国連ビジネスと人権の作業部会が来日、声明を発表
国連ビジネスと人権の作業部会が来日、声明を発表
国連ビジネスと人権に関する作業部会が2023年7月24日に初めて来日し、日本での「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の実施状況や課題について調査を行いました。最終日の8月4日には、記者会見を開いて調査結果の概要と所見を含む声明を発表しました。
国連ビジネスと人権の作業部会が初来日
国連人権理事会に設置されているビジネスと人権に関する作業部会の専門家2名が、2023年7月24日から8月4日まで初めて来日しました。目的は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」のもと、日本政府と企業が人権に関する義務と責任を果たすための取り組みを検証することでした。なお、この専門家は国連職員ではなく、どの政府や組織からも独立した存在です。
12日間にわたって東京、大阪、愛知、北海道、福島を訪問し、政府省庁、地方自治体、市民社会組織、研究者、労働組合、企業、業界団体など、さまざまな立場の人から聞き取りが行われました。報道ではジャニーズ事務所の問題が大きく取り上げられていましたが、さまざまな分野におけるビジネスが人権や環境に与える負の影響の特定、予防、取り組みについて調査が行われました。
調査ミッション終了声明
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいて、人権を保護する国家の義務、人権を尊重する企業の責任、救済へのアクセスの観点から聞き取りが行われ、訪日最終日には東京都内で記者会見を開いて、調査結果の概要と所見を含む声明を発表しました。
声明の内容はこちらをご覧ください:
日本語版 「国連ビジネスと人権の作業部会訪日調査、2023年7月24日~8月4日ミッション終了ステートメント」
声明の概要は、以下の通りです。
日本におけるビジネスと人権の概況
人権を保護する国家の義務
・日本政府が「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」(2020年)と「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022年)を策定したことを歓迎します。
・東京以外の地方では、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や日本の「行動計画」に対する認識が低いと思われ、政府は研修や啓発を積極的に行う必要があります。
・「行動計画」の見直しでは、関連するすべてのステークホルダーが関われる機会を確保し、ギャップ分析(あるべき状態と現状との比較)を行い、優先課題を特定して、モニタリング・評価のための指標を含めた実施方法を明確にすべきです。
人権を尊重する企業の責任
・企業からは、従業員への継続的な人権教育や通報ホットラインを含む苦情処理メカニズム設置などの実践が進んでいるという報告がありました。
・技能実習生や移民労働者の扱い、過労死を生む残業文化、バリューチェーンにおける人権リスクの監視と削減など、さまざまな問題があると認識しました。
・問題点①:大企業と中小企業の間には、「ビジネスと人権に関する指導原則」の理解と実施状況に大きなギャップがあること
・問題点②:人権デュー・デリジェンスの義務化によって企業間の「競争条件の公平化」を図るなど、政府はより積極的に「ビジネスと人権に関する指導原則」に書かれている義務を果たしてほしいこと
・問題点③:タイムリーでそれぞれの企業の状況にあった能力強化をしていく必要性
救済へのアクセス
・国家司法メカニズム:幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低いため、裁判官や弁護士を対象とする人権研修の義務化を強く推奨します。
・国家非司法的苦情処理メカニズム:国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)に沿って、独立した本格的な国内人権機関の設立を求めます。
・非国家苦情処理メカニズム:企業など国家以外が運営する実効的な苦情処理メカニズムの重要性を強調します。
ステークホルダー・グループとその関心分野・事項
さまざまなステークホルダーから、ビジネスに関連する人権問題について情報提供がありました。その中で、長時間議論された分野は、多様性(ダイバーシティ)と包摂(インクルージョン)、差別とハラスメント(ヘイトスピーチを含む)、労働に関連する虐待、先住民族の権利、バリューチェーンにおける規制、そして健康への権利、清潔で健康的で持続可能な環境への権利と気候変動への影響です。他にも、子どもと若者に関する課題、セックスワーカーの搾取、ホームレスに対する差別などについても情報を得ました。
リスクにさらされているステークホルダー・グループ
女性、LGBTQI+、障がい者、先住民族、被差別部落、労働組合
テーマ別分野
健康・気候変動・自然環境、技能実習制度と移民労働者、メディアとエンターテインメント業界
※メディアとエンターテインメント業界においてジャニーズ事務所の問題が取り上げられ、労働者を保護する労働法やハラスメントの明確な法的定義がないこともあり、この業界で搾取的な労働条件が生まれ、性暴力やハラスメントについて問わない文化を助長していると報告しています。政府が加害者に対して透明性のある捜査を行い、被害者が効果的な救済を受けられるように責任を果たす必要性は明らかだと報告しています。
今回の訪日調査の最終報告書は、2024年6月の国連人権理事会に提出する予定となっています。
ACEからの提言
ACEは国連ビジネスと人権に関する作業部会から市民社会への聞き取りの際に、児童労働などについて以下の提言をしました。
1.グローバル・サプライチェーンにおける児童労働
・公共調達や企業活動に関してサプライチェーンにおける人権デュー・デリジェンスを義務化する法律制定
・Alliance 8.7への参加
・官民パートナーシップや市民社会との対話によるコレクティブ・アクションの推進
2.日本の児童労働
・国内法における児童労働の法的定義
・児童労働(特に最悪の形態の児童労働)に従事している子どもを保護する法的枠組み
・児童労働撤廃のための国家行動計画の策定と政策実施
・関係省庁連絡会議の設置
・児童労働者数の調査
3.子どもの権利とビジネス
・子どもの権利とマーケティングに関する調査実施
・子どもの権利に配慮したマーケティングや広告に関する法規制
4.国内人権機関
・独立した国内人権機関の設立
・独立した子どもコミッショナーの設立
・子どもの権利条約 通報手続きに関する選択議定書の批准
今後の活動に向けて
ビジネスと人権に関する作業部会による調査ミッション終了声明において、児童労働については触れられていませんでしたが、強制労働に関しては債務返済のために原子力発電所の汚染除去や廃炉作業を強制されたという事例が報告されていました。ACEの調査では、18歳未満の子どもも除染作業などに雇われたことが分かっています。これは、今すぐ無くすべきと合意されている最悪の形態の児童労働にあたります。
人権デュー・デリジェンスの義務化については、ほとんどの企業が求めていることが分かりました。日本政府が「ビジネスと人権に関する指導原則」における人権を保護する国家の義務をしっかりと果たすように、ビジネス界と連携して働きかけが行える可能性が見えました。
国内人権機関については、作業部会も設立を求めています。ビジネスに関連して人権侵害を受けた人たちを救済するうえで、そしてビジネス関係者のみならず裁判官や国選弁護人という人権保障にかかわる立場の人たちに対して、ビジネスと人権についての研修を促進するうえでも非常に重要であると考えます。
人権に関しては後進国と言われている日本です。ACEは、児童労働撤廃を含む子どもの権利保障やビジネスにおける子どもの権利への理解を促進するために、引き続き活動していきます。
これからも、みなさまのご支援・ご協力をよろしくお願いします!
- カテゴリー:報告
- 投稿日:2023.09.14