セミナー「子どもが違法な労働に巻き込まれないために考えよう!」を開催しました
セミナー「子どもが違法な労働に巻き込まれないために考えよう!」を開催しました
4人のスピーカーをお招きして、セミナー「子どもが違法な労働に巻き込まれないために考えよう!」を2022年2月23日にオンラインで開催しました。違法な労働に従事させられている子どもやその対応の事例についてのトーク、ACEからは取り組みを紹介、そして子どもに関わっている皆さんとともに子どもたちを違法な労働から守るために何ができるかを話し合いました。
ACEは、子どもたちを児童労働から守るために啓発資料を作成しています。2021年に中学生向けハンドブック「知ってる?働く人を守るルール」を刊行し、8月には沖縄の方たちと勉強会をしました。第2回目として、今回は全国で子どもに関わっている方々に向けてセミナーを開催しました。祝日の午前中にもかかわらず、約50名の方にご参加いただきました。
「日本の児童労働へのACEの取り組み」
ACE代表の岩附由香から、全国には高校就学年齢の子ども約23万人が働いていますが、子どもに関する労働基準法違反が年間2~300事業場で起こっていたり、犯罪や児童ポルノに子どもが使われという国際条約で禁止されている危険有害労働があることを話しました。
ACEは調査、啓発資料作成、政府への働きかけなどをして取り組んでいることも紹介しました。
トーク「“子ども×働く”から見える社会課題」
NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい代表の金城隆一さんにモデレーターをお願いして、認定NPO法人育て上げネット理事長の工藤啓さん、東京外国語大学多言語多文化共生センター長の小島祥美さん、川崎市ふれあい館副館長の鈴木健さんとこの社会課題について考えました。
児童労働と思われる事例について
・若者と社会をつなぐ就労支援をしています。サポートしている少年院在院者や退院者の中には、特殊詐欺の受け子・出し子、薬物の運搬、性を売るなどに関わった少年少女がいます。きっかけはゆるやかで、先輩・友人やSNSを通してちょっとしたお小遣稼ぎのつもりで始めたのですが、軽い犯罪に関与させられ、犯罪をしたと脅されて、より重い犯罪をさせられたりしています。[工藤さん]
・2003年度のことですが、岐阜県可児市で学齢期にある外国籍の子どもの就学調査をしたところ、不就学児が約1割いることが分かりました。なかには、中学校を中退したりした中学生年齢の子どもが自動車産業の下請け・孫請けで働いていました。親より日本語が話せるので雇う側としては使いやすい、また学校を出てもどうせ行くところは親と同じところだからと、学ぶ意義が見いだせないなどの背景がありました。[小島さん]
・ふれあい館は京浜工業地帯のど真ん中にあり、多様な人たちが住んでいて、たいへんな状況の子どもがたくさんいます。男の子は高校中退・卒業後、友達の親の建設会社で働いたりします。地域の集団で強いつながりがある一方、そうしたつながりが切れてしまうと、振り込み詐欺の集団と会ってしまって関わってしまうことがありました。歓楽街があるので、ガールズバーで高校生の女の子が働いていたり、飲食店を自営でやっている母親が娘の友達を呼んで雇ったりしています。パパ活をする女の子もいますが、虐待を受けていたなど、しんどい背景にあることも多いです。[鈴木さん]
・また、広義で児童労働と言えるかと思いますが、居場所に来たいけれども、小学校1~2年生の弟妹の面倒をみなくてはならず、来れない小学校4~6年生の子どもがいます。ヤングケアラーとも呼ばれますが、親が仕事をしているので仕方ないという家庭環境があります。[工藤さん]
・親は家事労働をさせているという意識ではないのですが、深夜勤務の時、小学校年齢の子どもが小さな弟妹の世話をする。そのため朝起きれられなくて、学校に行けないというケースもありました。[小島さん]
・ヤングケアラーも児童労働と考えていかないと、と思いました。児童労働は子どもが悪いことをしている、悪いのは子どもたちと考えがちですが、本当は被害者です。指導、補導、摘発の対象とするより、「しんどい背景」があることを認識する必要があると思います。[鈴木さん]
その対応について
・少年院から出た子ども・若者は、前のつながりに戻ってしまいがちなので、少年院にいる間に信頼できる、子どもをだまさないおとながいることを伝えています。少年院の退院者、中途退学者、非進学者など働いていない人や働きづらい人を「働く」に向かう就労支援を通じてサポートしています。地元の事業者に事情を話して受け入れ先を探し、就職した後のフォローもしています。専門機関の助けも必要ですが、彼らが信頼しているのは専門機関ではなく、実際に寄り添って支援してくれている「人」なんです。 [工藤さん]
・また、弟妹の世話で居場所に来れない子どもに対しては、弟妹を一緒に連れて来れるようにしました。[工藤さん]
・調査結果を受けて、可児市では2005年度からさまざまな機関と連携して「不就学ゼロ」をめざした取り組みが始まりました。例えば、市役所内では義務教育の対象でない外国籍住民への就学案内や手続きについて、市役所での業務を明文化することもしました。公立小中学校に就学する子どもについては、成育歴を丁寧に把握することを大切にしました。「夢は金持ちがもてるもの」と考えている子どももいたため、子どもが具体的目標をもったり、自己肯定感を高めたりできる教育活動に着手しました。さらに、PTAや地域と連携することで、子育て中の外国人労働者を雇用する企業に対して、労働環境などの改善にも取り組みました。 [小島さん]
・可児での調査結果については、さまざまなカタチで発信しました。それから15年を経て、やっと2019年度になって、全国調査の実施につながりました。その結果、外国籍の子ども12万人のうち2万人が学校へ行っていない、不就学率でいうと18.1%で最も初等教育にアクセスできてないサハラ以南アフリカ地域と同じ比率であることが、国から発表されたところです。[小島さん]
・対応はなかなか難しいです。振り込め詐欺などに加わってしまった子たちは、地元に戻って来なくなることも多いです。ガールズバーで働く女の子たちは、友達とのつながりのなかで何とか生きています。帰れる家がない場合は、家探しなどがたいへんです。パパ活をしている子は、居場所の中で受け止められていくと徐々に変わっていきます。[鈴木さん]
・可児市でがんばったことで全国に思いが伝わって、国も動き、変わってきました。川崎市でも訪問調査をしていて、不就学をなくす取り組みが始まっていますし、定時制高校で再来年には在日外国人の枠ができます。[鈴木さん]
子どもが違法な労働に従事させられている社会背景や課題、解決に向けて私たちができること
・自分が育ってきたなかで、かかわったことがないという人が多いと思います。子ども食堂にボランティアに行く、少年院を見学しに行くなど、何かに関わることでどう貢献できるかを考えられると思います。参加してみる、話してみるという機会を探す。会うと理解が進みます。 [工藤さん]
・可児市で当時私が調査や学校で出会ってきた外国につながる子どもたちは、今、就職、結婚し、子どもをもち、家を買い、保護者として、そして納税者となって暮らすようになってきました。可児が大好きな、地元愛にあふれた若者たちのことを知ってほしいです。途上国で起こっていることだけでなく、日本国内で起こっていることにも関心をもってほしいです。[小島さん]
・子どもを守る、支えるという社会のシステムが圧倒的に不足していて、川崎市の子どもの調査では、相談相手の第1位がSNSとなっている状況です。子どもを守るということに対して後ろ向きになっているおとなが多いので、前向きになってもらうにはシステムが必要です。そのために子どもの権利をベースとした子ども基本法をつくり、子どもを守る、支えるシステムを確立させる必要性を感じます。[鈴木さん]
・家庭の背景は、子どもの責任ではありません。まず「知る」が大事です。無関心層が関心をもち、協力し合って、課題解決につながります。「知る」からスタートしましょう。[金城さん]
ハンドブック「知ってる?働く人を守るルール」の紹介
中学生向けに作成、配布しているハンドブック「知ってる?働く人を守るルール」の内容と、中学校、高校、大学、フリースクール、少年院・少年鑑別所、就労支援センター、児童館などでハンドブックがどのように活用されているかをACEの太田まさこが紹介しました。
グループ・ディスカッション:子どもが違法な労働に巻き込まれないためにできること
参加者の方々、スピーカーの方々、ACEスタッフがグループに分かれて、話し合いの時間をもちました。アンケート結果とあわせて、次のような感想、意見、事例がありました。
感想・意見
「日本の児童労働について理解が深まりましたか?」という質問に対して、全員が「はい」という答えでした。
「具体的に活動している方々からの生の情報に接することができたのは、貴重な機会でした」
「ACEの活動や児童労働の実態など、知らないことばかりで衝撃でした。あらたにさまざまなことを知り、たいへん勉強になりました」
「普段あまり知る機会がない児童労働や外国籍の子どもたちに関する情報や環境について知ることができてよかったです」
「ヤングケアラーのケースは、やはり広い意味で児童労働という見方をするべきだと思いました」
「まさに『知る』ことが最初のスタートだと思います。学んだことを多くの方に伝えたいと思います」
「『子どもが身を守るための学び』につながるアウトリーチをどうしたらできるのか、模索したいですね」
「地域との関わりの具体的な強化や犯罪を未然に防げるような家庭支援ができたらいいと思います」
「社会で見守っていく。子どもが孤立しないように。家に居場所がない場合、地域で支える必要がある」
「子どもたちを取り込み、受け入れ、ケアする社会の仕組みが大切だと感じました」
児童労働の事例
「身の周りに児童労働かな?と思うような気付きがありましたか?」という質問に対して、「はい」と答えた人が50%、「いいえ」と答えた人が50%でした。
「女子中学生がガールズバーで働いている」
「高校のとき、同級生の間で夜の歓楽街、居酒屋,バーでのバイトは時給が高いこともあって人気だったことを思い出しました」
「アダルトビデオの撮影に勧誘して映像をとる」
「家事労働をしているために不登校」
「小さい弟妹と一緒に宿題をするように親から強制されていて、終わらないと学習サポートに来れないので遅れて来る」
「外国にルーツがある子どもが、両親の通院の際に通訳として付き添うなどして学校に行っていない」
「親は仕事で家におらず、子どもが学校を欠席して祖母や兄弟の世話をしている」
「親の手伝いで建築系の仕事をしている児童や生徒がいた」
ハンドブックの活用方法
「実際に使えるハンドブック、すばらしいです。ぜひ活用したい」
「子どもが利用する施設での設置」
「子どもと将来の話をするときに、視覚的資料として。中高生になった時に働き方に理解を深められる」
「子どもに出前授業をしている学校で」
「中学校で社会科などの授業で」
「大学生に使うと、ブラックバイトを避けられるとともに、大学生が雇用側に回ったときに、アルバイトを気遣うことにつながるのではないか」
「教員研修や教員養成で、学校現場で子どもと関わる先生たちへ」
「アルバイトを使う側、雇用主へのテキストとして」
「学生の悩み相談など電話相談などの相談員に」
「地域の図書館、公民館、商店街、居場所に」
「保護者に」
「ハンドブックを置いたり配ったりするだけなく、説明をする場を設けるとより有効に活用できる」
ハンドブック「知ってる?働くを守るルール」について知っていただく機会として、第2回目は日々現場で子どもたちと関わっている方々からお話を伺いました。日本にも違法な労働に従事させられ、児童労働にあたるような事例があります。その背景には、貧困などの家庭環境、孤立、行政による支援の不十分さなどがあり、困難な状況に状況に置かれている子どもたちの姿が明らかになりました。
スピーカーや参加者の方々から、まず「知ること」が大事だという指摘がありました。ACEも多くの方々に「日本の児童労働」について知ってもらい、予防と撤廃のために啓発資料を活用していただければと思い活動しています。第3回目のセミナーも開催予定です。
これからも、みなさんのご支援・ご協力をよろしくお願いします!
啓発資料は、こちらからダウンロードできます。
ハンドブック「知ってる?働く人を守るルール」ダウンロードはこちら:https://acejapan.org/activity/child-support/japan
ハンドブック「知ってる?働く人を守るルール」をガイドしている「キクよん」、Twitterで発信中です!
キクよんのアカウントはこちら:https://twitter.com/kiku_yon
※この活動は、NPO法人アーユス仏教国際協ネットワークさんから助成金「2021年度『街の灯』支援事業(特別枠)~コロナ禍を乗り切るための支援~」をいただいて実施しました。
- カテゴリー:報告
- 投稿日:2022.03.23