C20 サウジアラビア 2020で分科会を開催しました

C20 サウジアラビア 2020で分科会を開催しました

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C20サミット(市民社会)が2020年10月6日から10日まで、サウジアラビアで開催されました。毎年、C20サミットには世界各地から市民社会組織の関係者などが一堂に会して、労働、教育、保健、環境などの世界的な課題について議論し、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)に対して提言を行います。今年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、すべてオンラインで開催されました。

昨年は、日本がG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)のホスト国だったことから、ACE代表の岩附由香を議長として東京でC20 サミット 2019を開催したことを覚えていらっしゃいますでしょうか?

all今年の5日間のサミット期間中には、65の分科会が開催され、118か国から約4万人が参加しました。ACEは10月9日に「SDG 8.7達成に向けた市民社会・ビジネス・政府の連携促進」と題して分科会を開催しました。児童労働、強制労働、人身取引、現代奴隷を世界からなくすためには、市民社会・ビジネス・政府が連携することが重要です。5人のスピーカーを招いて、それぞれの立場から三者が連携した好事例を紹介し、新型コロナウイルス感染拡大のなか2021年の児童労働撤廃国際年に向けて、SDG 8.7達成(児童労働、強制労働、現代奴隷、人身取引の撤廃)への動きを加速化するために議論しました。

開会のあいさつ アヌーシェ・カーバーさん

Anoushehさん基調講演の写真Alliance 8.7(*1)の議長であり、ILO(国際労働機関)へのフランス政府代表とG7とG20労働雇用担当でもあるアヌーシェ・カーバーさんから、開会のごあいさつをいただきました。

新型コロナウイルス感染拡大によって、失業、収入減少、社会保障の欠如、教育機会の喪失などさまざまな影響が見られます。そんななか、ILO第182号条約「 最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約」が、ILOすべての加盟国(187か国)によって批准されました(*2)。これは、子どもの権利を保障するという世界の総意を強く示すものでした。Alliance 8.7は、これまで減少を続けてきた児童労働が増加に転じないように、早急に具体的な対策を進めていかなければならないと考えています。そのために、今回の分科会での市民社会・ビジネス・政府の連携のモデルケースや議論から抽出される提言に期待しています。

(*1)Alliance 8.7は、SDGs(持続可能な開発目標)目標8、ターゲット7、児童労働、強制労働、現代奴隷、人身取引の撤廃を達成するためのグローバルなパートナーシップで、ILOが中心となって活動しています。ACEもAlliance 8.7のパートナーです。

(*2)ILO第182号条約批准については、こちらの活動報告もご覧ください。
ILOすべての加盟国が「最悪の形態の児童労働条約」を批准しました

 

基調スピーチ カイラシュ・サティヤルティさん

カイラシュさんの写真ACEと縁が深い、ノーベル平和賞受賞者でカイラシュ・サティヤルティ子ども財団の創設者、カイラシュさんにはビデオ・メッセージをお願いしていたのですが、ライブで出演しますというご連絡があり、基調スピーチをしてくださいました。

ILO第182号条約「 最悪の形態の児童労働条約」のILO全加盟国による批准は、祝福に値することですが責任を伴わなくてはなりません。この今、子どもたちが動物のように1円以下で売り買いされているのです。

G20など世界のリーダーは過去に示したコミットメントを実行に移しているとは、とても言えません。過去数か月の間、新型コロナウイルス感染症関連の支出8兆ドル(約840兆円)のうち、貧しい子どもとその家族には0.13%しか使われませんでした。過去40年間、多くの言い訳を聞いてきました。今回も新型コロナウイルスを児童労働が撤廃できないことへの言い訳にしてはなりません。

2つ要求をします。ひとつ、子どもたちが学校に通い卒業できるように社会保障基金を設立すること。ふたつ、オランダのようなグローバル・サプライチェーンにおける児童労働人権デュー・ディリジェンス法(*3)の制定です。

政府が十分な責任を果たしていないことに対する「怒り」を今すぐ「協力・連携」というアクションへと変えていきましょう。来年は児童労働撤廃国際年という大きな機会です。搾取から教育へ(exploitation to education)、暗闇から輝きへ(darkness to light)不公平から正義へ(injustice to justice)、多くの死から不滅へ(mortality to immortality)と変えていくために、みんなで力を合わせましょう!

(*3)人権デュー・ディリジェンスとは、企業活動において人権に関する影響を特定、予防、対処するために企業が実施すべきことで、人権に関する方針策定、人権に与える影響の評価、取り組みなどについて情報開示を行うことです。

 

パネル・ディスカッション

パネル・ディスカッションでは、市民社会・ビジネス・政府の連携のモデルケースを、4名のパネリストがそれぞれの立場から発表しました。

SDG8.7について
市民社会・ビジネス・政府に加えて労働組合などさまざまステークホルダーから構成されたグローバルなパートナーシップAlliance 8.7による連携について

アヌーシェ・カーバーさんの発表アヌーシェ・カーバーさん
Alliance 8.7議長、ILOへのフランス政府代表、G7とG20労働雇用担当

新型コロナウイルス感染拡大のため、児童労働が減少から増加に転じるかもしれない現状について先ほど述べました。世界銀行の報告書によりますと、低所得国だけでなく中所得国においても、また農村地域だけでなく都市部の人びとも極度の貧困に陥ると予測しています。政策を実施しなければ、所得格差の拡大、社会階層の流動性の減少、将来の危機に備える能力の低下についても指摘しています。

Alliance 8.7は、少なくとも状況悪化を防ぐために、新型コロナウイルス感染拡大やロックダウンによって大きな影響を受けている国々が医療の提供や所得補償などが行えるように外部からの支援が受けられるようにしていきます。また、カイラシュさんが責任について話されましたが、Alliance 8.7では明確な基準を作って、各国が進捗状況を測れるようにしています。

最後に、G20においてフランス政府は、現在のコロナ禍では一時的な社会保障制度で対応されていますが、それを世界中できちんとした社会保障制度へと変えていくように主張しています。児童手当、所得補償、医療や教育へのアクセスなどを含めて、将来の危機への対応力を増すためです。

SDGs目標1「貧困をなくそう」のターゲット3は、社会保護制度と対策の実施です。これはSDG 8.7達成のための前提となります。C20には、G20のリーダーに対して、SDG 1.3とSDG 8.7への取り組みを要請していただきたいと思います。

 

ビジネス・政府の連携「バリ・プロセス」について

リサ・シンさんの発表リサ・シンさん
オーストラリアの市民社会組織、Walk Free Foundationアドボカシー担当、元オーストラリア連邦議会上院議員

Walk Free Foundation (WFF)は、現代奴隷に関するデータを収集、分析し、報告書「現代奴隷指標」をILOとIOM(国際移住機関)とともに発行しています。このデータによって現代奴隷の問題への理解を深め、現代奴隷をなくすためのアドボカシー活動へとつなげています。

2018年の現代奴隷指標では、世界の現代奴隷は4030万人で、地域別に見るとアジア・太平洋地域とアフリカが非常に多くなっています。また、各国政府の取り組みを被害者保護、サプライチェーンなど5つの指標で評価しており、SDG 8.7達成に向けて法整備やビジネスが取り組むことなどを促進する必要があると指摘しています。

このように政府と民間セクターが強制労働と人身取引に取り組まなければならないことから、「バリ・プロセス」を2017年に立ち上げました。インド・太平洋地域45か国における影響力があるビジネスリーダーと各国の大臣で構成されており、WFFが事務局を務めています。

バリ・プロセス」では、認識(Acknowledge)、行動(Act)、実施(Advance)という3つの「A」を枠組みとし、政府には法整備や政策強化、ビジネスにはエシカルな採用やサプライチェーンの透明化などの取り組みを勧めています。

新型コロナウイルス感染症は、子ども、女性、移住労働者など脆弱な人たちに大きな影響を与えています。政府もビジネスも医療へのアクセス確保、金銭的支援などを行う必要があります。SDG 8.7がG20のアジェンダとして話し合われ、市民社会・ビジネス・政府が連携して、現代奴隷や児童労働問題を解決していくことを求めます。

市民社会・政府の連携と市民社会・ビジネス・政府の連携について

ACE岩附の発表岩附由香
ACE代表、C20 日本 2019議長

ACEについて簡単に紹介した後、(1) G20に対するACEのアドボカシー活動として主催したSDG 8.7 ダイアログ、(2) ACEとビジネスが連携している取り組みとしてスマイル・ガーナ・プロジェクト、(3) ACEがイニシアティブをとって推進しているガーナ政府およびマルチステークホルダーによるチャイルドレーバー・フリー・ゾーン制度について発表しました。

(1) SDG 8.7 ダイアログ

G20では、2017年、2018年、2019年の首脳宣言、および2014年、2017年、2018年、2019年の労働雇用大臣宣言に児童労働撤廃へのコミットメントが示されました。そして、2020年サウジアラビアの労働雇用大臣宣言にも盛り込まれました。

昨年は日本でG20が開催されたことから、ACEは労働雇用大臣会合の準備を行う雇用作業部会の参加者である各国政府官僚を対象として、SDG 8.7 ダイアログを3回主催しました。このような市民社会組織と政府関係者との対話は他にあまり例がなく、2018年の労働雇用大臣宣言で児童労働、強制労働、人身取引、現代奴隷撤廃への戦略の1つとして示されていた政府と市民社会や民間セクターとの対話を体現するものでした。

SDG 8.7 ダイアログには、10か国・機関から延べ80人が参加しました。参加者からは、「このような機会はあまりないので、各国の取り組みについて知り、情報交換ができてよかった」「この活動を世界の他の市民社会組織に伝えて、次回以降のG20サミットでも行われるといい」と評価されました。また、G20の首脳宣言と労働雇用大臣宣言に引き続き、児童労働撤廃へのコミットメントが明記されたことから、SDG 8.7 Dialogueを開催した意義がありました。

3回のSDG 8.7 ダイアログから、政府のコミットメント、ビジネスによる取り組み、そして政府・ビジネス・市民社会組織による対話と連携が、実際に児童労働をなくすための実践にとって重要であるという結論にいたりました。(*4)

(2) スマイル・ガーナ・プロジェクト

ACEが2009年からガーナで実施しているスマイル・ガーナ・プロジェクトでは、現地で児童労働をなくす活動だけでなく、チョコレート関連企業との連携も行っています。現在では、プロジェクト地において児童労働を使用しないで生産したカカオを日本に輸入して作られたチョコレートが81種類も販売されています。なかには、森永製菓さんやパレドオールさんのように売り上げの一部をACEにご寄付いただくというモデルも構築しました。(*5)

(3) ガーナにおけるチャイルドレーバー・フリー・ゾーン制度
ガーナの国家行動計画においてチャイルドレーバー・フリー・ゾーン制度が推進されており、ACEがマルチステークホルダーの会議主催を支援するなどして、ガイドラインが2020年3月に策定されました。この取り組みについては、次にアンディさんから詳しくお話しいただきます。(*6)

(*4)SDG 8.7 Dialogueについては、こちらの活動報告もご覧ください。
G20大阪 首脳宣言に「児童労働撤廃」が盛り込まれました
G20 労働雇用大臣宣言にも「児童労働撤廃」が盛り込まれました

(*5)スマイル・ガーナ・プロジェクトについては、こちらをご覧ください。
カカオ生産地での支援活動「スマイル・ガーナ プロジェクト」

(*6)チャイルドレーバー・フリー・ゾーン制度については、こちらもご覧ください。
【ガーナ便り】「チャイルドレイバー・フリー・ゾーン設立のためのガイドライン文書」が、ついに発効となりました!

政府とマルチステークホルダーの連携について

タゴエさんの発表アンドリュー・アドチェ・タゴエさん
ガーナの農業労働者組合農村地域プログラム責任者、児童労働に反対するグローバルマーチ理事

ガーナはインフォーマル経済が占める割合が高く、農村地域のインフラが整備されておらず、同地域への投資も少なく、小規模農家は厳しい状況にあります。カカオ生産などで児童労働があり、これまでさまざまな対策をとってきましたが、根本的な原因の解決を試みてはいませんでした。

ガーナ政府は、国家行動計画で児童労働撤廃のためにチャイルドレーバー・フリー・ゾーン(CLFZ: Child Labour Free Zone)を打ち出しました。ガーナ政府雇用労働関係省、子どもを含む農村地域の人びと、労働組合、ILOなどが連携して、2020年に「ガーナにおけるCLFZ設立」というガイドラインを策定しました。これは、児童労働の定義、CLFZの要件、評価方法などをまとめたものです。

CLFZ制度のアプローチは、コミュニティがオーナーシップをもって児童労働をなくす活動を行うことです。村の長老会などの協力を得ながら、子ども委員会や住民のボランティアグループが中心となり、児童労働や人身取引に取り組みます。政府は児童労働の監視などを行い、労働組合は子どもが働かなくてもすむようにおとなの賃金について交渉をします。

このように、マルチステークホルダーによって作られたCLFZガイドラインをもとに、コミュニティではさまざまな人たちによって児童労働をなくす活動が行われています。今後は、ガーナだけでなく西アフリカへも展開していくことを考えています。

2019年の日本でのC20サミット開催に引き続き、今年も分科会開催という形でACEもC20に貢献できました。C20からG20への提言書「2020 Civil Society 20 Policy Pack」では、雇用と社会的保護、教育、ジェンダーの分野で児童労働撤廃への取り組みが要請されました。そして、労働雇用大臣宣言には4年連続で児童労働撤廃へのコミットメントが明記されました。この分科会で示した市民社会・ビジネス・政府の連携の重要性などは他の分科会の議論とともに、年内に開催予定のG20サミットでの首脳宣言に影響を与えることになります。

ACEはこれからもグローバルなレベルでのアドボカシー活動を展開していきます。引き続き、皆様の、ご支援・ご協力をよろしくお願いします。

スピーカーの略歴(英語)

カイラシュ・サティヤルティさんの写真

Mr. Kailash Satyarthi (India)
Nobel Peace Prize Laureate, Founder of the Kailash Satyarthi Children’s Foundation

photo of Ms Karvar

Ms. Anousheh Karvar (France)
Chair of Alliance 8.7, French Government representative to the International Labour Organisation and Senior Task Officer to the G7 and G20 Labour and Employment tracks

photo of Ms Singh

Ms. Lisa Singh (Australia)
Head of Government Advocacy, Walk Free Foundation

Photo of Mr Tagoe

Mr. Andrews Addoquaye Tagoe (Ghana)
Head of Rural Workers’ Organization Programme at the General Agricultural Workers Union of the Ghana Trades Union Congress, Board member of Global March against Child Labour

photo of Ms Iwatsuki

Ms. Yuka Iwatsuki (Japan)
President of Action against Child Exploitation

         

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2020.11.26