカカオが不足してしまうのか。人口の多い新興国の経済発展に伴う嗜好品需要の高まりにより消費が増えるのに対して、カカオの供給量が追い付かないというわけです。供給量が上がらないひとつの要因は、地球温暖化や気候変動。ガーナでも雨の降る季節や量が変わって生産量に打撃を与えています。カカオ樹の老齢化も大きな課題です。カカオは樹齢30年までが生産量のピークといわれ、古くなった樹木は植え替えが必要ですが進んでいません。政府も新しい品種の苗を無償で配布したりしていますが、すべての農家には行き届かないため、我々NGOが現場で配布を手伝っている状況です。

DSC01377さらに大きな問題は、カカオ農家の多くが適切な技術や知識を持たずに生産を続けていることです。世界のカカオ生産の7-8割を占める西アフリカの場合、小規模な農家が大半です。小学校にも行ったことがなく読み書きができない農家も多く、小作人として生産を支えているのはカカオ栽培をしていない国や地域からの移住労働者です。政府による栽培技術の普及や支援も十分ではありません。技術がない農家にとっては働いても働いても生産量は上がらず、厳しい生活から抜け出せない状況です。そんななか、児童労働や子どもの人身売買も起きているのです。カカオの児童労働は、コートジボワールで130万人、ガーナで92万人との調査報告があります(2015年、米国チュレーン大学調査)。
※2022年1月追記:2020年のカカオの児童労働者は、コートジボワールで79万人、ガーナで77万人との調査報告があります(2020年、シカゴ大学)。

昨年10月にコートジボワールで開催されたカカオの国際会議(World Cocoa Foundation主催)に参加してきました。そこでさらに報告されていたことは、カカオ農家のカカオ離れが進んでいるということ。カカオの生産は手間がかかるわりには収入に結びつかないため、それに気づいた農家がもっと楽に収入が得られるゴムやパームヤシなど別な農産物の生産に転換しているようです。実際、インドネシアでは年々カカオの生産量が減ってきています。これに後継者不足の問題も拍車をかけています。

また、地球温暖化自体の要因となっている森林伐採を、カカオなどの輸出用作物の生産が引き起こしているとの報告もされていました。世界の森林破壊の約4分の1は、輸出用作物の栽培を目的とする違法な農地転換で、そこで作られている作物がカカオや、大豆、パームヤシ、ゴム、牛肉なのです。温暖化により生態系が変わり、カカオを生産地域の中でも近い将来生産に適さなくなるエリアが出てくるとの報告もありました。生産量を増やすために行っている農地開発が、逆に生産範囲を狭めてしまうという負のループが起きています。

IMG_4024この問題を克服するために大切なのが、カカオの生産性を向上させることと、カカオ生産地域のコミュニティやカカオの生活環境を改善していくこと。グローバルなチョコレート企業が中心となり、2015年から「カカオ・アクション」という取り組みが行われています。またそれ以前から、欧米の各企業はサステナブル調達をめざし、フェアトレードやレインフォレストアライアンスといった、環境や労働、人権などにも配慮して作られたカカオ等の原料を取り扱うことをめざしています。イギリスやオランダでスーパーマーケットを訪ねた時には、それらの認証マークがついた一般のチョコレートがたくさん並んでいて、消費者の選択肢もたくさんありました。一方日本では、まだまだ企業の取り組みは進んでおらず、消費者の関心も高くないのが現状です。

ACEは「チャイルドレイバーフリーカカオイニシアチブ」を立ち上げ、児童労働がないことはもちろん、持続可能なチョコレートの市場を広げることをめざしています。

2009年からガーナのアシャンティ州の8村で「スマイル・ガーナプロジェクト」を実施。454人の子どもを児童労働から救い就学を実現し、4000人以上の子どもの教育環境の改善を行ってきました。2013年からは、プロジェクトを行った地域で生産された「児童労働のないカカオ」を原料に使ったチョコレートの商品開発に取り組んでいます。2014年には森永製菓との連携で、日本の大手メーカー初となる国際フェアトレード認証チョコレートを実現し、2015年にはその通年販売がはじまりました。2016年3月には、日本の商社の協力を得て、ガーナから日本へのカカオ豆の輸入が実現。そのカカオ豆を使って、日本を代表するショコラティエ、ショコラティエパレドオールの三枝俊介シェフがビーントゥーバーのチョコレートとボンボンショコラを製作し、同年9月から発売しています。

チョコレートをいつまでもおいしく食べ続けるためには、そしてチョコレートに関わるすべての人がハッピーでいられるためには、カカオ生産の現場でサステナビリティの向上や児童労働の解決につながる取り組みを企業が支え、生産者や企業が想いを込めて作ったものを食べる人たちが選んでよい循環を作っていくことが大切であると考えています。ACEは今後もサステナブルでチャイルドレイバーフリーのチョコレートの市場を広げるために、企業や消費者と連携を続けていきます。ぜひこの記事を読んでいるあなたも、その活動に参加してください!

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2017年2月3日
NPO法人ACE
事務局長 白木朋子

 

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・ショコラコーディネーター市川歩美さん
「チャイルドレイバーフリーの幸せなチョコレートとは」
https://allabout.co.jp/gm/gc/465787/

・alterna × s
「甘いチョコに苦い現実「児童労働根絶」目指して」
http://alternas.jp/study/global/66720

・チャイルドレイバーフリーカカオイニシアチブ
https://acejapan.org/info/2016/10/17515