報告書「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を」が発行されました

報告書「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を」が発行されました

Pocket
LINEで送る

グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引について調査を行い、その実態を数値化するという初めての試みをまとめた報告書が発行されました。これは、2017 年に開催されたドイツでの「G20(主要20か国・地域)労働雇用大臣宣言」やアルゼンチンでの「第4 回児童労働の持続的な撤廃世界会議」の宣言で要請され、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)、国際移住機関(IOM)、国際連合児童基金(UNICEF)が共同で作成した報告書です。

ILO report_CL supply chain 2019英語版表紙

英語版はこちら

ILO report_CL supply chain 2019日本語版表紙

概要の日本語訳はこちら

サプライチェーンとは、製品の原材料や部品の調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの一連の流れのことです。この流れは1国にとどまらず、複数の国の間にまたがっています。グローバル・サプライチェーンは、さまざまな国で経済成長、雇用創出、技術移転などを促す可能性がある一方で、児童労働、強制労働、人身取引を含む人権侵害やディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい雇用)が保障されていないという現状があります。政府、経済界、市民社会組織が一丸となって取り組まなければならない課題です。

この報告書の内容は、次の通りです。
(1) グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引の予防と被害者の保護のための政策や取り組みを政府や企業などに関する情報を提供しています。
(2) このような人権侵害の形態は多様で、問題を解決するためには「政策のスマート・ミックス」(適切な組み合わせ)が必要であると考えています。
(3) 脆弱な立場にいる人に関するリスク要因や政策介入だけでなく、人権侵害を見えにくくするグローバル・サプライチェーン特有の複雑さとインフォーマル・セクター(非公式部門)での労働や移住労働との関連についても考察しています。

第1部は、グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に関するリスク要因をデータで示しています。特に法の執行が徹底していないところでは、社会・経済的に脆弱な立場にある人や労働者が、グローバル・サプライチェーンの中で経済的・商業的な圧力に直面しているサプライヤーと組み合わさると、人権侵害につながっていくというプロセスを示しています。

第2 部では、グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に関して、政策面で2つの視点を紹介しています。ひとつは国家の義務を概観しています。労働者の保護と人権侵害を受けやすい脆弱な面を減らしていくために法的枠組をつくり実施していく義務、そしてすぐれた政策や実践で救済へのアクセスを提供する義務です。もうひとつは、グローバル・サプライチェーンにおいて責任ある企業行動を促進するための、政策のスマート・ミックスを示しています。

今回の報告書で、グローバル・サプライチェーンにおける児童労働について貴重なデータが示されています。例えば、

児童労働者のうち何割くらいが、グローバル・サプライチェーンにかかわっているのでしょうか?
最も割合が高い順から、東アジア・東南アジア(26%)、中南米・カリブ(22%)、サハラ以南のアフリカ(12%)と中央・南アジア(12%)、北アフリカ・西アジア(9%)となっています。つまり、国内向けの物やサービスの生産の方に多くの児童労働者がいることが分かりました。

児童労働者のうち何割くらいが、グローバル・サプライチェーンの中で輸出に直接的/間接的にかかわっているのでしょうか?
間接的(原材料の生産に近い部分)にかかわっている割合が高い順から、東アジア・東南アジア(43%)、中南米・カリブ(40%)、中央・南アジア(38%)、サハラ以南のアフリカ(31%)と、北アフリカ・西アジア(28%)となっています。児童労働は輸出に直接的(販売に近い部分)にかかわっている方に多いことが分かりました。

ただし、入手可能なデータに制約があったため、分析に用いられた児童労働数は世界推定の約半数であると説明されており、解釈には注意が必要とされています。

最後に、結論と提言を含め5つの優先分野が報告されています。
(1) サプライチェーン全体を通した児童労働、強制労働、人身取引への取り組み
(2) 労働者を保護し、児童労働、強制労働、人身取引にさらされる脆弱性を軽減するための政策
(3) 企業の行動や環境を規制する公的な措置
(4) 労働と人権に関する責任ある企業行動
(5) 児童労働、強制労働、人身取引に取り組むための連携と包摂的なビジネスのアプローチを推進

 

サプライチェーン上の児童労働撤廃に向けて(ACEより)

この報告書は、グローバル・サプライチェーンにおいてさまざまな形態で存在する児童労働を「数字」で明らかにした画期的な試みだと思います。児童労働は、輸出向けや国内向けの物やサービスの生産にかかわっていて、サプライチェーン上の原材料の採取から小売りにいたるまでかかわっていることが分かりました。SDG 8.7「児童労働の2025年までの撤廃」を実現するためには、グローバル・サプライチェーンと国内消費のための生産活動、どちらからも児童労働を無くしていかなければなりません。
ACEがプロジェクトを実施しているガーナやインドの村では、それぞれカカオとコットンの輸出産業にフォーカスをあてていますが、子どもたちは建築などの日雇い労働、家族と農業や畜産など、さまざまな労働に従事しています。コミュニティでの児童労働ゼロをめざしているため、結果的には国内産業も対象に含めたアプローチとなっています。サプライチェーンの児童労働に注目し、その解決に力を注ぐことは、地域全体の子どもたちの状況改善にもつながっています。
カカオ産業に見られるように、輸出産業は国外からのプレッシャーにより、企業も含め解決への取り組みが数多く試されてきました。試行錯誤ではありますが、それらの知見と経験が、国内産業にも適用可能と考えます。2020年3月にガーナ政府が開始したチャイルドレイバー・フリー・ゾーン(児童労働のない地域) のコンセプトも、ACEの取り組みをモデルとし、全国に広げようと動き出しました。輸出産業からモデルを作り、それを全国に広げる、という形がここでも実現しつつあります。

これからも、ACEは子どもたちへの直接支援、企業との連携、政府への働きかけなどの活動を続けていきます。みなさまのご支援・ご協力よろしくお願いします。

         

あなたにも、今、できることがあります。子どもの権利サポーター募集中

  • Pocket
    LINEで送る

  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2020.02.27