岩附通信 | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

児童労働のない未来へ-NPO 法人ACE代表 岩附由香のブログ

岩附通信

2025年2月28日

【岩附通信vol.48】あきらめないけど、こだわらない

1月ってあっという間に過ぎますよね。
新年最初の1か月、みなさまいかが過ごされましたでしょうか。

個人的な話になりますが、娘の中学受験が山場を迎えておりましたところ、
おかげさまで無事決着し、控えていた出張と飲み会もこれでやっと解禁!
・・・ということで早速今年初の沖縄出張に行ってまいりました。

今回は沖縄県うるま市で地元社会福祉協議会さんが主催される「こども未来フェスタ」の中で
一番大きい会議室を借り切ってのイベント主催でした。
ラジオ番組風に、ユースサポーターのメンバーがMCをつとめてトークセッションを繰り広げつつ、
同じ部屋でカフェ風にコーヒーや鳥めしを提供、
子どもの権利すごろくやかるたの体験コーナーや、
NVC(=共感的コミュニケーション)を体験できる「しほの部屋」(ACEスタッフ坂口志保(しほ)が担当)のコーナーがあるなどのイベントです。

このイベントは「子どもの声を行政に届ける」という意図ではじめた一連のプログラムの最後のものとして位置づけられているのですが、
当初想定していたのは「行政の人に意見書を出しておいて、それに対して行政から子どもたちに報告をもらう」というような場でした。

実際ぜんぜん違うものになったのですが、
振り返って「当初の案にこだわらなくてよかったな」と思ったので、
その実感を今号の岩附通信のタイトルにさせていただいています。

こども基本法には、自治体は子どもの意見をこども施策に反映させることを「義務」としています。
ただ実際にこれまでやってこなかったそのような取り組みを急に行政としてやりだすのも難しいだろうといことで、
民間で試しにやってみて、行政の方に参加してもらおう、というのが今回の趣旨でした。

ステップ1は行政の方々への研修、ステップ2は対話の場、ステップ3は報告の
3つのステップを想定していました。

今回の事業はうるま市、および教育委員会からも後援をいただき実施させていただいていましたが、
いざはじめてみると、行政の方にとって、「課を背負って参加するのは難しい」という声があがりました。
そうした声を受けて、軌道修正しながら、より対話的な、
そしてこどもや若者と同じように行政の方にも参加者として参加してもらいながら、
どちらか一方が意見を出して答えるではなく、みんなで一緒に考える、というような手法を
「うまんちゅしゃべり場」としてステップ2で開催しました。
ここで出たアイディアをまとめて冊子にし、今回のステップ3でも配布することとしました。

ステップ3の企画をパートナー団体のURUFULLのスタッフや、若者たちと考える中で、
一方的に話をするんじゃなくてラジオ風にトーク番組のように話して
それを聞いてもらえたらいいね、という案が自然と出てきて、
MCもじゃあ若者メンバーに務めてもらおう!となり、
MCを務めるメンバーが台本も考えてくれました。

こういうイベントを話し合っているとき、いろんなアイディアが出てきて、いいね!と楽しみながら出来たことが、
おもしろい企画に繋がったのではないかなとも思います。

また、ご縁あって、このラジオ風トークをほんとにラジオで流してもらえることになりました。
以前活動を一緒にしていた方(当時高校生)がFMうるまの取締役をされていることに気づき
相談したところ、やりましょう!とふたつ返事で生放送が実現しました。

ただトークをしていても、なかなか関係者以外聞きに来てもらえないので、
鳥飯やコーヒーの提供、福引きなど、このあたりの楽しい仕掛けは
URUFULLさんが普段から現場をお持ちならではの巻き込み力で実施してくれました。

私が壇上から見ていて、熱心に聞いてくれているなぁという大人の方が何名かいたのですが、
後からそれがうるま市行政の子ども関連の部長・局長級の方々だったことがわかり、
結果的に行政の方にもしっかりインプットができて、もともとの意図も達成され、
なんだか本当に結果オーライなイベントにもなりました。
もちろんこちらも事前に担当者の方に開催案内を送るなどしていたのですが、
局内で回覧してくれていたらしく、それが功を奏したのではないかと思います。

今回つくづく思ったのは、こだわりすぎなくてよかった、ということです。

当初の企画をゴリ押ししたら上手くいってなかったでしょう。
でも意図は持ちつづけ、子どもたちの声を反映した冊子を作り、形にしたことで、
より広く多くの方に手元に残る形で伝えることができました。

もともと予定されていたイベント中でやらせていただいたことが集客にも寄与し、
いただいた機会を活かしてみんなでアイディアを出し合いながら進められ、
若者たちが発表や進行を経験する参加の機会にもなったなと思います。

そして、うるま市の関係局からも「職員の研修をしてもらいたい」との依頼をいただいており、
行政の方々からそのようなお申し出を頂けるようになったことも、
一連の協働で価値を感じていただけたひとつの成果かなと感じています。

あきらめないけど、こだわらない。
意図は持ちつづけながら、柔軟に戦略を変えて機会を捉えて活かす、
そんなことが出来たのかなぁ、と思った沖縄のイベントでした。

寒いような、寒くないような1月が終わりますが、
みなさま引き続きウィルス的な流行りものにはのらないよう気をつけていただきつつ、
お元気に過ごされますようにお祈りしております。

そして継続的なご支援をいただけますこと、心より御礼申し上げます。
実はACEは認定NPOの資格の更新時期を迎えております。
認定NPOとしての更新に係る様々な質問や資料の確認が無事終わり、
諸所整えなくてはならないことがないわけではないものの、
認定NPOの要件であるパブリックサポートテスト(3000円以上のご寄付を頂く方が毎年100人以上、などの条件があります)はおかげさまでクリアしており、
多くの方に毎年支えていただいていることで、ACEが認定NPO法人で居続けられております。
本当にありがとうございます。

お手元にご寄付の領収書が届いている頃かと思います。
何かお気づきの点がございましたらご連絡ください。

現場からは以上です!今年もどうぞよろしくお願いします。

2025年1月31日 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2025年1月31日

【岩附通信vol.48】表彰したり贈呈されたりの一週間

メリー・クリスマス!
そして今年も1年間、ご支援をいただきましてありがとうございました。
いろいろありますが、こうして年末を無事元気に迎えられることをありがたく感じます。
インフルエンザなどの猛威にダウンしている方々の話をよく耳にしますが、
みなさまにおかれましては健やかに年末年始をお迎えられるようお祈りしています。

今年1年を振り返って何か書ければ・・・とパソコンに向き合ったらなぜか出来ていないことや後悔ばかりが浮かんでしまったため、
それはちょっと横においておくことにし(苦笑)、今日は直近の1週間にあったことを中心に書かせていただこうと思います。

ACEは普段、スタッフが完全リモートで各自家から仕事をしています。
そのため、ミーティングなど組織内でのやりとりはオンライン会議がほとんど。
ご支援先をお訪ねしたり、海外出張に一緒に行ったり、対面のプロジェクト単位での会議などもあり一部のスタッフはよく会っていますが、
なかなか全員が対面で揃うことが難しいのが現状です。
特に海外在住のスタッフにおいては、採用してからリアルでスタッフに会ったことがほぼないという方が1人いたため、
彼女の年末の帰国タイミングに合わせて全員研修を企画しました。

せっかく皆が集まる機会でもあったので、冒頭は永年勤続表彰を行うことにしました。
コロナ禍でうっかり表彰を忘れてしまった12年目のスタッフ1人、10年のスタッフ3人、
そして2005年に初めて正職員となった白木が勤続20年ということで表彰しました。

ひとつの組織にこうして長く勤めてもらえるのは、雇用主としては本当にありがたいことです。
特に12年目、10年目のスタッフは組織的にも難しい荒波をそれぞれのやり方で乗り越えてきてくれた感があり、
共によくがんばったね!という感覚があります。

そして今回、勤続1年を超えたスタッフ2人にも「サバイバル賞」を表彰しました。
せっかく印刷した迷彩柄の表彰状を私が家に忘れるというハプニングがありましたが(IPAD画面に映して表彰はしました)、
新しい(ちょっと変わった)組織形態、新しい事業や仕事で、1年目が一番大変だと思います。
そこをサバイブしてきたことを称えるための「サバイバル賞」、これだけ聞くとどんなシビアな仕事場なんだと思われるかもしれませんが(苦笑)、
組織形態が特殊なので慣れるまでが大変という意味でのサバイバルです。
また次のタイミングで1年を迎えるスタッフも表彰できたらなと思っています。

この日は午前中は外部講師を招いて研修を受講しました。
昨年クラウドファンディングでご支援をいただき、今年そのリターンでガーナの現地ツアーに一緒に行かせていただいた方が
人事コンサルタントをされているということでご紹介いただいた本に感銘をうけ、
ぜひACEのスタッフにも共有したいと思って企画した研修です。
短い時間でしたが、「外向き思考」についてスタッフ間の共通言語ができました。
内向き思考になってしまうことを「箱に入る」という表現をするのですが、
この日の忘年会の二次会でも「箱」の話で盛り上がったようです。

午後は、OSP(Open Space Technology)という手法を用い、
その場で話したい内容を提案し、それを再編しながらグループで話し合いをするという時間を持ちました。
ACEが運用しているホラクラシーや目指している自己組織化に関するトピックや、
児童労働の撤廃目標年が来年であることに関する話題、
多岐に渡るようになってきたACEの事業をどう表すのが良いかという広報面でのトピック、
また「(自分が関わっている以外の)他の事業のことを知りたい」というニーズなど、いろいろなものがあがり、
それぞれが本音で語る、雑談とディスカッションの間のような会話が交わされていきます。
こうした会話もなかなかオンラインで決まったメンバー、時間、トピックの会議だと出来ないことなので、トライしてみてよかった、と思いました。

その全体研修の次の日、12月19日には、デロイト トーマツ ウェルビーイング財団の助成贈呈式に参加しました。
この助成金は3年連続でいただいており、3年が上限のため、今年で最後となります。
当日は、同じく助成先に決まった団体それぞれが10分程度でプレゼンを行い、
子どもに関わる活動も多くプレゼンも皆さん本当に上手なので、興味深く聞きつつ、自分たちの順番を待ちました。

今回、沖縄で共にプロジェクトを運営しているURUFULLさんからスタッフ1名、またユースサポーター1名が来てくださっていて、
プレゼンは3人で役割分担しながら主にこれまでの成果をお話させていただきました。
うるま市の活動のキャラクターも描いてくれたユースメンバーだったので、そのキャラクターの由来や、
おとなとの対話に参加してみてどうだったか、等を発表してもらいました。
なかなか緊張する場面だったと思いますが(足が震えていたと言っていました)、
沖縄でのプロジェクトを通じて出会ったユースメンバーがこうして贈呈式に参加させてもらい、
新しい経験を積みながら世界を広げていってくれるのは嬉しいことです。

帰りは東京駅に寄って写真を撮って、次の日は贈呈式で出会った他団体さんをお訪ねさせてもらい、
短いですが充実した初めての東京滞在になったのではないかと思っています。
そして、沖縄の活動の展開をこれまで支えていただいたデロイト トーマツ ウェルビーイング財団の皆さんには本当に感謝で、
私も今年8回沖縄に行かせていただきましたが、沖縄での子どもの権利普及の活動を推進する大きな力を今年もいただけたことに勇気をいただいています。

と先週1週間はいろいろあったのですが、実はその週のはじまりの日曜日には、とある方の告別式に参列していました。
まだこのうまんちゅプロジェクトをはじめる前に、沖縄で子どもの貧困と児童労働をテーマに円卓会議を開催していただいたのですが、
そこに登壇していただいていた打越正行さんが45歳という若さでお亡くなりになったのです。
参与観察という手法で、ご自身が沖縄でヤンキーのパシりになりながら研究を行い、「ヤンキーと地元」を出版されていました。
告別式には、打越先生がこれまで教えられてきたのであろう、若い方々が本当にたくさん参列されていて、
とても多くの方々に愛され慕われていたことを改めて感じながら、あまりにも早いお別れに悲しくなりました。

生きてるだけで丸もうけ、とはさんまさんの言葉らしいのですが、
能登の震災や飛行機の事故からはじまった1年、それを実感する場面が個人的にも多くあった1年でした。
海外では紛争や変化する社会情勢の中で厳しい状況に置かれる子どもたちも多く、ガーナではカカオ危機が広がり、
アメリカではトランプさんが次期大統領となり、これからいろいろな前提が覆されるであろう不安も正直あります。
そんな中でも、生かされていることに感謝しながら、自分に任されている役割を、
多分きっといろいろ取りこぼしてしまいつつも、全うするよう努力を重ねていきたいと思っています。

みなさまにおかれましても、良いお年をお迎えください。
この1年、ACEへのご支援・ご協力、またこの岩附通信もお読みいただき、ありがとうございました!

2024年12月25日 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2024年12月31日

【岩附通信vol.47】「ISO」という新しい世界

11月も終わり、いよいよ師走に突入です。
この岩附通信はACEの会員・サポーターのみなさまに送らせていただいていますが、そのお一人である谷川俊太郎さんが亡くなられました。
心より、ご冥福をお祈りいたします。

これまでのご支援の感謝を、もっとお伝えしておけばよかった・・・というのが心残りですが、
谷川さんがACEのために書き下ろしてくださった詩「そのこ」とともに、
ご縁に感謝しながら、これからも私たちができることを問い続けていきたいと思っています。

「そのこ」の詩は動画でも見られますので、
このメールを受信いただいている方でご覧になったことがない方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧ください。
(2分と短い動画ですが、児童労働の抱えるエッセンスがぎゅっと詰まっています。)
YouTube|谷川俊太郎「そのこ」~児童労働のない未来へ~

……………………
さて、今月は最近はじめた新しい取り組みについてご紹介させてください。
11月初めに中国に出張に行ってきました。
深圳(シンセン)というITで有名な街で、ひとつ橋を越えたら香港という立地です。
今回の出張の目的はISO(国際標準化機構)の会議に、エキスパートとして参加させていただくというものでした。

ISOといえば、モノの規格やマネジメントシステム規格のイメージが強い方が多いと思います。
私もそうでしたが、以前2010年に発行したISO26000という社会的責任に関するガイダンス文書を作る過程に、
NPOからも委員として関わっておられた方々がいらっしゃって、その話を聞いていたので、
こうした社会的な部分についても取り扱うことがあるのだなぁという認識はしていました。

ISOは世界172カ国にメンバーをもつ非政府組織で、日本では日本規格協会がそのメンバーとなっています。
今回日本規格協会から「新しい国内委員会を作るので、市民社会側からも委員を出してほしい」という要請があり、
ACEが加盟しているビジネスと人権市民社会プラットフォームにも相談がありました。
お話を聞いてみると、今回新たに設置される「人権関連規格検討委員会」で主に取り扱う新しい規格が、
現代奴隷(強制労働、人身取引等。児童労働も一部含まれる)に関するものだということでした。
児童労働の撤廃に向けて、こうした規格ができればその一助となるかもしれないとの想いから、
手を上げて今年から議論に参加させていただきました。

この検討委員会は経済産業省、労働界、経済界(企業の方々も)、消費者代表や研究者の方、弁護士の方々など様々な方々によって構成されています。
ISOの開発プロセスは手順が決まっており、既に作成されている草案を元に、
議論をしたりコメントを出す、という委員会に出席する以外の時間もかなり必要とされるものでした。
私としては、児童労働がきちんと位置づけられることを意図して発言したりコメントを書いたりしていたのですが、そうして議論に参加している中で、
「11月に深圳で会議があるので、ISO/TC 309/WG 10エキスパートとして、日本を代表して会議に出ませんか?」
とのお誘いをいただき、この委員会での日本代表/専門家として参加させていただくことになりました。

今回はISO/TC 309の総会ということで、今回私が参加させていただいた総会の初日は、
他のワーキンググループの内容を知る事もできました。
大変興味深かったのは、組織のパーパスに関する規格も現在検討をしているということです。
企業が利益追求ではないパーパスを掲げることで、真にサステイナブルな活動ができるようになる、
という現代社会の国際的な課題に対しての企業の貢献をより促せるものになる気がしました。
昨年ACEもパーパスを新しくしましたが、ISOでもパーパスの議論があるとは!と驚きました。

私が参加しているワーキンググープは、組織のガバナンスをテーマとしているTC309の傘下にあるのですが、
同じ傘下にあるワーキングループの中には、ダイバーシティや、女性に対する暴力についての新しい規格を検討しているグループもあります。
どうやらそうしたそれぞれのテーマは提案国にすでに国内規格があり、
そうした国内規格をベースにISOでも国際化していこうとしているようです。
確かに、現代奴隷の提案も英国からで、英国には現代奴隷法があり、イギリスの国内規格もあるので、
なるほどこうして国の政策がISOにまで及んでいるのだな、ということを感じる次第です。
こうした規格は企業だけでなく、あらゆる組織が適用できるように作られているため、
政府やNPO等でも活用できるものになるはずです。
こうしたISO文書は通常は有料で、利用するには購入が必要ですが、
英国の現代奴隷に関する規格は無料で公表されているそうで、
その趣旨などによってはそうした誰でも参照できるような文書として公開されることもあるそうです。

世界の人権に関する認識の高まりがこうしたISOという場にも反映されていること、
そしてここで議論されていることが、まだまだ日本ではこれからな部分もあるかもしれないことを感じた中国出張でした。
世界各国の関心事が凝縮されたISOという新しい世界に触れる貴重な機会をいただいたことに感謝しています。
実は現代奴隷のワーキンググループの議論は現地では終わらず、オンラインで12月まで会議は続きます。
児童労働についても詳しい説明などを提案していますが、
これからこの文書はISOの決められた手順を経て、最終化されていきます。
まだこれからのプロセスで変更が生じることも大いにあり、どうなっていくかわかりませんが、
こうした国際的な文書にもきちんと児童労働が位置づけられるよう、働きかけていきたいと思います。

2024年11月30日 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2024年11月30日

【岩附通信vol.46】型にはめられるのが嫌なんです

10月のカレンダーをめくるタイミングがもう来てしまったことに驚きを隠せない岩附ですが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
ご支援・ご協力をいつもありがとうございます。

10月初めに、沖縄県に出張に行ってきました。
今年1月から通算8回目の沖縄出張の目的は、「沖縄うまんちゅ子どもの権利推進プロジェクト」のイベントです。
こどもとおとなが対話する場として「うまんちゅしゃべり場」を企画し実施したのと、主に支援者向けの研修を那覇で行ってきました。

しゃべり場では、「うるま市が日本で子どものウェルビーイングランキング1位を獲得したとしたら、どんな感じだと思う?」というところから、
こんな風になったらいいな、というアイディアを出し、それに対してできるアクションを考えてもらう、というワークショップをやりました。

その中から、小学生の参加メンバーから出てきたアイディアが「ほんとうの100円ショップ」。
最近、100円ショップって200円とか300円のものが売っていたりもしますよね。
そうじゃなくって本当に全部100円という100円ショップがあったらいいのに!
というアイディアが出まして、いいね!という参加者からの声もあり、「11月の福祉まつりで実現しよう!」という運びになったそうです。
みんなで売ってもいいものを持ち寄って、100円で売る、ということのようなのですが、
そういう子どもたちから出てきたアイディアが実現化していくのを見るのはとても楽しいです。

10月は講演の機会が割と多く、母校の上智大学でも毎年この時期に講演をしています。
「市民による国際協力」という輪講(毎回講師が変わる)授業で、児童労働や子どもの権利にACEがどう取り組んでいるかという話をしています。

今回は講義が終わった後質問に来てくれた子から「すごく共感しました!」という声をもらい、どの部分かな、と聞いてみたら、
なんと私が入学した直後に大学がつまらなく感じて脱出するために交換留学に応募した、というところの「学校がつまらない」という部分でした(苦笑)。

期待が大きすぎたり、授業が思っていたものと違ったり、人それぞれつまらない理由も違うと思いますが、私はいま思えば学科の選択ミスだったなと思います。
でもそれでマイアミ大学に留学して、その帰りにメキシコに寄ったことで児童労働の場面と出会うわけですから、今思うとそれも必然だったのかもしれません。
実際は留学にいざいこうとなった2年生ではもう大学が楽しくなっていたのですから、本当に何がどう転ぶかわからないですよね。

そして10月24日発売のForbesで、今注目のNPOを50選ぶという企画があり、こちらにACEも選んでいただきました!
買おうとしたら1200円もしたので雑誌っていまこんなに高いの!と驚愕したわけですが、「選ばれてたね、おめでとう!」って会った方には言われたりするのと同時に、
この特集についてNPO仲間のSNSを見ているといろんな反応があり、それについて考えた結論が今回のタイトル「型にはめられるのが嫌なんです」になります。

極めて個人的な話になりますが、今でも思い出す体験があります。
通訳の学校に通っていた時のことです。
当時通っていた学校の先生とそりがあわず、その先生がいろんなことを決めつけて発言するのが気になっていました。
そんな中、「岩附さんはまじめなんですね!」と決めつけられたのがとても嫌で「まじめではありません!」と切れ気味に返した、という出来事です。
雰囲気を悪くしてごめんなさい・・とも、なんであんなに反応してしまったんだろう?とも思うわけですが、
どうやら私は「あなたはこういう人だ」と決めつけられるとそれに抗いたくなってしまうという性質があるようです。

NPOも、「非営利の活動をしている」というくくりでまとめられ、型にはめられがちな気がしています。
でも、最近思うのは、いろんなカタチがあっていいと思うのです。
NPOだからこうしなくちゃいけないとか、こうあるべきだ、という議論を押しつけられると、とても窮屈に感じてしまいます。
今回のForbesの特集も、「こういう特集に選ばれたりするのは東京のキラキラ団体ばかり」というコメントを見たりすると、
「キラキラってなに?!」っとそのくくり方や、あてはめられる事に、抵抗を感じてしまったりします。

と書いておいてなんですが、じゃあNPOだからなんでもいいのかといわれると、それもまた違う、と感じるのも事実です。
何が大事かといわれると、ACEの場合はそれが「ACE’s WAY 」に表されているように思っています。
起きている物事をシステムとして見ること、対話を重視すること、そして、権利ベース・アプローチ。
「人権」がACEの活動の根幹にはある、あってほしい、という感覚が自分に強くあるのと、
透明性とか民主主義とか公平性といったようなものも、物事や意思決定を行うときに気にかかる部分だなぁと感じます。
団体がどのような成果を出しているかだけでなく、そのあり方やプロセスも、自分にとっては大事なNPOの活動の一部なんだろうな、と思います。

民主主義といえば、衆議院選挙が終わりました。
みなさんは投票に行かれましたか?個人的にはこども基本法の策定過程で大変お世話になった議員さんが落選してしまうなど、残念な結果もありましたが、
国の政策を決定する場にいる国会議員の多様性が高まることは、良い傾向なのではないかと思っています。

これから政治の場でもいろんな議論が行われていくと思いますが「政治家だから」「○○党だから」と型にはめず、
ACEの提言内容に理解を示してくださる方を増やしていけるよう、努力していきたいと思います。

2024年10月31日 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2024年10月31日

【岩附通信vol.45】国連未来サミットに参加してきました!

9月も終わりを迎え、今年が残りあと3か月しかないなんて信じられないと思っている岩附ですがみなさんはいかがお過ごしでしょうか。
ご支援・ご協力をいつもありがとうございます。

2024年9月22日、23日にニューヨークの国連本部で開催された国連未来サミット(Summit of the Future)に参加してきました。
参加、といっても、今回は傍聴するのみ。
基本的にこの2日間は国連加盟政府が中心となる会議で、この前の9月20日、21日がAction Daysと位置付けられ、今回のサミットの内容と関連する様々なイベントが国連本部内で開催され、そちらにも参加してきました。

実は、ACEは国連の経済社会理事会(ECOSOC、エコソックと呼んでいます)の協議資格を持っています。
特殊諮問資格(Special Consultative Status)というもので、市民社会組織として国連の会議への参加、議論への参加が許される資格です。
国連本部に常日頃からアクセスできるグラウンド・パスも申請すればもらえるのですが、ニューヨークに拠点もなく、こうした特別な会議の際に年に1回行くか行かないかのため物理的にアクセスすることは少ないのですが、国連事務局から様々な案内がメールで来ます。
そうした案内に応募して、昨年はオンラインで2023年のSDGsサミットの成果文書へのインプットを行う貴重な機会を得ました。https://acejapan.org/info/2023/06/349400

昨年9月の国連SDGsサミットは市民社会組織が会議場内に入ることがほとんど許されなかったそうなのですが、今年のSummit for the Futureは、可能な限り市民社会組織にも開こうという努力が随所にみられました。
ECOSOC協議資格の有無にかかわらず、事前登録・応募をしたら参加できる形になっていたり、各セッションでの発言の機会について、発言したいリクエストを出すことができたりしました。
私も申請はしたのですが狭き門で得られず。
私が副理事長を務める国際協力NGOセンター(JANIC)が会議直前に発言権を得られたのですが、残念ながら会議が時間切れとなって、その場での発言の機会が得られず、書面で発言内容が残るということになりました。

この未来サミットが開かれた背景には、2020年の国連創設75周年にあたり、コロナ・ウィルスのパンデミック等、あらたなリスクや脅威に対応するためのグローバルな協力への提言や、未来を見据えたサミットを2024年に開催する提案を盛り込んだ事務総長報告書「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」がありました。
この報告書をふまえて、未来サミットの主な議題は、持続可能な開発と資金調達、平和と安全、すべての人々のためのデジタルの未来、若者と将来世代、グローバル・ガバナンスとなっていました。

国連は大きな課題いま直面しています。安全保障理事会の常任理事国であるロシアが他国の侵略を行っているという現状、そしてパレスチナも含めて戦争が起きてしまっている現実、さらには、気候変動やデジタルAIといった新しいチャレンジ・可能性を秘めたものまでを含め、そうした新しい課題についてより積極的な取り組みができるよう、まとめられた文書が「未来のための協定書」です。
付属文書として「グローバル・デジタル・コンパクト」および「将来世代に関する宣言」も採択されました。

こうした国連文書に、児童労働に関する記述がちゃんと記載されるかどうかが、私たちACEの関心事項です。
結果的に、「強制労働を根絶し、現代の奴隷制と人身売買、特に女性と子どもの人身売買を終わらせ、あらゆる形態の児童労働を撤廃するために、国際的、地域的、国内的な取り組みを強化する」という文言が入ったので、世界の課題として児童労働がきちんと認識され続けていることが確認できました。

今回この「未来のための協定」を読む中で、今まで国連の文書では見たことがあまりなかった気がするなと思った文言があります。
”Turbocharge”(ターボチャージ)と言う言葉です。このターボチャージと言う言葉はケンブリッジ英英辞典で調べると「何かを通常より速い速度で成長させたり、増加させたり、何かをより効果的にすること」とのこと。
これまで滞ってきてしまったものを一気に加速させるとか、エネルギーを蓄えてさらに進めるといったような意味が込められていますが、まさにSDGsのターゲットの15%しか順調に推移しておらず、残りが期限までにほぼ達成困難と言われている中、そして平和と安全に関する課題についても、そして必要な資金を動員し、多国間の協力を強化することが必要になってきています。

児童労働の撤廃に向けての努力も、まさにTurbochargeが必要な現状です。
様々な関係者の力を引き出していけるよう、グローバルレベルでのアドボカシーになお一層力を入れていきたい、と感じた国連総会となりました。

2024年9月30日 ACE代表岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2024年9月30日

【岩附通信vol.44】生徒Aと呼ばなければならない痛ましさとそれを生むシステムについて

これを書いている夏の終わり8月最後に大きな台風がやってきています。みなさまどうぞご安全に。
そしてACEの年度は9月はじまり8月終わりなので、ACE的には年度末です。
1年間の活動をこうして無事終了できるのも、いつもみなさまに支えていただいているからです。
ACEへのご支援、ありがとうございます!

さて、2月から毎月通った沖縄出張も8月で一区切り。
今月は親子向けの子どもの権利ワークショップ、また学童でNVC(共感的コミュニケーション)をベースにしたダイアローグ・カードを使ったワークショップをやらせてもらいました。
それぞれに新しい手法を試し、組み合わせて作り上げたものを実施するのは楽しくもあり大変でもありましたが、良いフィードバックを聞くとやってよかったな、と思います。

そして学童では、いよいよ来週から学校がはじまる!どんな気分?と感情をきいたら、感情カードの「嫌い」「やる気が出ない」などが大人気!で子どもたちの不満がぶわっと吹き出したのも印象的でした。
何がいや?ときくと、「宿題がやだ」「叱られるからやだ」「理不尽」など。
そんな表明をしつつ、最近あったことを聞き出してそれぞれの子どもたちが大切にしたいニーズのカードを選び、それをプレゼント型にかわいく折った折り紙に書いてもらいました。

私の担当したグループでは、高学年の男子2人を中心にやり、多分ちょっとめんどくさいなぁと思われていたとは思いますが、なんだかんだで自分のエピソードからニーズを選び取り、その中から自分の持ち帰りたいニーズを書いていました(ていねいに縦書きで「理解されること」というニーズを書いていた男の子もいました)。
子どもたちが短い時間で遊びながらもそうやって、表現し、自分のニーズを探し当てる力があることに、おばさん感服です。
できるだろうと思っていたけど、やっぱりすごい、という感じ。

さて、今回の沖縄出張ではACEで行っている「沖縄うまんちゅ子どもの権利推進プロジェクト」の活動だけではなく、講師派遣も2件あわせて対応したのですが、今日はそのうちのひとつのお話を紹介させてもらいたいと思います。

講師派遣の依頼元は、ボイスオブチルドレン沖縄という任意団体です。
沖縄県内で起きた高校生の自死事案について、再調査の報告書が提出され、その提言にそった対応を県や教育委員会がそれぞれ発表しているので、それらを子どもの権利の観点からどう見えるか話してほしい、というご依頼で、この自死案件の再調査の委員長を務めた弁護士の先生と2人で登壇し、お話をさせていただくというものでした。

とても重い、悲しい、重大な子どもの権利侵害の事案です。
沖縄県在住でもない、通りすがりの私に何が言えるのか、報告書を読みながら悩んでいました。
実はこの再調査報告書には、子どもの権利という言葉も、その視点もかなり多く含まれており、提言の中には「子どもの権利条約」の理解浸透や、子どもの権利条例の制定、オンブズパーソンの設置も含まれています。
そのため、私の方からは、子どもの権利条約やこども基本法がどういうものでという背景的な説明や、他の地域の子どもの権利条例やオンブズパーソンの事例も紹介しながら、氷山モデルを使って起きた出来事をシステムとして捉える、という視点を提供する試みをしてみました。

氷山は海面に出ている部分は一部で、実は海水の中にあり見えない部分が大きくあります。
起きている出来事もじつはその元をたどっていくと、より大きなパターン、構造、メンタルモデルがあり、システムがある、というのを氷山で表したのがこのモデルです。

生徒A(再調査報告書でこう記載されているので、ここでもそうします)は、空手部で活躍していましたが、顧問からの度重なる暴言、叱責、ハラスメントが起因となり、追い詰められ、たぶんもうどうしたらいいかわからなくなってしまって、自死に至ってしまいました。

顧問が当該生徒以外でもこれまで子どもの指導に関する問題が指摘されてきたことがあったにも関わらず、実際何があっかは子どもたちには聴かれず注意で終わってきたこと(子どもの権利侵害の疑いがあっても、とがめられなかった経験)は、繰り返していた「パターン」です。
また、今回本来禁止されていたはずのLINEで部員と顧問、また当該生徒と顧問が個別にやりとりをしていわけですが、そうしたやりとりやそこで何か行われていたかが密室化しており、またその中でも顧問の言うことを絶対にきかなければならないという支配的関係があったこと、その力学は「構造」といえます。
そしてそうした中で生徒たちからも誰からも、顧問の理不尽な命令や指示に対して声をあげられなかったのは、この学校が進めていたいわゆる「ゼロ・トレランス」(生徒心得に対する違反や問題行動を起こした生徒への指導にイエローカード制を導入し、生徒からの申したては認めないという不寛容に指導を行う指導方法)を行っていたことが、学校全体として「先生の指導が絶対であり従う以外の方法はない」という「メンタルモデル」(考え方、思い込み)を生み出していたのではないかと思います。

調査報告書の提言には、このシステム(パターン、構造、メンタルモデル)に働きかけるような内容が書かれています。
この提言を受けてそれぞれの取り組みが本当に進んでいくのか、をモニターする組織は構成されていないため、市民社会側から見守っていくことで、実行の担保を促すことができるのではないかという話もしました。

今回のイベントの参加者の中には、これまで私たちが県内で行ってきた子どもの権利研修に参加してくれた参加者や、県議会議員、事件のあった高校のある市の市議会議員等もいました。
終わった後に当事者のご両親や生徒Aを知っていたという方々が聴いてくださっていたこともわかり、そこにある深い痛みと、またその中でもどのようにしたらこうした悲しい出来事をこれ以上起こさないように何ができるのかと真剣に向き合う姿を見せていただきました。

一緒に登壇してくださった調査委員会の委員長であった古堅先生が最後におっしゃっていたことがとても印象に残ったのでそれもお伝えさせてください。
こうした報告書は公表されるときに個人情報の観点から黒塗りになってしまって読むところがない、みたいな形になりがちだが、今回は、読んでもらえる報告書を作ろうと委員で話して、こうした報告書では特殊ではあるがさいごに「むすびにかえて」という文章を記した、と。
こうして読んでもらえる報告書を作ることが、このような自死を止めることができなかった人側の側の責任のひとつであると。
実はこの「むすびにかえて」の文章、読んだときに泣いてしまったのですが、今回の調査委員会の副委員長である上間先生の文章なんだろうな、と思わせる、あたたかくかつ訴えかける文章です。

「子どもが生まれたとき、親となったひとは万感の思いをこめて子どもに名前をつける。そうして名付けられ、大切に育てられてきた彼の名前を『生徒A』として記すことの痛ましさを思いながら、私たち委員はこの調査を続けてきた。」

「兄の姿を追いかけるように空手道場に通うようになったこと、ひとに何かを教えることが得意だったこと、大会で優勝したあとの教室で『チャンピオン!』と呼びか けるとにっこり笑ったこと、他の道場で稽古をするときにはその道場のひとに失礼 になるといって黒帯を締めることはなかったこと<中略>。それらの話は、両親に愛されながら育ち、師匠や先輩や同級生や後輩とともに 自分が好きなことに打ち込み、その好きなことの楽しさや方法を存分に周囲に分け与える、生き生きとしたひとりの子どもの姿であり青年の姿であった。 その一方で、悲しみや苛立ち、そして深い孤独を抱えていたと思われる彼の言葉や姿も聴いた。」

(令和 3 年 1 月沖縄県立高等学校生徒の自死事案に関する第三者再調査委員会「調査報告書」概要版より引用:https://www.pref.okinawa.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/028/473/gaiyou.pdf )

実際の報告書は200ページ越えですが、概要版は46ページです。この「むすびにかえて」も概要版についています。

当日はACEの在沖縄スタッフも参加していたのですが、一番最後に見せた「システムを変化させたいと思う人がリーダーシップを発揮するには」とのタイトルのスライドを写真にとっている人が多かったのが印象的だった、と教えてくれました。
これは実はACEでもお世話になっているチェンジ・エージェントさんのウェブサイトから引用したものですが、私が一緒に登壇させていただいたこともあるディヴィッド・ストローさん(「社会変革のためのシステム思考実践ガイド」著者)の言葉として紹介されているものです。

・意義のある方向性を示すことで活力を与える
・どんなに困難な現実も受け入れる
・長期的に考え、短期的に行動する
・継続的に学習する

当日参加されていたみなさんが、それぞれどのようにこの言葉を受け止められたのか計り知ることはできませんが、悩みながらも私なりの役割を果たせたのかな、と思いながら沖縄を後にしました。

今回は思いのほか長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

2024年8月30日 ACE代表岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2024年9月6日

【岩附通信vol.43】「自分を取り繕う必要はもうない!」~解き放たれたACE合宿~

こんにちは!今月も沖縄より岩附です。いつもご支援をいただきありがとうございます!

これを書いている今日(7/29)は、沖縄県うるま市において、子どもの権利実践研修を実施しました。
今回はうるま市・うるま市教育委員会からの後援もいただき、自治体職員のみなさんの参加を想定し、かつそこに地元の若者も参加してもらい、若者の声も研修内で聴くという、新しいバージョンで初めての実施です。
うるま市のパートナー団体URUFULL(ウルフル、と読みます)さんが培ってきた若者たちとの関係性があるからこそ成り立ったこの研修。参加してくれたみなさんに感謝です。

そして今月はじめ、ACE合宿を行いましたので、今日の通信はそのことを書きたいと思います。
実はACEの職員はフルリモート、全員自宅から働いています。
4月からスタッフも増え、お互いオンラインでは毎週顔を合わせていても、実際には対面で会ったことは一度もない、という方々が結構いました。
また、業務上関わり合いがある人とはよく話しますが、そうではない人との会話はオンラインだとどうしても限られてしまいます。

そのため今回の合宿は、お互いを知り合うこと、組織の理解を深めること、またNVC(Non-Violent Communication、非暴力コミュニケーション)を体験することをねらいとして、プログラムを練りました。

遠方在住(沖縄、広島など)の参加者の移動時間を考慮し、2泊3日といっても、1日目の午後から3日目の午前という実質2日間のプログラム。
今回の合宿はこういう感じにしたい、というイメージが自分の中にあったので、様々な業務の合間を縫いながらイニシアチブをとってきました。

そんな合宿後のアンケートで、ある職員がこんな回答をよせてくれました(一部編集しています)。

「入職してからこれまで、多くのスタッフの方々とオンラインのみの関わりで、相手の息遣いや顔の表情、ボディランゲージが分かりづらく、どこか勝手に自分が作り出す一番怖い印象(どこか距離がある、自分をよく思っていない、等)を形作ってしまっていました。

実際に会って話す時も最初は緊張しましたが、プログラムでの時間やその後の夜ご飯、お酒を共にする時間を通して、みなさん一人一人が私の作った虚像とかけ離れていることを実感することができました。

そして、みなさん一人一人の実像がどんな姿かを実感すると同時に、みなさんの優しさやどんな人でも受け入れるという姿勢に気づき、それにより、自分自身がどんな人間であるのかを取り繕う必要がなくなったのかなとも感じています。

今までいろんな組織に属してきましたが、どこに居てもずっと自分自身を取り繕って、良いように見せたい、できないとダメだと思って生きてきたように思います。そしてそれが自分を苦しめていたのだと改めて気づかされました。
多くの気づきを教えてくれた初めてのACE合宿となりましたので、とても満足しています。」

・・・企画メンバーとして、由香、感動です。

2日目のNVC研修では、渋谷聡子さんを講師に迎えて自分自身の感情とニーズに向き合い、抱えていた想いを表現し、自己理解を深めたスタッフが多かったと思いますし、そうした場を共有できたことで、他者理解も深まったと思います。

合宿の3日目には、それぞれの大切にしたいニーズを言語化し、それを表現するためのアクションを決めて宣言しました。

こうしてそれぞれにインパクトのある合宿となったと思いますが、私自身、この合宿後にオンラインで会議をしたとき「・・・・質感が違う・・!!!」ということに驚きました。
コロナ前の事務所があった時のメンバーの数と、そのあとフルリモートになってから入職したメンバーの数がちょうど半々ぐらいになってきましたので、やはり実際に会って、全身全霊でその人を感じ、対話の時間をとっていくことの大事さをひしと感じました。

ACEでは2014年から「学習する組織」やNVCの研修を通じ「関係の質」を改善させることに注力してきました。
遠回りのように見えて、こうした研修などを通じて職員同士の関係性の質を高めていくことが、事業の成果を最大化することにつながると考えています。

お互い人間ですから、意図していなくても傷つけてしまったり、思い込んでしまったり、行き違いが生じてしまったり、コミュニケーションの課題はつきることがないと思います。
それでも、それをそのままにせずに、対話できること、そういう場・時間的スペースをきちんと確保していくことも、組織運営では大切なのではないかと思いました。

そんなことを書きつつ、個人的には反省点も多い日々・・・ではありますが、自分自身の振り返りもしつつ、自分の箱にとじこまらずに、個々の力が出せて、イキイキと働けるACEを目指していきたいと思います。

暑い日が続き、水害も起きるなど、楽しいことばかりではない夏休みかもしれませんが(個人的には、夏休み中の子どもたちのお昼対応・塾のお弁当作りに悩まされ中です)、みなさまが無事にこの夏を乗り切れますように。

2024年7月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2024年7月31日

【岩附通信vol.42】クラファン、イベント、ガーナ出張、沖縄出張…盛沢山!な6月が終わります

岩附通信Vol43

みなさんこんにちは!個人的には怒涛だった6月が終わりますが、みなさまはどう過ごされましたか?

まず、6月28日までのクラウドファンディングにご寄付、ご協力をいただき、本当にありがとうございました! 今年も目標を達成することができました!本当にありがたいです。

この通信は毎月ご寄付をいただく子どもの権利サポーターと、毎年会費を頂く会員の皆様を中心にお送りしていますが、いつものご支援に加えてのお願いとなってしまい恐縮です。 

本当はクラウドファンディングなしでも活動が成立する状態を目指したいのですが、現状はまだまだその理想の状態とは距離があり、そのギャップを埋めるクラウドファンディングに頼らざるをえない状況です。 今年も達成でき、本当にありがたいです。ありがとうございました。 

いま、沖縄から帰る飛行機でこの通信を書いています。 6月は、クラファンに加え、児童労働ネットワークの20周年イベント、その次の日からガーナ出張、ガーナから帰って1週間後に今度は沖縄への出張と、目まぐるしい1か月でした。 かつ今回の沖縄出張は、夫の海外出張と重なるというハプニングもあり、子どもたちの面倒を見てもらうのに妹に泊まりにきてもらったり、お友達の家に泊めてもらったりと、様々なご協力も総動員!でなんとか乗り越えました。   というわけで、今日の通信は6月の振り返りを少し出来ればと思うのですが、今回の沖縄出張がかなりタフだったためまとまりがない可能性大です。お許しください。

ガーナ現地からのお便りをみなさまにも送らせていただいたかと思いますが、カカオの収量の激減に驚きました。 木の老化、気候変動、違法な小規模金採掘の影響、またカカオの木がかかりやすい病気が流行るなど、複合的な要因によるものと思われます。

カカオの買取価格がかなり上がっていますが、その上回りをもってしても収入が減ってしまうほどの減少です。

また、ガーナ政府も財政難な中、カカオの収量が国全体で減っているため、ますます財政難となり、例えば教科書など政府が本来用意すべきものすらも、行き渡らせられないというようなことも聞きました。 自分たちではコントロールできない構造の中で起きていることに、農家も、子どもたちも大きな影響をうけている中、私たちとしてもどう対応すべきなのだろうか、ということを考えさせられました。

今回の沖縄出張では、子どもに携わるおとなの方々への「子どもの権利実践研修」を那覇市で、小学5、6年生の子どもたち向けに子どもの権利のワークショップをうるま市で実施するというのがメインの活動でした。

おとなの方々への研修は、会場の都合や、平日の午後子どもたちとの対応をする方々も多いことを加味し、9時半スタート、13時15分にプログラムが終わるよう、通常4時間のプログラムを3時間半にきゅっとまとめて実施しました。 35名ほどの方々にご参加いただき、「自分の地域でもやってもらいたい」という要請も頂くなど、この研修は形も決まってきて、展開をしていけそうな気がしています。 

子ども向けの「わたしらしさを大切にする子どもの権利ワークショップ」は、これまでの形から内容を変えて、「意見を表明する」というところまで踏み込めるようにとブラッシュアップしている過程だったということもあり、かなり迷いながらの実施でした。 

日本では小学校の授業で子どもの権利を学ぶようになっていないこともあり、「はじめて知った」という子も多く、子どもたち自身に伝えていく必要性を感じましたが、「権利」という目に見えない概念を実感してもらうこと自体がやはり難しい!と感じました。 

今後またうるま市内の小学校で実施していく予定ですので、良いものにしていけるといいなと思っています。

飛行機が着陸態勢に入りました。この通信も書き終わらなければいけません。 やっぱりまとまりのない内容になってしまいましたが、ここまでとします。 もう充分暑いですが、7月に入りいよいよ夏本番!良い夏をみなさんが過ごされるようお祈りしております。 それではまた来月! 

 

2024年6月 ACE代表 岩附由香

 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。  

岩附通信

2024年6月30日

【岩附通信vol.41】「ビジネスと人権」作業部会の報告書が公開されました

  

5月29日の日本時間の夜の間に、国連「ビジネスと人権作業部会」の方々が昨年7月に来日され行った一連の調査の報告書 が発表になりました。それを受けて急遽、ヒューマン・ライツ・ナウさんが開催される記者会見に呼んでいただき、昨日記者会見に参加してきました。
NHKデジタルや朝日新聞デジタルでは記者会見の記事が出ていました(ACEの名前は出ていませんが)。
記者会見の前半はこの報告書全般について、後半はジャニーズ事務所の被害者の方々の会見という構成だったのですが、後半のほうがよりメディアの注目が集まっていたようです。 

ACEは昨年7月の来日の際にもヒアリングに参加させていただき、またそのあともジュネーブや日本で作業部会の方にメッセージを送り、かつ情報提供という形でコメントも送付していました。
その結果、来日直後の記者会見ではコメントのなかった児童労働についても、今回の報告書では言及されました!課題だけでなく、カカオの児童労働にJICAと企業が協働して取り組んでいる事例が好事例として言及されていました! 

記者会見で私から申し上げたのは3点。

1つは児童労働のことで、グローバル経済の中 日本が多くのものを製造、消費していることを考えるとそれ相応の責任がある一方、サプライチェーンの人権課題についてその責任が十分に果たせていないこと。
企業のサプライチェーンにある児童労働に企業が取り組むためには、政府からの明確なメッセージが必要で、それが法律であること。
人権デュー・デリジェンスの義務化の法整備を進めることを今回の報告書でも勧告していますので、それを進めることを政府に求めたいです。

また、国内の児童労働においても、今月東海地方で子どもを働かせていたとして子ども・若者支援を行っていた方が逮捕されるという事件がありましたが、こうした子どもの危険有害労働から子どもを守る施策が十分ではありません。

報告書でも「児童労働」という考え方そのものが法律で定義されていないことや、政府としての行動計画が必要であることを報告書でも言及してもらったので、今後国内の児童労働についても具体的に取り組みが進むよう引き続き働きかけていきたいと思います。 

2点目は子どもの権利についてです。
こども家庭庁が出来、こども基本法が出来ましたが、子どもの権利の考え方自体がまだ十分に浸透出来ていません。
記者会見のあと質問をいただいて詳しくお話しましたが、ジャニーズ事務所の課題についても子どもの権利侵害そのものであり、また子どもたちのそうした訴えにきちんと大人が耳を傾けてこれなかったからこそ何十年も続いてきたという背景があると思います。 

3点目は国内人権機関について。
今回の報告書では「これ以上の遅滞なく設立を」と勧告に書かれています。
これまで何度か設立されそうになっては最終的にうまくいかなかったこともあり、実現に向けたハードルは高そうですが、これも今こそ取り組まなくてはいけないと思っています。 

こうした機会をいただき発言しましたが、実は本当に準備時間がとれず英語の報告書をざっと読んで、これまでのACEの指摘事項や、いま公開に向けて準備しているACEの政策提言書や声明文を見返して、なんとかお話をすることが出来ました。
時間がかかっていてなかなか公開できてないこうした文書ですが、頭を巡らせ、議論し、整理しておいたことで、記者さんからの質問にも答えられました。

実はこの記者会見、開催決定が前日の夜で、次の朝は娘の国会見学でお弁当を作らねばならず、行くのはお姉ちゃんですが妹が朝そのお弁当を「作りたい」といい、朝一緒に卵焼きを創り、おむすびをつくり・・・。
内心焦っていたけど平和に出来て送り出したと思っていたのですが、夜に娘たちとお弁当について話していたら、妹のほうが「(作っているとき)ママはちょっと迷惑そうだったけどね」としっかり私の心の葛藤が読み取られていることが判明しました・・・。
侮れないです、わが娘。 

さて、いよいよ6月。
6月12日の児童労働反対世界デーに向けてと、また現在絶賛挑戦中のクラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/ACE_SDGs2024 )の応援のお願いにと、奔走中のACE事務局です。
既にご支援をくださったみなさま、ありがとうございます。
最後にいくつかお知らせをさせてください。 

・6月6日〜12日にかけて「1分でわかる児童労働のない世界のつくり方」動画をみんなでシェアするハッシュタグキャンペーンを実施予定です。ぜひその期間にACEのSNS(インスタ、X、FB)をみてACEの投稿をシェアしていただけたらありがたいです! 
Facebook:https://www.facebook.com/acejapan
Instagram:https://www.instagram.com/npo_ace_japan/
X:https://twitter.com/ace_japan

・6月7日(金)10時~ テレビ神奈川「イイコト!」に出演します 

・6月7日(金)15時~18時 児童労働ネットワーク主催のシンポジウム 
→スペシャルゲストや、日本政府の方々含めたなかなかそろわない登壇者がそろって報告をしてくださいます。ぜひご参加ください。
https://20240607-clnet.peatix.com/ 

・6月13日(木)20時~21時15分 ACEオンラインイベント(ガーナから中継) 
→広報の赤坂、CRADAのスタッフと一緒に、ガーナから中継する予定です。
うまくつながるのか若干不安です。
去年もインドからの中継、めっちゃワタワタした記憶が・・・ぜひご参加ください https://acejapan.org/info/event/20240613  

そんなこんなで相変わらず私は毎日落ち着かない日々ですが、すごく暑かったり雨だったり、天候が不安定な日々、みなさま体調崩されていませんでしょうか?
インドデリーは52度とニュースで聞き、昨年6月にインド北部を旅行して確かにものすごく暑かったけれどあれ以上か・・・と世界の気候変動の影響を心配しつつ、日本も豪雨などの災害が夏に起きやすいので今年は起きませんようにと願いつつ、なんとか6月を乗りきりたいと思っている5月の終わりでした。
乗り切れたかどうかはまた来月、この通信で・・・!!! 

2024年5月 ACE代表 岩附由香

 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2024年5月31日

【岩附通信vol.40】最悪の形態の児童労働条約25周年と新しいはじまり

岩附通信Vol40

新年度、新学期、と新しいこといっぱいだった4月も終わり、ゴールデンウイークを迎えました。みなさま、一息つけていますでしょうか? 

ACEは3~4月で産休・育休に入るスタッフが2名いることもあり、この3~4月で5名の方々が新たにスタッフとして加わりました。
完全リモートワークならではで、居住地も沖縄、広島、香川、神奈川、東京とバラバラです。リモートで、職員間のコミュニケーションは成り立つの?とよく聞かれますが、年に一度はスタッフ合宿でみなさんとリアルで会う機会を持つべく、7月に開催する合宿についても鋭意準備中です。 

準備中といえば、GWあけすぐにまた今年もクラウドファンディングがスタートすることになり、そちらの準備も佳境を迎えています。そして、6月1日からはじまる児童労働ネットワークの「ストップ!児童労働キャンペーン」も。
6月12日の児童労働反対世界デーに合わせての世論啓発キャンペーンですが、今年は児童労働ネットワークが20周年ということもあり、6月7日(金)にシンポジウムを開催することになりました。多くの方に登壇いただく予定で、その調整も絶賛進行中です。 

毎年この時期になるとILO(国際労働機関)から、今年の児童労働反対世界デーのテーマが発表されます。
今年のテーマは”Let’s Act on our Commitments: End Child Labour”(児童労働を終わらせるためのコミットメントを行動に移そう)。
今年は、最悪の形態の児童労働条約(*1)が採択された25周年という節目であり、かつ世界の児童労働が増加傾向にあり、
児童労働撤廃の目標が目前に迫る中、こうしたテーマになったようです。
(詳細はこちら https://www.ilo.org/topics/child-labour/campaign-and-advocacy-child-labour/world-day-against-child-labour) 

(*1)最悪の形態の児童労働条約は、ILOの8つの基本条約の1つで、子どもの安全、健康、道徳を害するおそれのある危険有害労働を禁止しています。
人身取引、債務労働、強制労働、児童買春、および児童ポルノ、犯罪など不正な活動、武力紛争での子どもの使用が含まれます。

この最悪の形態の児童労働条約については、私自身思い入れがあります。
ILOのこうした国際条約は2年間かけて審議されるのですが、1998年、その審議1年目のILO総会の一部を垣間見る経験を得たのです。
ACEが活動をはじめたきっかけの「児童労働に反対するグローバルマーチ」の終着点がここジュネーブであり、このILO総会の場だったのです。
みんなでジュネーブの街をマーチして、ILOの裏庭でモニュメント設立の儀式も行ったのですが、その時の当時のILO事務局長が、世界から集まった元児童労働者に向けて「ILOは働く人のためにあります。なのであなた方のためにもあるのです」と言ってくれたことも、とても感慨深く見ていました。 

実は、活動をはじめたばかりで若かった私にとって、ILOでの議論は、えらく形式的に感じられて、「こんな議論を子どもたちから離れたところでしていて、本当に子どもたちにとって役立つ法律になるんだろうか」と、やや半信半疑でした。
しかし、実際に条約が出来てみると、それまでどうしても「児童労働とは何を指すか」の定義が議論になって前に進まなかった議論が条約によって定義がなされたことにより前に進むようになり、児童労働があること自体を公に認めたがらなかった途上国政府が「あるし、取組みます」と態度を変え、ILOの技術協力プログラムによって各国が時限的目標を定めて児童労働撤廃を目指すなど、本当にパラダイムシフトといってもいいぐらいの変化を目の当たりにすることになりました。
一番はじめの「児童労働に反対するグローバルマーチ」の活動で、こうした国際法の威力、そしてアドボカシー活動の重要性や意義について、体感したのです。 

そんなアドボカシー活動を職員として私と一緒に担ってくれていたスタッフがこの6月で退職することになりました。
彼女は実は長くACEの会員で、かつこのジュネーブでのグローバルマーチに一緒に参加したという体験を共有する唯一の存在で、2016年に職員としてACEに参加してくれてから、日本の児童労働のレポート作成や啓発活動、沖縄でのプロジェクト立ち上げ、G7やG20でのアドボカシー活動を一緒に企画し運営してきた、私にとってかけがえのない存在だったので、とても寂しいのが正直な気持ちです。
アドボカシー活動は政策が動いていくよう働きかけをするのが主な活動なので、チャンスが巡ってきた時に、ばっとそれを掴まなくてはいけない時があります。
自分たちのタイミングでは選べないので、ちょっと大変だな、、、と思うときも正直あるのですが、こういう「今だ!」というときに、「やりましょう!」っと一緒にイケイケモードになってくれる、いや、むしろ私よりもイケイケな時もある、貴重な存在でした。 

というわけで、4月は新しいスタッフへの研修と、退職するスタッフからの引継ぎと、と同時並行で慌ただしく終わり、これから私が関わる複数のプロジェクトが新しい体制で進んでいきます。
フレッシュな視点で今やっていることを見てもらうと、なぜ?どうして?も結構あり、こうやって組織の新陳代謝が起きていくんだな、と実感しつつ、
チョコのシーズンの次は児童労働反対世界デーに向けた盛り上がりを作っていきたいと思います! 
 

PS  5月7日より、ACEの活動資金を集めるためのクラウドファンディングがはじまります。
サポーター、会員として既にご支援をいただいている皆様への重ねてのお願いとなり恐縮ですが、別途ご案内を送らせていただきますので、ご支援、また情報の共有などでご協力をいただけたらありがたいです。
実は、クラウドファンディングのご支援いただいている方の中には、「知り合いからのメールの転送で知った」という方もいらっしゃいます。
お友達・お知り合いにご紹介いただけるととても嬉しいです!! 

 

2024年4月 ACE代表 岩附由香 

 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2024年4月30日

【岩附通信vol.39】 Being(ビーイング)が変わるとDoingが変わる

岩附通信vol39

春到来で花粉にやられまくっていた方も多かったであろう3月ももう終わり。
年度末で忙しくてこんな通信を読んでる場合じゃない!みたいな方もいるかもしれませんが、みなさまいかがお過ごしでしょうか? 

私のFacebookのタイムラインには、お友達のお子さんたちの卒業写真が溢れ、成長の喜びを分けていただき勝手にお祝いムードに自分もなっていました。
サポーター・会員のみなさまにもそういう方がいらっしゃるかもなので、ご卒業おめでとうございます!!! 

そしてもうひとつ心が動いたのは、ご自身が大学院などで学位を取られた晴れ姿をご報告されている方(その多くは私よりも年上の方)の姿で、何歳になっても絶えない向学心や探求心にすごく励まされる自分がいました。
そんな私も先週とある研修を受けてきまして、そこで大いに感化されたので今日はその話を少し。 

研修の中で出てきたコンセプトが、BeingとDoingでした。
Beingとはその人自身の在り方、Doingは行動です。どんなBeingでありたいのか、という投げかけをされて、改めて考えてみると、必ずしもありたいBeingではないことに気づきました。
「代表としてふさわしいことは何か」「ああまだあれがやれていない」「責任をとらなければいけない」といつも頭の中でバックグラウンドミュージックのように流れていて、自分が本来在りたい姿(Being)ではないかもしれない、と気づいたのです。
そしてそのBeingをありたいものに近づけていこうと意識してみると、Doing(行動)が変わる、という体験をしました。
自分で実感するだけでなく、周りからも「全然違う」と言われ、このBeingがいかに大事か、を思い知らされた次第です。 

研修の学びは割と体感的なものだったので、改めてインターネットで調べてみると、Work Design Libraryというウェブサイトにたどり着きました。
それを参考に整理してみると、Beingとはその人自身の在り方や価値観だけでなく、感情などもここに含まれ、Doingは行動だけでなくその結果、成果も含むような解説でした。
会社などの組織ではDoing(行動とその結果)で評価されるため、このDoingがまるでその人の価値であるように思ってしまうけれど、実は、多くの人が求めているのは、一人の人間として自分が感じていること(=being)を受け止めてもらうことであり、その自分の存在価値を実感できたら、Doingに対するエネルギーが沸いてくる、とのことでした。 

実はいま、NVC(非暴力コミュニケーション)も学んでいるのですが、ここで取り扱うのも、感情とその奥にあるニーズであり、Beingに関することです。
ACEではスタッフ研修等を通じ組織の中の関係性の質の向上のためこれを取り入れてきましたが、現在日本の子どもの権利に関する事業の中でも取り入れ、実践しています。
ACEで働く人のBeingを大切にすること、を私たちなりにやろうとしてきたのではないかと思います。 

そして、じゃあ組織のBeingは何だろう?と考えたとき、それがACEのパーパスやフィロソフィー、WAYで表現されていることと近いのだろうな、と思いました。
おりしも、昨年11月にACE会員総会で可決された定款変更について、東京都から認証がおりたため、ACEの目的も公式に変更することができました。
「世界の力を解き放つ」というパーパスに含まれる要素には、ACEが組織として関わる人のBeingを認め、その人が持つ力を発揮できる場を作ること、そして私たちの周りにいる方々、企業、政府等の組織も含めて、私たちのBeingとDoingによってインスパイヤし、その組織の行動が変化する、そんなイメージが含まれているのかな、と思います。
詳しくは4月はじめにお手元に届くであろう年次報告書に書かせていただいておりますので、ぜひご一読いただけたら幸いです。 

 4月から心機一転、新しい職場や新しい場で新たな役割をお持ちになる方々もいらっしゃるかと思います。
新年度、ご自分らしいBeingでスタートできますように!
わたしはしばらく「パワフル」beingでいこうかと思っています! 

PS 先週、副代表の白木から、アニダソチョコレートを春のギフトとして購入して頂きたいと皆様にメール差し上げたところ、お陰様でたくさんのご注文を頂きました。
ありがとうございます!!!
オンライン販売を委託しているショコラナビさんも驚かれるほどの反応の良さとのことで、担当スタッフもいかに日々みなさまに支えられているか、至極実感していました。
まだ在庫は十分にありますので、是非、春の門出のお祝いギフトとして、「希望」という名のチョコレートを広めて頂けると幸いです。  
https://suit-chocolate.com/ace-001/   

2024年3月 ACE代表 岩附由香

 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2024年3月31日

【岩附通信vol.38】バレンタインにまつわるエトセトラ

岩附通信38

2月14日のバレンタインデー、みなさんはどう過ごされましたか?
ACEでは今年は25周年記念で作成した「アニダソ」チョコレートをいろいろな場でお手に取っていただけるよう、広報活動に勤しんでいました。

このチョコレートの名前「アニダソ」は、ガーナのチュイ語で「希望」という意味。
児童労働をなくしていくこと、そして子どもを搾取せずともチョコレートができるようチョコレート業界自体がシフトしていけるよう、ACEが取り組んでいる「しあわせへのチョコレート」プロジェクトで見えてきた希望が、込められています。
(詳しくは、ぜひこちらをご覧ください:【連載記事】The Journey of ANIDASOƆ: 25年間の「希望」をつなぐチョコレート 

そのためバレンタインといえばACEにとっては「繁忙期」。
かつて、「しあわせを運ぶ てんとう虫チョコ」という商品をACEでも販売していたのですが、その頃はスタッフの夢にてんとう虫のチョコが出てくるほど、スタッフみんな文字通りチョコまみれになっていました。

先日、外部の方とある事柄の実施時期を検討する中、ACEスタッフが口々に「そうですねぇ、バレンタイン後ですかねぇ(バレンタインまでは忙しいので)」というのを聞いて、その方ははじめ「バレンタインって、そんなに個人的に大事な行事なんだ、ACEのスタッフは乙女だなぁ」と思われていたそうです。
それを聞いたスタッフは「いえ、違います、仕事です」とバッサリ(笑)。

ACEでは、全員自宅からのリモートワークのため、毎日13時半に「昼ミーティング」と題して15分、集まって点呼をする時間があります。
点呼の代わりに日直さんがお題を出して、それぞれ一言応えるのですが、その中で「バレンタインの思い出」というお題が出ました。
中学の時男の子に公園で渡したという甘酸っぱい思い出や、小学生の息子さんに「恋って何?」「愛って何?」っと最近聞かれたエピソード等、さまざまなエピソードが繰り広げられ、私もいろいろ思い出しました。
小学校の時、男の子に手作りチョコをあげて、お返しにもらったキャンディーの入った缶に「好きな子ランキング」の紙が入っていたこと(2位で嬉しかったので覚えている)や、アメリカの公立高校に通っていた時は、1ドルでバラが1本買えて、バレンタインデー当日どれだけそのバラを抱えているかで人気がわかることなど。

おとなになってから嬉しかったバレンタインといえば、2012年、ACEのガーナでの児童労働撤廃プロジェクト、スマイル・ガーナ プロジェクトに参加している子どもたちから、詩が届いたときです。

—————————
もし毎日がバレンタインデーだったら、
毎日みんなに伝えたいことがある。

世界のひとりひとりに味方になってくれる人がいたらいいのに
強い意志をもってねばりづよく仕事をし
子どもたちに機会と権利を与えてくれる
重荷を軽くし、笑顔をもたらしてくれる
そんな、「スマイル・ガーナ プロジェクト」みたいな人が
みんなにもいたらいいのに

そうすれば、世界はもっと生きやすくなる
そんな素晴らしい世界になったらいいのに

ACE、そして日本のみなさん、
あなたは私のバレンタインです。
わたしの人生をゆたかにしてくれた、そんな特別な存在です。
(以下略)
—————————
詩の全文はこちらから:ガーナの子どもたちからバレンタインメッセージが届きました

スマイルガーナへの支援は、ACEの「てんとう虫チョコ」を買ってくれている人たちがいるから、寄付をくれている人たちがいるから、成り立っているんだよ、というのを伝えていたので、この詩はチョコまみれになっていた私たちにとって、本当に励まされるものでした。

アニダソも500円が寄付となるチョコレートです。
よろしければ手に取っていただき、こんなガーナの子どもたちの話をどなたかとしていただき、みなさんのバレンタインにまつわる思い出に添えていただけたら嬉しいです。

アニダソ販売店の情報はこちらから:アニダソチョコレート取扱店

PS. ACEのチョコレートと児童労働への取り組みのこれまでと、世界の動向を書いた記事が朝日新聞のwith Planetで掲載されました。
よろしければそちらもぜひ、ご一読いただき、周りの方にご紹介いただけたら嬉しいです。
朝日新聞 with Planet|甘いチョコの苦い現実 児童労働撤廃に向けた歩みと最新の動きとは?

2024年2月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2024年2月28日

【岩附通信vol.37】 「ネットワークやるより自団体のことを」を越えて

岩附通信37

こんにちは、岩附です。
新しい年はじめての通信になります。今年もどうぞよろしくお願いします。
まず能登半島地震で被災されたみなさまに心よりのお見舞いを申し上げます。
年初から、能登半島地震、飛行機事故と「おめでとうございます」と軽やかにはいいづらい重たい雰囲気の幕開けでしたが、関東はやっと冬らしい冬の気温になりました。
みなさまいかがお過ごしでしょうか?

私は先週は、1月29日(月)に開催された、外務省と厚生労働省が共催する児童労働に関する意見交換会の準備などに勤しんでおりました。
この会議には「児童労働ネットワーク」の事務局長として出席しました。
その関係で過去の実績を調べていたら、自分が書いた児童労働ネットワークに関する記事に遭遇し、「そんなこともあった・・!」と思いだしたので今日はそのことを書きたいと思います。

ACEは様々なテーマのNGOネットワークに入っております。
関与の濃淡はもちろんありますが、その中でもACEが設立に深くかかわり今も事務局を務めているのが「児童労働ネットワーク」です。

児童労働ネットワークを立ち上げたのは2004年。
2002年ぐらいから準備会合は始めていましたが、当時はACEで有給で働く専従スタッフはいませんでした。
私岩附と、現副代表の白木が、別のフルタイムの仕事をしながらの準備を続けていました。
 
準備会合は確か18時半くらいからだったのですが、主催者である私たちが遅れてしまうこともあったりし、準備会合につきあっていてくれた方々の忍耐に感謝という感じでした。
 
そうしてようやっと立ちあがった2004年。
とある国際協力NGOに、このネットワークに加盟してくれないか?のお願いに行ったときのことです。

一通り説明をしたあと、 「岩附さんの団体は、規模どれくらいなの?」と聞かれました。
当時、前年度の決算は100万円くらい(まだNPO法人化もしていませんでした)だったのでそう伝えると、 

「ネットワーク作るより、まず、自分の団体をちゃんとやったほうがいいんじゃない?」

と言われてしまいました。
労働組合のみなさん、NGO仲間のみなさんと、2年近く、さんざん議論を重ねて作った趣意書や規約を持って臨んだ勧誘活動、大失敗です。
それで泣きそうになりながら帰るという出来事がありました。
 
当時のACEのバリュー(団体の価値観・価値基準)には「ネットワークを最大限に活かします」というものがありました。
小さな団体でも、集まれば大きなインパクトを出せるのではと信じて、立ち上げようとしたネットワーク。
 
「そんなネットワークより、自分のことちゃんとしなさいよ、それからなんじゃないのネットワークは?」というご指摘に、
「ごもっとも」と思ってしまう自分がいる一方で、「いや、絶対、ネットワークに意味があるんだ」と思っている自分もいて。
「こんなネットワークを立ち上げるなんて、やっぱり私たちには無理なんだろうか」と自信を無くしてしまう出来事でした。
 
多分ACEのことを心配してくださってのご意見で、あれから20年近くたった今私が同じような相談を受けたら、もしかしたら同じように思ってしまうかもしれません。
でも、当時の何とも言えない気持ちも、ありありと思い出せます。
 
2024年で20年目となるこの児童労働ネットワーク、実績も確実に残しています。
児童労働の取組強化を求めるための署名活動でこれまでに集めた署名数は246万筆にも上ります。
また、昨年4月に倉敷で行われたG7労働雇用大臣会合に合わせて、世界の労働組合代表(L7)と市民社会(C7)との共同声明を出すこともできました。
こうしたことが実現できたのも、これまでのACEのアドボカシー活動の中で労働組合や関係政府のみなさんとの関係を築いてきたからです。
また、このG7をきっかけに、これまでの署名活動で求めていた「Alliance8.7」(アライアンスハッテンナナ:児童労働や強制労働に関わる国際枠組み)への日本の加盟も、昨年実現することができました!

日本国内の子どもの権利を守るためのネットワーク「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」を立ち上げた時も、その2年後にこども家庭庁の議論が持ち上がるとはその時はまだ見えていませんでした。
でも、そうした政府の議論が持ち上がって、何かアクションを起こそうと思った時に一からネットワークを築いていたのでは遅いのです。

先日、「関係性資本」という言葉を目にし、ああ、こういう視点は大事だなと思いました。
ちょっとググってみると、「人が大きなことを成し遂げられるかどうかは、他者の協力を得られるかどうか。その意味で、『私は何ができるか』という人的資本との対比として『私は誰の支援を得られるか』という関係性の充実度を表す概念が関係資本である」んだそうです。

実はネットワーク化とはこうした資本を蓄積していくことだなと思います。
そして大きな目的に向かって、個々の団体がそれぞれの活動に従事しながらも、共通の目的に向かい協働してアクションを起こし、連携して外へと働きかけていくことだなと思います。

結局そういうことが自分が好きなんだなというのも、振り返ってみると思います。
みなさまからご支援をいただいているおかげで、こうして大きな目標に向かってネットワーク活動が出来ることの喜びと幸せがあります。
本当にありがとうございます。

年のはじまりは不安が募りましたが、今年の終わりはどうか多くの方が安心して年越しができますように。
今年もどうぞ、ACEの活動への参加、ご協力を引き続きよろしくお願いいたします!

2024年1月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2024年1月30日

【岩附通信vol.36】 「ボスはパーパス」への道は楽しく険しい

岩附通信32

今年もご支援を継続していただき、ありがとうございました。 
2023年も残すところあと数日となりましたが、みなさまの一年は、いかがでしたでしょうか? 

今年1月の岩附通信では、組織づくり、ティール組織や、その背景にある考え方についてお伝えさせていただきました。
一人ひとりが自律的に動ける組織=自己組織化であり、そのコンセプトは「ボスはパーパス」。
上司に言われたことをやるのではなく、パーパスにどう貢献できるかを考え自分で動くことを前提としています。 

「ACEの活動の成果を出しやすくし、1人1人のスタッフの持つ力を最大限に引き出す結果につながることを意図し、その進化を遂げる2023年になることを期待しています。」
と今年1月の岩附通信に書かせていただいたのですが、振り返ってみると今年はそうした意図を現実化するための様々な仕掛けを検討し、着手し、試行をはじめた年だったと思います。 

(1)自己組織化、ホラクラシーの導入 
研修を経て2月からこうした制度を本格導入したことにより、ミーティングのやり方が抜本的に変わりました。
各自の役割に名前が付き、何を日常的に行うのかが明文化され、お互いその立場にたってやりとりを行うことで、誰が何をしているのかが明確になり、また意思決定の透明性が高まりました。
また業務に関わることについての新たな提案や、難しさを感じている点を表明する場が設けられていることで「なんとなく気になってはいるけどいいづらい」ようなことを出す場も出来たかなと思います。

まだ組織の中での運用は濃淡ありますが、私個人としては既に実践している会社さんなどから学ぶことが多く、ソース原理など新しい考え方にも触れる機会になり、大きな刺激を受けた1年でした。 

(2)ティール組織にあう人事制度の設計と試行 
組織内部のことになりますが、自己組織化に向けて重要だったこの部分についてもこの機会にお伝えさせてください。

自己組織化組織は、給与を自分たちで決める、そして全職員の給与が公開されるという形をとる組織がままあり、ACEもそのような形にシフトしていくべく、どのような給与体系が望ましいかを外部コンサルタントの方に入っていただきながら模索してきました。
このプロジェクト名はずばり、「誰も見たことがないけどいい感じの組織」(笑)。  

みなさまからいただいている大切なご支援からも出させていただいているACEスタッフの人件費。
透明性と納得性を保ちながらいかに自律的に決めることが可能か、私自身このプロジェクトに関わり悩みながらも新たな形に落とすことができました。

長年、人事制度・給与体系はどのような形が望ましいのか悩みつつ手が付けられていなかったので、ACEらしい、組織の行動規範であるACE’s WAYをベースに作られた評価軸により、今後ますますこの新制度がスタッフの力を出しやすく、能力を高めやすくなるよう祈りを込めて、新しい制度をいよいよローンチさせます。 

(3)自分の「願い」を自覚し、表現できることのパワー 
ここから少し事業の話になるのですが、いまACEで進めている「沖縄うまんちゅ子どもの権利推進プロジェクト」の話をさせてください。

このプロジェクトは沖縄の子どものWell-beingの向上を目指し子どもの権利研修やNVC(非暴力コミュニケーション)をベースにした研修等を沖縄で行ってきました。
ACEが組織内の研修でお世話になってきた渋谷聡子さんを講師にお招きし沖縄でも研修を親子向け、若者向け、学校の先生向け、子ども支援をしている人向けに行ってきました。

その中で思い知ったのが、NVCを通じて自分のニーズや願いに気づくことのパワフルさです。
そしてそれが表現されるとき、周りの人も含めてその人に関する理解が深まり、より1人1人が強くつながる感覚が生まれる場面が事業の中で何度かありました。

個人的にはそうした場が持つ、人の力を解き放つ力に改めて気づかされた年でした。
そして、そうした実践をACE内で地道に2014年頃から重ねてきたことが、いまのACEを形づくっているということも、実感した次第です。 

もちろん、全てが上手くいったわけでもありません。
事業面では特に見込んでいた事業収入が入らなかったり、事業運営上の大きな課題が持ち上がったりと、経営者として頭を抱えるようなモーメントも正直ありました。
また、本当にたくさんの方にご支援をいただきありがたい一方で、拡大していく事業には収入が追い付かず、財政的に厳しい側面は今も続いております。
今年度は組織のあれこれにかなり時間を費やし、割と険しい道をある意味楽しみながら追求し、結果的に組織形態としては大きく舵を切ることができました。来年度は、それが軌道にのり、成果に結びつく1年にしたいと思います。 

そして、組織としてどこに向かうのかにとって重要な、「ボスはパーパス」のACEのパーパス(目的、存在意義)も、11月の総会でご承認をいただき、新しいものになりましたので、こちらでも報告させてください。 

=========
ACE新パーパス: 
世界の力を解き放つ ―子どもたちに自由の力を、すての人に変革の力をー 
=========

12月はじめにこのお披露目パーティーを開催させていただきましたが、そこに来ていただいた方から「これまで話は聞いていたけど、あの場に行ってやっとACEのことが理解できた。あそこに集っていたような企業な、いろんな人の力を解き放っていく組織なんですね」と言っていただき、とても嬉しかったです。

私たちだけでは世界の大きな課題は変えることはできなくても、周りの関係するステークホルダーとして存在する人や組織に気づきをもたらし、その力に気づいて、共に行動してもらう―そういう存在として、これからも役割を果たしていきたいと思っています。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。 

最後に、ACEにとってはとても大きかったニュースをひとつ共有させてください。 

来年1月から、ガーナにおける児童労働フリーゾーンに関する業務をJICAからの業務委託で実施することが決定しました。
待ちに待った、以前実施した調査をふまえての、次の実践フェーズです。
この仕組みが、2025年にSDGsの撤廃目標期限を迎えてしまう世界の児童労働の撤廃への前進に向け大きな足掛かりと示唆を生むことを信じ、願っています。 

実はこう見えて(!?)「何一つ満足に出来ず今年が終わってしまう」と自分の力の足りなさに落ち込んだりすることもある私ですが、こうして振り返ってみると自分が思っていた以上の成果と頑張りがあったような気がしてきたので、ぜひ、1年をふりかえり、頑張ってきた自分に共感をしてあげてください。
そうだ、みんながんばった!!!とねぎらって、また新たな年をフレッシュな気持ちで迎えられたらいいなと思います。 

今年もご支援をいただき本当にありがとうございました。 
良いお年を、そして、2024年も楽しく、豊かで実りの多い1年となりますように!  

2023年12月 ACE代表 岩附由香 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2023年12月31日

【岩附通信vol.35】 国連ビジネスと人権フォーラムに参加してきました

岩附通信35

継続的なご支援、いつもありがとうございます!
現在欧州に出張しており、この通信は本来月末に送付するはずなのですが、1日ずれてのお送りになってしまいました(欧州はまだ11月30日ということで…)。

さて、今回11月27日~29日まで、国連ジュネーブ本部で行われていた「ビジネスと人権フォーラム」に参加してきました。
昨年もこの時期に音声でこの報告をお届けしたことを覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。毎年この時期に行われる会議です。

実は大学の先生が主催する「ビジネスと人権」に関する研究プロジェクトに私が参加しており、今回はその研究プロジェクトの関係で出張しました。
12回目を迎えるこの会議は、会場とオンラインで140ヵ国から3393人の登録があったそうです。

「ビジネスと人権指導原則」という言葉、きいたことがおありでしょうか?
2011年に国連で発表されたこの指導原則は、3つの柱からなっています。
【1】国家の人権保護の義務
【2】企業の人権尊重の責任
【3】救済へのアクセス

これだけ書かれてもなんのことかしら?と思う方もいるかもしれませんが、何が新しいかというとこの【2】が新しいのです。
これまで国際的な条約は国同士がお互い守りますよ、というもので、拘束力は国に対してしかありませんでした。
でも、この指導原則に【2】が入ったことで、条約のような拘束力はないものの、国際的に「企業も人権を尊重する責任がある」ことが、世界のスタンダードになったのです。

私はこれまで4回この会議に参加したことがあります。
「児童労働」はこの【2】の企業の人権尊重の責任と深く関係していて、実際に今回も多くのセッションで児童労働に関する言及がありました。
企業は、ものを製造する際に、その原料のサプライチェーンまで辿って、人権侵害がないかを確認したり、予防したりすることが、この指導原則が出来たことによって、求められるようになってきたからです。

今回は残念ながら児童労働を正面から取り上げたセッションはなかったのですが、いま、世界の企業の人たちがどのような関心事があるのか、また人権に関する様々な関係者が一堂に集まるこの機会に、多くのカギとなるプレイヤーのみなさんとつながることができました。
また、この期間中に国連のビジネスと人権作業部会の委員と、意見交換を行うこともできました。

さて、今回のビジネスと人権フォーラムで印象に残ったことをいくつかお伝えできればと思います。

1.欧州の人権・環境デューデリジェンス指令
この数年間、ずっと世界の注目を浴びてきたのが、欧州で議論されているこの指令です。
一説によると、早いと年内にこの内容が合意に至るかもしれないそうで、それが一旦決まると、今度はEU加盟国各国がそれに従った法律を作ることになります。
この法律は、企業に対して、人権や環境に関して企業が負の影響を与えていないか確認し、与えているとしたらそれをどう軽減し、また予防策をとるかの策を練ることを義務化するもになります。

この言葉自体はほぼあらゆるセッションに出てきたといっていいぐらい出てきたのですが、興味深かったのは、先進的に取り組んでいる企業(ネスレや、ウォールトディズニーなど、世界の名だたる企業の方々が来ていらっしゃいました)が気にしているのでは、どこまでの範囲でデューデリジェンスをしなくてはいけないか、ではなくて、「透明性」の部分だったということです。

これは、企業が把握した情報の開示を全てしなくてはいけないかどうかについてです。
情報を公開することによってネガティブな影響も企業にとってはあり得るとのことで、そのことをとても気にしている様子が印象的でした。

2.プラスチックに関する国際条約を作ろうとしている企業アライアンスがあること
ビジネスと人権フォーラムは3日間行われ、1日4コマ、最大3つのセッションが同時並行で行われています。

1日目の最後の時間枠がすべて環境系のセッションだったので、わたしの関心ズバリなものがない中なんとなく参加したプラスチック関係のセッションで知ったのは、プラスチックの汚染に関する国際条約を作ろうという動きがあることでした。
しかも、それを推進しているのがネスレとコカ・コーラが作った企業アライアンスということで、企業がアドボカシーを行っている実例を見れて、興味深かったです。

残念ながら日本に本社を置く会社はほぼ入っていないようですが、企業がイニシアティブをとって積極的にグローバルなルールを設定し、プラスチック汚染を食い止めようとしている(もちろん、各国政府がバラバラの法律を作られると困るので、グローバル基準があったほうが良いというビジネスのメリットもあると思います)のが印象的でした。
https://www.businessforplasticstreaty.org/

3.国内人権機関
日本には国内人権機関はありませんが、世界120ヵ国にはあります。
実は各国でビジネスと人権の取組を進める中心となっているのが、こうした国内人権機関だったりします。
でも日本にはないので、外務省の人権人道課が少ない人数で対応しているという状況です。
今回様々なセッションに国内人権機関の方々が出ていて、やはりこうした国内人権機関があることが、日本で「ビジネスと人権」を含む、人権の意識啓発や浸透を図るのには重要ということをつくづく感じました。
日本はこれまで何度か試みがあったものの法案の成立に至らなかった経緯があり、国連から何度も作るように指摘されています。
ビジネスと人権作業部会が7月に日本に来て調査を行った最後の記者会見でも「国内人権機関がないことを深く憂慮する」とのコメントを残しています。

こうした国際会議の内容自体はオンラインで見ることができるものも多いのですが、リアルにその場にいることもメリットもやはり大きいです。
セッション後に登壇者に質問にいったり、あるいはセッションで質問をしている人の中に、話したい!と思っていた団体の人だ!というような人を発見したりして、近寄って行って話をしたり名刺交換をしたり等は、やはりオンライン参加では出来ないことです。
また今回偶然目の前の席に座った人がILO(国際労働機関)のジュネーブ本部にずっといらっしゃる児童労働担当の方で、その方から最新情報を教えていただき、こういう場に行くことでリアルに人と会えるメリットはやはり大きいなと感じました。
また、ACEの存在を知ってもらう機会にも少しはなったかなと思います。

そんな形で、とても充実した3日間となりました。 
ここで得た知識やネットワークをこれからもACEの活動に活かしていきたいと思います。
 
長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございます!
いよいよ師走となりますが、みなさまお体に気を付けてお過ごしください!

2023年11月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2023年11月30日

【岩附通信vol.34】10月の振り返り~いろいろあった10月~

岩附通信34

いつもご支援ありがとうございます。季節がだんだんと移り変わり、忘年会的な予定も入るようになり師走に近づいている感じが出てきた10月。

10月7日に開催したACEフェス(ACE25周年記念イベント)にご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!残念ながら私がインフルエンザにかかってしまい欠席(涙・・・)でしたが、ACEの組織・スタッフの新たな側面を見ていただけたのではないかと思います。
組織開発、子どもの権利、マインドフルネスとテーマも多岐にわたり、その裏ではNVC体験コーナーとスナックをやっているという、おもしろい仕立てとなりました。
これを読んでくださっている中にはその際新たにサポーターになってくださった方もいるかと思います。ありがとうございます!

その次の週、インフルエンザから復活して沖縄県うるま市に飛び、「子どもの権利実践研修 ~知ろう・考えよう!子どもの権利~」を開催しました。
昨年から様々な既存の研修を開催・研究し、重要だと思うエッセンスをワークと座学で4時間に詰め込んだ研修です。
本当は3日間ぐらいかけてやりたい研修内容なのですが、所要時間が長くなるほど受けられる方が減ってしまうので、まずは導入編として短いバージョンで仕立てることにしました。
最後にアクションを考えてもらうのですが、研修後「こども基本法を居場所内に子どもにわかるよう掲示します」というアクションを書いてくださった方が、研修で学んだことを自分の解釈で表現したポスターを作り、早速掲示してくださった写真を送ってくれて、嬉しかったです。
子どもの権利条約、こども基本法という新しい法律が出来たこと、その内容と求められていることをお伝えしながら、子どもとの対話方法や感情やニーズを見てみるワークなど、とにかくギュッと詰め込んだので、今後も改善しながら展開させていきたいです。

その次の週はACEの理事会があり、それに向けて総会資料の最終調整を行いました。
11月23日に開催する会員総会(会員のみなさまにはご案内がメール等でお手元に届くかと思います)では、今回新しくするパーパスも定款の目的部分の変更として議題提案します。
そのため、ギリギリですがパーパスの文言もこの週に最終決定し、定款の文言提案も行いました。
長い長いパーパス再発見の旅が、いよいよ終わりを迎え、これからこれをどうお伝えしていくかのプランに移行していきます。

10月の最後の週は、ACEが加盟している新公益連盟のこころざし合宿に参加してきました。
ACEは多くのネットワークに参加していますが、新公益連盟もそのひとつ。
合宿ではいっぺんにいろんな知人・友人に会えるので、立ち話や懇親会の場でいろんな話が出来、それで意外といろんな物事が進んだりもします。
今回、はじめの全体セッションでは、経済同友会の新浪代表幹事(サントリーホールディングス社長)が登壇くださり、大変興味深かったです。今後、ソーシャルセクターと企業の連携がどんどん進んでいきそうな予感がしました。

2日目のセッションでは、こども家庭庁をテーマに、NPOの職を離れてこども家庭庁の職員となったお二人と、NPO法人カタリバの代表、今村久美さんモデレートのもとトークをさせていただきました。
NPOと行政の違い、立場が変わったことの難しさなどもありながら、「どうですか?NPOの人に行政で働くことを勧めますか?」との問いにはお二人とも「勧めます」とおっしゃっていました。
その立場になってみないと見えない景色があり、それがわかることでNPO側に戻った時の視点が幅広くなると思います。提言活動を行う上で、政府内いる方々の発想を理解することは、とても大事だと思いました。

実はカタリバの今村さんは、10月15日に行われたレガシー・ハーフマラソンに参加されていました。
私もその日、ACEのチャリティーランナーさんの応援に水道橋駅前に出向き、ACEと書いてあるのぼりを持ちながら応援してたのですが、その際ランナーだった今村さんが私をみつけて寄ってきてくださったのです!よく見つけられたね、と話をしたら「いろんなNPOが沿道応援してたんだけど、代表が応援しているのはACEだけだったから、会えてうれしかった」とのコメントをいただきました(笑)。
この日は雨で厳しいコンディションで、濡れて寒くてランナーさんには本当に可哀そうだったのですが、ACEのチャリティーランナーさんも多くご参加いただき、EXPOのブースでもお立ちよりいただきました。
スタッフ田柳も無事完走し、応援も楽しかったです。ランナーのみなさま、お疲れさまでした!

ということで本日は10月31日。
私の10月はまだ終わらず、今日中の締め切りのものを複数抱えながら、すでに師走感がこんなにあるのはなぜかしら?と思いながら、10月を終えようとしています。

もうすぐ冬本番、みなさまどうぞ体調を崩されず、秋をお楽しみになられますように。

2023年10月 ACE代表 岩附由香 

 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています

岩附通信

2023年10月31日

【岩附通信vol.33】 子どもの権利とACE

岩附通信33

先日、「研修を受けていたらACEを発見!」と他団体の方が教えてくれたんですが、わたしたちNGOのACEではなくて、ある言葉の略でした。

Adverse Childhood Experience、逆境的小児期体験と日本語でいうらしいのですが、18歳未満の子ども時代に虐待を経験したり、機能不全な家族で困難な状況に置かれたことを指すそうです。その体験が本人が大人になってからも影響があるとのことで、アメリカを中心に研究が進み、対応が求められているそうです。

ACEという言葉は違う意味もありますし、略称としてもよくあるものです。そういえば、かつてかばんのACEの本社が台東区にあった時には年に数回は「鞄の修理お願いしたいんですけど」と同じく台東区にあったNGOであるACEに電話がかかってきたものでした(あちらが移転され、番号案内の方が間違えて私たちをご案内してしまうケースがなくなったようで、間違い電話はなくなりました)。

それはさておき、実はそれを知る前に、子どもの権利に関する大切なポイントを、ACEという形でまとめられないか、と考えていたことがありました。せっかくならACEというキーワードを子どもの権利でもポジティブな文脈でも思い出してもらえたらいいなという気持ちも少しあります。最近また再度それについて考えてみたので、今日はそれを少しご紹介したいと思います。

A – Awareness(気づき・自覚) & Assertion(肯定的に、ありのままで見る)-

ひとつめのAは、おとな側の気づきの重要性と、子どもと接する時の態度に関することです。私たちは自分たちがどう周りの人に見えているか、について、時に無自覚です。例えば3歳ぐらいの子どもから見れば、48歳のおばさんである私は自分より背が何倍も高く、太っていて威圧感があり、脅威に見えるかもしれません(どんなに微笑んでいたとしても)。
ACEという組織の中でも、創設メンバーである私の発言は、自分が思っている以上にスタッフにとって重く受け止められることがあるかもしれません。そうした自分の見え方、自分の影響力に自覚的であること、は子どもたちと向き合う上でも大切な気がします。
 
また、判断をせず、ありのままのその人を見る、ということも、大切な要素だと思われます。例えば昭和の時代は、茶髪=不良でした。まだ昭和だったころ中学生だった私は実は髪の毛を脱色していた時期がありまして、駅のホームで空き缶が目の前に転がってきて、それをポーンと蹴ったら線路に落ちてしまったんですが、そのとき見知らぬおじさんから「学校で何を教えてるんだ!」っと、大きな声で怒鳴られました。この一件はそもそも缶を蹴った私が良くなかったのはそうなのですが、私が明らかな茶髪じゃなかったら、おじさんはあんな風に怒鳴らなかったかもしれません。未だに京王線のホームで起きたこのちょっとした事件を覚えているのは、そこに理不尽さを感じたからなのだと思います。とても難しいことですが、「あの子は○○だから」「○○に違いない」という先入観を横において、目の前のその子をありのままに見る、受け止める、ということが大切なんじゃないかと思います。

C – Communicate(情報共有・伝える) & Consent(同意)-

2023年4月に施行されたこども基本法では、自治体レベルでこどもに関する施策を決定する際に子どもの意見を聴くメカニズムを持つよう自治体に義務付けています。子どもの意見を聴く前に重要なのは、子どもが意見をいえるだけの十分な情報が共有されているか、です。しかもそれが子どもの年齢や発達に応じてわかるように共有できているか?ということになります。ACEが事務局を務める「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」で政策提言書を作った際も、「子ども版」を別途作成しましたが、そうした工夫が必要になってきます。

幼い子どもの子育ての際のテクニックのような形でよく言われるのが「子どもに選ばせる」です。特に自我が芽生えて自分で何でもやりたい、決めたい、というような段階にきた2、3歳の子に「AとBどっちが良い?」と選択肢を提示して選んでもらうことで、子どもも自分が決めたと納得できる、というものなのですが、これには落とし穴があります。おとなは自分の都合で、本当はCというオプションもあるのに、それを出さずに「AとBしかない、さあどっち?」と提示し、あたかも子どもが全てのオプションから自分で選んだかのように感じさせることができるのです。会議の議題設定をアジェンダセッティングといいますが、意思決定は実はこのアジェンダセッティングから始まっています。子どもが参加し、意見を言うには、意見を表明するための前準備としての情報の入手、そして意見表明できるスペースと適切な方法(あるいはその方法自体から一緒に決めるか)が必要です。

もうひとつは「同意」です。私の子どもたちが通っていたインドのインターナショナルスクールでは子どもの保護ポリシーがあり、先生たちはむやみに子どもたちの体に触ることは奨励されていません。ただし、特に低学年の子どもたちは子どもからハグを求めてきたり、手をつないだりすることが必要な時もあります。子どもたちから来るものは拒まないし、こちらからするときは「ハグしていい?」と聞けばいいわけです。

子どもたちを手伝うときも、同様です。「大人のよかれは、子どもの迷惑」と、川崎で「子ども夢パーク」をずっと運営してきた西野さんがある場所で言っていましたが、私にもたくさん心当たりがあります。先回りして失敗しないようにとか、子どもがこっちのほうがいいと思うんじゃないかとか、そのほうが効率的とかで、いろいろ考えてついつい口を出してしまうのですが、あとから「黙って見守っていればよかったな」と思うことが度々あります・・・。
先走らず、何かを子どものためにするとき、一緒にしたいときは子どもからの同意をとって行うこと、子どもの結論を尊重し、結論が出るまで待つことは、子どもと接する際、割と重要なことだと思います(自分の子どもに対してできていない自覚も込めて、ですが・・・)。

E – Empathy(共感) & Empowerment(エンパワメント)-

エンパシーという言葉、耳なじみがありますでしょうか?日本語だと「共感」と訳されますが、プレイディーみかこさんの著書『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』の中で、お子さんがシチズンシップ教育の授業で、エンパシーや子どもの権利について学んだ、という記述が出てきます。(検索したらその箇所が読めるようでした:
https://www.shinchosha.co.jp/ywbg/ywbg1/chapter5.html )そうかイギリスでは公教育でエンパシー(+子どもの権利)についてこんな風に学ぶのか、いいなぁ、日本は果して・・・?と思ったのでよく覚えているのですが、違いを乗り越えて共感できる能力、とても重要だと思います。

共感的に話を聴いてもらった経験、ありますでしょうか?ACEではNVC(非暴力コミュニケーション、または共感的コミュニケーションともいう)を組織として研修で学んできていたり、事業でも沖縄での事業で今取り入れてたりすることもあり、割とお互いに共感的に聴き合うことに慣れている組織だと思います。逆に私が辛いなーと感じるコミュニケーションは「それはこうすべき」等の判断で返されるときです。そういう人には、話したくなくなってしまいます。子どももそうではないでしょうか。といいつつ、おとなとしては、つい無自覚に子どもにそれをやってしまっている可能性が大なので、これも気を付けたいポイントです。

エンパワメントのイメージは、力を与えるというものではなく、元々持っていた力が発揮されるイメージです。これは子どもだけではなくおとなもいえることですが、その人が持っている力が100%発揮できることって、むしろ稀で、様々な阻害要因や、恐れがあって、自分の力を発揮したり表現することができない場合ばあります。
「子どものくせに」とか、あるいは「子どもなのにすごいね」とか、子どもを自分たちより力のない存在という前提でのコミュニケーションをしてしまいがちですが、それは子ども差別ともいえます。子どもたちを1人の人として尊重する声かけが出来るかどうか、子どもたちの自信や自己肯定感が損なわれない場づくりが出来るかどうか、エンパワメントできる環境を整えられるかどうかは、おとな側にかかっています。

ということで、長くなってしまいましたが、子どもの権利と「ACE」まとめてみました。
いかがだったでしょうか?

まだ暑い日が続きますが、季節は秋。様々なイベントシーズンでもあります。

10月7日はACEフェス!スタッフ一同で皆様をお待ちしております。会場の都合で事前登録が必須、当日参加は不可なため、少しでも参加できるかも?という方は10月3日までに以下フォームよりお申込みください!
ACEフェス_300
ACEフェス: https://ace-event-20231007.peatix.com/
参加できる!という方は上記Peatixの申込みページから(お申込みの際に参加費の決済が必要です)。

Peatixでのお申込みが難しい方、まだ参加できるか分からない方は下記ACEのウェブサイトからお申込みください。
ACEウェブサイトでの申込みはこちら: https://acejapan.org/form20231007
(ACEウェブサイトからのお申込みの場合、参加費のお支払いは当日受付にて承ります。)

また、11月11日はHAPIC(ハピック)という国際協力NGOセンター主催のカンファレンスが開かれます(私はこの組織の副理事長も務めております)。ACEも1セッション企画をまかされ、カカオの児童労働に関するコレクティブインパクトについて白木が中心となってお話する予定ですし、私もその他のセッションに登壇します。ご関心あればぜひ、超早割が10月4日までですので、お申込みください;
HAPIC:https://hapiconf.com/

カカオセクターにおけるコレクティブ・インパクトへの挑戦https://hapiconf.com/programs/session/2151/

『インパクト』をどう捉えるか-社会価値と企業価値の両立を目指してーhttps://hapiconf.com/programs/session/2223/

お目にかかれること楽しみにしております。

2023年9月 ACE代表 岩附由香 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2023年9月30日

【岩附通信vol.32】 パーパスを探るプロセス

岩附通信32

「パーパス」という言葉、なじみがありますでしょうか?
英語でPurpose、日本語でいえば「目的」にあたることばなのですが、最近「パーパス経営」など、企業経営の文脈でも使われるようになったり、少しづつこのカタカナつづりを目にする機会も増えているように思います。

ACEも実は2017年にそれまであった「ビジョン・ミッション・バリュー」という団体理念体系を「フィロソフィー・パーパス・ウェイ」に変えたという経緯があります。その頃から大手NGO団体がパーパスに変えるトレンドを感じていたこともあり、また「児童労働の問題解決だけではない、もっと幅広いことをACEは意図しているのではないか」という感覚もあり、2017年に「パーパス」として設定をしました。

そのパーパスがこちらです:
「子ども・若者が自らの意志で人生や社会を築ける世界をつくるために、子ども・若者の権利を奪う社会課題を解決します」

パーパスは、団体の「存在意義」を表すものです。誰のための、何のための組織なのか、ということを表すこのパーパスに「児童労働」という文言が入っていなかったことは、その年のACEの会員総会(ACEはNPO法人で会員組織なので、最高意思決定機関は会員総会になります)でも、質問をいただいたことを覚えています。児童労働の問題解決はACEの長期目標として掲げられています。

そのような経緯を経て、近年は日本の子どもの権利を保障するための活動も含めた事業展開を行ってきました。パーパスを変えたことで、団体としての活動の幅を持たせることができました。もちろん、児童労働撤廃のための活動も行っていますし、近年のガーナの児童労働フリーゾーンをガーナ政府と共働して作り上げようとしてきたプロセスなどは、本当に大きな前進でしたので、そうした従来から続けてきた活動も制限を受けることなく続けてこられた、そんなパーパスでもありました。

パーパスがらみで最近ACEで取り組んでいることがもうひとつあります。昨年から今年はじめにかけて、職員の「個人のパーパス」についても探求をするというプロセスを、研修として行ってきました。少しユニークな方法だったので、戸惑った職員もいたかもしれませんが、3グループにわかれてコーチがつき、定められたプロセスに沿って、自分のパーパスを発見するプロセスを踏んできました。その過程の中で、グループメンバーから自分のパーパスの響きについてフィードバックをもらう場があったのですが、こうして他の人のパーパスも感じたり、その過程を共有することで、お互いを知り合うプロセスにもなったかなと思います。

なぜ、そのような個人のパーパスを探求する場をACEの仕事をする時間に持ったのかといえば、ACEが目指す「一人ひとりが自律的に動くことのできる組織」(自己組織化)においては、個人のパーパスと、組織のパーパスが響き合っていること、が重要視されているからです。その響き合いを確認するには、自身のパーパスがおぼろげにでも見えていないと、確認できないと判断したからでした。

そうした経緯を経て、実は今年に入ってから、ACEの組織としてのパーパスを再発見するプロセスをはじめました。発端は昨年の夏、ACEの戦略合宿の中で、現在のパーパスの文言について違和感がある、という声がスタッフから挙がったことです。それを受けて検討した結果、パーパスの文言の一部だけを変えるのではなく、全体を変えよう、ということになり、一連のプロセスを設計し実施することになりました。そうしたパーパス策定を仕事としているACE理事のアドバイスを得ながら、アンケート実施、過去を振り返るワークショップ実施、外部の関係者へのインタビューの実施、その共有、文言出し、ありたい未来を創るワークショップ等を経て、いま最終段階に入っています。

私たちは何のために存在するのか。
難しい問いではあります。
初めて会った人に急にそんなこと聞かれたら、ドン引き確定です。

でも、組織も個人も、それを掴むことで、その力が発揮されやすくなる、との考えから、今年はこのようなことにも貴重なスタッフの時間を使わせていただきました。本日がACEの事業年度最終日。今年度の業績をどう会員・サポーターの皆様が評価してくださるかわかりませんが、このようなことに時間を使うことが回り道のように見えて実は近道だったかもしれないね、と、何年後、何十年後に振り返った時に感じられるといいな、と願っています。

2023年8月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2023年8月31日

【岩附通信vol.31】 「迷惑かけてなんぼ」の世界

岩附通信31

「人に迷惑をかけない」というのは日本で生まれ育った人たちにとってとても重要な価値観となっているように思います。今月、家族がコロナにかかり、行くはずだった沖縄出張を取りやめようかどうしようか迷っていた時にも「ACEのスタッフ、沖縄のちゅらゆいさんのスタッフにコロナをうつしたら大変」という「迷惑をかけてしまう恐れがあるのでやめておこう」という判断をしました(結果、そのあと私自身もコロナになったのでそれが正解だったと思ってはいるのですが、判断するにあたって自分にもその軸が大きくあることを自覚しました)。 

「迷惑かけてなんぼ」とは、インドに駐在している女性たちと話していた時に出てきた、インドの価値観を表現したもの。人の手を煩わせることが、あたり前であり、それが出来ることが、その人自身の評価、存在意義にもつながる、そんなような感覚ではないかと思います。先日7月19日に、谷口真由美さんと子どもの権利に関する対談をさせてもらったのですが、その際に思い出してご紹介したのがこのフレーズでした。「迷惑」が何を指すかにもよりますが、日本の場合「迷惑」の範囲がかなり広くとらえられ、本来「個人の意見の主張」「個人の自由」も一部迷惑にカウントされているような気がしています。 

保育園や学校の子どもたちの声が「迷惑」ととらえられ、新しい保育園が建てられないというような自治体がある中で、もしかしたらこれは「迷惑をかけないように」ブレーキが社会として利きすぎてしまっているのはないでしょうか。また「迷惑をかけないため」のルールが決められ、それが画一的に適用され、厳格に運用される、というのも日本的だと思います。本来の目的が忘れられかけ、そのルールだけが活きて人を縛る、そんな感覚があります。それは結果的に自分の権利を獲得するための自己表現を制限し、子どもの権利を保障しづらくなっているのではないでしょうか。 

そうした「目的が忘れられかけてルールだけが活きている状態」がよく見られるのが、学校ではないでしょうか。特定の髪型の禁止や、前髪は目にかかってはいけない等の細かい指定や、下着は白としなければならない等は、そもそもそのように設定された意図がよく理解できないルールです。教科書を持って帰らなくてはならないというルールも、ランドセルが重すぎる問題を生じさせていました。髪の毛の色が黒でなくてはならないというルールや、また「地毛証明」を出さなくてはならない等は、人権侵害そのものです。 

これまで多くの人が「?」と思いながらも「そういうものだから、仕方ない」とあきらめて従ってきたルールがあると思います。しかし近年そうした「ブラック校則」は注目を浴び、「やっぱりおかしいよね」と、各地の教育委員会でも校則見直しの動きが起きるなど、改善のきざしがあります。自分の権利を獲得するためには、声をあげなくてはなりません。その声をあげる子どもたち、それを見守り、声を聴くおとなたちが増えてきている、そんな変化を感じています。 

子どもが平日起きている時間の三分の一ぐらいを過ごす学校。その学校でどのように子どもの権利が守られていくか、それは子どもたちにとって、とても大きな変化になると思います。不登校がこれだけ増え、先生になりたい人も減り、長時間労働が問題視されている教職現場にとって、またやることが増えるのか!という負担感がもしかしたらあるかもしれませんが、実は子どもの権利条約を保障するという観点からも、公教育の現場における先生には、子どもの権利を守る義務が生じています。 

子どもの権利条約は、国が、子どもの権利を保障する宣言でもあります。子どもは権利を持つライツホルダー、国は権利を保障する責任(英語でデューティー、Dutyともいいます)を持つ、デューティーベアラーです。子どもの権利条約を批准するということは、「その権利を国が保障します。その権利保障のために国は政策、予算を準備します」という国の子どもたちに対する約束です。国とは、中央政府だけでなく、自治体や、公務員も含みます。したがって、公立学校の先生方も、このデューティーベアラーとなるわけです。 

2023年4月、こども基本法が施行されました。1994年に子どもの権利条約を批准して以来、日本になかった「子どもの権利を包括的に保障する法律」が、今回曲がりなりにも出来た、というこまとになります。「こどもまんなか」を標ぼうするこども家庭庁も出来、子どもたちの意見を聴くメカニズムを国として準備するなど、これまでのことを考えれば画期的な取り組みが進んでいます。 

こうして、法律上は子どもの権利条約の4原則である「差別の禁止」「子ども最善の利益」「子どもの生命、生存および発達の権利」「子どもの意見尊重」が反映された基本理念をもつこども基本法の存在により、日本国内での子どもの権利保障がなされる素地は整いました。 

「子どもが意見を言う権利があること、それをおとなが真剣に受け止める義務があること」が徐々に広まっていくことで、「どうせ無理だから」「どうせ変わらない」と子どもが嫌なことを我慢してしまうのではなく、表明し、対話して課題を明らかにして解決に向けて協働する、そんな関係性が子どもとおとなの間に築けたらいいなと思っています。「迷惑かけてなんぼ」の世界に突然ジャンプすることは難しいかもしれませんが、「迷惑をかけていはいけない」方に偏ってしまった意識を「迷惑かけてなんぼ」の方にシフトさせていく、そんな意識の変化が必要なように思っています。 

それをどのように学校で活かしていけるのか。子どもたちに子どもの権利を伝え、活かすためのヒントをいただくために、ACEが事務局を務める「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」では教員向けセミナーを企画しました。8月10日(木)対面で東京で行うため、ご参加いただける方は限られるかもしれませんが、じわじわと来ている変化の波を感じている先生方も多いのではないかと思いますので、ご関心のありそうな方にぜひご案内いただければ幸いです。 

▼8/11 教員向けセミナー「学校で、どう伝える?どう活かす?子どもの権利」
https://crcc-20230810.peatix.com/ 
0810_CRCイベント

そして最後に、クラウドファンディングのご報告をさせてください。7月31日まで展開してきた活動資金を募るクラウドファンディング 、おかげさまで無事目標金額の1500万円を超え本日最終日を迎えることができました。会員、サポーターの皆様におかれましては、多大なご支援・ご協力を賜り、誠にありがとうございました。 

暑い日が続いています。ACE会員・サポーターの皆様におかれましては、体調変化に注意していただきながら、楽しい思い出に残る夏を過ごされますよう、お祈り申し上げます! 

2023年7月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2023年7月31日

【岩附通信vol.30】 インドとACEと私

岩附通信30

私事ですが、この度現在居住しているインドから日本に本帰国することになりました。
帰る間際に次のインドでのプロジェクトのための視察、また現在行っているピース・インドプロジェクトの視察に行ってまいりました。6月12日の児童労働反対世界デーにあわせて現地からの配信をさせていただいたので、それにご参加いただいた方もいらっしゃったかと思います。イベントの後は村の中をマーチし(写真)、久しぶりのマーチに昔を思い出しました。
★1
あらためて振り返ってみますと、インドとACEは深いつながりがあります。

「児童労働に反対するグローバルマーチ」がきっかけではじまったACEですが、その提唱者はインドの人権活動家、カイラシュ・サティヤルティさんです。カイラシュさんのこのムーブメントがなければACEはなかったといっても過言ではなく、このインド発のとびぬけた発想から、ACEは始まっています。

グローバルマーチ以前の1990年代後半、現在の副代表である白木、小林の2名は明治学院の児童労働ゼミでインドに来訪しており、私も国際子ども権利センターのスタディーツアーでインドに来ておりました。そうしてACEをたちあげ、インドのグローバルマ―チに3人で参加し、それを参考に日本で実施したという経緯があり、それぞれ個人的にもまたACEの立ち上がりとしてもインドは深い関係がありました。

さらに。
事務局次長の成田はインドに留学しソーシャルワークを学んでいて、アドボカシー事業チーフの太田は博士論文をインドの児童労働をテーマに執筆。それ以外に、ACEが実施したインドスタディーツアーに学生として参加経験があり、現在スタッフになっているもの2人、また学生時代にACEの学生チームでインドと交流していた(かつ子どもの頃インドに住んでいた)人1人、と、実はインドとの繋がりをもつメンバーが多いのです。

そんなACEではありますが、現在行っている、ピース・インド プロジェクトが8月で終了することになり、2004年頃から続いてきたインド国内での支援事業について、そのあと、ACEとしてインドの事業を継続するか?終了してガーナに集中するか?それとも?という話を昨年の合宿で行いました。

結論は、インドの事業は形を変えて継続するということになりました。合宿で話し合って団体としての決断したことですが、どうしてもやめるという風に舵を切ることができなかった自分もいます。

団体として持っている人的、金銭的リソースが限られていることを考えれば、国際協力としてはガーナに集中したほうがいいという結論に至ってもおかしくはなかったのです。きっと、優れた経営者ならそう判断していたのでしょう。

でも出来なかった。

それでよかったのだろうかという想いも心の片隅に残しながら、この6月の2回の出張を経て感じているのは、個人的にも、ACEとしての事業展開としても、インドとのつながりを保つことの意味、意義です。

ひとつは、これは極めて個人的なレベルの話になってしまいますが、なんだかんだ言いつつやっぱりインドが好きで、魅了されているということです。奥深さ、長い歴史(占領され、その後独立を勝ち取った国の経緯)、多様さ、複雑さ、混沌としているようでオーガニックに変化、適用する様。ひょえーっ!と思うことも含めて、一旦それを受け止めている自分がいるような気がします。

もうひとつは、インドにある格差が依然と大きくあり、児童労働、貧困を含め構造的な課題が存在するということです。

昔、飛行機の中で会った人とインドで仕事をしていると話した時”How can you stand the poverty?”(「どうして耐えられるの?あの貧困に?私は耐えられないわぁ」という感じ)と言われたことがあります。

その時に心の中で強く「私は目をそらさない」と誓ったことを、最近思い出しました。

人口は増え、経済はこの20年で見違えるように発展し、大きく変わっていくインドは、日本よりも希望に溢れているのでは、という考え方も出来ます。私の中でもそういう風に感じたり、インド人の人に話したりしている時もあります。

でも今月、インドで活動するいろいろな人たちと話をしていく中で、インドなりの難しさもいろいろあることもうかがえました。そして街のあちこちで、働いたり、物売りをしたり、物乞いをしたり、路上で生活している家族を見ながら、そこにある構造はあまり変わっていないという感覚も持ちました。

そうした構造を変えることは、巨大なインドですので私たちだけで出来ることでは到底ありません。しかし、もっと小さい単位、日本でいう自治体レベルで、具体的な取り組みを進めることで子どもの権利を保障する仕組みを強化することはできるかもしれないという感覚を持ちました。

そしてもうひとつは、子どもの権利という観点から日本の事業、また児童労働フリーゾーンという意味でガーナの事業との相互作用を期待できるのではないかということです。

実は子どもの権利保障という観点では、インドは日本よりも整っている部分があるなということも感じました。24年前に、国際子ども権利センターの職員としてやりとりをさせていただいていたバンガロールにあるNGOの方を訪ね、お話させていただいたのですが、日本には子どものコミッショナーがいないと言ったらびっくりされました(苦笑い)。この団体では、子どものが自治体の施策に参加する仕組みを、カルナータカ州内で実践として進めてきて、それから条例化するということを行ったそうです。24年ぶりの再会なのに話しだしたらお互い止まらず、むしろこちらが教えてもらうことのほうが、多いような状況でした。

またピース・インド プロジェクトの視察で地域の労働管理事務所をおうかがいしたときには、児童労働は減少してきたが、自治体内での部署間の連携が課題という話も聞きました。地域単位で児童労働をなくしていく取り組み、エリアベースの取り組みについては、ガーナで自治体向けの研修なども行ってきていることもあり、地域のボランティアとして活動する方々含め、どのようにその人たちの能力やモチベーションを高めていくかということも共通の課題だと感じました。

そんな形で中身の濃かった6月、そしてインドでの生活を終えようとしているところです。
日本では暑い日があったり梅雨らしいジメジメがあったりあまり過ごしやすい季節ではないかと思いますが(バンガロールはそういう意味では高地のため比較的涼しく快適でした)、夏本番に向けてどうぞお体にお気をつけてお過ごしください。そしてまた日本で直接お目にかかれることを楽しみにしています。

PS ACEでは、現在クラウドファンディングを実施しています。既にご寄付いただいた方も多くいらっしゃり、ありがとうございます!
7月31日までの実施なので、いまちょうど折り返し地点なのですが、ご支援いただいている人数が伸び悩んでおります。内容がわかりづらかったか、子どもの権利を前に打ち出すことはまだ日本では受け入れられづらいのか、と悩んでおりますが、そもそもこのクラウドファンディングのサイトに来て下さる方の数自体があまり多くないというのが現状のようです。
これからまだ1か月、クラウドファンディングが続きますので、みなさまが応援いただいている団体がいまこのような取り組みをしているという情報を、お友達のみなさまにお伝えいただけたらありがたいです!

【クラウドファンディング】
「子どもの権利をあたりまえに!今、ACEと一緒に未来へのアクションを」
https://readyfor.jp/projects/ACE_SDGs2023

2023年6月 ACE代表 岩附由香 

 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。