【開催報告】子どもの権利とニッポンの理想と現実~子どもの権利があたり前になるために必要なことは?~

【開催報告】子どもの権利とニッポンの理想と現実~子どもの権利があたり前になるために必要なことは?~

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2023年7月19日、トークイベント「子どもの権利とニッポンの理想と現実~子どもの権利があたり前になるために必要なことは?~」をオンラインにて開催しました。

ゲストに谷口真由美さんをお迎えし、ACE代表の岩附と、約1時間にわたり子どもの権利についての対談を行いました。当日は88名の方にご参加いただき、多くの方と一緒に「子どもの権利を守るというのは具体的にどういうとなのか」について考える場となりました。

谷口さんと岩附は共通点がいくつかあり、大阪大学大学院で同じ時期を過ごしたこと、お母さんのお名前と漢字が一緒ということ(笑)などがありますが、このようにイベントでご一緒するのは初めてでした。

「子どもはひとりの人間です」

はじめに、ゲストの谷口さんより10分間のトークをしていただきました。

今年2月に評論家の荻上チキさんと谷口さんが共著で出版された「きみの人生はきみのもの 子どもが知っておきたい『権利』の話」に掲載されているケースを引き合いに出しながら、子どもの権利を尊重するとはどういうことかについて、具体的なお話がありました。

例えば、高校生の子どもが門限よりも遅い時間にライブに行きたい、というケースについて。

子どもは「どうしてもこのライブに行きたい、門限の意味も分かっているが、この日だけは許してもらえないか」と、理由と想いを親に対して主張するとします。そこで「子どものくせに何を言っているんだ、生意気な」と一蹴してしまうのではなく、「遅い時間だと犯罪に巻き込まれる可能性もあり心配だ」という「理由」をきちんと説明することが大事、と谷口さんは言います。

そうすれば、子ども側はその懸念を払しょくするにはどうしたら良いか考え、子どもなりのアイディアを考え提示してくるかもしれません。お互いにとってより良い方法を、交渉したり、自分の意見を表明したりしながら、一緒に考えることができるのです。

誰かに決められてしまうのではなく、自分で考え、自分で勝ち取る経験の方が、子どもの成長にとっても良いはずですよね。

とはいえ、今の親世代のほとんどは、子どもの権利について教わる機会がありませんでした。「子どものくせに」と言われ、意見を言うことを封じられてきた人が多いので、どうしても自分たちがされてきたように子どもたちにも接してしまいがち。谷口さんは、日本でもこども基本法ができたのを「いいことに」、みんなで勉強していこう、学びなおしていこう、と呼びかけられていました。

そうすれば、今の「小さなおとな」が「大きなおとな」になったときには、おとなも子どもも、誰もがみんながもっときちんと意見を言える社会になっていると思う、とも。

「子どもの権利条約、こども基本法と児童労働」

つづいてACE代表岩附より、子どもの権利条約、こども基本法、そして児童労働についてご説明しました。

子どもの権利条約の大きな意義は、それまでは子どもは「守られるべきもの」と捉えられていましたが、「子どもも権利の主体である」という認識を示したことにあると考えています。

残念ながら日本では、子どもの権利についてあまり知られていない現状があります。子どもの約3割、おとなの約4割が子どもの権利を「聞いたことがない」のです。

OECD諸国の中でも日本の子ども・若者の幸福度ランキングは低く、1日に2人が自死している現状があります。5日に1人が虐待で死亡するなど、虐待、いじめなどの暴力も問題になっています。

置かれた環境に左右されずに、どんな子どももその子らしく生きていけるよう、国がもっとサポートすることが必要です。

なお、権利をもつ人のことを「ライツホルダー」といい、権利を保障する義務がある者のことを「デューティーベアラー」といいます。子どもの権利に当てはめると、ライツホルダーは子ども(18歳未満)とその保護者、デューティーベアラーは国、自治体と、そこで働く人ということになります。

子どもの権利が十分に守られていない日本の状況を改善すべく、ACEでは、以下のような活動を行っています。

①子どもの権利を保障する包括的な法律を作り、あらゆるレベルで子どもの権利を広げるために…
・広げよう!子どもの権利条約キャンペーン:政策提言、啓発活動、広報、ネットワーキングなど

②子ども自身、子どもに関わる人に子どもの権利について知らせ、その実践方法を学ぶ機会を作るために…
・子ども支援者向けの、子どもの権利についてのワークショップの開発
・子ども向けに子どもの権利を伝えるワークショップの開発

③子どもの権利をより保障するため、子どもの権利を学び、地域のみんなでその実践の輪を広げるために…
・沖縄うまんちゅ子どもの権利推進プロジェクト(移動公園、NVC研修、子どもの権利実践研修)

児童労働も、子どもの権利を侵害するものです。「経済的搾取・有害な労働からの保護」や「教育を受ける権利」「休み、遊ぶ権利」「生きる権利、育つ権利」をはじめとする、様々な子どもの権利を侵害します。

児童労働は増加傾向にあり、今も世界の子どもの10人に1人、1億6000万人が児童労働をしています。

児童労働をなくすためには、「貧しいんだから、学校に行けずに働いてもしょうがない」と諦めてしまうのではなく、「どんな子どもにも、遊んだり、学んだり、休んだりする権利がある」ということを、まずは多くの人に理解してもらうことが重要だと考えています。

対談「子どもの権利があたり前になるために必要なことは?」

この後、約30分間対談を行いました。トーク内容のすべてはご紹介しきれないので、エッセンスをかいつまんでご紹介します。

子どもの意見を「いったん受け止める」

「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」が実施したSNSキャンペーン「こどモヤ」に寄せられた子どもたちからの声の中から、「通学カバンが重すぎる」という声に着目しました。

成長途中の子どもの体の発育を阻害してしまうほど重いのに、置き勉が許されない。そういったおかしな校則を変えるための活動をする中でよく現れるのが、「先生もそう思う、置き勉したら良いと思う。でもね、学校としてはダメなんだ。」というような、共感はしてくれる先生、だそうです。実際にルールを変えられるのは、職員会議に起案できるのは、おとなです。「そうやって共感だけして逃げるおとなは、ずるい」と、一刀両断。

ここ数年インドで暮らしていた岩附さんによると、お子さんたちのインドの学校への持ち物は帽子と水筒だけだったそうです。宿題も基本的に無し。

私たちおとなは特に「そういうものだ」と思考停止してしまいがちです。「本当にこれって必要だったっけ?」「そういわれてみれば、確かにおかしいよね」と、子どもの疑問や意見をいったん受け取って、一緒に考えてみる、まずはそれが大事なのかもしれません。

まだまだ日本には、人権侵害にあたりそうな校則が多数存在しているように思われます。
ですがそもそも、ものごとのルールは、世の中や組織がスムーズにいくためのものであって、懲罰が目的ではないはずです。

子どももおとなと同じように、人格のある人間です。おとなの所有物ではありません。
「権利」とか、「最善の利益」とか、難しいことは分からなくても、子どもが何かを主張したときにはいったん受け止める。そうして一緒に考えられるおとなが増えると、もっと子どもの世界も変わっていくのではないでしょうか。

「迷惑」を恐れすぎる日本と、「迷惑かけてなんぼ」のインド

日本での子育ては、「この子をきちんとしつけて、育てなければならない」「迷惑をかけてはいけない」というプレッシャーが強すぎるがゆえ、子ども本人よりも周りの目を気にして判断してしまうことが多いのではないか、という投げかけもありました。

谷口さんに言わせれば、「人間は生きているだけで迷惑をかけている」(笑)。それなのに、多くの日本人は「迷惑をかける」を拡大解釈して、目の前にリアルに存在している子どもよりも、見えない「世間」の方を見て、「世間」と戦ってしまっている、といいます。 

岩附さんがインドで暮らしているときに「インドでは迷惑かけてなんぼだからね~」と言われて気が楽になった、というエピソードも紹介されました。インドの人々には、人の手を借りること、人の手を煩わせることが自分の生きていることの証明、というような感覚があるようです。

「助けて」といえずに、全部自分や自分の家の中で解決しようとする日本。人の手を借りて「迷惑」をかけながら生きていくのが当然なインド。

谷口さんによれば、人権というのは、「助けて」と言えるようにするトレーニングともいえる、とのことでした。私たちに必要なのは、迷惑をかけることを過度に恐れるのではなく、苦しい時は「助けて」と言い、お互いに助け合い、その中で迷惑をかけてしまった時には「ごめんね、ありがとう」とコミュニケーションしていくことなのかもしれませんね。

国の役割

子育てに対する国の支出がOECD諸国の中でも特に少ない日本。
「国がもうちょっと頑張ってくれ、みんなが教育を受けられるようにお金出してよ」と言っていいはずなのに、現実はそうならず、各家庭で「教育にお金がかかるからどうにかしないと…」という風潮ですよね。

人権というのは、もともとは権力にあらがうための概念であり、要求し勝ち取るための概念です。ですが私たち日本人には「お上に迷惑かけたらだめ」という刷り込みがあります。
そのうえ、子どもの権利だけではなく、そもとも「人権とは何か」ということを、習ってきていないのです。

谷口さんは、道徳よりも、人権教育がよっぽど必要だと言います。

こども基本法、子ども家庭庁も、できたから終わり、安心、ではありません。「注目して、使い倒して」いく必要があります。それこそ「お上」に「これは本腰入れないと」と思わせるくらいに、子どもたちの声をきちんと聞いて、おとなたちにも伝えていくことが重要です。

こうしてあっという間の30分が過ぎたあと、最後に、本イベント開催時にACEが挑戦していたクラウドファンディングのご案内をさせていただき(おかげさまで無事に目標金額達成しました!)、イベントはお開きとなりました。

参加者の方のご感想

イベントのアンケートにて、以下のようなご感想をいただきました。

  • こどもが権利を学ぶ場をつくるためには大人もこどもの権利についてちゃんと考えなければいけないと、強く思いました。
  • 学校現場も少数派の声が届かない現状。学力向上ばかり。子どもはなにを望んでいるのか、管理職研修に子どもの権利を入れてほしい。
  • 今日のお話とても良かったです。子どもの権利条約の大切さをとても感じました。またお話お聴きしたいです。
  • 子どもの権利を考えるときに、まずは大人自身が子どもに対する価値観をアップデート(学び直し)する必要があると感じました。
    それが子どもを一人の人として尊重すること、一人の人として子どもと対話する出発点になるのではないかと思いました。
  • 子どもの権利を大人、子どもの双方の視点でとらえて考えることができました。
  • 子ども基本法について、私たち大人が知らないことが多いと感じました。早速調べてみようと思います。また、日本に必要なのは、道徳教育では無く、人権教育だという言葉にひどく納得してしまいました。また、このようなウェビナーがあれば、ぜひ参加したいです。

ACEはこれからも、日本の子どもの権利を守る活動を進めてまいります。引き続きの応援を、どうぞよろしくお願いいたします!

2023年8月15日 青井彩乃

子どもの権利の普及推進のために
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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2023.08.21