ISO(国際標準化機構)で「現代奴隷制」に関する規格の検討が始まり、ISOエキスパートとして参加しました

ISO(国際標準化機構)で「現代奴隷制」に関する規格の検討が始まり、ISOエキスパートとして参加しました

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ビジネス(企業)にも、サプライチェーンの人権を含め、「人権を尊重する責任」がある。2011年に国連ビジネスと人権指導原則が発表されて以降、従来「国の義務」とされてきた人権を守るための責任が、経済のグローバル化を背景に企業にも及ぶようになりました。

そんな潮流を受け、これまで工業規格やマネジメントシステムを中心に民間のイニシアティブとして発展してきたISO(国際標準化機構)の中にも、人権と関係する国際規格の策定が検討されるようになりました。ISOは世界172カ国にメンバーをもつ非政府組織で、日本では日本規格協会がそのメンバーとなっています。今回日本規格協会から、市民社会側からの参加者としてビジネスと人権市民社会プラットフォームに要請があり、ACE代表の岩附が委員に就任することになりました。

各国代表が集う総会会場にて(写真左:ACE代表 岩附、右:同じくISOエキスパートを務める熊谷委員)

 

今回新たに設置された「人権関連規格検討委員会」では、ISOで検討が始まった新しい現代奴隷(強制労働、人身取引等。児童労働も一部含まれる)に関する規格の検討を主に進めています。この検討委員会は経済産業省、労働界、経済界(企業の方々も)、消費者代表や研究者の方、弁護士の方々で構成されています。

ISOでは明確に定められた規格の開発プロセスがあり、各段階の草案を元に、各国でコメント提出や表決に参加し、そのコメントをひとつひとつ検討する会議が国際的に開催されます。この現代奴隷制に関する規格の検討は、ISOの中で主にガバナンスに関する規格を取り扱うTC309で行われており(TCはTechnical Committeeの略、専門委員会)、2024年11月に中国の深圳でこの専門委員会の総会及び作業グループの会議が開催されることから、日本を代表しエキスパート(専門家)として参加しました。 

作業グループは任命された議長、セクレタリーが進行を進めます

 

総会では他の作業グループ(WG)の進捗や取り扱うテーマに関する報告やパネルディスカッションがあり、組織のパーパス、ダイバーシティ、女性に対する暴力、セーフガーディング等の幅広いテーマがTC309の傘下で検討が進んでいることを知りました。

こうした人権に関する規格がISOで提案されるようになった背景には、提案国にすでに類似の国内規格があり、そうした国内規格をベースにISOで国際化しようとする意図もあるようです。確かに、現代奴隷制に関する国際規格の提案国は英国で、英国には現代奴隷法があり、かつ国内規格もあるので、こうして国の政策がISOにまで及んでいることがうかがえます。

こうした規格は企業だけでなく、あらゆる組織が利用できるように作られており、政府やNPO等でも活用できます。ただし、ISO文書は通常は有料で、利用するには各国の協会からの購入が必要となります。

草案と各国コメントを見比べながら、時にはひとつのコメントに長い時間をかけるときも

 

現代奴隷のWGに参加している各国からのコメントはかなりの数に上り、日本からはもっとも多い数のコメントが提出されていました。11月の会議では、あまり明確ではなかった児童労働に関する定義や位置づけについて具体的に提案し、承認を得ましたので、現代奴隷制に含まれる児童労働に関する啓発と予防にこの文書が資することを期待しています。

11月の対面会議の場でコメント検討は終わらず、12月から1月にかけての度重なるオンライン会議の結果、第2委員会草案(CD2)がまとまり、2025年2月現在この草案に対するコメントが集められている所です。この後まだ策定プロセスが続くため、引き続き議論に参加し、意義のある国際文書の策定に貢献できればと思っています。

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2025.02.26