児童労働反対世界デー記念セミナー児童労働撤廃に向けた「政治的意志」をつくるには?開催報告

児童労働反対世界デー記念セミナー児童労働撤廃に向けた「政治的意志」をつくるには?開催報告

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2015年6月14日(日)、東京の市ヶ谷にある連帯社会研究交流センターで、ILO駐日事務所代表の上岡恵子さんと、参議院議員の石橋通宏さんにご登壇いただき、児童労働反対世界デー記念セミナー「児童労働撤廃に向けた『政治的意志』をつくるには?」を開催しました。

児童労働反対世界デー記念セミナー2015

2014年にマララ・ユスフザイさんと共にノーベル平和賞を受賞されたカイラシュ・サティヤルティさんは「児童労働がなくならないのは貧困が理由ではない。政治的意思が足りないからだ(lack of political will)」と言います。様々なステークホルダーが「児童労働をなくそう」と政治的意志を持つこと、そのために何ができるのか、その可能性を探りました。

セミナーには、高校生から社会人、ご年配の方まで、児童労働に高い関心を持った方々にご参加いただきました。ご参加ありがとうございました。

ノーベル平和賞受賞者カイラシュさんから学んだこと(ACE岩附)

まず、主催者であるACE代表・児童労働ネットワーク事務局長の岩附由香より、ノーベル平和賞を受賞されたカイラシュさんとのつながりやACE立ち上げのきっかけ、児童労働ネットワークが行っている「ストップ!児童労働キャンペーン」についてご紹介しました。

セミナーに登壇するACE代表・児童労働ネットワーク事務局長 岩附由香

カイラシュさんの言葉がACEの立ち上げにつながっています。ACEは、児童労働を生み出す構造を改善するために活動しています。ACEの活動の特徴は、現地での支援活動だけでなく、日本国内の消費行動や企業活動にも働きかけていることです。多様なステークホルダーをつないで、児童労働の撤廃に向かっていくことがACEの役割のひとつです。また、ACEが事務局を勤める児童労働ネットワークは、署名活動やキャンペーンを通じ、日本で児童労働に向けた行動を促すアドボカシー活動を行っています。

2015年9月に国連総会で採択される予定の「持続可能な開発目標(SDGs)」の草案には、「2025年までにすべての形態の児童労働を終焉させる」という文言が入っています。この文言が国際社会の目標として正式に採択され、2025年に向けて、何ができるのか。国際的な議論とともに、日本での具体的な行動を決めて、進捗を確認していくことが大切です。

世界の児童労働とILOの取り組み(ILO駐日事務所:上岡恵子氏)

続いて、ILO駐日事務所代表の上岡さんから、児童労働の原因や現状、ILOの活動内容や活動実績についてお話いただきました。

ILO駐日事務所代表 上岡恵子氏

上岡恵子 氏 ILO駐日事務所代表

米国ノースカロライナ州立大学にて会計士号取得。NPO、外資系銀行東京支店、米国公認会計外資系銀行東京支店、米国公認会計士事務所ニューヨクを経て、1989年より国連開発計画(UNDP)に入り、経営管理・財務関連部門のポストを歴任。1998年ILO本部入局。財務会計長、内監査督室本部入局。ILOアジアジ太平洋総局次長(管理運営担当)を経て、2012年4月より現職。

児童労働の統計やデータから、児童労働に従事していた子どもたちは、特別な技能や教育を必要としない家事労働や、誰もやりたがらない危険で有害な仕事に従事するしかないという現実を思い知らされました。子どもの頃に教育機会を奪われることが雇用機会に及ぼす影響やその後の人生にいかに影響を与えるのかがよく分りました。

また、ILOが1992年から行っている「児童労働撤廃計画(ILO-IPEC)」の実績や特徴もご紹介いただきました。各国の児童労働の問題をなくしていこうとする政治的意志は、労働基準の条約批准に現れるとのお話もいただきました。

子どもだけでなく、親が安全に、安心して働ける環境を整える事やコミュニティの支援、社会保障制度などにも目を向けた包括的な視野でプロジェクトを進めるILOの取り組みの様子が分かりました。

世界の児童労働と政治的意志(参議院議員:石橋通宏氏)

次に、石橋通宏参議院議員から実際に児童労働を目の当たりにした経験談や、帰国後の活動、政治を動かすために大切なことについてお話しいただきました。

参議院議員 石橋通宏氏

石橋 通宏 民主党参議院議員

1965年島根県生まれ。中央大学法学部法律学科修了、米国・アラバマ大学大学院修了。1992年に全電通 中央本部へ入職。1994年 国際自由労連・アジア太平洋地域事務所(ICFTU-APRO、在シンガポール)へ出向。1998年 全電通中央本部 国際担当部長。2001年より国際労働機関(ILO)職員としてイタリア、フィリピンで勤務。2009年よりNTT労組 特別中央執行委員/情報労連中央本部 特別執行委員。2010年、参議院議員選挙で初当選、現在に至る。

1995年にパキスタンのハリプールにあるレンガ製造所で見聞きした債務児童労働の実態と、その背景にある複雑な構造に対して抱いた思いが、石橋議員の政治家としての原動力となっていると言います。帰国後は、条約の成立という歴史的な瞬間に立ち会う経験もされたそうです。

みんながそれぞれにできることをしていく必要があるが、最終的にはみんなの力を結集させて政治を動かしていかなければ問題は解決しない、と石橋議員は政治の役割と重要性を強調し、ました。OECDガイドラインや国連グローバル・コンパクトの活用、選挙への参加など、一人ひとりが知り、使い、できることをやっていくことの大切さについてもお話いただきました。

※石橋議員ご本人のFacebookでも当日の様子をご報告くださいました。

パネルディスカッション

講演に続いて、登壇者によるパネルディスカッションを行いました。国際社会のルールや政策など大きな視点から、児童労働をなくしていくためにどんな動きがあるのか、何ができるのか議論されました。

パネルディスカッションの様子

各国が条約に同意した後、条約を守ることを徹底していくための仕組みの課題。貿易政策を通した児童労働の問題への取り組み。児童労働の問題に積極的に取り組む国の動きが周りの国に及ぼす影響。「持続可能な開発目標(SDGs)」に児童労働を盛り込む際に鍵となる人たちは誰か。日本や世界のODA(政府開発援助)の資金確保が限界と言われるなか、国際連帯税(グローバル・タックス)といった新たな資金調達の仕組みをつくっていこうとする動きなどについて議論されました。

パネルディスカッションを通して、児童労働の問題を抱える国や働きかける周辺の国々、問題の解決に向けて積極的に取り組む国などが他の国に影響を及ぼすというお話や、一人ひとりではできることに限界があり、みんなで力を合わせることが大切というお話が印象的でした。児童労働を含めた地球規模の課題の解決に向けては、新たな動きも知りながら、今できることに取り組むことが大切と改めて感じました。

質疑応答

パネルディスカッションの後は、質疑応答を行いました。レッドカードアクションの意義と妥当性、選挙以外に市民社会レベルでできるアクションはあるのか、日本の議員が児童労働をなくそうと政治的意志を持つことを妨げる要因とは何か、政治的意志の強い国はあるのか、などの質問をいただきました。

参加者のみなさんからいただいた声を一部紹介します。

  • インターネットや本でしか得られていなかった知識だったが、実際にお話を聞いて、新たな知識を得られた。2016年に児童労働をなくすことはできないかもしれないが、確実に数を減らしていくことはできるんだ、と実感できた。これからもっともっと勉強していこうと思えた。(10代・学生)
  • 児童労働の規模・定義がよく分かり、問題についてより取り組もうと思った。児童労働の問題について、自分ができることをより具体的・早期に実行することに決めました。(20代・会社員)
  • 児童労働の取り組みを各国が貿易や税を通しておこなっているのを知れて勉強になった。日本の政府もこうして取り組みをしてくれるよう外部からどのような圧力のかけ方があるか考えていきたい。(20代・学生)
  • 学校の授業では学べない政治のホンネや児童労働の実態を知ることができよかったです。若い世代にそのような興味を持つチャンスがどんどん増えてきて、SNSなどもあり、知る機会はたくさんあるなと思います。そこで、今回のように印象に残る話を、直に経験のある方からお聞きできるのは、多くの人の行動のきっかけになると思います。(10代・学生)

セミナーの最後には「児童労働に反対!」と意思表明をするため、参加者全員で「レッドカードアクション」を行いました。

セミナー参加者のみなさんと「児童労働にレッドカード!」

セミナー後は、みなさんで交流会を行いました。学生、会社員、団体職員、教員、議員など、さまざまな立場のさまざまな年代の人同士が交流する貴重な時間となりました。

 

セミナーを開催して・・・

今回のセミナーを通して、インターネットや本ではなく、実務の現場に携わる方々から直接お話しを伺えたことで、より身近に実務の現場の様子や、携わる方の思いを感じることができました。

児童労働の背景にはとても複雑で根深い構造があります。問題解決へ向けた課題もたくさんあります。インドやガーナなど現地での活動のみでなく、大きく政策のレベルに目を向けたときに、どんな人たちが、どんな形で、どんな思いを持って問題に関わっているのか。そして、自分には何ができそうか、改めて考えるきっかけとなったのではないでしょうか。

一人ひとりが、まずは問題があるという事実を知り、問題解決へ向けたツールを知ること。知った上で自分にできることを、それぞれの立場で関わっていくこと。どんな形であっても、関心を持ち続けることが児童労働をなくしていくための一歩となるのかもしれないと、改めて考えさせられる機会となりました。

報告:ACE アドボカシー担当インターン 中尾はるか

児童労働をなくそうと「政治的意志」を持つために

複雑かつ根深い構造を持つ「児童労働」は、一人ひとりが意志を持って行動することでなくせることが証明されています。一人でも多くの人に児童労働をなくそうという「政治的意志」を持ってもらうためには、問題の深刻さを知り、解決のための行動を理解してもらう「アドボカシー活動」が必要不可欠です。

アドボカシー活動は、成果を実感しずらく、目に見える数値や指標で成果を表せるものではありません。さらに、一回限りの活動では足りず、地道にコツコツと、継続して実施していく根気強さも必要です。

そんなアドボカシー活動を行うため、ぜひACEの活動を応援してください。「そのこ」の未来キャンペーンを通じて寄せられたご支援・ご寄付は、児童労働をなくすために重要なアドボカシー活動を進めていくために活用させていただきます。

みんなで「児童労働のない未来」に向けて一歩を踏みだそう!

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2015.07.08