CSRにおけるNPOと企業・労働組合の協働を考える(2)
CSRにおけるNPOと企業・労働組合の協働を考える(2)
CSRをどう考えているか?
新谷:ありがとうございます。皆さんがこれまでの経験の中で様々な形でCSRにかかわってこられたとのことですが、引き続きそれぞれのCSRについての見方についてお話を頂ければと思います。私の場合は、法令順守といった最低限に必要なことは当然ありますが、加えて本業を通してのCSR、さらにプラスアルファの部分でどういったことができるのかということが重要だと考えています。
梅田:新谷さんがおっしゃったように、私も、法令順守、本業を通しての貢献、そして社会貢献、この三つを含めて、CSRであると考えています。社会貢献だけをCSRと考える人もいますが、CSRの要素として、本業による貢献と法令順守は欠かせません。CSRの考え方自体は、日本では70年代には既に「社会に迷惑をかけない」「企業の本来の機能を果たす」「社会貢献」という三つの考え方がありました。今と何が違うかといえば「CSR」という言葉が一種のシンボルとして使われ、イメージに強く訴えかけているという点でしょう。その点では、今回のCSRへの関心の高まりは単なるブームには終わらないのではないかと予感します。
熊谷:CSRについての全体的な考えというのは、先ほど梅田先生がおっしゃった三つのポイントだと思います。その中で、私たちはまず、コンプライアンスの部分を労使の対話の中で確立していくことに責任があると考えています。企業は経済を支える柱ですから、企業がコンプライアンスを守って、さらにそれを上回る社会貢献を果たしていくということになれば、より良い社会を作ることができます。
また、この前のナイロビの国連環境計画の会議で初めてCSR分科会というものがあり、先進国も途上国も含めて、約60カ国の労働組合によるCSRについての議論がなされました。ここでCSRとは「コンプライアンス・プラス」である、という結論に至りました。これは実に的を射ていると思います。
岩附:CSRとは何かというと、私は「企業が当たり前のことを当たり前にする」ということではないかと思っています。そして、その状態をゼロとした場合に、例えば児童労働がある、それは法令に反しているからマイナスの状態だと思うんです。マイナスになったものをゼロに戻すのもCSRだし、マイナスからゼロを超えてプラスにするのもCSRなのではないかと思います。
おそらく、NGOやNPOが関わることのできる部分というのは、このプロセスにあるのだと思います。具体的には、サッカーボール産業の例ですけれども、 サッカーボールについて欧米でキャンペーンが起こされ、子どもが搾取されているということが摘発された。それを受けて、企業は財団や組織を作ったり、モニタリングして子どもが再び働かないように取り組んできました。マイナスからプラスの状態へと改善されたわけです。
様々な要因で、当たり前のことができなくなった企業が今、CSRということで意識的に当たり前のことを考えるようになってきている。だからこそ、マイナスからゼロにするだけではなくて、いかにプラスに持っていけるかということを含めて考えてもらえるといいのではないかと思います。
長坂:CSRというのは、基本的に企業とNPOの相克と協働の中で作り上げられてきた新しい企業システム論なんですね。かつてはNGOの戦略としては攻撃戦略が中心だった。その過程で、協働やパートナーシップが生まれ てきた。そういう形で作り上げられてきた本質的動向だと思っています。ただ、そのことが日本で十分に理解されていないことに、日本でのCSR論の危うさを非常に感じています。
具体的にはロイヤル・ダッチ・シェル社(以下シェル)とNGOのグリーンピースとの間で起こったブレントスパー事件があります。これはNGOが特定の企業の存亡にかかわる影響力を持ち、さらに国際条約をも変更し得る政治力を持つようになったことを象徴する事件となったものですが、それを契機にシェル自身は2年ぐらいかけて改革に取り組む。その結果として、1997年に新しいシェルレポートを発表するわけです。この事件をきっかけに、いわゆるトリプルボトムラインのコンセプトが登場し、急速にCSRの理論化が進められていきました。
ではなぜ、日本ではこの部分が欠落しているのか。それは一つには、理論化されたレベルでアメリカのコンサルが日本に持ってきたために、NGOの部分が欠落してしまったということ。二つには、日本のNPOセクターが非常に弱いということがあります。そのため企業側に対峙する役割としてのNGOという認識が企業にはあまりありません。
現在のCSR論というのは、経営の全プロセスにどう社会を組み入れるか、ということだと思います。欧米の企業はNGOやNPOとパートナーシップを組んで、協働して取り組んでいくということを意識していますよね。
企業、労働組合、NPOとのパートナーシップ
新谷:企業経営の中にどう社会を組み入れるか、という指摘は非常に重要なポイントですね。その中でNPOや労働組合がどうかかわっていくか。では、次に具体的にどのようにパートナーシップを組んでいけばよいか、お話を頂けますでしょうか。
熊谷:CSRについて、労働組合はどのような立場を取ればいいのか、ということだと思いますが、2004年12月の国際自由労連の世界大会では三つのポイントが議論されました。一つは国際的なコンプライアンス。OECDやILOの多国籍企業向けガイドラインなどがあり、まずこれを守ることです。国際法として十分なものではありませんが。それから二つ目のポイ ントは、国際的な労働協約を作っていくということです。例えば、フォルクスワーゲンと国際金属労組は枠組み協約を結び、児童労働は行わないといった基本的なポイントを労働契約として確保しています。実はこれが現在では30社を超えています。すなわち、世界の主要な多国籍企業とその世界の国際労組が労働協約を結ぶことを通じて、CSRを確立してくという一つの方法です。第三には、SA8000やGRI、グローバル・コンパクトといったボランタリーなものに関与していくということでしょうか。
それから日本のような企業別の労働組合というのは世界ではあまり例のない形なのですが、これはCSRについてはある意味強い。企業ごとにCSRの話ができますから。国際労働機関(ILO)の会議などで見ていても、何か問題が出たときに企業に対して職場で直接に働きかけるということは欧州の組合ではなかなかできない。しかし、日本の場合は個別企業の中に職場の組合がありますから、そこが元気になればCSRの拠点となり得るわけです。日本の企業別組合の良い面をCSRへとつなげていきたいですね。
長坂:今、熊谷さんがおっしゃったように、日本の労働組合というのは企業別ですから、CSRを進める上ではものすごく意味があります。ただ、日本の労働組合は依然として大きな影響力を持っているけれども、それが社会をより良くしていくということにはあまりつながっていない気がします。もちろん企業の中で、従業員の人たちの利益のために活躍しておられると思うんですが、 どうしても労使協調路線の中に巻き込まれた一つの弱い集団というイメージが拭えない。しかし、欧米的に見ると、労働組合というのは社会の一つのステークホ ルダーとして存在している。だから、例えば児童労働問題が起きた場合には労使が一緒になって、その児童労働が行われていると告発された現場に調査に行く、というようなことがマニュアル化されている。第三者に委託する前に労使で報告書を作る。それはSRIの側面からも評価が高い。CSRは日本の労働組合の再生のチャンスでもある、と考えることもできます。
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- カテゴリー:報告
- 投稿日:2006.03.09