世界の児童労働1億3,800万人 児童労働撤廃へ向け、政府・企業・NGOがコミットメント表明~2025年期限のSDGs目標 「児童労働ゼロ」達成極めて困難~

世界の児童労働1億3,800万人 児童労働撤廃へ向け、政府・企業・NGOがコミットメント表明~2025年期限のSDGs目標 「児童労働ゼロ」達成極めて困難~

2025年は、SDGsの目標 8.7が掲げる「あらゆる形態の児童労働の撤廃」の達成期限。しかし、6月11日に国際労働機関(ILO)とユニセフ(国連児童基金)から発表された最新の報告書(※)では、世界には1億3,800万人の子どもが児童労働に従事すると推計され、これまでの11倍のスピードで取り組まなければ、SDGs全体の目標達成年である2030年までの児童労働撤廃も難しいとされました。児童労働が存在する現場で取り組みが進む中、日本政府を含む先進国政府による体制強化の必要性が叫ばれています。

そこで、認定NPO法人ACEが事務局をつとめる「児童労働ネットワーク(CL-Net)」が呼びかけて、6月12日に実施した院内集会での「児童労働撤廃に向けた、政府・企業・NGOなどによるコミットメント」の内容や、1997年から児童労働をなくすために活動をつづけるNGOとして、ACEが政府に求める政策提言について以下にまとめます。

写真提供: 児童労働ネットワーク

 

「児童労働:2024年の世界推計、傾向と今後の課題」(原題:Child Labour: Global estimates 2024, trends and the road forward)

1)児童労働は世界全体としては減少、しかしアフリカでは以前大きな課題

ILOとユニセフが6月11日に発表した報告書(※)によると、世界の児童労働者は1億3,800万人いることが明らかになりました。

グラフ1: 児童労働者数の推移(割合は、そのうちの危険有害労働を表す)

 

新型コロナウイルス感染症拡大の影響による児童労働者数の増加が懸念された中、前回の推計に比べ2,200万人以上の減少という肯定的な傾向が見られた一方で、産業別では農業が全体の6割、地域別ではサブサハラ以南のアフリカ地域が全体の6割以上を占め、この傾向には顕著な変化は見られませんでした。また、児童労働は低収入国に集中しつつも、わずかながら日本を含む高収入国にも存在することが改めて指摘されました。

グラフ2: 地域別児童労働者数と割合

 

2)児童労働反対世界デーに院内集会開催

6月12日の児童労働反対世界デーにあわせ、児童労働ネットワークが第一衆議院議員会館で開催した院内集会「児童労働ゼロ、その日はいつ?」には、法務大臣、厚生労働副大臣、外務副大臣らが参加したほか、政府関係者・国会議員・JICA(国際協力機構)・企業・NGO・報道関係者・一般参加者77名が会し、児童労働撤廃に向けた議論や決意表明を行いました。

左から、大野容子JNNE副代表、髙﨑真一ILO駐日事務所代表、堀内光子児童労働ネットワーク代表、ジェネヴィーヴ・エドゥナ・アパルゥ駐日ガーナ大使、田村ILO活動推進議員連盟会長、仁木博文厚生労働副大臣、宮路拓馬外務副大臣、牧島かれんユニセフ議員連盟事務局長、岩附由香児童労働ネットワーク事務局長(ACE代表)

 

鈴木馨祐法務大臣は、「法務省も、ビジネスと人権の中で、それぞれの企業のサプライチェーンの中での児童労働の禁止を含めた人権尊重についての確認や徹底も図っていけるように、経済産業省とほかの政府関係機関とも連携をしながら取り組みを進めている」と述べ、ビジネスと人権の文脈における児童労働への取り組みを紹介しました。

仁木博文厚生労働副大臣は、「児童労働は国際社会が一致して取り組んできた課題で、最悪の形態の児童労働の禁止撤廃を定めたILO第182号条約が、数あるILO条約の中で唯一全ての加盟国が締結する条約であることにも表れている。一部の貧困は全体の繁栄にとって危険であるというILOの理念を今一度思い起こし、更に行動を重ねていかなければならない」と行動の必要性を訴えました。

宮路拓馬外務副大臣は、「児童労働は、SDGsの目標8.7において、「2025年までにあらゆる形態の児童労働を撤廃する」ことが掲げられているように、教育を含めた児童の権利を侵害し、その子ども時代を奪うとともに、心身の健全な成長を阻害する深刻な問題であり、課題の解決は、私たち社会全体の責務。日本は「ビジネスと人権」に関する行動計画、ODAやILO等の国際機関への拠出で取り組みを進めてきた。ガーナにおいては、2024年1月から、国家計画として進められている「児童労働フリーゾーン(CLFZ: Child Labour Free Zones)」制度の強化と普及を、JICAによるプロジェクトを通じて支援するなど、ユニセフやILOと連携を強めており、また、児童労働フリーゾーン含めたガーナでのILOプロジェクトに2億円を拠出した。外務省としても引き続き各府省庁、ILO等関連国際機関と連携し、またステークホルダーと継続的な対話を通じて、児童労働の撤廃に向けた取り組みを進めていきたい」と述べ、連携と対話の重要性を強調しました。

ジェネヴィーヴ・エドゥナ・アパルゥ駐日ガーナ大使は、「農業はガーナ経済の基盤であり、その未来は持続可能性と人間の尊厳の尊重に根ざしているべきだと考えているからです。私たちは、児童労働との闘いが共通の責任であることを認識しています。その意味でも、ガーナはパートナー、特に日本との連携を深め、成功モデルの拡大、教育の改善、農村の生活向上、そして子どもに優しいレジリエントな農業コミュニティの推進に引き続き取り組んでまいります。結びに、これからも共に取り組んでいきましょう。」と関係者に連携を呼びかけました。

第二部冒頭には高﨑真一ILO駐日事務所代表がILOとユニセフが発表した報告書の概要を発表。「前回の2020年の1億6000万人から1億3800万人に減少した。実はCOVID-19の影響で児童労働が増えてしまっているのではないかとの懸念を持っていたが、この間子どもの人口増加にもかかわらず児童労働が減少していることは非常に大きな減少数となっている。アジアでは4年間で45%減少し、アジアの一員でもある日本としても誇らしく思う」とこの間の成果を報告し「教育の確保、法的・社会的保護の強化、ビジネスと人権における企業のサプライチェーンにおける撤廃への取り組み」を減少要因と報告した。

パネルディスカッションでは、カカオ産業の児童労働撤廃の取り組みについて、モデレーター(株式会社オウルズコンサルティンググループ 若林理紗氏)から企業、政府機関、NGO間での協働における課題や改善策について投げかけ、当事者による議論を深めました。最後にパネリスト三者から、「企業も自社の力で出来るところの取り組みを進めていく。一社のみの力では手が届かない部分は、NGOや政府機関と協力して進めていきたい。」(株式会社ロッテ 飯田智晴氏)、「児童労働者数に減少がみられたことは、それだけ世界中が頑張っている証拠。しかし、ガーナ国内外において現場のコーディネーションや更に取り組めることがあるに違いない。関連機関に携わって頂きながら、引き続き尽力していきたい。」(独立行政法人 国際協力機構 琴浦容子氏)、「現場で一番感じるのは、リソースがあれば必ず実現できることがあるということ。しかしながら、それらが本来必要なところに分配されていない点に課題を感じる。必要なところの見極めをし、大切な資源を届けたい。あらゆる人を巻き込み、子どもの声を聴きながらこれからも活動していきたい。」(認定NPO法人ACE 白木朋子)と、児童労働撤廃に向けたコミットメント表明をし、議論を締めくくりました。

第三部のリレートークでは、外務省、厚労省、ドイツ大使館ほか、児童労働や児童婚、こども兵から子どもを守るNGOらから、児童労働撤廃へ向けたコミットメントが表明されました。

参加者の高校生による「児童労働の規制に関する国際法が存在するにも関わらず、あらゆる形態の児童労働がいまだ存在している中で、グローバルな枠組みが果たしていくべき役割や、あるべき姿は何か?」という政府とNGOへの問いかけに対し、厚生労働省の平嶋壮州大臣官房国際課長は「児童労働の撲滅という目標には到達していないが、着実に減少している。今後もSDGsに向けた様々な取組などを総合的に行うことが重要だ。」と答え、認定NPO法人ACE代表の岩附由香は“児童労働がなくならない原因は、貧しさではなく、政治的意思の欠如によるものだ”というカイラシュ・サティヤルティ氏の言葉を引用し、「児童労働は途上国の日常生活の中で起こっているので一朝一夕になくすことは難しいが、様々な立場による児童労働を許さない継続的な意思とそれに伴う行動が重要。」と回答しました。

3)2030年までに児童労働ゼロを達成するには11倍のスピードが必要

2000年以降、児童労働に従事する子どもの数は2億4,600万人から1億3,800万人へとほぼ半減しましが、SDGsの目標 8.7に掲げられた「2025年までに児童労働撤廃」の達成は大変厳しい状況です。ILOとUNICEFの報告書(※)では、「5年以内に児童労働を撤廃するには、現在の11倍の削減率を実現するための施策を打ち出す必要がある」と提言しており、各国政府に以下のことを呼びかけています。

  • 普遍的児童手当を例とする社会的保護を含め、脆弱な立場にある世帯に対する社会的保護に資金投入し、家族が子どもの労働に家計を頼らなくても済むようにすること。
  • 危険にさらされている子どもたち、特に最悪な形態の児童労働に直面している子どもを特定し、それを防止し、支援するために、子どもの保護制度を強化すること。
  • 特に農村地域や危機的状況にある地域で、質の高い教育を普遍的に受けられるようにすることで、すべての子どもが学べるようにすること。
  • 労働者が団結し自らの利益を守る権利を含め、若者とおとなのディーセントワークを担保すること。
  • サプライチェーン全体を通して、搾取をなくし子どもを保護するために、法令順守と企業の説明責任を強化すること。

4)ACEからの政策提言と今後

ACEは1997年から児童労働問題に取り組み、ガーナやインドにおいてコミュニティ単位で児童労働を撤廃する取り組みを行ってきたほか、政策提言を通じて各国政府のコミットメントを強化してきました。6月19日に政策提言書を発表し、児童労働について日本政府に児童労働撤廃に向けた国際協力・貢献の継続と強化及び国内の児童労働への対応を求めています。
(詳細:ACE政策提言書2025 https://acejapan.org/info/2025/06/354305

まず、国際協力を通じた撤廃への貢献として、児童労働撤廃に向けた途上国での国際協力及び児童労働撤廃のモデル事業としての児童労働フリーゾーンの推進を求めています。すでに日本政府はJICAなどを通じてガーナ共和国における児童労働フリーゾーン創設に着手しており、今後こうした取り組みを支える資金メカニズムの創出も含めたリーダーシップを求めています。

さらに、日本の推進体制の整備と日本の児童労働への対応について、児童労働撤廃に向けたグローバル枠組みであるAlliance 8.7のパスファインダー国となり、児童労働撤廃への取り組み強化をするよう求めています。さらに、日本国内にも児童労働は存在することから、国内法での児童労働の法的定義づけと、データの整備を求めています。SDGs目標8.7において「児童労働者数」が世界共通の指標ですが、日本は「データなし」という状況が続いており、改善が必要です。こうした児童労働の課題は厚生労働省、警察庁、こども家庭庁など複数省庁にまたがるため、児童労働撤廃のための省庁横断の連絡会議の発足と、児童労働撤廃のための国家行動計画の策定も求めています。 

ACEは児童労働のグローバルレベルでの政策提言にも取り組んでいます。2025年7月にニューヨークで開催される、SDGsの進捗を図る会議である国連ハイレベル政治フォーラム(7月14日~23日)において、サイドイベントとして児童労働に関するセッションを開催する予定で、児童労働に関するグローバルレベルでの世論喚起と各国政府や関係者のコミットメント強化に向け活動を続けていきます。

認定NPO法人ACE(エース)について

ACE(エース)は、子どもの権利保護および、児童労働の撤廃と予防に取り組むNGOです。ガーナのカカオ生産地で危険な労働から子どもたちを守り、日本で児童労働の問題を伝える活動のほか、日本政府、ガーナ政府、日本のチョコレート企業への提言活動を行っています。インド人の人権活動家カイラシュ・サティヤルティ氏(2014年ノーベル平和賞を受賞)の呼びかけにより、1998年に世界103カ国で行われた「児童労働に反対するグローバルマーチ」を日本で実施するため、1997年に学生5人でACEを設立しました。2023年3月、第6回ジャパンSDGsアワードにおいて、国際NGOとして初のSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞。

本件に関するお問い合わせ先

認定NPO法人ACE 赤坂・青井
Eメール:press%acejapan.org(%を@に変えて送信してください)
電話:03-3835-7555(受付時間:平日10:00~17:00)
ウェブサイト:https://acejapan.org/

  • カテゴリー:プレスリリース
  • 投稿日:2025.06.24