「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」(農林水産省)にACEの意見が反映されました
「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」(農林水産省)にACEの意見が反映されました
農林水産省は、食品企業が人権尊重に取り組めるように「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」を作成しました。その案作成の過程で、2023年11月に意見・情報の募集があり、ACEは児童労働を中心にパブリック・コメントを提出し、その意見の多くが採用されました。
「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」
日本政府は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を踏まえて、2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を公表し、2022 年9 月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を作成しました。日本企業による人権尊重への理解を深め、取り組みを促進しているところです。
食品産業は、生産、製造、流通、小売りなどそのサプライチェーンが多岐にわたり、海外から原材料を調達している企業も多いです。そこで、農林水産省は、食品企業が人権尊重に取り組めるように「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」を作成するにあたって、2023年11月に意見・情報を募集し、ACEは児童労働を中心にパブリック・コメントを提出しました。そして、12月には、以下が公表されました。
「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」
「別添1 各人権に関するリスクへの取組において意識すべきポイント」
「別添2 作業シート『負の影響(人権侵害リスク)の特定・評価』ステップ①〜③」
「参考資料編」
(農林水産省HP|食品企業向け人権尊重の取組のための手引きより)
ACEからの意見書
児童労働の約7割が農林水産業に集中していて、食料の多くを輸入している日本にとって原材料生産国の児童労働はとても重要な問題です。SDG 8.7「2025年までの児童労働撤廃」を達成するためには、国内外で児童労働への取り組みを加速化していかなければなりません。
ACEは、ガーナのカカオ産業とインドのコットン産業で、児童労働を予防・撤廃するプロジェクトを実施しています。また、チョコレートを製造・販売している日本の主要な企業や国内外のカカオ産業の関係者と連携して、グローバル・サプライチェーンの児童労働に取り組んでいます。さらに、日本国内の児童労働についても、啓発資料を作成して中学生、高校生、保護者、学校の教職員、子どもを雇っている人たちなどに配布して、意識向上を図っています。
これらの経験をもとに、以下の意見を提出しました。
※「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き(案)」についての意見・情報の募集の結果については、こちらをご覧ください。
「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き(案)」への意見
1.デューティーベアラーと企業の責任についても触れることを提案します。
「誰の人権に取り組むのか」において、「権利の保持者(ライツホルダー)の人権」に触れられていますが、それと対になる語句である「権利を実現していく人(義務の担い手=デューティーベアラー)」についても触れ、企業には人権を尊重する責任があることをきちんと伝える必要があると考えます。
→農林水産省による「御意⾒に対する考え⽅」:
御意見の趣旨を踏まえ、手引き(案)p2に「ビジネスと人権に関する指導原則」に係る記載を追記いたしました。
2.なぜ食品産業において人権デュー・ディリジェンスの取り組みが重要であるかの具体的な理由を示すことを提案します。
児童労働者の7割、強制労働の下にある労働者の1割が農業セクターに従事していることなど、食品産業に人権侵害が集中しているという根拠を示すことを提案します。
→農林水産省による「御意⾒に対する考え⽅」:
御意見の趣旨を踏まえ、手引き(案)p5の児童労働及び強制労働の括弧書きを追記いたしました。
3.取り組みの体制について、業界全体における連携を追記してください。
個社が抱える課題は、業界が同じである場合課題が重なっていることがあります。その場合は、サプライヤー同士の縦の連携に加えて、例えばサステイナブル・カカオ・プラットフォームのように業界プラットフォームなど業界全体での横の連携も必要です。
→農林水産省による「御意⾒に対する考え⽅」:
御意見の趣旨を踏まえ、手引き(案)p8に追記いたしました。
「参考資料編(案)」への意見
4.「各人権に関するリスクの解説 ②児童労働の禁止」 全体へのコメント
国際的ならびに日本の状況や基準の両方について説明されていますが、どちらについて述べられているのか、明瞭でない個所が見受けられます。誤解・混乱を避けるため、児童労働の状況や基準など、国際的な情報と国内に関する情報を分けて記述する構成に変えるか、あるいは同一ページで国際基準と国内法について扱う場合は、「海外では」「日本では」などの語句を追加することを提案します。
※具体的に、(案)31ページについて、ヘディングの変更、労働基準法第56条の記載、海外と国内の労働基準について分けて示すこと、表:雇用または就業が認められる年齢(1973年の最低年齢条約[第138号])の変更について、修正案を提示
→農林水産省による「御意⾒に対する考え⽅」:
御意見の趣旨を踏まえ、参考資料編(案)p31を修正いたしました。
「別添1(案)」への意見
5.通報制度に関する項目の追加
救済へのアクセスは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の3つの柱の一つで、救済措置にいたるまでの救済へのアクセスを確保することが重要です。秘密が守られ、通報者の安全が担保されている通用制度を各企業は設置する必要があります。
※(案)34ぺージに項目「児童労働に従事させられている子ども、児童労働を発見した人が通報できる制度がありますか?」の追加を提案
→農林水産省による「御意⾒に対する考え⽅」:
救済については手引き(案)p27に記載しているところですが、貴重なご意見として今後の検討の参考にさせていただきます。
その他、全体に関する意見
就労最低年齢と危険有害労働に関する年齢について「以上」「未満」「満○歳」「○歳」という記述が混在し、使い分けされている根拠が分からないことから、全体を通してできるだけ記述を統一すること、そして参考資料の追加などを提案し、修正されました。
「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」へのパブリック・コメントには、6件の応募ということで少なかったように思います。募集の結果では、一つひとつの意見に丁寧に回答されており、児童労働を専門とするACEの提案を多く受け入れてもらえました。
日本政府は、「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」に続いて、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表し、今回は農林水産省が食品企業を対象とした手引きを作成するなど、ビジネスと人権に関する取り組みを進めているように思われます。今後、他の業界に特化したガイドラインや手引きなどが作成されるかもしれません。
国内外で児童労働をなくすために活動しているACEが、その知見を生かして日本の政策づくりに貢献していきたいと思います。
これからも、みなさまのご支援・ご協力をよろしくお願いします!
世界の子どもの笑顔のため、世界を変える小さな一歩を。
- カテゴリー:報告
- 投稿日:2024.01.30