【日本の児童労働の現状把握と対策を求めて】17歳の少年が工事現場で転落死、そして12歳のタイ人少女が人身取引の被害に―日本にもある児童労働の現状把握と対策を!―

【日本の児童労働の現状把握と対策を求めて】17歳の少年が工事現場で転落死、そして12歳のタイ人少女が人身取引の被害に―日本にもある児童労働の現状把握と対策を!―

【日本の児童労働の現状把握と対策を求めて】
17歳の少年が工事現場で転落死、
そして12歳のタイ人少女が人身取引の被害に 
― 日本にもある児童労働の現状把握と対策を!―

認定NPO法人ACE(エース)
2025年11月11日

2025年9月30日午後2時ごろ、静岡県焼津市の解体作業現場で、17歳の会社員の少年が、高さ12メートルの4階から地上に転落し、死亡する事故がありました。これは労災事故ではありますが、高所での危険作業は国際条約上の「児童労働」に該当します。

また、2025年11月6日の報道によると、11月4日に労働基準法違反(最低年齢)の疑いで、東京都文京区の「マッサージ店」で12歳のタイ国籍少女を働かせたとして、容疑者が逮捕されました。15歳未満の就労は法律で禁止されており(就業最低年齢は原則として満15歳に達する日以後の最初の3月31日の翌日)、また性的サービスを伴う業務に従事させていたことは、国際条約上「最悪の形態の児童労働」にあたります。

私たちACEは国内外の児童労働撤廃に向けて活動を行ってきましたが、こうした児童労働は深刻な子どもの権利侵害にも関わらず社会課題として認識されておらず、対策も十分ではありません。貧困、家庭の事情、学校や家庭での孤立、SNSの発展を背景に、闇アルバイトで犯罪に巻き込まれ、騙され強制的に働かせされる、監禁・搾取の被害にあうなど、「見えにくい児童労働」が静かに広がっていることを危惧しています。

日本はILO第138号条約(最低就業年齢)および第182号条約(最悪の形態の児童労働)を批准しており、児童労働の撤廃を国際的に約束しています。しかし、現状では国内における実態把握が十分とはいえず、国際条約を受け日本国内の「児童労働」を定義する法整備もないため、児童労働を特定できず、また統計的なデータもない状況が続いています。日本国内で児童労働が発生していることは明らかです。児童労働を「存在しないもの」とするのではなく、法制度、調査、政策面から現実に即した対応を早急に進める必要があります。

提言

1.児童労働の法的な定義づけとデータ整備

日本では、児童労働を明確に定義した国内法上の文書が存在していません。このことは、国連人権理事会に提出された「ビジネスと人権作業部会による日本訪問の最終報告書」においても指摘されており、児童労働の実態把握と是正を妨げる大きな要因となっています。

SDGsの目標8.7[Y(1.1]の世界共通指標「児童労働者(5~17歳)の割合と数(性別・年齢別)」について、日本政府は現在「データなし」と報告しています。

児童労働の法的定義を明確化し、労働基準法上の違反を「事業場数」ではなく「年少者の人数・性別」単位で把握・公表できるよう、統計運用の改善を求めます。行政・学術機関・市民社会が連携し、定期的な実態調査を制度化することが不可欠です。

2.児童労働撤廃のための省庁横断的な連絡会議の発足

児童労働は、貧困、教育機会の欠如、家庭環境、外国人労働、犯罪被害など、複数分野が複雑に関係する社会課題です。そのため、単一省庁ではなく、厚生労働省、外務省、こども家庭庁、文部科学省、経済産業省、農林水産省、法務省、警察庁などが連携する省庁横断の「児童労働対策連絡会議」の設置を求めます。同会議は、政策・調査・教育・企業行動の各側面から総合的に対策を検討し、情報共有・課題整理・予算調整を行う司令塔の役割を担うことが期待されます。

3.児童労働撤廃のための国家行動計画(NAP)の策定

ILO第182号条約は、締約国に対し「最悪の形態の児童労働を優先的に撤廃するための行動計画を作成し、実施すること」を義務づけています。日本政府はこの国際的義務を履行するため、児童労働撤廃に特化した国家行動計画(NAP)を策定し、法制度の整備、実施体制の確立、十分な予算措置を講じる必要があります。既存の「人身取引対策行動計画」「ビジネスと人権国内行動計画」また「子どもの権利に関する施策方針」と整合させながら、国内外双方を視野に入れた具体的行動目標を設定すべきです。

4.社会全体での啓発と教育

児童労働の防止には、法制度だけでなく、社会の理解と意識の変化が不可欠です。子ども自身が権利を理解し、危険な就労から自身を守ることができる力を育むと共に、教育現場、保護者や地域社会も児童労働の認識を持ち、児童労働を予防し、その状況があった場合どう介入することができるかの知識を持つ人を増やす必要があります。

企業においては、雇用側の責任として、サプライチェーン、バリューチェーン含め児童労働に加担することのないよう、人権デュー・ディリジェンスを実施し、また未成年者の就労に関する教育・社内研修・取引先への啓発を推進することが重要です。

政府は、市民社会・教育機関・企業と協働し、児童労働を「社会全体」で防ぐ行動をとるべきです。

5.根本原因へのアプローチと支援体制の強化

児童労働は単なる労働問題ではなく、貧困、教育格差、社会的孤立、外国ルーツの子どもへの支援不足など、複合的な要因が背景にあります。

したがって、児童労働の予防と撤廃のためには、これらの根本原因に取り組む包括的な社会政策が不可欠です。とくに、自治体単位での経済的困難を抱える家庭への生活支援や学習支援、若者の職業訓練・就労支援、外国籍・非正規滞在の子どもへの教育機会保障、児童福祉制度の早期介入など、「児童労働が生まれない環境を整える」ための長期的投資が求められます。

こども家庭庁を中心に、地方自治体やNPOと連携した支援ネットワークを拡充し、子どもと家庭の双方に届くセーフティネットを確立することを提言します。

児童労働は、国際的にも国内的にも「ゼロをめざすべき課題」です。政府・企業・市民社会が協働して、子どもの命が守られ、経済的な搾取や、教育や健康・発達に有害な労働から守られる社会を実現することを強く求めます。

ACEでは、以下の報告書、また啓発資料を作成しています。
こうした啓発資料をお役立ていただき、日本国内での児童労働の再発防止に関係者のご協力をお願いいたします。

参考資料

報告書

『日本にも存在する児童労働~その形態と事例~』(2019年)

啓発資料

「知ってる?働く人を守るルール」(中学生向け)

「あなたのアルバイトは、だいじょうぶ?」(高校生向け)

「あなたの職場で、年少者の労働環境が守れていますか?」(おとな向け)

詳しくは以下の日本の児童労働のページをご覧ください

日本の児童労働|認定NPO法人ACE

  • カテゴリー:お知らせ
  • 投稿日:2025.11.11