幸せへのチョコレート

ガーナ・カカオ生産地の児童労働

児童労働を含む、カカオ生産地が抱える課題

チョコレートの原料カカオは、赤道近くの高温多湿な地域で栽培されます。世界のカカオ生産の約7割を占める西アフリカ地域では、農薬の使用や森の伐採などにより生態系や環境が破壊されたり、地域の子どもたちが学校に行けずに危険な労働を行っていたり、さまざまな問題がおきています。世界第1位と第2位のカカオ生産国であるコートジボワールとガーナだけでも、危険な労働を余儀なくされる18歳未満の児童労働者は、156万人に上ると言われ、このうちコートジボワールは79万人、ガーナは77万人です(2020年、シカゴ大学)。

ガーナ・カカオ生産地で働く子どもたち

カカオの実をナタで割る作業

ガーナをはじめとする西アフリカのカカオ生産地域では、家族単位の小規模な農家がほとんどです。カカオ豆の生産には、カカオの収穫から、発酵、乾燥までのさまざまな工程に多くの労働力が必要となります。小規模な農家は労働者を雇うことができないため、子どもも重要な労働力となってきました。

子どもが行う農作業は、刃渡りの大きななたを使った農園の開墾や下草刈り、収穫したカカオの実やカカオ豆の運搬などが主です。特に子どもの力だけで持ち上げることができないほどの重さの荷物を頭に載せて運搬することが多く、危険労働のひとつとみなされています。これらは健全な成長の妨げとなります。

ガーナでは、カカオを収穫できるのは南部一帯です。ガーナの北部地域は気候も大きく異なり、農業もままならず産業が少ないため、現金収入を得られる仕事や土地を求めて移住してくる人たちが後を絶ちません。ガーナ北部だけでなく隣国のブルキナファソ、トーゴなどの国々から移住してくる家族も少なくなく、それら移住してきた家族の子どもが学校に通わずに働くケースが起きています。最悪の場合は、子どもだけが家族と引き離されて労働者として連れてこられるケースです。これは人身取引にあたり、国際条約やガーナの国内法でも固く禁じられていますが、実際にはなくならないのが現状です。

学校環境の不備

カカオを生産する農村地域では、各種行政サービスが行き届かず、校舎や教室、机、いすなどの学習環境が整っていません。教師の数も不足しています。教室の数が足りないため外で勉強していたり、村に中学校がないため進学ができない子どもたちもいます。ガーナでは幼稚園から中学校までの義務教育は無償ですが、制服や学用品などを買うことができないために、学校に通えない子どもたちがいます。教育を受ける機会を失うと、基本的な読み書き計算のスキルが身につけることができず、生涯にわたってさまざまな可能性や選択肢を狭められてしまいます。

学校では教室が足りず屋外で授業を受けている生徒も

教育を受けられないことなどによる悪循環

子ども時代に基礎的なスキルや知識を身につけることができないと、おとなになった際に社会福祉などの行政サービスやそれら情報にアクセスできない、農薬の正しい使い方がわからないといった弊害が出てきます。また、幼いころから負担の大きい肉体労働を続けた結果、早くに体を壊してしまい、自分の子どもを働かせるというような世代を超えた悪循環に陥ってしまいます。

カカオ豆を運ぶ子ども

カカオ農家の貧困

カカオ生産地の児童労働児童労働が起こる背景には、カカオ農家がカカオの生産活動によって得られる収入が低いという問題があります。人が人間らしい生活をするためには、栄養のある食事、清潔な水、適切な住居、教育、医療などが必要で、その他必要なものを含めて、家族全員が適切な生活水準を維持するだけの収入が必要です。それとともに、農家であれば農業を営むために必要な経費をまかなったり、緊急時への対応やそれらに備えるために貯蓄をしたりなども必要となります。それらすべてを賄うことができる収入を「生活所得」といいます。人が人間らしい生活をできることは基本的人権の一部とされ、生活所得は最低限保証される基準と考えられています。

ガーナの場合、標準的な家庭の生活所得は298米ドル(円換算で約44,100円*)と計算されています(2022年6月時点、両親と子ども3人の5人家庭の場合)。実際には、カカオ農家の約3分の2がこの水準に満たない経済状況にいるといわれています(2021年、ワーゲニンゲン大学)。この現状は、世界銀行が定める国際貧困ライン(1日一人当たり2.15ドル未満で生活)を下回り、多くのカカオ農家が「極度の貧困」状態に置かれています。

ガーナのカカオ生産者の経済状況

カカオ農家の収入を上げるには、カカオの価格を上げることが重要です。しかし、カカオ豆をはじめとする国際的な商品先物取引市場で取引される農産物の価格を上げるには、国際的な価格決定の仕組みや国によって異なるカカオの取引の仕組みなどの整備が必要で、一朝一夕に解決できる問題ではないのが現状です。収入向上の施策として収穫量を増やす支援も行われていますが、実はカカオ農家への負担も大きくし、生活所得の改善が必要な農家の解決策に必ずしもつながるとは限りません。(2022年、VOICE Network)。

*2024年1月時点の為替レート1ドル=148円を適用

カカオ生産と森林破壊

カカオ生産地域における大きな課題のもうひとつに、森林破壊の問題もあります。コートジボワールとガーナでは、2019年から2021年の3年間にそれぞれ19,421ヘクタール、39,497ヘクタールに及ぶ森林が破壊されています(2022年、Mighty Earth)。この面積は、東京23区と同等の面積に匹敵します。

森林破壊の主要な理由は、近年カカオの需要が急激な拡大に加え、現状のカカオの収穫量による収入が少ないために、カカオの収穫量拡大を目的とする農地拡大です。

森林は二酸化炭素を吸収する役割を果たしているため、森林面積が減少するということは気候変動を加速させるとともに、森林に生息する動植物の生存を脅かし生物多様性の喪失をも引き起こします。気候変動により降雨パターンがすでに大きく変化し、収穫量に大きな影響を及ぼしています。

また、生産性向上を目的に農薬が使用されていますが、これまでのところ農家の実収入の増加には貢献が小さく、農家は投資した資金を回収できないリスクを抱えながらカカオ栽培をしています。農薬の使用は同時に、カカオ農地の生態系に悪影響を及ぼすほか生産者の健康被害の問題も引き起こしています。

【ガーナ便り】雨不足で干乾びたカカオ、農家の収入が減少しています

課題について更に詳しく知りたい方は、「カカオバロメーター」をお読みください

なぜ、児童労働がなくならないのか?

ガーナでは、憲法で義務教育が保障されているほか、国連の子どもの権利条約や国際労働機関(ILO)が定める児童労働を禁止する2つの条約にも批准しており、国内法でも児童労働や人身売買は禁止されています。カカオ産業における児童労働については、欧米を中心としたカカオの取引先国からの圧力などもあり、ガーナ政府によるカカオ産業の児童労働撤廃に向けた国家計画などの取り組みも行われてきました。

そのため、ガーナのカカオ生産地では児童労働をなくして子どもの教育を徹底しなければならないという意識は広がってきています。ただし、問題を解決するためには、児童労働や人身取引などの予防や取り締まり(法律の徹底)、そのための国民全体への意識啓発にはじまり、農村地域の教育環境の改善、零細農家の技術向上支援や生活向上支援、地域経済の活性化や雇用の拡大など、非常に幅広い課題への対応を同時に進めることが必要です。

ACEは、ガーナのカカオ生産地で子どもの教育やカカオ農家の自立を直接支援する「スマイル・ガーナ プロジェクト」を2009年から実施しているほか、チョコレート企業や消費者、ガーナ政府を巻き込みながら、児童労働が生まれる世の中の構造を変えていきたいと考え、挑戦を続けています。

ACEの現地支援プロジェクト

ガーナの子どもの笑顔ガーナのカカオ生産地で、児童労働から子どもたちを守り教育を支援する「スマイル・ガーナ プロジェクト」を行っています。

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企業との連携

カカオ業界全体で児童労働の撤廃をめざすべく、チョコレート企業各社との連携を進めています。

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ガーナ政府との協働

作業部会のメンバー

これまでの活動を生かし、「児童労働フリーゾーン」などカカオ生産国での行政制度づくりに貢献すべく、国内外政府と協働しています。

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ガーナの子どもたちを笑顔にするために
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