2023年10月31日
【岩附通信vol.33】 子どもの権利とACE
先日、「研修を受けていたらACEを発見!」と他団体の方が教えてくれたんですが、わたしたちNGOのACEではなくて、ある言葉の略でした。
Adverse Childhood Experience、逆境的小児期体験と日本語でいうらしいのですが、18歳未満の子ども時代に虐待を経験したり、機能不全な家族で困難な状況に置かれたことを指すそうです。その体験が本人が大人になってからも影響があるとのことで、アメリカを中心に研究が進み、対応が求められているそうです。
ACEという言葉は違う意味もありますし、略称としてもよくあるものです。そういえば、かつてかばんのACEの本社が台東区にあった時には年に数回は「鞄の修理お願いしたいんですけど」と同じく台東区にあったNGOであるACEに電話がかかってきたものでした(あちらが移転され、番号案内の方が間違えて私たちをご案内してしまうケースがなくなったようで、間違い電話はなくなりました)。
それはさておき、実はそれを知る前に、子どもの権利に関する大切なポイントを、ACEという形でまとめられないか、と考えていたことがありました。せっかくならACEというキーワードを子どもの権利でもポジティブな文脈でも思い出してもらえたらいいなという気持ちも少しあります。最近また再度それについて考えてみたので、今日はそれを少しご紹介したいと思います。
A – Awareness(気づき・自覚) & Assertion(肯定的に、ありのままで見る)-
ひとつめのAは、おとな側の気づきの重要性と、子どもと接する時の態度に関することです。私たちは自分たちがどう周りの人に見えているか、について、時に無自覚です。例えば3歳ぐらいの子どもから見れば、48歳のおばさんである私は自分より背が何倍も高く、太っていて威圧感があり、脅威に見えるかもしれません(どんなに微笑んでいたとしても)。
ACEという組織の中でも、創設メンバーである私の発言は、自分が思っている以上にスタッフにとって重く受け止められることがあるかもしれません。そうした自分の見え方、自分の影響力に自覚的であること、は子どもたちと向き合う上でも大切な気がします。
また、判断をせず、ありのままのその人を見る、ということも、大切な要素だと思われます。例えば昭和の時代は、茶髪=不良でした。まだ昭和だったころ中学生だった私は実は髪の毛を脱色していた時期がありまして、駅のホームで空き缶が目の前に転がってきて、それをポーンと蹴ったら線路に落ちてしまったんですが、そのとき見知らぬおじさんから「学校で何を教えてるんだ!」っと、大きな声で怒鳴られました。この一件はそもそも缶を蹴った私が良くなかったのはそうなのですが、私が明らかな茶髪じゃなかったら、おじさんはあんな風に怒鳴らなかったかもしれません。未だに京王線のホームで起きたこのちょっとした事件を覚えているのは、そこに理不尽さを感じたからなのだと思います。とても難しいことですが、「あの子は○○だから」「○○に違いない」という先入観を横において、目の前のその子をありのままに見る、受け止める、ということが大切なんじゃないかと思います。
C – Communicate(情報共有・伝える) & Consent(同意)-
2023年4月に施行されたこども基本法では、自治体レベルでこどもに関する施策を決定する際に子どもの意見を聴くメカニズムを持つよう自治体に義務付けています。子どもの意見を聴く前に重要なのは、子どもが意見をいえるだけの十分な情報が共有されているか、です。しかもそれが子どもの年齢や発達に応じてわかるように共有できているか?ということになります。ACEが事務局を務める「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」で政策提言書を作った際も、「子ども版」を別途作成しましたが、そうした工夫が必要になってきます。
幼い子どもの子育ての際のテクニックのような形でよく言われるのが「子どもに選ばせる」です。特に自我が芽生えて自分で何でもやりたい、決めたい、というような段階にきた2、3歳の子に「AとBどっちが良い?」と選択肢を提示して選んでもらうことで、子どもも自分が決めたと納得できる、というものなのですが、これには落とし穴があります。おとなは自分の都合で、本当はCというオプションもあるのに、それを出さずに「AとBしかない、さあどっち?」と提示し、あたかも子どもが全てのオプションから自分で選んだかのように感じさせることができるのです。会議の議題設定をアジェンダセッティングといいますが、意思決定は実はこのアジェンダセッティングから始まっています。子どもが参加し、意見を言うには、意見を表明するための前準備としての情報の入手、そして意見表明できるスペースと適切な方法(あるいはその方法自体から一緒に決めるか)が必要です。
もうひとつは「同意」です。私の子どもたちが通っていたインドのインターナショナルスクールでは子どもの保護ポリシーがあり、先生たちはむやみに子どもたちの体に触ることは奨励されていません。ただし、特に低学年の子どもたちは子どもからハグを求めてきたり、手をつないだりすることが必要な時もあります。子どもたちから来るものは拒まないし、こちらからするときは「ハグしていい?」と聞けばいいわけです。
子どもたちを手伝うときも、同様です。「大人のよかれは、子どもの迷惑」と、川崎で「子ども夢パーク」をずっと運営してきた西野さんがある場所で言っていましたが、私にもたくさん心当たりがあります。先回りして失敗しないようにとか、子どもがこっちのほうがいいと思うんじゃないかとか、そのほうが効率的とかで、いろいろ考えてついつい口を出してしまうのですが、あとから「黙って見守っていればよかったな」と思うことが度々あります・・・。
先走らず、何かを子どものためにするとき、一緒にしたいときは子どもからの同意をとって行うこと、子どもの結論を尊重し、結論が出るまで待つことは、子どもと接する際、割と重要なことだと思います(自分の子どもに対してできていない自覚も込めて、ですが・・・)。
E – Empathy(共感) & Empowerment(エンパワメント)-
エンパシーという言葉、耳なじみがありますでしょうか?日本語だと「共感」と訳されますが、プレイディーみかこさんの著書『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』の中で、お子さんがシチズンシップ教育の授業で、エンパシーや子どもの権利について学んだ、という記述が出てきます。(検索したらその箇所が読めるようでした:
https://www.shinchosha.co.jp/ywbg/ywbg1/chapter5.html )そうかイギリスでは公教育でエンパシー(+子どもの権利)についてこんな風に学ぶのか、いいなぁ、日本は果して・・・?と思ったのでよく覚えているのですが、違いを乗り越えて共感できる能力、とても重要だと思います。
共感的に話を聴いてもらった経験、ありますでしょうか?ACEではNVC(非暴力コミュニケーション、または共感的コミュニケーションともいう)を組織として研修で学んできていたり、事業でも沖縄での事業で今取り入れてたりすることもあり、割とお互いに共感的に聴き合うことに慣れている組織だと思います。逆に私が辛いなーと感じるコミュニケーションは「それはこうすべき」等の判断で返されるときです。そういう人には、話したくなくなってしまいます。子どももそうではないでしょうか。といいつつ、おとなとしては、つい無自覚に子どもにそれをやってしまっている可能性が大なので、これも気を付けたいポイントです。
エンパワメントのイメージは、力を与えるというものではなく、元々持っていた力が発揮されるイメージです。これは子どもだけではなくおとなもいえることですが、その人が持っている力が100%発揮できることって、むしろ稀で、様々な阻害要因や、恐れがあって、自分の力を発揮したり表現することができない場合ばあります。
「子どものくせに」とか、あるいは「子どもなのにすごいね」とか、子どもを自分たちより力のない存在という前提でのコミュニケーションをしてしまいがちですが、それは子ども差別ともいえます。子どもたちを1人の人として尊重する声かけが出来るかどうか、子どもたちの自信や自己肯定感が損なわれない場づくりが出来るかどうか、エンパワメントできる環境を整えられるかどうかは、おとな側にかかっています。
ということで、長くなってしまいましたが、子どもの権利と「ACE」まとめてみました。
いかがだったでしょうか?
まだ暑い日が続きますが、季節は秋。様々なイベントシーズンでもあります。
10月7日はACEフェス!スタッフ一同で皆様をお待ちしております。会場の都合で事前登録が必須、当日参加は不可なため、少しでも参加できるかも?という方は10月3日までに以下フォームよりお申込みください!
ACEフェス_300
ACEフェス: https://ace-event-20231007.peatix.com/
参加できる!という方は上記Peatixの申込みページから(お申込みの際に参加費の決済が必要です)。
Peatixでのお申込みが難しい方、まだ参加できるか分からない方は下記ACEのウェブサイトからお申込みください。
ACEウェブサイトでの申込みはこちら: https://acejapan.org/form20231007
(ACEウェブサイトからのお申込みの場合、参加費のお支払いは当日受付にて承ります。)
また、11月11日はHAPIC(ハピック)という国際協力NGOセンター主催のカンファレンスが開かれます(私はこの組織の副理事長も務めております)。ACEも1セッション企画をまかされ、カカオの児童労働に関するコレクティブインパクトについて白木が中心となってお話する予定ですし、私もその他のセッションに登壇します。ご関心あればぜひ、超早割が10月4日までですので、お申込みください;
HAPIC:https://hapiconf.com/
カカオセクターにおけるコレクティブ・インパクトへの挑戦https://hapiconf.com/programs/session/2151/
『インパクト』をどう捉えるか-社会価値と企業価値の両立を目指してーhttps://hapiconf.com/programs/session/2223/
お目にかかれること楽しみにしております。
2023年9月 ACE代表 岩附由香
※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。