ユニセフが生んだ児童労働に対する誤解 | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

児童労働のない未来へ-NPO 法人ACE代表 岩附由香のブログ(single-blog)

児童労働

2006年12月20日

ユニセフが生んだ児童労働に対する誤解

ユニセフは毎年世界子ども白書を出版している。1997年は児童労働特集である。児童労働を研究しはじめた私にとってこの本はバイブルに近い存在であり、何かと参照してきた文書でる。ユニセフという子どもに関する権威のある組織が出版した報告書であるので、児童労働に関わる記述に引用されることも多い。

この報告書の中では、冒頭にユニセフが「児童労働に関する4つの神話」をかかげている。

ユニセフが掲げた「児童労働に関する4つの神話」

神話1 児童労働は貧しい世界だけのものである
神話2 貧困をなくさない限り児童労働はなくせない
神話3 児童労働は主として輸出産業で行われる
神話4 児童労働を効果的に禁止する唯一の方法は、消費者や政府がボイコットや制裁を通じて圧力をかけることである

この神話3と神話4を読んだ私は「消費者や政府が圧力をかけることは2つの理由で児童労働を減らすことに貢献できない。」と考えた。

第一の理由は、神話3の輸出産業に従事する児童労働は限られていること。第二の理由は、神話4で記述されていたボイコットはよくない結果をもたらす場合があること。

私がこの神話に対し疑問を抱くようになったんおは、アメリカで児童労働に関わる20団体以上をインタビューしたことがきっかけだ。ユニセフが報告書に記述した文章自体に間違いがあるわけではないが、この神話3と4が与えた世間への印象を考えたとき、ユニセフは児童労働に対する誤解を生んだといえるのではないか、というのが私の見解である。

私が一番腹立たしいのは、この「神話」は児童労働をなくそうと活動する一部の運動への批判に利用されていることであるが、それはまたいつか書きたい。さて、肝心の内容であるが、神話3と4をみて私が抱いた疑問についてまず書こうと思う。

神話3「児童労働は主として輸出産業で行われる」への疑問

この神話3において、「実際に輸出部門で働く子どもはごく少なく、その比率は全体の5%以下であろう」という記述があり、脚注がついている。脚注が示す出典は、アメリカ労働省が1994年に出版した「米国が輸入する工業品・鉱物における児童労働」についての報告書である。

2ページ目の引用箇所を見てみると、Only a very small percentage of all child workers,probably less than five percent, are employed in export industries in manufacturing and miniing.(強調は筆者による)とある。

「製造業と鉱物生産における輸出産業に従事する働く子どもの数は全体の5%にも満たないだろう」というこの文章は「製造業と鉱物生産」に限った記述であり、農業製品がまったく入っていない。それなのに、上記のユニセフ報告書の記述は「輸出産業全体において5%未満」と受けとれる書き方である。これは誤解を生んでいるのではないだろうか。

神話3には、指摘したとおり農業分野の児童労働が含まれてない。また引用元の5%という数字も、どこからどう導き出したものか根拠が記述されていない。

農業における児童労働は「見えない存在」

では、農業の輸出セクターの児童労働が実際どれぐらいかというと、その統計は手元にはない。アメリカ労働省が1995年に出した米国への農産品輸入品についての報告書には、以下のように記述があり、児童労働があるが、統計にも補足されにくい、「見えない存在となっている」ことを示している。

Because many of these children work on an occasional basis, and because official statistics either do not count, or are unable to accurately count, seasonal workers, estimates of the total number of childre working in commercial agriculture are difficult to ascertain. The use of child laboe in agriculture is thus, to a large degree, invisible–uncounted, often undocumented, and little understood.

最近の児童労働の報道や取り組みは、実は農産品における児童労働が多い。ゴムのプランテーション、カカオ豆、コーヒー、紅茶、タバコなどである。実際、ユニセフの1997年の同報告書は、これらの産業における児童労働について、32ページに「アフリカでは子どもがコートジボワールのココアやコーヒー、タンザニアの紅茶、コーヒー、サイザル麻などの輸出作物農園で働いて、アフリカ経済をさあさえている」という記述してあり、農産品の輸出における児童労働の存在を認めている。

にもかかわらず、神話3によって、ユニセフは「輸出セクターの児童労働は少ない」と断定し、神話4によって、こういった輸出セクターを絡めた児童労働禁止のアドボカシーを牽制しているとも受け取れる。

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