チョコレートと児童労働
チョコレートというと、みなさんは何を思い浮かべますか?駄菓子屋にある1粒20円のものから、デパートなどで1粒数百円で販売されてる高級チョコまで。チョコレートといっても幅広い種類がありますが、チョコレートの原料にはカカオが使われています。そんな「カカオ」にまつわるビターなお話についてご紹介します。
チョコレートの由来とカカオの生産地
カカオは2000年の歴史を持つ食べ物で、正式名はラテン語で「神々の食物」という意味があります。通貨として使われていたこともある貴重なものでした(例えば、うさぎ1匹=10ココアなど)。カカオの木は赤道から南北15度以内の熱帯地域でしか育たない南国の作物です。
カカオの原産地はブラジルのアマゾン川流域、またはベネズエラのオリノコ川流域と言われています。カカオは16世紀にスペインに持ち込まれ、王族の飲み物としてヨーロッパに普及しました。1828年にはオランダでココアパウダーが開発され、1875年にはスイスでミルクチョコレートが登場し、現在の形になっていきました。
現在、世界のカカオ生産の約7割をコートジボワール、ガーナ、ナイジェリア、カメルーンといった西アフリカの国々が占めています。中でもコートジボワールは世界の43%の生産量をかかえ、国民の3分の1がカカオかコーヒー栽培に関わっていると言われています。
カカオ農園で人身売買で売られてきた子どもたちも
2001年4月13日に西アフリカのギニア湾で、10歳から14歳の子ども139人を乗せた船が消息を断った事件が報道されました。船に乗っていたのは近隣の国から連れて来られた子どもたちで、ベニンからガボンに入り、そこからコートジボワールなどのカカオ農園で働くために売り渡されるところだったといいます。
報道によると、船は目的地であるガボンの港で上陸を拒否され、ベニンへ引き返したのですが、船には23人の子どもしか乗っていなかったそうです。処分に困った船長が子どもを投げ捨てたと疑われていましたが、真相はわかっていません。このニュースがきっかけで、欧米を中心に労働者として人身売買される子どもがいること、そしてカカオの栽培に児童労働が使われていることが世界中に知れ渡りました。
カカオ生産地での児童労働の現状
IITA(国際熱帯農業研究所)が実施した西アフリカのカカオ生産における児童労働の調査(*1)では、コートジボワールだけで約13万人の子どもが農園での労働に従事しています。カカオ農園は小規模な家族経営である場合が多く、子どもが家族の手伝いとして働いている場合もありますが、1万2000人の子どもが農園経営者の親戚ではない子どもだったそうです。また、農園経営をする家庭の子ども(6~17歳)の3分の1は、一度も学校に行ったことがありません。その中には「何らかの仲介機関」によってこの職についている子どももいて、他国から誘拐され奴隷として売られて強制的に働かされているという報道や他の文献の指摘を裏付けています。この調査では、西アフリカのカカオ農園で働く子どもの64%が14歳以下と報告され、カカオ栽培の労働集約的な作業、特に農薬の塗布や刃物の使用などは子どもの身体に危険をもたらす可能性が高いと言われています。
(*1)2002年発表、世界カカオ基金、米国国際開発庁及び労働省、ILO、各国政府の協力の下実施
カカオ産業の対応
2000年から2001年にかけて、欧米でテレビによる報道やNGO・消費者団体によるキャンペーンが行われた結果、世間の注目を集め、カカオ産業も児童労働に対する行動をとるようになりました。2001年10月に米国の議員とチョコレート製造業者協会がカカオ農園から最悪の児童労働をなくす目的で「ハーキン・エンゲル議定書」を締結しました。それを受けて2002年には、国際ココアイニシアティブが発足し、米国政府やILO、労働組合、NGO、消費者団体などが共同で児童労働予防プロジェクトの開発や実施、実態調査などを行ってきました。
議定書に定められた項目の5つ目「カカオ豆生産量の50%に児童労働が使われていないことを認証できるようにする」が、目標であった2005年までに達成できなかったため、この議定書は延長されました。2006年10月のアメリカ労働省のプレスリリースによると、アメリカのティユーレーン大学のペイソンセンターがこの項目の実施を監督することになっています。
日本との関わり
日本が輸入する約7割をガーナ産のカカオが占めています(表1)。日本がガーナからたくさん輸入している理由は、ガーナは政府が価格や品質を管理しており、安定した品質の豆の輸入が見込めるからだそうです。
国 名 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 |
ベトナム | 138 | 139 | 126 | 107 | 178 | 115 |
インドネシア | 26 | 117 | 90 | 167 | 117 | 106 |
コスタリカ | 20 | 20 | 52 | 12 | 4 | 1 |
トリニダッド・ドバゴ | 50 | 56 | 138 | 65 | 248 | 81 |
ドミニカ共和国 | 1,291 | 576 | 542 | 830 | 1061 | 1268 |
コロンビア | 335 | 1 | 4 | 15 | 14 | 15 |
ベネズエラ | 4,349 | 1,688 | 2,276 | 2,860 | 5,653 | 4,130 |
エクアドル | 3,385 | 3,053 | 2,371 | 2,859 | 4,185 | 5,804 |
ペルー | 25 | 75 | 88 | 215 | 332 | 271 |
ブラジル | 200 | 57 | 238 | 448 | 169 | 496 |
コートジボワール | 1,252 | 1,614 | 1,924 | 3,409 | 1770 | 1464 |
ガーナ | 39,573 | 33,022 | 23,542 | 28,384 | 48,669 | 40,412 |
カメルーン | 395 | 539 | 260 | 394 | 495 | 300 |
サントメ・プリンシペ | - | - | 5 | 1 | 12 | 13 |
タンザニア | 1 | - | 49 | 205 | 5 | 261 |
マダガスカル | 13 | 12 | 40 | 89 | 250 | 56 |
パプアニューギニア | 2 | - | 1 | 22 | - | - |
その他 | 4 | 7 | 13 | 22 | 29 | 43 |
合計 | 51,059 | 40,976 | 31,759 | 40,104 | 63,191 | 54,836 |
出典:「日本チョコレート・ココア協会」日本の主要カカオ豆国別輸入量推移グラフ
資料:日本貿易統計
単位:トン
ちなみにチョコレートの消費量を他国と比較すると、日本の年間国内消費量は25ヵ国中4位で252,150トン(1位はドイツ960,525トン)、1人当たりの消費量は2.01キロで20位(1位はドイツ11.7キロ)となっています。(ともに2015年統計)
日本が輸入するカカオ豆のうち、その25%づつを森永製菓と明治製菓が輸入しています。チョコレートのシェアも25%ずつ分けあい、森永はココア、明治はチョコレートで知られています。日本には、日本チョコレート・ココア協会という業界団体が存在し、チョコレート業界の各世界組織にもこの協会を通じて参加しています。
森永製菓は2006年7月に、明治製菓は同年9月に世界カカオ基金へ加盟しました。2007年現在、カカオ産業における児童労働について森永製菓では、すでに組織内での認識を高めているとのことです。
児童労働をなくすための取り組み「フェアトレード」
チョコレートの原料、カカオの生産現場で児童労働が関わっていることが知られてから、フェアトレードチョコレートが、児童労働をなくそうと取り組んでいるチョコレートとして取り上げられる機会が増えました。1986年に設立されたアメリカのフェアトレード会社、Equal Exchange(イコール・エクスチェンジ)の広報担当のロドニー・ノースさんとチョコレート製品マネージャーのダリー・グードリッチ(Dary Goodrich)さんにお話を聞きました。
「フェアトレード製品は『グルメ市場』の拡大を受け、その支持を広げてきました。コーヒー、チョコレートいずれも消費者の高級製品への志向をとらえ、オーガニック製品などの高品質の商品を提供するだけでなく、そこに生産者への還元という付加価値をつけました。イコール・エクスチェンジでは、1986年からニカラグア産コーヒー豆を取り扱い、その後エル・サルバドル産などの品種を増やしました。1996年には米国のコーヒー会社として、初めて小規模協同組合へ収穫前の融資を提供しました。」
Equal Exchange(イコール・エクスチェンジ)
イコール・エクスチェンジは、バナナチップ、はちみつ、ツナなどの製品を開発し、失敗を重ねながら扱う製品を選定してきたそうです。2002年からはカカオ関連製品を取り扱い、売り上げが1000万ドルを超えるヒット商品となりました。コーヒーの大口顧客であった教会関係者から、子どもたちが飲めるものも欲しいという声があり、フェアトレードの認証を受けたカカオ豆と砂糖を使ったココアとチョコレートバーを販売したのがきっかけだそうです。このココアとチョコレートバーは、西アフリカではなくドミニカ共和国とペルー産のカカオを使用しています。ドミニカ共和国では、CONOKADOと呼ばれる15,000人の生産者を持つ協同組合と提携しています。また、砂糖はパラグアイとコスタリカ産のものを扱っています。
これらの原材料はすべてフェアトレード認証団体であるトランスフェアーの認証を受けています。トランスフェアーUSA(Transfair USA)のホームページによると、この認証を受けたフェアトレード製品の条件は、正当な価格が生産者に支払われること、強制的児童労働の禁止を含めた結社の自由があり、安全な労働環境が保障されていること、直接的貿易(仲介業者の削減)、民主的で透明性のある組織体制、地域開発、持続可能な環境保護などとなっています。このようにフェアトレード商品は、児童労働がないことが前提となっています。
ちなみに、アメリカのチョコレート市場でもフェアトレードの市場占有率は1%にも満たないそうです。児童労働のないチョコレートの実現には、まだまだたくさんの取り組みが必要なようです。
カカオ産業の児童労働に対するACEの取り組み
チョコレートの原料であるカカオの生産地では、多くの子どもたちが児童労働を強いられています。その現状に対し、欧米各国ではフェアトレードなどさまざまな取り組みが行われていますが、日本では児童労働に対する問題意識が低く、取り組みも少ないのが事実です。
そこでACEは、日本が多くのカカオを輸入するガーナでの児童労働の現状を日本の消費者に伝え、ガーナの子どもたちの支援へつなげる「しあわせへのチョコレート」プロジェクトを2009年から行っています。ぜひ一緒に、カカオ生産地での児童労働について考え、チョコレートを食べるわたしたちだけでなく、カカオを作る地域の子どもたちもハッピーになれるように、ご協力お願いします!!
「しあわせへのチョコレート」プロジェクト
売上のすべてが寄付になる「1 more LOVEチョコステッカー」の販売やカカオ生産地で子どもを危険な労働から守る活動を行なっています。カカオ生産地の現状や取り組みを知りたい方はぜひご覧ください。
「子どもたちにしあわせを運ぶチョコレート」
チョコレートの歴史やガーナのカカオ生産地域の現状、「児童労働のないチョコレート」ができるまでの経緯など、カカオ生産地の子どもを児童労働から守るための取り組みについて紹介した一冊です。
出典、参考ウェブサイト
- Combating child labor in cocoa growing, ILO/IPECs Contribution, IPEC February 2005
- Anjula Razdan, “Hot Cocoa”, UTNE Jan-Feb 2006
- IITA, Summary of Findings from the Child Labor Surveys In the Cocoa Sector of West
- Africa: Cameroon, Coet d’Ivore, Ghana, and Nigeria
- 日本チョコレート・ココア協会
- CHOCOLATE WORK.COM
- BBCニュース|アフリカ|The bitter taste of slavery
- BBCニュース|アフリカ|Mali’s children in chocolate slavery
- アムネスティ・インターナショナル日本|児童労働―貧困がもたらすもの
ガーナの子どもたちを笑顔にするために
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