第5回児童労働撤廃世界会議でサイドイベントを共催しました

第5回児童労働撤廃世界会議でサイドイベントを共催しました

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南アフリカのダーバンで開催された第5回児童労働撤廃世界会議(2022年5月15~20日)で、ACEはガーナ政府労働雇用省とJICAとサイドイベント「児童労働撤廃のための包括的エリアベース・アプローチの促進~ガーナにおける児童労働フリーゾーンの事例より~」を共催しました。これはACE初のチャレンジでした!

第5回児童労働撤廃世界会議

児童労働に関する世界会議が初めて開催されたのは、1997年、ノルウェーでした。続いて、2010年にオランダ、2013年にブラジル、2017年にアルゼンチンで行われました。第5回児童労働撤廃世界会議(以下、第5回世界会議)は2021年に予定されていたのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期され、ようやくハイブリッド形式での開催となりました。

ILOを構成している政府、使用者、労働者の代表に加えて、国際機関、地域機構、市民社会組織など1,150人がダーバンの会場に集まり、オンラインでの参加者は1,600人(ストリーミング配信約1万5000回)と発表されています。

第4回世界会議にはACEと児童労働ネットワークから5名が参加しましたが、今回は分担してオンラインで参加しました。これまでの会議は2~4日間だったのに対して、世界中の異なる時間帯からの参加を考慮したためか、現地時間の午前11時頃に開始、午後6時頃に終了するという約半日で6日間の会期となりました。日本時間では午後6時から翌日の午前1時ごろとなり、ちょっと睡眠不足の約1週間でした。

会議現場の空気を感じたり、同じ志をもって活動している人たちとの出会いがなくて残念でしたが、すべてのセッションが録画、公開されたので、同じ時間帯に並行して行われたセッションも後日視聴できるというメリットもありました。

第5回児童労働撤廃世界会議の報告はこちら

ACE共催サイドイベント

会議第5日目、オンラインでサイドイベント「児童労働撤廃のための包括的エリアベース・アプローチの促進~ガーナにおける児童労働フリーゾーンの事例より~」をガーナ政府労働雇用省とJICAと共催しました。スピーカーはダーバン、スイス、日本から、そして世界中から約60名が参加しました。

ACEがガーナのカカオ生産地で「スマイル・ガーナ プロジェクト」を始めたのは、2009年でした。ガーナはコートジボワールに次ぐ世界第2位のカカオ生産国で、77万人の子どもがカカオ産業で働いていると報告されています。そのガーナからの日本へのカカオ豆の輸入は、全体の80%をも占めています。

「スマイル・ガーナ プロジェクト」では、村の人たちへの啓発、村の人たちによる見回り、学校環境の向上、子どもたちによる子ども権利クラブ活動、カカオ農家への農業研修などを行って、これまでに555人を児童労働から解放し、4,500人の就学・学校教育を支援してきました。

ガーナ政府も国家行動計画を作成するなど児童労働に取り組んでいて、政策のなかに児童労働フリーゾーンの設立が含まれています。そこで、ACEなどの支援によって「児童労働フリーゾーン構築のためのガイドライン」[Protocols and Guidelines for Establishing Child Labour Free Zones (CLFZs) in Ghana]を策定し、2020年に発表となりました。2021年からは、JICAの事業「ガーナ国カカオ・セクターを中心とした児童労働に係る情報収集・確認調査」をACEが受託し、このガイドラインの実施可能性について調査を開始しました。

その経験を第5回世界会議で参加者へ共有し、児童労働フリーゾーンを広めていこうと、サイドイベント開催に初めて応募したところ、オンライン開催のサイドイベントの枠を与えてもらいました。JICAの調査事業実施からマルチ・ステークホルダーによる児童労働フリーゾーン・システム構築へ向けたパイロット活動の経験を共有し、児童労働が最も多いアフリカそして農業において児童労働をなくすためのエリアベース・アプローチの可能性について発表しました。

 

発表者: ガーナ国雇用労働省 ピーター・アントゥイさん

Peter AntwiPeter Antwi, Deputy Director/Focal Person on Child Labour, Ministry of Employment and Labour Relations (MELR), Ghana

「児童労働フリーゾーン・システムの構築が、ガーナでの児童労働撤廃の中心戦略です」

ガーナ政府は、「最悪の形態の児童労働撤廃のための第2次行動計画」策定など、児童労働撤廃に真摯に取り組んでいます。主要な計画のひとつが児童労働フリーゾーン・システムの構築で、「児童労働フリーゾーン構築のためのガイドライン」を作成しました。

児童労働フリーゾーン・システムは包括的なエリアベース・アプローチで、作成したガイドラインには、児童労働フリーゾーンだと認められるための条件が示されています。子どもの権利、福祉、教育、児童労働予防など関して指標が設けられていて、地方政府、村の人たち、関係者が協力してこれらの指標の達成をめざします。進捗状況を見るために、村を訪問、インタビューをするなどして情報を集め、モニタリングも行っています。そして、あらゆる形態の児童労働がないと言える条件を満たしたら、児童労働フリーゾーンと宣言することになります。

発表者: ACE 事務局長 白木朋子

Tomoko Shiroki, Vice President/Co-Founder of Action against Child Exploitation (ACE)

「児童労働フリーゾーン・システムは、包括的なエリアベース・アプローチで、サプライチェーンを超えて地域全体からあらゆる形態の児童労働をなくすために効果的です」

ACEは、「児童労働フリーゾーン構築のためのガイドライン」策定に関してガーナ政府を支援し、2021年にJICAから受託した調査事業を開始しました。この事業の目的は、このガイドの実施可能性を検証することです。ガーナのカカオ生産地の2つの郡で、児童労働の現状や児童労働をなくすために強化すべき体制などについて調査しています。児童労働に対する意識、モニタリング、教育、社会的保護、地方政府の機能などの指標に基づいて、地方政府や村の人たちが情報を収集しています。

これまでに得られた主な結果は次の通りです。

①全国で統一した指標を用いることで、それぞれの地域での児童労働の現状を知り、何をしなければならないかが明らかになります。

②包括的エリアベース・アプローチは、サプライチェーンを超えて地域全体からあらゆる形態の児童労働をなくすために効果的です。

③児童労働について啓発するだけでは、変化をもたらすには不十分です。各村に子ども保護委員会(CCPC: Community Child Protection Committee)をつくり、モニタリングについての研修を提供することで、児童労働に従事している子ども、児童労働のリスクがある子ども、学校へ行っていない子どもを特定できます。JICAの事業を実施している2つの郡の21村では、子ども保護委員会のメンバーが子どもが学校へ行っていない家庭を訪問し、話し合いました。たった2か月のうちに、194家庭のうち101家庭で子どもが学校に通うようになりました。残りの家庭には、経済的な支援など子どもが就学できるように支援することが必要です。

④既存の公的支援・民間支援を融合、活用しながら、NGOをはじめとする関係者の連携が児童労働フリーゾーン構築のカギです。

今後、児童労働フリーゾーンを広めていくための戦略や方策を向上していく必要があるものの、児童労働をなくすためにマルチ・ステークホルダーが協力して取り組んでいくために有効な枠組みだと考えます。

発表者: JICA ガバナンス・平和構築部 山下契さん

Chigiru Yamashita, Senior Deputy Director of Law and Justice Team, Governance Group, Japan International Cooperation Agency (JICA)

「児童労働フリーゾーン構築、児童労働がないガーナ、児童労働がない世界へ!」

JICAも「児童労働フリーゾーン構築のためのガイドライン」策定にかかわり、ガーナでの調査事業実施を支援しています。国や地方レベルで、ステークホルダーの協調・協働を強化することは非常に大事です。児童労働フリーゾーン・システムは、さまざまなステークホルダーが行っているさまざまな取り組みを調整し、協働できる可能性をもっています。

また、JICAは「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を2020年に設立し、社会的、経済的、環境的に持続可能なカカオ生産の実現への貢献を目的としています。ビジネス、NGO、弁護士などがこのプラットフォームに参加し、ILO、世界カカオ財団、欧米のサステイナブル・カカオ・プラットフォームとも連携しています。

JICAは「児童労働フリーゾーン構築児童労働がないガーナ、児童労働がない世界」に向かって引き続き支援していきます。

コメンテーター: ガーナ農業労働者組合 アンドリュー・アドクウェ・テェーゴさん

Andrews Addoquaye Tagoe, Deputy General Secretary of Head of Rural Workers’ Organization Programme at the General Agricultural Workers’ Union (GAWU) of the Ghana Trades Union Congress

「児童労働フリーゾーン・システム構築は、労働組合の重要戦略です。児童労働なくなれ!(Child Labour Away!)」

ガーナ労働組合会議傘下の農業労働者組合は、児童労働フリーゾーンを重要戦略と考えています。おとなへの適切な賃金そしてカカオやタバコ生産、漁業などからあらゆる形態の児童労働をなくすことを促進しています。村の人たちをエンパワーし、自分たちで問題解決ができるようにすることが重要で、農業協同組合、協会、地方政府などさまざまなステークホルダー間の連携を促しています。

コメンテーター: スイス・サステナブル・カカオ・プラットフォーム ゾフィー・テュールマンさん

Sophie Tüllmann, Scientific Collaborator at the Swiss Platform for Sustainable Cocoa (SWISSCO)

「児童労働フリーゾーン・アプローチが、カカオのサプライチェーンにおける最悪の形態の児童労働と強制労働を終わらせるための活動を促進することを期待しています」

スイス・サステナブル・カカオ・プラットフォームは、2017年に設立され、主要な多国籍企業など74社が参加しています。2021年には、「SWISSCOロードマップ2030:ともに課題に取り組もう」(the SWISSCO Roadmap 2030 “Tackling Challenges Together”)を発表しました。カカオのバリューチェーンにおける最悪の形態の児童労働と強制労働をなくすための努力を結集するためにつくりました。児童労働モニタリング・児童労働からの回復システムやコミュニティ開発などを含む包括的なアプローチを奨励しています。

児童労働フリーゾーン・アプローチは包括的なエリア・ベースの解決策で、さまざまなステークホルダーが団結し、活動を加速していくことが可能です。オーナーシップ、官民連携、分野を超えた協力、責任分担、透明性のあるコミュニケーションが成功の重要な要因です。

モデレーター: ACE 代表 岩附由香

Yuka Iwatsuki, President/Co-Founder of Action against Child Exploitation (ACE)

「包括的なエリアベース・アプローチ『児童労働フリーゾーン』について、ガーナのカカオ生産地で事業を実施しているACE、ガーナ政府労働雇用省、JICAから経験を共有します」

 

 

◆参加者からのコメント

1時間という短いセッションだったため、チャットで質問やコメントをやりとりしました。

「子ども保護委員会は、郡レベル、あるいは村レベルにあるのですか?児童労働フリーゾーンのために何人くらいのスタッフが必要ですか?」という質問があり、

「村レベルです。村の人口によって5~10人の男女が選ばれ、ボランティアです。このメンバーにモニタリング活動などの研修を行うことがとても重要です」と、答えました。

「児童労働フリーゾーンは、とても有効と思われます」

「児童労働フリーゾーンのモニタリング方法はとても興味深いです。子どもたちのためにみんなで取り組んで相乗効果を生むことが重要です。どのようにして児童労働フリーゾーンの取り組みを拡大していくのか期待しています」

などの、コメントもありました。

「ダーバン行動要請」でエリアベース・アプローチが認められました

ダーバン行動要請文書第5回世界会議の最終日には、成果文書「ダーバン行動要請」(*)が採択されました。児童労働をなくす行動を強化するための6つの取り組みが示されました。そして、これら6つの取り組みそれぞれについて、すぐに実行可能で効果的な49の方策も示されました。

その方策の中で、包括的なエリアベース・アプローチが、次のように認められました。

取り組み(3) 最悪の形態の児童労働、強制労働、現代奴隷、人身取引を含む児童労働の予防と撤廃、そしてデータに基づき、被害者の声を反映した政策や事業を通した被害者の保護を強化する。

方策(27) マルチ・ステークホルダーによる全体的なサプライチェーン・アプローチや包括的なエリアベース・アプローチを活用することが重要であると認識し、サプライチェーンにおける児童労働終わらせる。

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世界の児童労働推計(2021年)によると、1億6000万人の児童労働者のうち5割以上がサブサハラ・アフリカ地域に住んでいて、7割以上が農業に従事しています。SDG 8.7「2025年までの児童労働撤廃」を達成するためには、アフリカそして農業の児童労働を減らすことが急務です。

第5回世界会議で世界中で児童労働撤廃のために活動している人たちに、ガーナで児童労働フリーゾーン・システムの構築に向けたACEの経験を共有し、この包括的なエリアベース・アプローチがアフリカや農業の児童労働削減に貢献できる可能性があると実感できました。そして、児童労働撤廃世界会議でサイドイベントを開催するという初めてのチャレンジの成功を祝福しました。

これからも児童労働フリーゾーン・システムがガーナ全国そして世界に広がっていくよう活動を続けていきます。これからも、みなさんのご支援・ご協力をよろしくお願いします!

(*)「ダーバン行動要請」(日本語版・英語版)はこちら

・日本語版|「児童労働の撤廃に関するダーバン行動要請」
・英語版|Durban Call to Action on the Elimination of Child Labour

※児童労働ネットワークによる「第5 回児童労働撤廃世界会議 記録」はこちら:
児童労働ネットワーク|第5回児童労働撤廃世界会議に参加しました
上記ページ内リンク「第5回児童労働撤廃世界会議(2022年5月15日~20日)記録(PDF)」をご覧ください。

         

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2022.06.30