CSRにおけるNPOと企業・労働組合の協働を考える(3)

CSRにおけるNPOと企業・労働組合の協働を考える(3)

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児童労働とNGOの役割

新谷:では、次に児童労働をテーマに議論を進めたいと思います。まず、ACEの岩附さんから児童労働の最近の問題と傾向をお願いします。

岩附:児童労働は「法定年齢以下の労働」に加えて義務教育を終えた年の子どもの労働であっても、心身に悪影響を及ぼすような労働を指します。最新の統計では2億4,600万人が被害を受けていると言われています。児童労働が問題であるという認識は、かなり共有できてきていると思います。これから問題になっていくと思われるのは特にエイズの脅威があるアフリカです。それらによって親を亡くした子どもたち自身が働かざるを得ない、あるいは人身売買の被害に遭うといったことが、今後どんどん増えていくと考えられて います。

岩附由香岩附 由香(特定非営利活動法人ACE代表)

それから、様々な場所で自然災害も起きていますが、その最中に人身売買が発生するといったような突然の情勢変化によって問題が発生することも増えています。また、そうした背景の変化と関係なく、人身売買やポルノといったすでに商業化されてしまっているものもあります。貧困に苦しむ農村から都市に連れて行くというサイクルが断ち切れないでいる最悪の形態の児童労働については深刻な問題があります。

そうしたシステムが構築された中で、いかに子どもたちを救出し、リハビリテーションをして、同じ状況に陥らないようにするかというのはとても難しい。そしてその地域自体やそこに関わっている人たち自体の意識が変わらないと難しい面もあって、NGOもかなり危険を犯しながら取り組んでいるのが現状だと思います。

また、最近の動向として考えられるのが、産業自体の児童労働への取り組みです。ILOなどが危険な産業を指定していて、地域の労働組合やNGOと一緒に取り組んでいる事例もありますので、そういうところからの産業による取り組みはかなり増えているとは思います。

そのやり方も様々で、私が訪れたインドの石切り場では、労働組合の人たちが中心となって、石切り場自体で子どもを働かせないような監視システムを作るとか、子どもたちを公的な学校に復帰させるプログ ラムを実施するというような仕組みもあります。

それから、子どもの家事労働があります。家事労働は見えにくいので、搾取が行われても摘発されにくい。だから、普通に家事を手伝っているだけでは問題にならなくても、その環境が搾取的かつ虐待の恐れがある労働である場合があります。そうした労働に対してもNGOによるキャンペーンが行われたり、そこに労働組合が協力するというような取り組みが出てきています。

そういう意味では、いくつかの産業や地域ではモデルケースもできてきています。そこにCSRはかなり関係してくるのではないでしょうか。

サプライチェーンにおける児童労働の責任範囲

新谷:児童労働というのはなかなか日本では実感しにくいものだと思いますが、最近ではNGOのキャンペーンによって、どんな産業で起こりやすいかということが明らかになってきています。だから、企業では児童労働を行っている農家などからの産品は扱わないようサプライチェーンの中でチェックをかけることも始められています。ただ、サプライチェーンの中でどのレベ ルまで調達の責任を負うのか、といった議論はまだ明確ではないような気がします。

長坂:どのレベルまで責任があるのか、ということについては、それはある意味ではNGOがどう見るかということになるのではないでしょうか。例えば、児童労働の問題においては、最初は90年代中頃に製造業で問題になりました。特に世界のスポーツシューズ・衣料関係。NIKEの事件はよく知られていますよね。その結果、企業は大変な打撃を受けたわけで、今や普通の製造業の企業にとって、依然として児童労働をやっていると告発されればその企業はおそらく生き延びていかれないぐらいのダメージを受けるという認識はされているでしょう。そこで、製造業の対処が進んだため、NGOの注目は女性の強制労働問題の方に移ってきています。

もう一つは、児童労働問題の方向性は、プランテーション農業にきている。つまり、これは原料までさかのぼったということですね。カカオ豆はすでに問題になっていますが、さらにゴムやパームオイルといったところも入ってきている。基本的にプランテーション農業というのは児童労働や家族労働が入っていますから、どう採り上げていくのかということは非常に難しいけれども、そこまできた、ということです。

それからNGOが問題視している児童労働問題の三つ目の方向性というのは、製造業の現場ではない場所で起こっている。児童買春やストリートチルドレンの問題がそうです。サプライチェーンの中の責任ということでいえば、NGOはすでに原料の現場まできているのが現実ですから、もし今、企業として調べるというのなら、日本の子会社や委託会社だけじゃなくて、原料の生産現場まで調べる必要が出てきたと言えます。特に児童労働問題に関しては。

イオンという会社がありますが、彼らは「トップバリュー」という自社ブランドを持っています。その衣料品の多くは中国で生産しているんですが、彼らはその現場にまで、児童労働とか人権をチェックしようとしています。商社はいろんな商品を扱っていますから、なかなか絞り込むのが難しいですが。

岩附:そうですね。だからこそ逆に商社として、我々はこういうスタンダードで取引をしています、というものを出してもらうことができればと思います。イオンの例も、やはり取引先に行動規範という形で明示して、それについては説明会も行って、途上国の工場に監査に行く時も、費用をイオンと取引先とで折半しているんですね。そういうふうにきちんと相手にも役割を担って頂 くように基準を作って、役割分担をするシステムを作っていくことができれば、網羅する範囲が広いだけに影響力もすごく大きいと思います。

ISO26000とCode of Conduct(行動規範)

新谷:さて、熊谷さんもかかわられておりますが、今ISOでは社会的責任にかかわる新規格26000シリーズを作るべく交渉がなされています。これは児童労働を含む労働問題の解決につながるものになるのでしょうか?

熊谷:2005年の3月からISO26000といわれている SR規格の策定が始まり、今年の1月からは中身についての議論に入っています。その中では、児童労働を含む労働問題は重要な問題の一つだという合意はできています。ただし、ISOの規格ができても児童労働問題が改善するように機能しなければ、言い換えればISOに満足しているというだけでは全く意味がありません。

長坂:今までは児童労働問題に対応するために、企業は様々な Code of Conduct(行動規範)に参加してきました。例えば、NIKEだとセリーズ原則、イオンだとSA8000というように、それぞれが参加することによって「あの企業はあそこに入っているから大丈夫だ」といって、世界中のNGO/NPOが「イオンは大丈夫だ」とか、「NIKEは大丈夫になった」と、認識するわけです。で、今度ISOができあがると、そうした各NGOが作っている行動規範の役割はどうなっていくのか。ISOや国連のように強い影響力を持つものに集約されていってしまうのか、どうなってしまうのか、と懸念を抱いています。

熊谷:今おっしゃった点は、ISOの問題が始まった時の報告書の一つのポイントとしています。なぜ、こんなにもCSRの国際基準が乱立するのか、と。その一つの理由として、国際機関による国際的なコンプライアンスが未完成だということが指摘されています。それを承知した上で、ISO26000というのは作っていかなきゃならない。

梅田:私はISO26000が直接問題解決につながるものではない、と考えています。まず、第三者認証の規格ではないという点と、それから包括性と呼んでいますが、CSRの中には環境からコンプライアンスから、人権や児童労働まで様々な要素が入っていて、焦点を絞れないという点です。今までは、ISO14000であれば環境、ISO9000であれば品質というふうに、ター ゲットが明確だったけれども、CSRの場合はいろいろな要素が含まれますので、どうしても焦点がぼける。だからあまり効果が期待できないのです。

単なるガイドラインであるなら、OECDの多国籍企業ガイドラインとどこが違うのか、とも思います。国連のグローバル・コンパクトの中にも、児童労働、強制労働、その他人権関係のものが入っています。それらの文書がどれだけ参加企業、もしくはその他の企業にインパクトを与えたのでしょうか。正直言ってあまりインパクトがなかったんじゃないかと思います。

長坂:私は国内的な影響という意味においては、日本という国はやはりお上意識が強いので「ISOが作った」、「ISOが児童労働を問題にしている」というと「そうか、ISOだから考えなきゃいかんかな」というように企業の方が思われる可能性は非常に強いと思います。SA8000やグローバル・コンパクトではこうはいきません。

熊谷:グローバル・コンパクトは、国連と企業を直接つなぐことができた、という意味において成功だったと思います。OECDの規範などは国際法に進化すべきものですね。ISOの新しい規格はコンプライアンスから出発して、より高いレベルを実現するための“乗りもの”になればと思います。

長坂:ISO26000も、やはり行動規範的なものになるわけですよね。行動規範というのは昔からあるわけですが、例えば児童労働問題においては、告発された企業がその規範に従って調査・対応をし、報告書を出して改善し、NGOからさらに厳しく評価される。そういうプロセスの中で行動規範は実効性のあるものになってきました。もちろん認証制度がない限り、紳士協定の域を出ないけれども、90年代の後半からは報告書を出させて誰かが評価をする、という仕組みが導入されてきた。行動規範に実効性が伴うものになっていて、昔のイメージとはかなり違うものになっている。そういう点でISO26000ができても、ある程度実効性のあるものになるんじゃないかという期待は持っていますが、実際にはNGOによる監視が一層意味を持つでしょう。

NPOとCSR

新谷:最後になりますが、NPO/NGOは今後、CSRにどうかかわっていくことができるでしょうか?

長坂:CSRの時代になって、NPOは企業に対して「寄付してく ださい」と言うのではなく、「一緒に協働してプロジェクトをやりませんか」という提案をしていく時代になったんだと思います。少なくともCSR 担当者は「どうもそうらしい」ということは明確に気付き始めている。

座談会の様子座談会の様子

岩附:そうですね。具体的にNPOとして、いくつか企業にお願いしたいこと、一緒にやりたいことはあると思うんですが、一つは児童労働や児童買春についての行動規範のようなものを一緒に作っていく、情報提供しながら、具体的な実効性があるような規範を作っていく、ということだと思います。

後はすでにあるNPOに対しての協力といった形で、自社のビジネスプロセスの中で、NPOに対する貢献に取り組む。例えば、自動販売機に「この自動販売機の売り上げの何%はこのNGOに寄付されます」とか、レストランだったらチャリティーメニューを作って、このメニューの売り上げの一部はこのNGOに行きます、とか。そういう自然に普通の人が目に触れるところに出してもらうというのが一つだと思います。

いずれにせよ、企業に対してもメリットのある形で、一緒に児童労働の問題をなくしていくことに取り組めるかどうかということだと思っています。

新谷:ありがとうございました。

CSRにおけるNPOと企業・労働組合の協働を考える(1)

CSRにおけるNPOと企業・労働組合の協働を考える(2)

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2006.03.09