インドで子どもに会って考える旅~スタディツアー2007報告(2)
インドで子どもに会って考える旅~スタディツアー2007報告(2)
2007年度インド・スタディツアー報告(1)に引き続き、2007年8月31日に訪問した在印日本大使館と、9月4日に訪問したタラ・プロジェクトで聞いてきたことをご報告いたします。
インドの教育事情と日本とのかかわり~在インド日本大使館の訪問
インドの社会・経済状況
人口 | 10億3千人(2001年統計)、2011年の見込みは11~12億人 |
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宗教 | ヒンズー教80%、イスラム教10%、その他(シーク教など)10% |
公用語 | 18の言語、英語が準公用語 |
GDP | 3万ルピー/人(9~10万円)、成長率9%。 国土の70%が農村地、55%が農業に従事。約3億人が貧困層。 |
政治・行政 | 連邦共和制の民主主義国家、10数政党による連立政権。 28の州と7つの連邦直轄地域がある。 |
最低賃金 | 60ルピー/日 |
貧困対策 | 「全国雇用保障制度」(最低賃金による100日間の雇用)などを実施している。指定カーストや指定部族(人口の約25%)と呼ばれる主に最貧困層に属する住民には雇用・教育・議席での優遇制度がある。 |
インドの教育事情
インドでは、憲法で6~14歳までの無償義務教育が保障され、学校教育は小~中等教育まで12年間とされています。中央政府が教育政策の基本的枠組みや指針を出していますが、政策実施は州政府の管轄となり、教育制度や状況は州によって異なります。2006年インド政府の報告によると、6~14歳までの就学していない子どもは約705,000人で、政府による教育への支出はGDPの約2.87%となっています(目標は6%)。初等教育の就学率は約94%と高いものの、中途退学率は約51%。中でも女の子や指定カースト(57%)、指定部族(66%)に属する子どもの中途退学率が高くなっています。中途退学者が多い主な理由は、教育の質が低いこと、教員数の不足、教育インフラの不足などがあります。
日印関係と日本のインドに対するODAの状況
2007年8月末に安倍首相(当時)が訪問し、シン首相と会談しました。合わせて、ビジネス界から約200人がインドへ訪問しました。日印戦略パートナーシップでは、政治、安全保障、学術・文化交流、環境、防衛などの分野で両国が協力することになっています。ODAの2国間援助では、インドに対し日本が最大の拠出国として、経済、貧困、環境、人材育成などの分野で支援しています(1,868億円)。草の根無償資金協力では、インドの現地NGOによる貧困層を対象とした教育、医療などの分野の事業に対して支援されています。
フェアトレードを通じた児童労働への取り組み
現地のフェアトレード団体「タラ・プロジェクト」を訪問
タラ・プロジェクトは、30年前からカースト外に置かれた不可触民(ダリット)と呼ばれるインドの底辺社会の人々のために活動しています。ダリットのグループが作った手工芸品を市場に流通させ、フェアトレード(公正な取引)に取り組んでいます。ウッタル・プラデシュ州、ビハール州、ハリヤナ州の約1000世帯がタラ・プロジェクトの製品の生産に従事しており、ヨー ロッパや日本などへ製品を輸出しています。また、フェアトレードの国際ネットワーク組織IFATにも加盟しています。
児童労働をなくすためのタラ・プロジェクトの取り組み
タラ・プロジェクトでは、活動するに当たって以下のような基準を設けている。
- 児童労働を使わない
インドでは宝石製品や企業製品の生産で多くの児童労働が使われているが、タラ・プロジェクトは、現在教育センターで子どもたち300名に教育を提供し、児童労働に対するキャンペーンを行っている。 - 労働条件
労働者に対して安全な施設と平等な待遇の提供を行っている。 - 公正な賃金
最低賃金以上の賃金と賞与を支払う。適切な賃金を支払うことは、児童労働を防ぐことにもつながる。 - 自然環境への配慮
有害な化学物質の使用など環境に悪影響を与える活動をしない。また資源の再利用も行う。 - ジェンダーの平等
インドではまだ多くの女性が平等な機会を与えられていないため、女性に仕事の機会を与え、女性の自助グループに小額融資を利用してもらうことにより、収入向上を支援している。 - 能力開発
労働者は必ずしも洗練された生産技術を持っていないので、技術訓練を行ったりして、品質向上につなげている。
タラ・プロジェクトは自己資金で活動し、得た資金は地域で児童労働などの問題解決のために使われています。また、フェアトレードのネットワーク組織「フェアトレード・フォーラム」に所属し、貿易と児童労働などの問題提起、政府政策に対して影響を与えるためのキャンペーンなども行っています。
スタディーツアー参加者の感想
約1週間のインド滞在期間中、様々な場所で多くの子どもたちに出会ったが、どの子どもも力強く、そして一生懸命生きていたように思える。みんな、生きることの大変さを幼いころから学んでいるから、生きることを当たり前とは思わないで一生懸命生きているのかもしれない。
もう1つ感じた事は、出会った子どもたちはみんな、素敵な笑顔を持っているということ。インドには子どもの笑顔を奪うであろうたくさんの問題があるのにもかかわらず、子どもたちは私に素敵な笑顔をくれた。苦しい中でも人に笑顔を見せられる子どもたちの力強さには考えさせられる。
そんな力強く生きる子どもたちの権利(生きる権利、守られる権利、教育を受ける権利など)が守られるためには、まず私たちがインドの子どもたちの笑顔の裏にある過酷な現実を知らなくてはならない。そして「遠い国インドで起きていることは、私たちには関係のないこと」と無関心になったり、ただ「かわいそう」と同情するのではなく、同じ世界に住む同じ人間として、私たちに出来ることがあるのではないかと多くの人が考え、行動する世界を、時間はかかるかもしれないが築きあげたいと思う。
丸田さん(大学生)
ACE インド・スタディツアー2007
- カテゴリー:子ども・若者支援
- 投稿日:2007.09.29