ピース・インド プロジェクトの「引き渡し式」を行いました! | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

コットンのやさしい気持ち

ピース・インド プロジェクトの「引き渡し式」を行いました!

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みなさん、こんにちは!インド・プロジェクトマネージャーの森です。 いつもACEの活動への温かいご支援をいただき、ありがとうございます。

ACEは、インド・テランガナ州のコットン生産がさかんな農村地域で、現地パートナー団体SPEEDとともに、児童労働から子どもを守り教育を支援する「ピース・インド プロジェクト」を、2010年から行ってきました。

2023年9月、2019年4月からの約4年5か月間にわたり、3つの村を対象に実施してきたピース・インド プロジェクト 第3フェーズが終了しました。第3フェースの終了をもって、ピース・インド プロジェクト自体も終了となります。プロジェクト終了後は、これまで行われてきた活動を住民自身が引き継ぎ、自主的に実施していくことになります。

これに先立ち、私たちはプロジェクトを総括する場を設け、これまでともに活動を行ってきたSPEEDスタッフと住民ボランティアグループのメンバーとともに、プロジェクトが成果を挙げるまでの道のりや苦労、効果的だった活動を振り返りました。

今回のインド便りは、プロジェクトの総括・振り返りの声と、プロジェクトの住民への「引き渡し式」の様子をお伝えします!

3つの村で児童労働ゼロを実現

3つの村では、2019年4月の事前調査で、6~14歳(義務教育年齢)の子ども158人、6~17歳の子ども2,038人のうち423人が児童労働をしていることがわかりました。

かけっこのような競争をする子どもたち

2023年8月までに、プロジェクトで運営していたブリッジスクール(児童労働をやめた子どものための補習学校)に通学していた子どもを含め、義務教育年齢のすべての子どもが公立学校への就学を果たしました。

7歳から2年間コットン畑で働いていたという10歳のネハさん(仮名)は、「友達がいて、勉強ができて今は幸せ。将来は先生になりたい」と話してくれ、何の教科の先生になりたい?という問いには、「テルグ語の先生になりたい。I love Telgu!」と、しっかりと自分のことを話してくれました。

ブリッジスクールから公立学校に就学したサイさん(仮名)は、「働いていた時は、頭が痛かったりお腹が痛かったり、いつも体調がとても悪かった。学校に行きたかった。今は体調に問題がなく、とても幸せ。」と笑顔を向けてくれました。

ブリッジスクールで授業を受ける子どもたち

働いている子どもは、教育を受けることができないだけでなく、長時間労働や農薬の影響、慢性的な栄養不足など、健康面での問題を抱えていることも多くあります。ブリッジスクールでの給食の提供や身体を動かす時間、プロジェクトでの啓発活動を通じて、子どもと親、住民は健康的で規則的な生活の重要性を認識するようになりました。

ブリッジスクールでの給食の時間。無料で提供される給食は、子どもの健康的な生活を支えました。

また、義務教育を十分に受けることができなかった15~17歳の女の子を対象とした職業訓練センターでは、60人の女の子が仕立屋になるための縫製・刺繍の訓練を、50人の女の子が地域で使われている紙皿を製造する訓練を修了しました。これによって女の子たちは以前よりも経済的・精神的に自立し、また安定的な生計基盤を確保して生活できるようになりました。

縫製の訓練を受けている様子

ミシンの練習をしている女の子

アニータさん(仮名)

17歳のアニータさん(仮名)は、「働いているときは病気がちで肌もダメージを受けていた。訓練を受けて、ジャケットを作ったり、刺繍をしたりできるようになって、両親をサポートできるようになった。大きなショップのオーナーになる。」と、生き生きと夢を話してくれました。

これらの成果が実を結ぶまでには、SPEEDスタッフが住民ボランティアグループとともに継続的、精力的に活動を行い、様々な課題と対峙しながら日々を駆け抜けた姿がありました。
その奮闘してきたスタッフの声を、ぜひ聴いてください!

スタッフによるプロジェクトの振り返り「子どもが変わる様子が嬉しかった」

子どもが学校に行くまでの働きかけについて

「毎日、学校に通わない子どもの家や畑を訪問し、それが非常に効果的だった。活動当初は、追い返されたり、家の中で子どもを隠されたり、話を全く聞いてもらえないこともよくあったが、継続していく中で親の態度が変わっていった。」

「子どもを学校に通わせようと親の意識が変わるまで、3か月ほど説得する必要があった。」

「スタッフと話すこともなかった子どもが、ある時から熱心にスタッフの話を聞き、また自分の話もするようになり、説得によって学校に行くというモチベーションが生まれていく様子がよくわかり、嬉しかった。」

「働いている子どもの家族が揃って家にいる朝の時間が話し合いには一番効果的で、子どもが学校へ行くことに両親がともに賛成しない場合は、まずは片方の親を重点的に説得したり、子どもを説得してから子どもから親に伝えてもらったりした。それでも難しい場合は、村長などの年長者を巻き込むことで、少しずつ効果を高めていった」

親や住民の意識を変えるためには家庭訪問で直接話すことが最も効果的であり、その変わっていく様子が見られて嬉しかった、とスタッフ全員が声をそろえていました。(家庭訪問の様子は、過去のインド便りでもご紹介していますのでよろしければご覧ください。)

職業センターに通っていた子どもについて(職業訓練センター インストラクターの声)

「女の子は、センターに入った時、おとなを尊敬することや、おとな・他人の呼び方を全く知らず、他の女の子と仲良くすることができずに喧嘩をすることもあった。センターで基礎教育や職業訓練を受けるにつれ、他の女の子との意思疎通が円滑にできるようになり、協調性を身につけていく様子が見られた。」

「自分の身体や家をきれいにすること、健康を守ること、人を尊敬することなど、基本的生活習慣や考え方に変化が生まれ、物事に対して敏感になった。自分の好きなもの嫌いなものをすぐに発言できるようになった。」

「訓練を修了した女の子は、自分のミシンで服を作り、仕立ての縫製も丁寧なため、以前より多く収入が入ると思う。」

また、プロジェクトでは、子どもの権利に関する啓発や、住民への能力強化の研修・集会も定期的に行ってきました。

住民・村の変化について

「住民が子どもの権利について知ることで話し方や振る舞いが変わった。プロジェクトを通して、新しい人に多く出会い、話し方が変わり、自信がついたように見える。」

「SHG(自助グループ)の女性たちが、村全体の女性に繋がっていて、政府プログラムの情報を伝えたり登録を手伝ったり、お金のやりくりなどを行っており、村の人たちが安心して話すことのできる存在となった。彼女たちの存在が児童労働の撤廃に役に立った。」

子どもの変化、子どもの権利について

「子どもは、おとなのように権利という言葉については理解していないが、自分は仕事をせずに学校に行くことができる、仕事をするのは良くない、という理解をしている。親が反対しても仕事をする必要はない、自分は学校に行って良いということを理解するようになった。」

 

時に村で起きた出来事を織り交ぜながらプロジェクト全体を振り返り、スタッフで話し合う姿がとても印象的でした。特に笑顔を見せながら、あんなこともあった、と子どもの様子を思い出しているスタッフの姿から、私も現地で変わっていく子どもたちの様子が目に浮かぶようでした。

プロジェクトの引き渡しと「児童労働のない村」の宣言

2023年9月16日、これまで活動してきた3つの村合同で、「引き渡し式」を実施しました。
当日は、子どもが約80人、地元の学校の校長、教育関係者、村長グループ、住民ボランティアグループのメンバーを中心に大人が約105人集まり、盛大な雰囲気に包まれながらの開催となりました。

SPEED代表ラヴィ氏の開会挨拶に始まり、これまでのプロジェクト活動や成果を振り返るともに、スタッフと住民に日々の活動への感謝と労いの言葉がかけられました。緊張した面持ちの住民もいましたが、式典は粛々と進められ、今後の活動は住民主体で実施されること、これまで十分に能力強化がなされているから安心して託すことができること、などが丁寧に説明されました。

挨拶するSPEED代表ラヴィ氏

 

式典の最中には子どもたちが歌に合わせて踊る様子も見られました。会場では軽食も振る舞われ、緊張がほぐれた子どもと大人が一緒に楽しい時間を過ごしながら、和やかな時間となりました。

楽しそうに踊る子どもたちの様子

 

最後に、これまでの活動への謝意と今度の活動への期待を表した記念の盾が住民ボランティアグループのメンバーへ贈られ、各メンバーは「今後は自立的に『児童労働のない村』を維持します」と宣言しました。

記念の盾を受け取った住民ボランティアグループのメンバー

「児童労働のない村」の維持を宣言

子どもに寄り添いながらエンパワーされたスタッフ

私自身、プロジェクトマネージャーとして、現地で活動してくれているスタッフからの情報の温度感を頼りに、様々な面で支えられ、心配事を打ち明けたり憤りを抱えたりしながら、ともに活動してきました。

「これまで子どもたちに寄り添いながら活動を続けてきたことが自分の誇りです。子どもたちが元気に学校に行く姿を見ることが、自分にとっての励みでした」と涙を流しながら語ってくれたコミュニティオーガナイザーの姿に、私も言葉では表せないほどの共感と感謝で胸が熱くなりました。

また、産休をはさみながらもブリッジスクールの教員として活躍してくれたスタッフは、「子どもの教育に関わっていくという自分の夢があり、プロジェクトを通して貴重な経験ができた」と話してくれました。

プロジェクトマネージャーより

みなさまの温かなご支援によって紡がれてきた活動が、現地の子どもたちを児童労働から解放することにつながり、そして、プロジェクトに携わったスタッフ、住民ボランティアグループ、そして住民一人ひとりのエンパワーメントにつながったという事実を、心からの感謝とともにお伝えさせていただきます。

いま、住民の手に託されたピース・インド プロジェクトは、住民グループを中心とした子どもを守るための活動により、住民自ら「児童労働のない村」を維持するという旅路へ歩みを進めます。ACEは、プロジェクト・フォローアップ期間を2024年3月まで設け、SPEEDスタッフと緊密に連携しながら、子どもたちやプロジェクト終了後の各村の様子を見守るとともに「児童労働のない村」の教訓や課題を明らかにするプロジェクト評価を実施していく予定です。

テランガナ州政府は、2025年までの児童労働撤廃を宣言していますが、州政府による実際の児童労働への取り組みに対する優先順位は低く、「児童労働のない州」の目標達成への取り組みが十分に行われていない現状があります。

ACEは、これからも州政府への働きかけや連携について模索し、インドでの児童労働撤廃を目指して活動を続けます。

今後も、活動地の子ども、インド、世界のすべての子どもの権利が守られるよう、ACEの活動を見守っていただけるととても心強いです。

長きにわたるピース・インド プロジェクトへのご支援、本当に本当にありがとうございました。

インド・プロジェクト マネージャー 森

世界の子どもの笑顔のため、世界を変える小さな一歩を。

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2023.10.25