【インド便り】活動開始から5年。児童労働がなくなった2つの村の主な成果 | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

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【インド便り】活動開始から5年。児童労働がなくなった2つの村の主な成果

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こんにちは。子ども・若者支援事業インド担当の田柳です。

2019年3月、インド・テランガナ州のコットン生産地で働く子どもを児童労働から守り教育を支援することを目的とする「ピース・インド プロジェクト」では、2つの村での活動を終了しました。ACEと現地パートナー団体SPEEDは2014年からこの村で住民と共に児童労働のない村を目指してきました。

今回は、村の変化を比較しながら主な成果をご報告します。

村での集会でSPEED代表が住民と話をする様子

村での集会でSPEED代表が住民と話をする様子

 

活動開始当初、2つの村には

  1. コットン種子栽培やタバコ栽培で児童労働が存在(義務教育年齢の子どものみで226人)
  2. 学年が上がるにつれ中途退学者が増える
  3. 親が教育の大切さを理解していない
  4. 集落部に言語が異なる住民が暮らしていて子どもと教員の意思疎通ができない
  5. 学校はあるが、設備や設置学年が不十分
  6. 就学前児向けの保育・保健サービスが不十分

などの課題がありました。
(詳細は「インドのコットン生産地で新たに2つの村で支援開始(2014.06.01)」)

これらの課題に対して、以下の変化が見られました。

 

成果1.働いていた子どもたちが学校へ通うように

これまでに583人の子どもが児童労働の状況から抜け出し、学校に通って教育を受けるようになりました。また、教育を十分に受けられないまま義務教育年齢を過ぎた女子160人が職業訓練を受け、仕立て屋として安全な環境下で収入を得られるようになりました。 開始前の調査で児童労働と特定された義務教育年齢の子どもの数は226名でしたが、その後の活動で判明したり、近隣の街の発展に伴う村の人口増から児童労働者とされる義務教育年齢の子どもの数は累計597名となっていました。

残る14名の子どもは労働をやめているものの、3月末までに定期的な通学を実現できませんでした。4月初めから現在まで学校が夏休みのため、新学期開始のタイミングで全員が就学することを目指し住民グループが働きかけを行っています。

村の子どもたち

以前は畑で子どもたちが働いていることが一般的でしたが、現在の村ではその姿が見られなくなりました。コットン種子栽培はおとなが現在も行っていますが、タバコ栽培は活動2年目頃から村では行われなくなりました。

成果2.学校からの中途退学者が減り継続して学校に通い続けるように

以前は学校に通う子どもも、乾季の農作業ができない時季に出稼ぎ労働で村から離れた地域に3~6か月移る親に伴って学校を離れざるを得ず、そのタイミングで中途退学してしまい児童労働者になっていくケースが多く見られました。しかし、啓発活動により親は祖父母や親戚に子どもの世話を託して自分たちだけ村を離れるようになり、親の出かせぎ労働に伴う子どもの中途退学が減りました。
また灌漑設備が以前より充実し、農作業ができない期間が短くなったことも影響しています。

集落部で暮らす祖母と孫

集落部で暮らす祖母と孫

成果3.教育の重要性を感じ、住民同士で子どもの状況をチェックするように

村ではこれまでプロジェクトをきっかけに結成された住民ボランティアグループ「子ども権利保護フォーラム」のメンバーたちが児童労働などの子どもの問題が起きていないか、子どもが定期的に学校に行っているかなどを確認し、問題があれば親に働きかけを行うという活動を行ってきました。その活動は他の住民にも浸透し、「今は子どもを働かせると近所の人が止めにくる」という声が住民から聞こえてくるように、お互いに子どもを守るための監視の目が働くようになりました。

インドの村にて。「子ども権利保護フォーラム」メンバー

「子ども権利保護フォーラム」メンバー

成果4.独自の言語を持つ指定部族とのコミュニケーションを教員が工夫するように

テルグ語という言葉がこの村がある州の公用語ですが、村の中心から離れた集落には別の言葉を主に話す指定部族の人々が住んでいます。以前はその集落の公立学校に派遣される教員は特にまだテルグ語が話せない低学年の子どもたちとの意思疎通に苦労し、授業の放棄も見られましたが、住民の教育の意識の高まりの影響もあり積極的に指定部族の子どもたちへの授業を行うようになりました。以前は教科書しかなかった学習素材ですが、教員自身のスマートフォンを活用し音楽や動画で子どもの勉強への関心を高めようと工夫する姿などが見られるようになりました。

成果5.学校の教育環境が向上

活動地には合計4つの公立学校があり、それぞれの学校で教員の数が増えたり、トイレや飲料水設備が増築・補修されたりなど校舎の改善があり約1500人の子どもの教育環境が改善しました。集落部では初等教育1~5年生までしか学校に学年がなく、5年生を終えるタイミングで労働を始めてしまう子どもが多くいましたが、村から少し離れたところにある宿舎制の学校と住民をつなぐことにより6年生以上も勉強を続ける子どもが増えました。また、住民と教員が行政に要請を行った結果1つの学校では8年生までしかなかった学年が2学年増え、特に女子にとって危険な村の外への通学をせずに、中等学校修了の10年生まで教育を受けられるようになりました。

インドの村の公立学校で学ぶ子どもたち

村の公立学校で学ぶ子どもたち

成果6.保育環境の改善

村には行政による母子保健と保育の機能を持つ施設がありますが、スタッフが来ないなど活動開始当初は機能していませんでした。施設を利用しない就学前児童(0~5歳)は多くの場合働いている親の目が届くように畑付近で寝かされていたり遊んだりしますが、就学年齢になっても学校に通わずそのまま畑で時間を過ごし働き始めることにつながっていました。啓発活動により、住民が行政へ施設の改善を要請をするようになり、結果施設が毎日適切に運営されるようになりました。行政管轄が異なる母子保健施設と公立学校間でのスタッフ・教員の連携も取られるようになりました。

保育・母子健康センターのスタッフとそこに通う子どもたち

保育・母子健康センターのスタッフとそこに通う子どもたち

これらの成果は、これまでの啓発活動等により住民の間に「子どもが働いていることが当たり前」という意識から「子どもに労働をさせてはいけない、子どもは学校に行かせるべきだ」という意識への変化があったことから起きたものです。プロジェクトが終了した現在でも、村では住民ボランティアグループを中心に住民同士で子どもの安全・安心を守るための活動が行われています。

4月以降は新たに周辺の3つの村で始めた活動が中心となっていますが、引き続きACEとSPEEDでは必要な場合はこれまでの2村のフォローを行い、すべての子どもが学校に通うようになりそれが将来も継続していくことを目指します。

インドの村の子どもたち

田柳優子(子ども・若者支援事業インド担当)

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  • カテゴリー:子ども・若者支援
  • 投稿日:2019.05.23