岩附通信 | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

児童労働のない未来へ-NPO 法人ACE代表 岩附由香のブログ

岩附通信

2024年9月6日

【岩附通信vol.43】「自分を取り繕う必要はもうない!」~解き放たれたACE合宿~

こんにちは!今月も沖縄より岩附です。いつもご支援をいただきありがとうございます!

これを書いている今日(7/29)は、沖縄県うるま市において、子どもの権利実践研修を実施しました。
今回はうるま市・うるま市教育委員会からの後援もいただき、自治体職員のみなさんの参加を想定し、かつそこに地元の若者も参加してもらい、若者の声も研修内で聴くという、新しいバージョンで初めての実施です。
うるま市のパートナー団体URUFULL(ウルフル、と読みます)さんが培ってきた若者たちとの関係性があるからこそ成り立ったこの研修。参加してくれたみなさんに感謝です。

そして今月はじめ、ACE合宿を行いましたので、今日の通信はそのことを書きたいと思います。
実はACEの職員はフルリモート、全員自宅から働いています。
4月からスタッフも増え、お互いオンラインでは毎週顔を合わせていても、実際には対面で会ったことは一度もない、という方々が結構いました。
また、業務上関わり合いがある人とはよく話しますが、そうではない人との会話はオンラインだとどうしても限られてしまいます。

そのため今回の合宿は、お互いを知り合うこと、組織の理解を深めること、またNVC(Non-Violent Communication、非暴力コミュニケーション)を体験することをねらいとして、プログラムを練りました。

遠方在住(沖縄、広島など)の参加者の移動時間を考慮し、2泊3日といっても、1日目の午後から3日目の午前という実質2日間のプログラム。
今回の合宿はこういう感じにしたい、というイメージが自分の中にあったので、様々な業務の合間を縫いながらイニシアチブをとってきました。

そんな合宿後のアンケートで、ある職員がこんな回答をよせてくれました(一部編集しています)。

「入職してからこれまで、多くのスタッフの方々とオンラインのみの関わりで、相手の息遣いや顔の表情、ボディランゲージが分かりづらく、どこか勝手に自分が作り出す一番怖い印象(どこか距離がある、自分をよく思っていない、等)を形作ってしまっていました。

実際に会って話す時も最初は緊張しましたが、プログラムでの時間やその後の夜ご飯、お酒を共にする時間を通して、みなさん一人一人が私の作った虚像とかけ離れていることを実感することができました。

そして、みなさん一人一人の実像がどんな姿かを実感すると同時に、みなさんの優しさやどんな人でも受け入れるという姿勢に気づき、それにより、自分自身がどんな人間であるのかを取り繕う必要がなくなったのかなとも感じています。

今までいろんな組織に属してきましたが、どこに居てもずっと自分自身を取り繕って、良いように見せたい、できないとダメだと思って生きてきたように思います。そしてそれが自分を苦しめていたのだと改めて気づかされました。
多くの気づきを教えてくれた初めてのACE合宿となりましたので、とても満足しています。」

・・・企画メンバーとして、由香、感動です。

2日目のNVC研修では、渋谷聡子さんを講師に迎えて自分自身の感情とニーズに向き合い、抱えていた想いを表現し、自己理解を深めたスタッフが多かったと思いますし、そうした場を共有できたことで、他者理解も深まったと思います。

合宿の3日目には、それぞれの大切にしたいニーズを言語化し、それを表現するためのアクションを決めて宣言しました。

こうしてそれぞれにインパクトのある合宿となったと思いますが、私自身、この合宿後にオンラインで会議をしたとき「・・・・質感が違う・・!!!」ということに驚きました。
コロナ前の事務所があった時のメンバーの数と、そのあとフルリモートになってから入職したメンバーの数がちょうど半々ぐらいになってきましたので、やはり実際に会って、全身全霊でその人を感じ、対話の時間をとっていくことの大事さをひしと感じました。

ACEでは2014年から「学習する組織」やNVCの研修を通じ「関係の質」を改善させることに注力してきました。
遠回りのように見えて、こうした研修などを通じて職員同士の関係性の質を高めていくことが、事業の成果を最大化することにつながると考えています。

お互い人間ですから、意図していなくても傷つけてしまったり、思い込んでしまったり、行き違いが生じてしまったり、コミュニケーションの課題はつきることがないと思います。
それでも、それをそのままにせずに、対話できること、そういう場・時間的スペースをきちんと確保していくことも、組織運営では大切なのではないかと思いました。

そんなことを書きつつ、個人的には反省点も多い日々・・・ではありますが、自分自身の振り返りもしつつ、自分の箱にとじこまらずに、個々の力が出せて、イキイキと働けるACEを目指していきたいと思います。

暑い日が続き、水害も起きるなど、楽しいことばかりではない夏休みかもしれませんが(個人的には、夏休み中の子どもたちのお昼対応・塾のお弁当作りに悩まされ中です)、みなさまが無事にこの夏を乗り切れますように。

2024年7月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2024年7月31日

【岩附通信vol.42】クラファン、イベント、ガーナ出張、沖縄出張…盛沢山!な6月が終わります

岩附通信Vol43

みなさんこんにちは!個人的には怒涛だった6月が終わりますが、みなさまはどう過ごされましたか?

まず、6月28日までのクラウドファンディングにご寄付、ご協力をいただき、本当にありがとうございました! 今年も目標を達成することができました!本当にありがたいです。

この通信は毎月ご寄付をいただく子どもの権利サポーターと、毎年会費を頂く会員の皆様を中心にお送りしていますが、いつものご支援に加えてのお願いとなってしまい恐縮です。 

本当はクラウドファンディングなしでも活動が成立する状態を目指したいのですが、現状はまだまだその理想の状態とは距離があり、そのギャップを埋めるクラウドファンディングに頼らざるをえない状況です。 今年も達成でき、本当にありがたいです。ありがとうございました。 

いま、沖縄から帰る飛行機でこの通信を書いています。 6月は、クラファンに加え、児童労働ネットワークの20周年イベント、その次の日からガーナ出張、ガーナから帰って1週間後に今度は沖縄への出張と、目まぐるしい1か月でした。 かつ今回の沖縄出張は、夫の海外出張と重なるというハプニングもあり、子どもたちの面倒を見てもらうのに妹に泊まりにきてもらったり、お友達の家に泊めてもらったりと、様々なご協力も総動員!でなんとか乗り越えました。   というわけで、今日の通信は6月の振り返りを少し出来ればと思うのですが、今回の沖縄出張がかなりタフだったためまとまりがない可能性大です。お許しください。

ガーナ現地からのお便りをみなさまにも送らせていただいたかと思いますが、カカオの収量の激減に驚きました。 木の老化、気候変動、違法な小規模金採掘の影響、またカカオの木がかかりやすい病気が流行るなど、複合的な要因によるものと思われます。

カカオの買取価格がかなり上がっていますが、その上回りをもってしても収入が減ってしまうほどの減少です。

また、ガーナ政府も財政難な中、カカオの収量が国全体で減っているため、ますます財政難となり、例えば教科書など政府が本来用意すべきものすらも、行き渡らせられないというようなことも聞きました。 自分たちではコントロールできない構造の中で起きていることに、農家も、子どもたちも大きな影響をうけている中、私たちとしてもどう対応すべきなのだろうか、ということを考えさせられました。

今回の沖縄出張では、子どもに携わるおとなの方々への「子どもの権利実践研修」を那覇市で、小学5、6年生の子どもたち向けに子どもの権利のワークショップをうるま市で実施するというのがメインの活動でした。

おとなの方々への研修は、会場の都合や、平日の午後子どもたちとの対応をする方々も多いことを加味し、9時半スタート、13時15分にプログラムが終わるよう、通常4時間のプログラムを3時間半にきゅっとまとめて実施しました。 35名ほどの方々にご参加いただき、「自分の地域でもやってもらいたい」という要請も頂くなど、この研修は形も決まってきて、展開をしていけそうな気がしています。 

子ども向けの「わたしらしさを大切にする子どもの権利ワークショップ」は、これまでの形から内容を変えて、「意見を表明する」というところまで踏み込めるようにとブラッシュアップしている過程だったということもあり、かなり迷いながらの実施でした。 

日本では小学校の授業で子どもの権利を学ぶようになっていないこともあり、「はじめて知った」という子も多く、子どもたち自身に伝えていく必要性を感じましたが、「権利」という目に見えない概念を実感してもらうこと自体がやはり難しい!と感じました。 

今後またうるま市内の小学校で実施していく予定ですので、良いものにしていけるといいなと思っています。

飛行機が着陸態勢に入りました。この通信も書き終わらなければいけません。 やっぱりまとまりのない内容になってしまいましたが、ここまでとします。 もう充分暑いですが、7月に入りいよいよ夏本番!良い夏をみなさんが過ごされるようお祈りしております。 それではまた来月! 

 

2024年6月 ACE代表 岩附由香

 

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岩附通信

2024年6月30日

【岩附通信vol.41】「ビジネスと人権」作業部会の報告書が公開されました

  

5月29日の日本時間の夜の間に、国連「ビジネスと人権作業部会」の方々が昨年7月に来日され行った一連の調査の報告書 が発表になりました。それを受けて急遽、ヒューマン・ライツ・ナウさんが開催される記者会見に呼んでいただき、昨日記者会見に参加してきました。
NHKデジタルや朝日新聞デジタルでは記者会見の記事が出ていました(ACEの名前は出ていませんが)。
記者会見の前半はこの報告書全般について、後半はジャニーズ事務所の被害者の方々の会見という構成だったのですが、後半のほうがよりメディアの注目が集まっていたようです。 

ACEは昨年7月の来日の際にもヒアリングに参加させていただき、またそのあともジュネーブや日本で作業部会の方にメッセージを送り、かつ情報提供という形でコメントも送付していました。
その結果、来日直後の記者会見ではコメントのなかった児童労働についても、今回の報告書では言及されました!課題だけでなく、カカオの児童労働にJICAと企業が協働して取り組んでいる事例が好事例として言及されていました! 

記者会見で私から申し上げたのは3点。

1つは児童労働のことで、グローバル経済の中 日本が多くのものを製造、消費していることを考えるとそれ相応の責任がある一方、サプライチェーンの人権課題についてその責任が十分に果たせていないこと。
企業のサプライチェーンにある児童労働に企業が取り組むためには、政府からの明確なメッセージが必要で、それが法律であること。
人権デュー・デリジェンスの義務化の法整備を進めることを今回の報告書でも勧告していますので、それを進めることを政府に求めたいです。

また、国内の児童労働においても、今月東海地方で子どもを働かせていたとして子ども・若者支援を行っていた方が逮捕されるという事件がありましたが、こうした子どもの危険有害労働から子どもを守る施策が十分ではありません。

報告書でも「児童労働」という考え方そのものが法律で定義されていないことや、政府としての行動計画が必要であることを報告書でも言及してもらったので、今後国内の児童労働についても具体的に取り組みが進むよう引き続き働きかけていきたいと思います。 

2点目は子どもの権利についてです。
こども家庭庁が出来、こども基本法が出来ましたが、子どもの権利の考え方自体がまだ十分に浸透出来ていません。
記者会見のあと質問をいただいて詳しくお話しましたが、ジャニーズ事務所の課題についても子どもの権利侵害そのものであり、また子どもたちのそうした訴えにきちんと大人が耳を傾けてこれなかったからこそ何十年も続いてきたという背景があると思います。 

3点目は国内人権機関について。
今回の報告書では「これ以上の遅滞なく設立を」と勧告に書かれています。
これまで何度か設立されそうになっては最終的にうまくいかなかったこともあり、実現に向けたハードルは高そうですが、これも今こそ取り組まなくてはいけないと思っています。 

こうした機会をいただき発言しましたが、実は本当に準備時間がとれず英語の報告書をざっと読んで、これまでのACEの指摘事項や、いま公開に向けて準備しているACEの政策提言書や声明文を見返して、なんとかお話をすることが出来ました。
時間がかかっていてなかなか公開できてないこうした文書ですが、頭を巡らせ、議論し、整理しておいたことで、記者さんからの質問にも答えられました。

実はこの記者会見、開催決定が前日の夜で、次の朝は娘の国会見学でお弁当を作らねばならず、行くのはお姉ちゃんですが妹が朝そのお弁当を「作りたい」といい、朝一緒に卵焼きを創り、おむすびをつくり・・・。
内心焦っていたけど平和に出来て送り出したと思っていたのですが、夜に娘たちとお弁当について話していたら、妹のほうが「(作っているとき)ママはちょっと迷惑そうだったけどね」としっかり私の心の葛藤が読み取られていることが判明しました・・・。
侮れないです、わが娘。 

さて、いよいよ6月。
6月12日の児童労働反対世界デーに向けてと、また現在絶賛挑戦中のクラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/ACE_SDGs2024 )の応援のお願いにと、奔走中のACE事務局です。
既にご支援をくださったみなさま、ありがとうございます。
最後にいくつかお知らせをさせてください。 

・6月6日〜12日にかけて「1分でわかる児童労働のない世界のつくり方」動画をみんなでシェアするハッシュタグキャンペーンを実施予定です。ぜひその期間にACEのSNS(インスタ、X、FB)をみてACEの投稿をシェアしていただけたらありがたいです! 
Facebook:https://www.facebook.com/acejapan
Instagram:https://www.instagram.com/npo_ace_japan/
X:https://twitter.com/ace_japan

・6月7日(金)10時~ テレビ神奈川「イイコト!」に出演します 

・6月7日(金)15時~18時 児童労働ネットワーク主催のシンポジウム 
→スペシャルゲストや、日本政府の方々含めたなかなかそろわない登壇者がそろって報告をしてくださいます。ぜひご参加ください。
https://20240607-clnet.peatix.com/ 

・6月13日(木)20時~21時15分 ACEオンラインイベント(ガーナから中継) 
→広報の赤坂、CRADAのスタッフと一緒に、ガーナから中継する予定です。
うまくつながるのか若干不安です。
去年もインドからの中継、めっちゃワタワタした記憶が・・・ぜひご参加ください https://acejapan.org/info/event/20240613  

そんなこんなで相変わらず私は毎日落ち着かない日々ですが、すごく暑かったり雨だったり、天候が不安定な日々、みなさま体調崩されていませんでしょうか?
インドデリーは52度とニュースで聞き、昨年6月にインド北部を旅行して確かにものすごく暑かったけれどあれ以上か・・・と世界の気候変動の影響を心配しつつ、日本も豪雨などの災害が夏に起きやすいので今年は起きませんようにと願いつつ、なんとか6月を乗りきりたいと思っている5月の終わりでした。
乗り切れたかどうかはまた来月、この通信で・・・!!! 

2024年5月 ACE代表 岩附由香

 

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岩附通信

2024年5月31日

【岩附通信vol.40】最悪の形態の児童労働条約25周年と新しいはじまり

岩附通信Vol40

新年度、新学期、と新しいこといっぱいだった4月も終わり、ゴールデンウイークを迎えました。みなさま、一息つけていますでしょうか? 

ACEは3~4月で産休・育休に入るスタッフが2名いることもあり、この3~4月で5名の方々が新たにスタッフとして加わりました。
完全リモートワークならではで、居住地も沖縄、広島、香川、神奈川、東京とバラバラです。リモートで、職員間のコミュニケーションは成り立つの?とよく聞かれますが、年に一度はスタッフ合宿でみなさんとリアルで会う機会を持つべく、7月に開催する合宿についても鋭意準備中です。 

準備中といえば、GWあけすぐにまた今年もクラウドファンディングがスタートすることになり、そちらの準備も佳境を迎えています。そして、6月1日からはじまる児童労働ネットワークの「ストップ!児童労働キャンペーン」も。
6月12日の児童労働反対世界デーに合わせての世論啓発キャンペーンですが、今年は児童労働ネットワークが20周年ということもあり、6月7日(金)にシンポジウムを開催することになりました。多くの方に登壇いただく予定で、その調整も絶賛進行中です。 

毎年この時期になるとILO(国際労働機関)から、今年の児童労働反対世界デーのテーマが発表されます。
今年のテーマは”Let’s Act on our Commitments: End Child Labour”(児童労働を終わらせるためのコミットメントを行動に移そう)。
今年は、最悪の形態の児童労働条約(*1)が採択された25周年という節目であり、かつ世界の児童労働が増加傾向にあり、
児童労働撤廃の目標が目前に迫る中、こうしたテーマになったようです。
(詳細はこちら https://www.ilo.org/topics/child-labour/campaign-and-advocacy-child-labour/world-day-against-child-labour) 

(*1)最悪の形態の児童労働条約は、ILOの8つの基本条約の1つで、子どもの安全、健康、道徳を害するおそれのある危険有害労働を禁止しています。
人身取引、債務労働、強制労働、児童買春、および児童ポルノ、犯罪など不正な活動、武力紛争での子どもの使用が含まれます。

この最悪の形態の児童労働条約については、私自身思い入れがあります。
ILOのこうした国際条約は2年間かけて審議されるのですが、1998年、その審議1年目のILO総会の一部を垣間見る経験を得たのです。
ACEが活動をはじめたきっかけの「児童労働に反対するグローバルマーチ」の終着点がここジュネーブであり、このILO総会の場だったのです。
みんなでジュネーブの街をマーチして、ILOの裏庭でモニュメント設立の儀式も行ったのですが、その時の当時のILO事務局長が、世界から集まった元児童労働者に向けて「ILOは働く人のためにあります。なのであなた方のためにもあるのです」と言ってくれたことも、とても感慨深く見ていました。 

実は、活動をはじめたばかりで若かった私にとって、ILOでの議論は、えらく形式的に感じられて、「こんな議論を子どもたちから離れたところでしていて、本当に子どもたちにとって役立つ法律になるんだろうか」と、やや半信半疑でした。
しかし、実際に条約が出来てみると、それまでどうしても「児童労働とは何を指すか」の定義が議論になって前に進まなかった議論が条約によって定義がなされたことにより前に進むようになり、児童労働があること自体を公に認めたがらなかった途上国政府が「あるし、取組みます」と態度を変え、ILOの技術協力プログラムによって各国が時限的目標を定めて児童労働撤廃を目指すなど、本当にパラダイムシフトといってもいいぐらいの変化を目の当たりにすることになりました。
一番はじめの「児童労働に反対するグローバルマーチ」の活動で、こうした国際法の威力、そしてアドボカシー活動の重要性や意義について、体感したのです。 

そんなアドボカシー活動を職員として私と一緒に担ってくれていたスタッフがこの6月で退職することになりました。
彼女は実は長くACEの会員で、かつこのジュネーブでのグローバルマーチに一緒に参加したという体験を共有する唯一の存在で、2016年に職員としてACEに参加してくれてから、日本の児童労働のレポート作成や啓発活動、沖縄でのプロジェクト立ち上げ、G7やG20でのアドボカシー活動を一緒に企画し運営してきた、私にとってかけがえのない存在だったので、とても寂しいのが正直な気持ちです。
アドボカシー活動は政策が動いていくよう働きかけをするのが主な活動なので、チャンスが巡ってきた時に、ばっとそれを掴まなくてはいけない時があります。
自分たちのタイミングでは選べないので、ちょっと大変だな、、、と思うときも正直あるのですが、こういう「今だ!」というときに、「やりましょう!」っと一緒にイケイケモードになってくれる、いや、むしろ私よりもイケイケな時もある、貴重な存在でした。 

というわけで、4月は新しいスタッフへの研修と、退職するスタッフからの引継ぎと、と同時並行で慌ただしく終わり、これから私が関わる複数のプロジェクトが新しい体制で進んでいきます。
フレッシュな視点で今やっていることを見てもらうと、なぜ?どうして?も結構あり、こうやって組織の新陳代謝が起きていくんだな、と実感しつつ、
チョコのシーズンの次は児童労働反対世界デーに向けた盛り上がりを作っていきたいと思います! 
 

PS  5月7日より、ACEの活動資金を集めるためのクラウドファンディングがはじまります。
サポーター、会員として既にご支援をいただいている皆様への重ねてのお願いとなり恐縮ですが、別途ご案内を送らせていただきますので、ご支援、また情報の共有などでご協力をいただけたらありがたいです。
実は、クラウドファンディングのご支援いただいている方の中には、「知り合いからのメールの転送で知った」という方もいらっしゃいます。
お友達・お知り合いにご紹介いただけるととても嬉しいです!! 

 

2024年4月 ACE代表 岩附由香 

 

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岩附通信

2024年4月30日

【岩附通信vol.39】 Being(ビーイング)が変わるとDoingが変わる

岩附通信vol39

春到来で花粉にやられまくっていた方も多かったであろう3月ももう終わり。
年度末で忙しくてこんな通信を読んでる場合じゃない!みたいな方もいるかもしれませんが、みなさまいかがお過ごしでしょうか? 

私のFacebookのタイムラインには、お友達のお子さんたちの卒業写真が溢れ、成長の喜びを分けていただき勝手にお祝いムードに自分もなっていました。
サポーター・会員のみなさまにもそういう方がいらっしゃるかもなので、ご卒業おめでとうございます!!! 

そしてもうひとつ心が動いたのは、ご自身が大学院などで学位を取られた晴れ姿をご報告されている方(その多くは私よりも年上の方)の姿で、何歳になっても絶えない向学心や探求心にすごく励まされる自分がいました。
そんな私も先週とある研修を受けてきまして、そこで大いに感化されたので今日はその話を少し。 

研修の中で出てきたコンセプトが、BeingとDoingでした。
Beingとはその人自身の在り方、Doingは行動です。どんなBeingでありたいのか、という投げかけをされて、改めて考えてみると、必ずしもありたいBeingではないことに気づきました。
「代表としてふさわしいことは何か」「ああまだあれがやれていない」「責任をとらなければいけない」といつも頭の中でバックグラウンドミュージックのように流れていて、自分が本来在りたい姿(Being)ではないかもしれない、と気づいたのです。
そしてそのBeingをありたいものに近づけていこうと意識してみると、Doing(行動)が変わる、という体験をしました。
自分で実感するだけでなく、周りからも「全然違う」と言われ、このBeingがいかに大事か、を思い知らされた次第です。 

研修の学びは割と体感的なものだったので、改めてインターネットで調べてみると、Work Design Libraryというウェブサイトにたどり着きました。
それを参考に整理してみると、Beingとはその人自身の在り方や価値観だけでなく、感情などもここに含まれ、Doingは行動だけでなくその結果、成果も含むような解説でした。
会社などの組織ではDoing(行動とその結果)で評価されるため、このDoingがまるでその人の価値であるように思ってしまうけれど、実は、多くの人が求めているのは、一人の人間として自分が感じていること(=being)を受け止めてもらうことであり、その自分の存在価値を実感できたら、Doingに対するエネルギーが沸いてくる、とのことでした。 

実はいま、NVC(非暴力コミュニケーション)も学んでいるのですが、ここで取り扱うのも、感情とその奥にあるニーズであり、Beingに関することです。
ACEではスタッフ研修等を通じ組織の中の関係性の質の向上のためこれを取り入れてきましたが、現在日本の子どもの権利に関する事業の中でも取り入れ、実践しています。
ACEで働く人のBeingを大切にすること、を私たちなりにやろうとしてきたのではないかと思います。 

そして、じゃあ組織のBeingは何だろう?と考えたとき、それがACEのパーパスやフィロソフィー、WAYで表現されていることと近いのだろうな、と思いました。
おりしも、昨年11月にACE会員総会で可決された定款変更について、東京都から認証がおりたため、ACEの目的も公式に変更することができました。
「世界の力を解き放つ」というパーパスに含まれる要素には、ACEが組織として関わる人のBeingを認め、その人が持つ力を発揮できる場を作ること、そして私たちの周りにいる方々、企業、政府等の組織も含めて、私たちのBeingとDoingによってインスパイヤし、その組織の行動が変化する、そんなイメージが含まれているのかな、と思います。
詳しくは4月はじめにお手元に届くであろう年次報告書に書かせていただいておりますので、ぜひご一読いただけたら幸いです。 

 4月から心機一転、新しい職場や新しい場で新たな役割をお持ちになる方々もいらっしゃるかと思います。
新年度、ご自分らしいBeingでスタートできますように!
わたしはしばらく「パワフル」beingでいこうかと思っています! 

PS 先週、副代表の白木から、アニダソチョコレートを春のギフトとして購入して頂きたいと皆様にメール差し上げたところ、お陰様でたくさんのご注文を頂きました。
ありがとうございます!!!
オンライン販売を委託しているショコラナビさんも驚かれるほどの反応の良さとのことで、担当スタッフもいかに日々みなさまに支えられているか、至極実感していました。
まだ在庫は十分にありますので、是非、春の門出のお祝いギフトとして、「希望」という名のチョコレートを広めて頂けると幸いです。  
https://suit-chocolate.com/ace-001/   

2024年3月 ACE代表 岩附由香

 

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岩附通信

2024年3月31日

【岩附通信vol.38】バレンタインにまつわるエトセトラ

岩附通信38

2月14日のバレンタインデー、みなさんはどう過ごされましたか?
ACEでは今年は25周年記念で作成した「アニダソ」チョコレートをいろいろな場でお手に取っていただけるよう、広報活動に勤しんでいました。

このチョコレートの名前「アニダソ」は、ガーナのチュイ語で「希望」という意味。
児童労働をなくしていくこと、そして子どもを搾取せずともチョコレートができるようチョコレート業界自体がシフトしていけるよう、ACEが取り組んでいる「しあわせへのチョコレート」プロジェクトで見えてきた希望が、込められています。
(詳しくは、ぜひこちらをご覧ください:【連載記事】The Journey of ANIDASOƆ: 25年間の「希望」をつなぐチョコレート 

そのためバレンタインといえばACEにとっては「繁忙期」。
かつて、「しあわせを運ぶ てんとう虫チョコ」という商品をACEでも販売していたのですが、その頃はスタッフの夢にてんとう虫のチョコが出てくるほど、スタッフみんな文字通りチョコまみれになっていました。

先日、外部の方とある事柄の実施時期を検討する中、ACEスタッフが口々に「そうですねぇ、バレンタイン後ですかねぇ(バレンタインまでは忙しいので)」というのを聞いて、その方ははじめ「バレンタインって、そんなに個人的に大事な行事なんだ、ACEのスタッフは乙女だなぁ」と思われていたそうです。
それを聞いたスタッフは「いえ、違います、仕事です」とバッサリ(笑)。

ACEでは、全員自宅からのリモートワークのため、毎日13時半に「昼ミーティング」と題して15分、集まって点呼をする時間があります。
点呼の代わりに日直さんがお題を出して、それぞれ一言応えるのですが、その中で「バレンタインの思い出」というお題が出ました。
中学の時男の子に公園で渡したという甘酸っぱい思い出や、小学生の息子さんに「恋って何?」「愛って何?」っと最近聞かれたエピソード等、さまざまなエピソードが繰り広げられ、私もいろいろ思い出しました。
小学校の時、男の子に手作りチョコをあげて、お返しにもらったキャンディーの入った缶に「好きな子ランキング」の紙が入っていたこと(2位で嬉しかったので覚えている)や、アメリカの公立高校に通っていた時は、1ドルでバラが1本買えて、バレンタインデー当日どれだけそのバラを抱えているかで人気がわかることなど。

おとなになってから嬉しかったバレンタインといえば、2012年、ACEのガーナでの児童労働撤廃プロジェクト、スマイル・ガーナ プロジェクトに参加している子どもたちから、詩が届いたときです。

—————————
もし毎日がバレンタインデーだったら、
毎日みんなに伝えたいことがある。

世界のひとりひとりに味方になってくれる人がいたらいいのに
強い意志をもってねばりづよく仕事をし
子どもたちに機会と権利を与えてくれる
重荷を軽くし、笑顔をもたらしてくれる
そんな、「スマイル・ガーナ プロジェクト」みたいな人が
みんなにもいたらいいのに

そうすれば、世界はもっと生きやすくなる
そんな素晴らしい世界になったらいいのに

ACE、そして日本のみなさん、
あなたは私のバレンタインです。
わたしの人生をゆたかにしてくれた、そんな特別な存在です。
(以下略)
—————————
詩の全文はこちらから:ガーナの子どもたちからバレンタインメッセージが届きました

スマイルガーナへの支援は、ACEの「てんとう虫チョコ」を買ってくれている人たちがいるから、寄付をくれている人たちがいるから、成り立っているんだよ、というのを伝えていたので、この詩はチョコまみれになっていた私たちにとって、本当に励まされるものでした。

アニダソも500円が寄付となるチョコレートです。
よろしければ手に取っていただき、こんなガーナの子どもたちの話をどなたかとしていただき、みなさんのバレンタインにまつわる思い出に添えていただけたら嬉しいです。

アニダソ販売店の情報はこちらから:アニダソチョコレート取扱店

PS. ACEのチョコレートと児童労働への取り組みのこれまでと、世界の動向を書いた記事が朝日新聞のwith Planetで掲載されました。
よろしければそちらもぜひ、ご一読いただき、周りの方にご紹介いただけたら嬉しいです。
朝日新聞 with Planet|甘いチョコの苦い現実 児童労働撤廃に向けた歩みと最新の動きとは?

2024年2月 ACE代表 岩附由香

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岩附通信

2024年2月28日

【岩附通信vol.37】 「ネットワークやるより自団体のことを」を越えて

岩附通信37

こんにちは、岩附です。
新しい年はじめての通信になります。今年もどうぞよろしくお願いします。
まず能登半島地震で被災されたみなさまに心よりのお見舞いを申し上げます。
年初から、能登半島地震、飛行機事故と「おめでとうございます」と軽やかにはいいづらい重たい雰囲気の幕開けでしたが、関東はやっと冬らしい冬の気温になりました。
みなさまいかがお過ごしでしょうか?

私は先週は、1月29日(月)に開催された、外務省と厚生労働省が共催する児童労働に関する意見交換会の準備などに勤しんでおりました。
この会議には「児童労働ネットワーク」の事務局長として出席しました。
その関係で過去の実績を調べていたら、自分が書いた児童労働ネットワークに関する記事に遭遇し、「そんなこともあった・・!」と思いだしたので今日はそのことを書きたいと思います。

ACEは様々なテーマのNGOネットワークに入っております。
関与の濃淡はもちろんありますが、その中でもACEが設立に深くかかわり今も事務局を務めているのが「児童労働ネットワーク」です。

児童労働ネットワークを立ち上げたのは2004年。
2002年ぐらいから準備会合は始めていましたが、当時はACEで有給で働く専従スタッフはいませんでした。
私岩附と、現副代表の白木が、別のフルタイムの仕事をしながらの準備を続けていました。
 
準備会合は確か18時半くらいからだったのですが、主催者である私たちが遅れてしまうこともあったりし、準備会合につきあっていてくれた方々の忍耐に感謝という感じでした。
 
そうしてようやっと立ちあがった2004年。
とある国際協力NGOに、このネットワークに加盟してくれないか?のお願いに行ったときのことです。

一通り説明をしたあと、 「岩附さんの団体は、規模どれくらいなの?」と聞かれました。
当時、前年度の決算は100万円くらい(まだNPO法人化もしていませんでした)だったのでそう伝えると、 

「ネットワーク作るより、まず、自分の団体をちゃんとやったほうがいいんじゃない?」

と言われてしまいました。
労働組合のみなさん、NGO仲間のみなさんと、2年近く、さんざん議論を重ねて作った趣意書や規約を持って臨んだ勧誘活動、大失敗です。
それで泣きそうになりながら帰るという出来事がありました。
 
当時のACEのバリュー(団体の価値観・価値基準)には「ネットワークを最大限に活かします」というものがありました。
小さな団体でも、集まれば大きなインパクトを出せるのではと信じて、立ち上げようとしたネットワーク。
 
「そんなネットワークより、自分のことちゃんとしなさいよ、それからなんじゃないのネットワークは?」というご指摘に、
「ごもっとも」と思ってしまう自分がいる一方で、「いや、絶対、ネットワークに意味があるんだ」と思っている自分もいて。
「こんなネットワークを立ち上げるなんて、やっぱり私たちには無理なんだろうか」と自信を無くしてしまう出来事でした。
 
多分ACEのことを心配してくださってのご意見で、あれから20年近くたった今私が同じような相談を受けたら、もしかしたら同じように思ってしまうかもしれません。
でも、当時の何とも言えない気持ちも、ありありと思い出せます。
 
2024年で20年目となるこの児童労働ネットワーク、実績も確実に残しています。
児童労働の取組強化を求めるための署名活動でこれまでに集めた署名数は246万筆にも上ります。
また、昨年4月に倉敷で行われたG7労働雇用大臣会合に合わせて、世界の労働組合代表(L7)と市民社会(C7)との共同声明を出すこともできました。
こうしたことが実現できたのも、これまでのACEのアドボカシー活動の中で労働組合や関係政府のみなさんとの関係を築いてきたからです。
また、このG7をきっかけに、これまでの署名活動で求めていた「Alliance8.7」(アライアンスハッテンナナ:児童労働や強制労働に関わる国際枠組み)への日本の加盟も、昨年実現することができました!

日本国内の子どもの権利を守るためのネットワーク「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」を立ち上げた時も、その2年後にこども家庭庁の議論が持ち上がるとはその時はまだ見えていませんでした。
でも、そうした政府の議論が持ち上がって、何かアクションを起こそうと思った時に一からネットワークを築いていたのでは遅いのです。

先日、「関係性資本」という言葉を目にし、ああ、こういう視点は大事だなと思いました。
ちょっとググってみると、「人が大きなことを成し遂げられるかどうかは、他者の協力を得られるかどうか。その意味で、『私は何ができるか』という人的資本との対比として『私は誰の支援を得られるか』という関係性の充実度を表す概念が関係資本である」んだそうです。

実はネットワーク化とはこうした資本を蓄積していくことだなと思います。
そして大きな目的に向かって、個々の団体がそれぞれの活動に従事しながらも、共通の目的に向かい協働してアクションを起こし、連携して外へと働きかけていくことだなと思います。

結局そういうことが自分が好きなんだなというのも、振り返ってみると思います。
みなさまからご支援をいただいているおかげで、こうして大きな目標に向かってネットワーク活動が出来ることの喜びと幸せがあります。
本当にありがとうございます。

年のはじまりは不安が募りましたが、今年の終わりはどうか多くの方が安心して年越しができますように。
今年もどうぞ、ACEの活動への参加、ご協力を引き続きよろしくお願いいたします!

2024年1月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2024年1月30日

【岩附通信vol.36】 「ボスはパーパス」への道は楽しく険しい

岩附通信32

今年もご支援を継続していただき、ありがとうございました。 
2023年も残すところあと数日となりましたが、みなさまの一年は、いかがでしたでしょうか? 

今年1月の岩附通信では、組織づくり、ティール組織や、その背景にある考え方についてお伝えさせていただきました。
一人ひとりが自律的に動ける組織=自己組織化であり、そのコンセプトは「ボスはパーパス」。
上司に言われたことをやるのではなく、パーパスにどう貢献できるかを考え自分で動くことを前提としています。 

「ACEの活動の成果を出しやすくし、1人1人のスタッフの持つ力を最大限に引き出す結果につながることを意図し、その進化を遂げる2023年になることを期待しています。」
と今年1月の岩附通信に書かせていただいたのですが、振り返ってみると今年はそうした意図を現実化するための様々な仕掛けを検討し、着手し、試行をはじめた年だったと思います。 

(1)自己組織化、ホラクラシーの導入 
研修を経て2月からこうした制度を本格導入したことにより、ミーティングのやり方が抜本的に変わりました。
各自の役割に名前が付き、何を日常的に行うのかが明文化され、お互いその立場にたってやりとりを行うことで、誰が何をしているのかが明確になり、また意思決定の透明性が高まりました。
また業務に関わることについての新たな提案や、難しさを感じている点を表明する場が設けられていることで「なんとなく気になってはいるけどいいづらい」ようなことを出す場も出来たかなと思います。

まだ組織の中での運用は濃淡ありますが、私個人としては既に実践している会社さんなどから学ぶことが多く、ソース原理など新しい考え方にも触れる機会になり、大きな刺激を受けた1年でした。 

(2)ティール組織にあう人事制度の設計と試行 
組織内部のことになりますが、自己組織化に向けて重要だったこの部分についてもこの機会にお伝えさせてください。

自己組織化組織は、給与を自分たちで決める、そして全職員の給与が公開されるという形をとる組織がままあり、ACEもそのような形にシフトしていくべく、どのような給与体系が望ましいかを外部コンサルタントの方に入っていただきながら模索してきました。
このプロジェクト名はずばり、「誰も見たことがないけどいい感じの組織」(笑)。  

みなさまからいただいている大切なご支援からも出させていただいているACEスタッフの人件費。
透明性と納得性を保ちながらいかに自律的に決めることが可能か、私自身このプロジェクトに関わり悩みながらも新たな形に落とすことができました。

長年、人事制度・給与体系はどのような形が望ましいのか悩みつつ手が付けられていなかったので、ACEらしい、組織の行動規範であるACE’s WAYをベースに作られた評価軸により、今後ますますこの新制度がスタッフの力を出しやすく、能力を高めやすくなるよう祈りを込めて、新しい制度をいよいよローンチさせます。 

(3)自分の「願い」を自覚し、表現できることのパワー 
ここから少し事業の話になるのですが、いまACEで進めている「沖縄うまんちゅ子どもの権利推進プロジェクト」の話をさせてください。

このプロジェクトは沖縄の子どものWell-beingの向上を目指し子どもの権利研修やNVC(非暴力コミュニケーション)をベースにした研修等を沖縄で行ってきました。
ACEが組織内の研修でお世話になってきた渋谷聡子さんを講師にお招きし沖縄でも研修を親子向け、若者向け、学校の先生向け、子ども支援をしている人向けに行ってきました。

その中で思い知ったのが、NVCを通じて自分のニーズや願いに気づくことのパワフルさです。
そしてそれが表現されるとき、周りの人も含めてその人に関する理解が深まり、より1人1人が強くつながる感覚が生まれる場面が事業の中で何度かありました。

個人的にはそうした場が持つ、人の力を解き放つ力に改めて気づかされた年でした。
そして、そうした実践をACE内で地道に2014年頃から重ねてきたことが、いまのACEを形づくっているということも、実感した次第です。 

もちろん、全てが上手くいったわけでもありません。
事業面では特に見込んでいた事業収入が入らなかったり、事業運営上の大きな課題が持ち上がったりと、経営者として頭を抱えるようなモーメントも正直ありました。
また、本当にたくさんの方にご支援をいただきありがたい一方で、拡大していく事業には収入が追い付かず、財政的に厳しい側面は今も続いております。
今年度は組織のあれこれにかなり時間を費やし、割と険しい道をある意味楽しみながら追求し、結果的に組織形態としては大きく舵を切ることができました。来年度は、それが軌道にのり、成果に結びつく1年にしたいと思います。 

そして、組織としてどこに向かうのかにとって重要な、「ボスはパーパス」のACEのパーパス(目的、存在意義)も、11月の総会でご承認をいただき、新しいものになりましたので、こちらでも報告させてください。 

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ACE新パーパス: 
世界の力を解き放つ ―子どもたちに自由の力を、すての人に変革の力をー 
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12月はじめにこのお披露目パーティーを開催させていただきましたが、そこに来ていただいた方から「これまで話は聞いていたけど、あの場に行ってやっとACEのことが理解できた。あそこに集っていたような企業な、いろんな人の力を解き放っていく組織なんですね」と言っていただき、とても嬉しかったです。

私たちだけでは世界の大きな課題は変えることはできなくても、周りの関係するステークホルダーとして存在する人や組織に気づきをもたらし、その力に気づいて、共に行動してもらう―そういう存在として、これからも役割を果たしていきたいと思っています。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。 

最後に、ACEにとってはとても大きかったニュースをひとつ共有させてください。 

来年1月から、ガーナにおける児童労働フリーゾーンに関する業務をJICAからの業務委託で実施することが決定しました。
待ちに待った、以前実施した調査をふまえての、次の実践フェーズです。
この仕組みが、2025年にSDGsの撤廃目標期限を迎えてしまう世界の児童労働の撤廃への前進に向け大きな足掛かりと示唆を生むことを信じ、願っています。 

実はこう見えて(!?)「何一つ満足に出来ず今年が終わってしまう」と自分の力の足りなさに落ち込んだりすることもある私ですが、こうして振り返ってみると自分が思っていた以上の成果と頑張りがあったような気がしてきたので、ぜひ、1年をふりかえり、頑張ってきた自分に共感をしてあげてください。
そうだ、みんながんばった!!!とねぎらって、また新たな年をフレッシュな気持ちで迎えられたらいいなと思います。 

今年もご支援をいただき本当にありがとうございました。 
良いお年を、そして、2024年も楽しく、豊かで実りの多い1年となりますように!  

2023年12月 ACE代表 岩附由香 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2023年12月31日

【岩附通信vol.35】 国連ビジネスと人権フォーラムに参加してきました

岩附通信35

継続的なご支援、いつもありがとうございます!
現在欧州に出張しており、この通信は本来月末に送付するはずなのですが、1日ずれてのお送りになってしまいました(欧州はまだ11月30日ということで…)。

さて、今回11月27日~29日まで、国連ジュネーブ本部で行われていた「ビジネスと人権フォーラム」に参加してきました。
昨年もこの時期に音声でこの報告をお届けしたことを覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。毎年この時期に行われる会議です。

実は大学の先生が主催する「ビジネスと人権」に関する研究プロジェクトに私が参加しており、今回はその研究プロジェクトの関係で出張しました。
12回目を迎えるこの会議は、会場とオンラインで140ヵ国から3393人の登録があったそうです。

「ビジネスと人権指導原則」という言葉、きいたことがおありでしょうか?
2011年に国連で発表されたこの指導原則は、3つの柱からなっています。
【1】国家の人権保護の義務
【2】企業の人権尊重の責任
【3】救済へのアクセス

これだけ書かれてもなんのことかしら?と思う方もいるかもしれませんが、何が新しいかというとこの【2】が新しいのです。
これまで国際的な条約は国同士がお互い守りますよ、というもので、拘束力は国に対してしかありませんでした。
でも、この指導原則に【2】が入ったことで、条約のような拘束力はないものの、国際的に「企業も人権を尊重する責任がある」ことが、世界のスタンダードになったのです。

私はこれまで4回この会議に参加したことがあります。
「児童労働」はこの【2】の企業の人権尊重の責任と深く関係していて、実際に今回も多くのセッションで児童労働に関する言及がありました。
企業は、ものを製造する際に、その原料のサプライチェーンまで辿って、人権侵害がないかを確認したり、予防したりすることが、この指導原則が出来たことによって、求められるようになってきたからです。

今回は残念ながら児童労働を正面から取り上げたセッションはなかったのですが、いま、世界の企業の人たちがどのような関心事があるのか、また人権に関する様々な関係者が一堂に集まるこの機会に、多くのカギとなるプレイヤーのみなさんとつながることができました。
また、この期間中に国連のビジネスと人権作業部会の委員と、意見交換を行うこともできました。

さて、今回のビジネスと人権フォーラムで印象に残ったことをいくつかお伝えできればと思います。

1.欧州の人権・環境デューデリジェンス指令
この数年間、ずっと世界の注目を浴びてきたのが、欧州で議論されているこの指令です。
一説によると、早いと年内にこの内容が合意に至るかもしれないそうで、それが一旦決まると、今度はEU加盟国各国がそれに従った法律を作ることになります。
この法律は、企業に対して、人権や環境に関して企業が負の影響を与えていないか確認し、与えているとしたらそれをどう軽減し、また予防策をとるかの策を練ることを義務化するもになります。

この言葉自体はほぼあらゆるセッションに出てきたといっていいぐらい出てきたのですが、興味深かったのは、先進的に取り組んでいる企業(ネスレや、ウォールトディズニーなど、世界の名だたる企業の方々が来ていらっしゃいました)が気にしているのでは、どこまでの範囲でデューデリジェンスをしなくてはいけないか、ではなくて、「透明性」の部分だったということです。

これは、企業が把握した情報の開示を全てしなくてはいけないかどうかについてです。
情報を公開することによってネガティブな影響も企業にとってはあり得るとのことで、そのことをとても気にしている様子が印象的でした。

2.プラスチックに関する国際条約を作ろうとしている企業アライアンスがあること
ビジネスと人権フォーラムは3日間行われ、1日4コマ、最大3つのセッションが同時並行で行われています。

1日目の最後の時間枠がすべて環境系のセッションだったので、わたしの関心ズバリなものがない中なんとなく参加したプラスチック関係のセッションで知ったのは、プラスチックの汚染に関する国際条約を作ろうという動きがあることでした。
しかも、それを推進しているのがネスレとコカ・コーラが作った企業アライアンスということで、企業がアドボカシーを行っている実例を見れて、興味深かったです。

残念ながら日本に本社を置く会社はほぼ入っていないようですが、企業がイニシアティブをとって積極的にグローバルなルールを設定し、プラスチック汚染を食い止めようとしている(もちろん、各国政府がバラバラの法律を作られると困るので、グローバル基準があったほうが良いというビジネスのメリットもあると思います)のが印象的でした。
https://www.businessforplasticstreaty.org/

3.国内人権機関
日本には国内人権機関はありませんが、世界120ヵ国にはあります。
実は各国でビジネスと人権の取組を進める中心となっているのが、こうした国内人権機関だったりします。
でも日本にはないので、外務省の人権人道課が少ない人数で対応しているという状況です。
今回様々なセッションに国内人権機関の方々が出ていて、やはりこうした国内人権機関があることが、日本で「ビジネスと人権」を含む、人権の意識啓発や浸透を図るのには重要ということをつくづく感じました。
日本はこれまで何度か試みがあったものの法案の成立に至らなかった経緯があり、国連から何度も作るように指摘されています。
ビジネスと人権作業部会が7月に日本に来て調査を行った最後の記者会見でも「国内人権機関がないことを深く憂慮する」とのコメントを残しています。

こうした国際会議の内容自体はオンラインで見ることができるものも多いのですが、リアルにその場にいることもメリットもやはり大きいです。
セッション後に登壇者に質問にいったり、あるいはセッションで質問をしている人の中に、話したい!と思っていた団体の人だ!というような人を発見したりして、近寄って行って話をしたり名刺交換をしたり等は、やはりオンライン参加では出来ないことです。
また今回偶然目の前の席に座った人がILO(国際労働機関)のジュネーブ本部にずっといらっしゃる児童労働担当の方で、その方から最新情報を教えていただき、こういう場に行くことでリアルに人と会えるメリットはやはり大きいなと感じました。
また、ACEの存在を知ってもらう機会にも少しはなったかなと思います。

そんな形で、とても充実した3日間となりました。 
ここで得た知識やネットワークをこれからもACEの活動に活かしていきたいと思います。
 
長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございます!
いよいよ師走となりますが、みなさまお体に気を付けてお過ごしください!

2023年11月 ACE代表 岩附由香

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岩附通信

2023年11月30日

【岩附通信vol.34】10月の振り返り~いろいろあった10月~

岩附通信34

いつもご支援ありがとうございます。季節がだんだんと移り変わり、忘年会的な予定も入るようになり師走に近づいている感じが出てきた10月。

10月7日に開催したACEフェス(ACE25周年記念イベント)にご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!残念ながら私がインフルエンザにかかってしまい欠席(涙・・・)でしたが、ACEの組織・スタッフの新たな側面を見ていただけたのではないかと思います。
組織開発、子どもの権利、マインドフルネスとテーマも多岐にわたり、その裏ではNVC体験コーナーとスナックをやっているという、おもしろい仕立てとなりました。
これを読んでくださっている中にはその際新たにサポーターになってくださった方もいるかと思います。ありがとうございます!

その次の週、インフルエンザから復活して沖縄県うるま市に飛び、「子どもの権利実践研修 ~知ろう・考えよう!子どもの権利~」を開催しました。
昨年から様々な既存の研修を開催・研究し、重要だと思うエッセンスをワークと座学で4時間に詰め込んだ研修です。
本当は3日間ぐらいかけてやりたい研修内容なのですが、所要時間が長くなるほど受けられる方が減ってしまうので、まずは導入編として短いバージョンで仕立てることにしました。
最後にアクションを考えてもらうのですが、研修後「こども基本法を居場所内に子どもにわかるよう掲示します」というアクションを書いてくださった方が、研修で学んだことを自分の解釈で表現したポスターを作り、早速掲示してくださった写真を送ってくれて、嬉しかったです。
子どもの権利条約、こども基本法という新しい法律が出来たこと、その内容と求められていることをお伝えしながら、子どもとの対話方法や感情やニーズを見てみるワークなど、とにかくギュッと詰め込んだので、今後も改善しながら展開させていきたいです。

その次の週はACEの理事会があり、それに向けて総会資料の最終調整を行いました。
11月23日に開催する会員総会(会員のみなさまにはご案内がメール等でお手元に届くかと思います)では、今回新しくするパーパスも定款の目的部分の変更として議題提案します。
そのため、ギリギリですがパーパスの文言もこの週に最終決定し、定款の文言提案も行いました。
長い長いパーパス再発見の旅が、いよいよ終わりを迎え、これからこれをどうお伝えしていくかのプランに移行していきます。

10月の最後の週は、ACEが加盟している新公益連盟のこころざし合宿に参加してきました。
ACEは多くのネットワークに参加していますが、新公益連盟もそのひとつ。
合宿ではいっぺんにいろんな知人・友人に会えるので、立ち話や懇親会の場でいろんな話が出来、それで意外といろんな物事が進んだりもします。
今回、はじめの全体セッションでは、経済同友会の新浪代表幹事(サントリーホールディングス社長)が登壇くださり、大変興味深かったです。今後、ソーシャルセクターと企業の連携がどんどん進んでいきそうな予感がしました。

2日目のセッションでは、こども家庭庁をテーマに、NPOの職を離れてこども家庭庁の職員となったお二人と、NPO法人カタリバの代表、今村久美さんモデレートのもとトークをさせていただきました。
NPOと行政の違い、立場が変わったことの難しさなどもありながら、「どうですか?NPOの人に行政で働くことを勧めますか?」との問いにはお二人とも「勧めます」とおっしゃっていました。
その立場になってみないと見えない景色があり、それがわかることでNPO側に戻った時の視点が幅広くなると思います。提言活動を行う上で、政府内いる方々の発想を理解することは、とても大事だと思いました。

実はカタリバの今村さんは、10月15日に行われたレガシー・ハーフマラソンに参加されていました。
私もその日、ACEのチャリティーランナーさんの応援に水道橋駅前に出向き、ACEと書いてあるのぼりを持ちながら応援してたのですが、その際ランナーだった今村さんが私をみつけて寄ってきてくださったのです!よく見つけられたね、と話をしたら「いろんなNPOが沿道応援してたんだけど、代表が応援しているのはACEだけだったから、会えてうれしかった」とのコメントをいただきました(笑)。
この日は雨で厳しいコンディションで、濡れて寒くてランナーさんには本当に可哀そうだったのですが、ACEのチャリティーランナーさんも多くご参加いただき、EXPOのブースでもお立ちよりいただきました。
スタッフ田柳も無事完走し、応援も楽しかったです。ランナーのみなさま、お疲れさまでした!

ということで本日は10月31日。
私の10月はまだ終わらず、今日中の締め切りのものを複数抱えながら、すでに師走感がこんなにあるのはなぜかしら?と思いながら、10月を終えようとしています。

もうすぐ冬本番、みなさまどうぞ体調を崩されず、秋をお楽しみになられますように。

2023年10月 ACE代表 岩附由香 

 

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岩附通信

2023年10月31日

【岩附通信vol.33】 子どもの権利とACE

岩附通信33

先日、「研修を受けていたらACEを発見!」と他団体の方が教えてくれたんですが、わたしたちNGOのACEではなくて、ある言葉の略でした。

Adverse Childhood Experience、逆境的小児期体験と日本語でいうらしいのですが、18歳未満の子ども時代に虐待を経験したり、機能不全な家族で困難な状況に置かれたことを指すそうです。その体験が本人が大人になってからも影響があるとのことで、アメリカを中心に研究が進み、対応が求められているそうです。

ACEという言葉は違う意味もありますし、略称としてもよくあるものです。そういえば、かつてかばんのACEの本社が台東区にあった時には年に数回は「鞄の修理お願いしたいんですけど」と同じく台東区にあったNGOであるACEに電話がかかってきたものでした(あちらが移転され、番号案内の方が間違えて私たちをご案内してしまうケースがなくなったようで、間違い電話はなくなりました)。

それはさておき、実はそれを知る前に、子どもの権利に関する大切なポイントを、ACEという形でまとめられないか、と考えていたことがありました。せっかくならACEというキーワードを子どもの権利でもポジティブな文脈でも思い出してもらえたらいいなという気持ちも少しあります。最近また再度それについて考えてみたので、今日はそれを少しご紹介したいと思います。

A – Awareness(気づき・自覚) & Assertion(肯定的に、ありのままで見る)-

ひとつめのAは、おとな側の気づきの重要性と、子どもと接する時の態度に関することです。私たちは自分たちがどう周りの人に見えているか、について、時に無自覚です。例えば3歳ぐらいの子どもから見れば、48歳のおばさんである私は自分より背が何倍も高く、太っていて威圧感があり、脅威に見えるかもしれません(どんなに微笑んでいたとしても)。
ACEという組織の中でも、創設メンバーである私の発言は、自分が思っている以上にスタッフにとって重く受け止められることがあるかもしれません。そうした自分の見え方、自分の影響力に自覚的であること、は子どもたちと向き合う上でも大切な気がします。
 
また、判断をせず、ありのままのその人を見る、ということも、大切な要素だと思われます。例えば昭和の時代は、茶髪=不良でした。まだ昭和だったころ中学生だった私は実は髪の毛を脱色していた時期がありまして、駅のホームで空き缶が目の前に転がってきて、それをポーンと蹴ったら線路に落ちてしまったんですが、そのとき見知らぬおじさんから「学校で何を教えてるんだ!」っと、大きな声で怒鳴られました。この一件はそもそも缶を蹴った私が良くなかったのはそうなのですが、私が明らかな茶髪じゃなかったら、おじさんはあんな風に怒鳴らなかったかもしれません。未だに京王線のホームで起きたこのちょっとした事件を覚えているのは、そこに理不尽さを感じたからなのだと思います。とても難しいことですが、「あの子は○○だから」「○○に違いない」という先入観を横において、目の前のその子をありのままに見る、受け止める、ということが大切なんじゃないかと思います。

C – Communicate(情報共有・伝える) & Consent(同意)-

2023年4月に施行されたこども基本法では、自治体レベルでこどもに関する施策を決定する際に子どもの意見を聴くメカニズムを持つよう自治体に義務付けています。子どもの意見を聴く前に重要なのは、子どもが意見をいえるだけの十分な情報が共有されているか、です。しかもそれが子どもの年齢や発達に応じてわかるように共有できているか?ということになります。ACEが事務局を務める「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」で政策提言書を作った際も、「子ども版」を別途作成しましたが、そうした工夫が必要になってきます。

幼い子どもの子育ての際のテクニックのような形でよく言われるのが「子どもに選ばせる」です。特に自我が芽生えて自分で何でもやりたい、決めたい、というような段階にきた2、3歳の子に「AとBどっちが良い?」と選択肢を提示して選んでもらうことで、子どもも自分が決めたと納得できる、というものなのですが、これには落とし穴があります。おとなは自分の都合で、本当はCというオプションもあるのに、それを出さずに「AとBしかない、さあどっち?」と提示し、あたかも子どもが全てのオプションから自分で選んだかのように感じさせることができるのです。会議の議題設定をアジェンダセッティングといいますが、意思決定は実はこのアジェンダセッティングから始まっています。子どもが参加し、意見を言うには、意見を表明するための前準備としての情報の入手、そして意見表明できるスペースと適切な方法(あるいはその方法自体から一緒に決めるか)が必要です。

もうひとつは「同意」です。私の子どもたちが通っていたインドのインターナショナルスクールでは子どもの保護ポリシーがあり、先生たちはむやみに子どもたちの体に触ることは奨励されていません。ただし、特に低学年の子どもたちは子どもからハグを求めてきたり、手をつないだりすることが必要な時もあります。子どもたちから来るものは拒まないし、こちらからするときは「ハグしていい?」と聞けばいいわけです。

子どもたちを手伝うときも、同様です。「大人のよかれは、子どもの迷惑」と、川崎で「子ども夢パーク」をずっと運営してきた西野さんがある場所で言っていましたが、私にもたくさん心当たりがあります。先回りして失敗しないようにとか、子どもがこっちのほうがいいと思うんじゃないかとか、そのほうが効率的とかで、いろいろ考えてついつい口を出してしまうのですが、あとから「黙って見守っていればよかったな」と思うことが度々あります・・・。
先走らず、何かを子どものためにするとき、一緒にしたいときは子どもからの同意をとって行うこと、子どもの結論を尊重し、結論が出るまで待つことは、子どもと接する際、割と重要なことだと思います(自分の子どもに対してできていない自覚も込めて、ですが・・・)。

E – Empathy(共感) & Empowerment(エンパワメント)-

エンパシーという言葉、耳なじみがありますでしょうか?日本語だと「共感」と訳されますが、プレイディーみかこさんの著書『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』の中で、お子さんがシチズンシップ教育の授業で、エンパシーや子どもの権利について学んだ、という記述が出てきます。(検索したらその箇所が読めるようでした:
https://www.shinchosha.co.jp/ywbg/ywbg1/chapter5.html )そうかイギリスでは公教育でエンパシー(+子どもの権利)についてこんな風に学ぶのか、いいなぁ、日本は果して・・・?と思ったのでよく覚えているのですが、違いを乗り越えて共感できる能力、とても重要だと思います。

共感的に話を聴いてもらった経験、ありますでしょうか?ACEではNVC(非暴力コミュニケーション、または共感的コミュニケーションともいう)を組織として研修で学んできていたり、事業でも沖縄での事業で今取り入れてたりすることもあり、割とお互いに共感的に聴き合うことに慣れている組織だと思います。逆に私が辛いなーと感じるコミュニケーションは「それはこうすべき」等の判断で返されるときです。そういう人には、話したくなくなってしまいます。子どももそうではないでしょうか。といいつつ、おとなとしては、つい無自覚に子どもにそれをやってしまっている可能性が大なので、これも気を付けたいポイントです。

エンパワメントのイメージは、力を与えるというものではなく、元々持っていた力が発揮されるイメージです。これは子どもだけではなくおとなもいえることですが、その人が持っている力が100%発揮できることって、むしろ稀で、様々な阻害要因や、恐れがあって、自分の力を発揮したり表現することができない場合ばあります。
「子どものくせに」とか、あるいは「子どもなのにすごいね」とか、子どもを自分たちより力のない存在という前提でのコミュニケーションをしてしまいがちですが、それは子ども差別ともいえます。子どもたちを1人の人として尊重する声かけが出来るかどうか、子どもたちの自信や自己肯定感が損なわれない場づくりが出来るかどうか、エンパワメントできる環境を整えられるかどうかは、おとな側にかかっています。

ということで、長くなってしまいましたが、子どもの権利と「ACE」まとめてみました。
いかがだったでしょうか?

まだ暑い日が続きますが、季節は秋。様々なイベントシーズンでもあります。

10月7日はACEフェス!スタッフ一同で皆様をお待ちしております。会場の都合で事前登録が必須、当日参加は不可なため、少しでも参加できるかも?という方は10月3日までに以下フォームよりお申込みください!
ACEフェス_300
ACEフェス: https://ace-event-20231007.peatix.com/
参加できる!という方は上記Peatixの申込みページから(お申込みの際に参加費の決済が必要です)。

Peatixでのお申込みが難しい方、まだ参加できるか分からない方は下記ACEのウェブサイトからお申込みください。
ACEウェブサイトでの申込みはこちら: https://acejapan.org/form20231007
(ACEウェブサイトからのお申込みの場合、参加費のお支払いは当日受付にて承ります。)

また、11月11日はHAPIC(ハピック)という国際協力NGOセンター主催のカンファレンスが開かれます(私はこの組織の副理事長も務めております)。ACEも1セッション企画をまかされ、カカオの児童労働に関するコレクティブインパクトについて白木が中心となってお話する予定ですし、私もその他のセッションに登壇します。ご関心あればぜひ、超早割が10月4日までですので、お申込みください;
HAPIC:https://hapiconf.com/

カカオセクターにおけるコレクティブ・インパクトへの挑戦https://hapiconf.com/programs/session/2151/

『インパクト』をどう捉えるか-社会価値と企業価値の両立を目指してーhttps://hapiconf.com/programs/session/2223/

お目にかかれること楽しみにしております。

2023年9月 ACE代表 岩附由香 

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2023年9月30日

【岩附通信vol.32】 パーパスを探るプロセス

岩附通信32

「パーパス」という言葉、なじみがありますでしょうか?
英語でPurpose、日本語でいえば「目的」にあたることばなのですが、最近「パーパス経営」など、企業経営の文脈でも使われるようになったり、少しづつこのカタカナつづりを目にする機会も増えているように思います。

ACEも実は2017年にそれまであった「ビジョン・ミッション・バリュー」という団体理念体系を「フィロソフィー・パーパス・ウェイ」に変えたという経緯があります。その頃から大手NGO団体がパーパスに変えるトレンドを感じていたこともあり、また「児童労働の問題解決だけではない、もっと幅広いことをACEは意図しているのではないか」という感覚もあり、2017年に「パーパス」として設定をしました。

そのパーパスがこちらです:
「子ども・若者が自らの意志で人生や社会を築ける世界をつくるために、子ども・若者の権利を奪う社会課題を解決します」

パーパスは、団体の「存在意義」を表すものです。誰のための、何のための組織なのか、ということを表すこのパーパスに「児童労働」という文言が入っていなかったことは、その年のACEの会員総会(ACEはNPO法人で会員組織なので、最高意思決定機関は会員総会になります)でも、質問をいただいたことを覚えています。児童労働の問題解決はACEの長期目標として掲げられています。

そのような経緯を経て、近年は日本の子どもの権利を保障するための活動も含めた事業展開を行ってきました。パーパスを変えたことで、団体としての活動の幅を持たせることができました。もちろん、児童労働撤廃のための活動も行っていますし、近年のガーナの児童労働フリーゾーンをガーナ政府と共働して作り上げようとしてきたプロセスなどは、本当に大きな前進でしたので、そうした従来から続けてきた活動も制限を受けることなく続けてこられた、そんなパーパスでもありました。

パーパスがらみで最近ACEで取り組んでいることがもうひとつあります。昨年から今年はじめにかけて、職員の「個人のパーパス」についても探求をするというプロセスを、研修として行ってきました。少しユニークな方法だったので、戸惑った職員もいたかもしれませんが、3グループにわかれてコーチがつき、定められたプロセスに沿って、自分のパーパスを発見するプロセスを踏んできました。その過程の中で、グループメンバーから自分のパーパスの響きについてフィードバックをもらう場があったのですが、こうして他の人のパーパスも感じたり、その過程を共有することで、お互いを知り合うプロセスにもなったかなと思います。

なぜ、そのような個人のパーパスを探求する場をACEの仕事をする時間に持ったのかといえば、ACEが目指す「一人ひとりが自律的に動くことのできる組織」(自己組織化)においては、個人のパーパスと、組織のパーパスが響き合っていること、が重要視されているからです。その響き合いを確認するには、自身のパーパスがおぼろげにでも見えていないと、確認できないと判断したからでした。

そうした経緯を経て、実は今年に入ってから、ACEの組織としてのパーパスを再発見するプロセスをはじめました。発端は昨年の夏、ACEの戦略合宿の中で、現在のパーパスの文言について違和感がある、という声がスタッフから挙がったことです。それを受けて検討した結果、パーパスの文言の一部だけを変えるのではなく、全体を変えよう、ということになり、一連のプロセスを設計し実施することになりました。そうしたパーパス策定を仕事としているACE理事のアドバイスを得ながら、アンケート実施、過去を振り返るワークショップ実施、外部の関係者へのインタビューの実施、その共有、文言出し、ありたい未来を創るワークショップ等を経て、いま最終段階に入っています。

私たちは何のために存在するのか。
難しい問いではあります。
初めて会った人に急にそんなこと聞かれたら、ドン引き確定です。

でも、組織も個人も、それを掴むことで、その力が発揮されやすくなる、との考えから、今年はこのようなことにも貴重なスタッフの時間を使わせていただきました。本日がACEの事業年度最終日。今年度の業績をどう会員・サポーターの皆様が評価してくださるかわかりませんが、このようなことに時間を使うことが回り道のように見えて実は近道だったかもしれないね、と、何年後、何十年後に振り返った時に感じられるといいな、と願っています。

2023年8月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

岩附通信

2023年8月31日

【岩附通信vol.31】 「迷惑かけてなんぼ」の世界

岩附通信31

「人に迷惑をかけない」というのは日本で生まれ育った人たちにとってとても重要な価値観となっているように思います。今月、家族がコロナにかかり、行くはずだった沖縄出張を取りやめようかどうしようか迷っていた時にも「ACEのスタッフ、沖縄のちゅらゆいさんのスタッフにコロナをうつしたら大変」という「迷惑をかけてしまう恐れがあるのでやめておこう」という判断をしました(結果、そのあと私自身もコロナになったのでそれが正解だったと思ってはいるのですが、判断するにあたって自分にもその軸が大きくあることを自覚しました)。 

「迷惑かけてなんぼ」とは、インドに駐在している女性たちと話していた時に出てきた、インドの価値観を表現したもの。人の手を煩わせることが、あたり前であり、それが出来ることが、その人自身の評価、存在意義にもつながる、そんなような感覚ではないかと思います。先日7月19日に、谷口真由美さんと子どもの権利に関する対談をさせてもらったのですが、その際に思い出してご紹介したのがこのフレーズでした。「迷惑」が何を指すかにもよりますが、日本の場合「迷惑」の範囲がかなり広くとらえられ、本来「個人の意見の主張」「個人の自由」も一部迷惑にカウントされているような気がしています。 

保育園や学校の子どもたちの声が「迷惑」ととらえられ、新しい保育園が建てられないというような自治体がある中で、もしかしたらこれは「迷惑をかけないように」ブレーキが社会として利きすぎてしまっているのはないでしょうか。また「迷惑をかけないため」のルールが決められ、それが画一的に適用され、厳格に運用される、というのも日本的だと思います。本来の目的が忘れられかけ、そのルールだけが活きて人を縛る、そんな感覚があります。それは結果的に自分の権利を獲得するための自己表現を制限し、子どもの権利を保障しづらくなっているのではないでしょうか。 

そうした「目的が忘れられかけてルールだけが活きている状態」がよく見られるのが、学校ではないでしょうか。特定の髪型の禁止や、前髪は目にかかってはいけない等の細かい指定や、下着は白としなければならない等は、そもそもそのように設定された意図がよく理解できないルールです。教科書を持って帰らなくてはならないというルールも、ランドセルが重すぎる問題を生じさせていました。髪の毛の色が黒でなくてはならないというルールや、また「地毛証明」を出さなくてはならない等は、人権侵害そのものです。 

これまで多くの人が「?」と思いながらも「そういうものだから、仕方ない」とあきらめて従ってきたルールがあると思います。しかし近年そうした「ブラック校則」は注目を浴び、「やっぱりおかしいよね」と、各地の教育委員会でも校則見直しの動きが起きるなど、改善のきざしがあります。自分の権利を獲得するためには、声をあげなくてはなりません。その声をあげる子どもたち、それを見守り、声を聴くおとなたちが増えてきている、そんな変化を感じています。 

子どもが平日起きている時間の三分の一ぐらいを過ごす学校。その学校でどのように子どもの権利が守られていくか、それは子どもたちにとって、とても大きな変化になると思います。不登校がこれだけ増え、先生になりたい人も減り、長時間労働が問題視されている教職現場にとって、またやることが増えるのか!という負担感がもしかしたらあるかもしれませんが、実は子どもの権利条約を保障するという観点からも、公教育の現場における先生には、子どもの権利を守る義務が生じています。 

子どもの権利条約は、国が、子どもの権利を保障する宣言でもあります。子どもは権利を持つライツホルダー、国は権利を保障する責任(英語でデューティー、Dutyともいいます)を持つ、デューティーベアラーです。子どもの権利条約を批准するということは、「その権利を国が保障します。その権利保障のために国は政策、予算を準備します」という国の子どもたちに対する約束です。国とは、中央政府だけでなく、自治体や、公務員も含みます。したがって、公立学校の先生方も、このデューティーベアラーとなるわけです。 

2023年4月、こども基本法が施行されました。1994年に子どもの権利条約を批准して以来、日本になかった「子どもの権利を包括的に保障する法律」が、今回曲がりなりにも出来た、というこまとになります。「こどもまんなか」を標ぼうするこども家庭庁も出来、子どもたちの意見を聴くメカニズムを国として準備するなど、これまでのことを考えれば画期的な取り組みが進んでいます。 

こうして、法律上は子どもの権利条約の4原則である「差別の禁止」「子ども最善の利益」「子どもの生命、生存および発達の権利」「子どもの意見尊重」が反映された基本理念をもつこども基本法の存在により、日本国内での子どもの権利保障がなされる素地は整いました。 

「子どもが意見を言う権利があること、それをおとなが真剣に受け止める義務があること」が徐々に広まっていくことで、「どうせ無理だから」「どうせ変わらない」と子どもが嫌なことを我慢してしまうのではなく、表明し、対話して課題を明らかにして解決に向けて協働する、そんな関係性が子どもとおとなの間に築けたらいいなと思っています。「迷惑かけてなんぼ」の世界に突然ジャンプすることは難しいかもしれませんが、「迷惑をかけていはいけない」方に偏ってしまった意識を「迷惑かけてなんぼ」の方にシフトさせていく、そんな意識の変化が必要なように思っています。 

それをどのように学校で活かしていけるのか。子どもたちに子どもの権利を伝え、活かすためのヒントをいただくために、ACEが事務局を務める「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」では教員向けセミナーを企画しました。8月10日(木)対面で東京で行うため、ご参加いただける方は限られるかもしれませんが、じわじわと来ている変化の波を感じている先生方も多いのではないかと思いますので、ご関心のありそうな方にぜひご案内いただければ幸いです。 

▼8/11 教員向けセミナー「学校で、どう伝える?どう活かす?子どもの権利」
https://crcc-20230810.peatix.com/ 
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そして最後に、クラウドファンディングのご報告をさせてください。7月31日まで展開してきた活動資金を募るクラウドファンディング 、おかげさまで無事目標金額の1500万円を超え本日最終日を迎えることができました。会員、サポーターの皆様におかれましては、多大なご支援・ご協力を賜り、誠にありがとうございました。 

暑い日が続いています。ACE会員・サポーターの皆様におかれましては、体調変化に注意していただきながら、楽しい思い出に残る夏を過ごされますよう、お祈り申し上げます! 

2023年7月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

 

岩附通信

2023年7月31日

【岩附通信vol.30】 インドとACEと私

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私事ですが、この度現在居住しているインドから日本に本帰国することになりました。
帰る間際に次のインドでのプロジェクトのための視察、また現在行っているピース・インドプロジェクトの視察に行ってまいりました。6月12日の児童労働反対世界デーにあわせて現地からの配信をさせていただいたので、それにご参加いただいた方もいらっしゃったかと思います。イベントの後は村の中をマーチし(写真)、久しぶりのマーチに昔を思い出しました。
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あらためて振り返ってみますと、インドとACEは深いつながりがあります。

「児童労働に反対するグローバルマーチ」がきっかけではじまったACEですが、その提唱者はインドの人権活動家、カイラシュ・サティヤルティさんです。カイラシュさんのこのムーブメントがなければACEはなかったといっても過言ではなく、このインド発のとびぬけた発想から、ACEは始まっています。

グローバルマーチ以前の1990年代後半、現在の副代表である白木、小林の2名は明治学院の児童労働ゼミでインドに来訪しており、私も国際子ども権利センターのスタディーツアーでインドに来ておりました。そうしてACEをたちあげ、インドのグローバルマ―チに3人で参加し、それを参考に日本で実施したという経緯があり、それぞれ個人的にもまたACEの立ち上がりとしてもインドは深い関係がありました。

さらに。
事務局次長の成田はインドに留学しソーシャルワークを学んでいて、アドボカシー事業チーフの太田は博士論文をインドの児童労働をテーマに執筆。それ以外に、ACEが実施したインドスタディーツアーに学生として参加経験があり、現在スタッフになっているもの2人、また学生時代にACEの学生チームでインドと交流していた(かつ子どもの頃インドに住んでいた)人1人、と、実はインドとの繋がりをもつメンバーが多いのです。

そんなACEではありますが、現在行っている、ピース・インド プロジェクトが8月で終了することになり、2004年頃から続いてきたインド国内での支援事業について、そのあと、ACEとしてインドの事業を継続するか?終了してガーナに集中するか?それとも?という話を昨年の合宿で行いました。

結論は、インドの事業は形を変えて継続するということになりました。合宿で話し合って団体としての決断したことですが、どうしてもやめるという風に舵を切ることができなかった自分もいます。

団体として持っている人的、金銭的リソースが限られていることを考えれば、国際協力としてはガーナに集中したほうがいいという結論に至ってもおかしくはなかったのです。きっと、優れた経営者ならそう判断していたのでしょう。

でも出来なかった。

それでよかったのだろうかという想いも心の片隅に残しながら、この6月の2回の出張を経て感じているのは、個人的にも、ACEとしての事業展開としても、インドとのつながりを保つことの意味、意義です。

ひとつは、これは極めて個人的なレベルの話になってしまいますが、なんだかんだ言いつつやっぱりインドが好きで、魅了されているということです。奥深さ、長い歴史(占領され、その後独立を勝ち取った国の経緯)、多様さ、複雑さ、混沌としているようでオーガニックに変化、適用する様。ひょえーっ!と思うことも含めて、一旦それを受け止めている自分がいるような気がします。

もうひとつは、インドにある格差が依然と大きくあり、児童労働、貧困を含め構造的な課題が存在するということです。

昔、飛行機の中で会った人とインドで仕事をしていると話した時”How can you stand the poverty?”(「どうして耐えられるの?あの貧困に?私は耐えられないわぁ」という感じ)と言われたことがあります。

その時に心の中で強く「私は目をそらさない」と誓ったことを、最近思い出しました。

人口は増え、経済はこの20年で見違えるように発展し、大きく変わっていくインドは、日本よりも希望に溢れているのでは、という考え方も出来ます。私の中でもそういう風に感じたり、インド人の人に話したりしている時もあります。

でも今月、インドで活動するいろいろな人たちと話をしていく中で、インドなりの難しさもいろいろあることもうかがえました。そして街のあちこちで、働いたり、物売りをしたり、物乞いをしたり、路上で生活している家族を見ながら、そこにある構造はあまり変わっていないという感覚も持ちました。

そうした構造を変えることは、巨大なインドですので私たちだけで出来ることでは到底ありません。しかし、もっと小さい単位、日本でいう自治体レベルで、具体的な取り組みを進めることで子どもの権利を保障する仕組みを強化することはできるかもしれないという感覚を持ちました。

そしてもうひとつは、子どもの権利という観点から日本の事業、また児童労働フリーゾーンという意味でガーナの事業との相互作用を期待できるのではないかということです。

実は子どもの権利保障という観点では、インドは日本よりも整っている部分があるなということも感じました。24年前に、国際子ども権利センターの職員としてやりとりをさせていただいていたバンガロールにあるNGOの方を訪ね、お話させていただいたのですが、日本には子どものコミッショナーがいないと言ったらびっくりされました(苦笑い)。この団体では、子どものが自治体の施策に参加する仕組みを、カルナータカ州内で実践として進めてきて、それから条例化するということを行ったそうです。24年ぶりの再会なのに話しだしたらお互い止まらず、むしろこちらが教えてもらうことのほうが、多いような状況でした。

またピース・インド プロジェクトの視察で地域の労働管理事務所をおうかがいしたときには、児童労働は減少してきたが、自治体内での部署間の連携が課題という話も聞きました。地域単位で児童労働をなくしていく取り組み、エリアベースの取り組みについては、ガーナで自治体向けの研修なども行ってきていることもあり、地域のボランティアとして活動する方々含め、どのようにその人たちの能力やモチベーションを高めていくかということも共通の課題だと感じました。

そんな形で中身の濃かった6月、そしてインドでの生活を終えようとしているところです。
日本では暑い日があったり梅雨らしいジメジメがあったりあまり過ごしやすい季節ではないかと思いますが(バンガロールはそういう意味では高地のため比較的涼しく快適でした)、夏本番に向けてどうぞお体にお気をつけてお過ごしください。そしてまた日本で直接お目にかかれることを楽しみにしています。

PS ACEでは、現在クラウドファンディングを実施しています。既にご寄付いただいた方も多くいらっしゃり、ありがとうございます!
7月31日までの実施なので、いまちょうど折り返し地点なのですが、ご支援いただいている人数が伸び悩んでおります。内容がわかりづらかったか、子どもの権利を前に打ち出すことはまだ日本では受け入れられづらいのか、と悩んでおりますが、そもそもこのクラウドファンディングのサイトに来て下さる方の数自体があまり多くないというのが現状のようです。
これからまだ1か月、クラウドファンディングが続きますので、みなさまが応援いただいている団体がいまこのような取り組みをしているという情報を、お友達のみなさまにお伝えいただけたらありがたいです!

【クラウドファンディング】
「子どもの権利をあたりまえに!今、ACEと一緒に未来へのアクションを」
https://readyfor.jp/projects/ACE_SDGs2023

2023年6月 ACE代表 岩附由香 

 

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岩附通信

2023年6月30日

【岩附通信vol.29】 ジャニー喜多川と日本

岩附通信29

岩附通信で何について書こうか、という相談をしたら「ジャニーズ事務所の一件は?」とスタッフから提案を受け、そうだよね、子どもの権利の活動をしているモノとして、この件は書かなくてはいけないことだよね、となり、今日は重たいですがこのテーマです。(具体的な性被害の描写はないですが、読まれる方によっては、気持ちが重くなるかもしれません。)

そのため、カウアン岡本さんの記者会見と、BBCのドキュメンタリーの動画を見て、晩御飯の支度をして(お弁当用含め唐揚げを900g揚げました)、ご飯を食べ、エプロンをしたまま、いまこれを書いています。もう明日これをみなさんに送付する段取りになっているので、急いで書かなくてはならないのですが、晩御飯のあとソファに寝ころび、天井を眺めながら、さぁなんと書こうかと考えて浮かんできた言葉は「絶望」でした。

ひとつめの絶望は、被害人数の多さと、性的虐待が行われてきた期間の長さです。カウアン岡本さんの記者会見によれば、ジャニー喜多川の所持する部屋で寝泊まりしていた少年たちは1日につき最大20人。カウアンさんがジャニーズJrに在籍していた間にも、100人~200人の少年が被害にあっていたのではないかといいます。絶句です。そして、ジャニー喜多川のこうした性加害は事務所設立当初から指摘されていました。50年以上、それが続いていたということは、被害にあった少年の人数は相当なものです。

ふたつめの絶望は、1960年代から何度も裁判所でジャニー喜多川の性加害について扱われてきていたこと。また1999年に性加害を報じた週刊文春を、名誉棄損でジャニーズ事務所側が訴えた際、性加害があったこと自体は裁判所で事実認定されていたということです。にも拘わらず、警察も、メディアも、動きませんでした。このときがひとつの介入すべきタイミングだったはずと思うのですが、そうした動きがなく、それ以降も止められなかったことへの絶望です。

みっつめの絶望は、ジャニーズ事務所がメディア界でかなりの権力を持っていること、ジャニーさんが性加害を行っているらしきことは日本国民の多くにとって「周知の事実」となっていたことです。私も含めて。ジャニーズJrの間でも、この性加害は「よくあること」と受け止められていたようです。「今日は、あいつか」という反応や、同じ部屋で寝ていて、音が聞こえるなど、みな知っていたとのこと。

まだまだ絶望をあげられそうなのですがこれぐらいにして、ジャニー喜多川が行ってきたことは、深刻な子どもの権利の侵害であり、Sextortion(セクスト―ション)です。権威を持つもの(この場合は、誰をデビューさせ、CMに出させ、ドラマに出させるかというプロデュース・キャスティング権限)が、その提供と引き換えに性的な行為を強制することを指します。それを巧みに何十年も行ってきて、誰もそれを止めることが出来てこなかったというこの事実は本当にそれ自体が恐ろしいことです。これは日本のワインスタイン事件(ハリウッドで大きな影響力を持っていたプロデューサーの長年にわたる一連の性加害。#me tooの運動のきっかけにもなった)、いやそれ以上の事件です。

私が企業の社会的責任の文脈で学んだキーワードに「暗黙の加担」という概念があります。
人権侵害があるのがわかっていながら見過ごす、あるいは影響が及ぶことが予見されていたにも関わらず、沈黙する、また沈黙することで利益を得るようなことをさします。

ジャニーズ事務所所属のタレントを使えなくなることを恐れて、これまで性加害の告発自体も、裁判の結果も、ほとんど報道してこなかった TVを中心とした従来の新聞・雑誌などのメディアは、沈黙を守り、はっきりと、この加害構造に「加担」してきました。

私自身も遠い昔に駅の売店かスポーツ新聞的な何かでジャニーズ事務所を元Jrが訴えている!という見出しを見た記憶があります。それが1999年の文春の報道だったのかもしれません。中学生の頃、少年隊を歌って踊れた私にとって、「これ、本当だったら一大事じゃない?」と思いましたが、そのあとの報道もあまり記憶になく、「逆恨みで訴えたのかな」ぐらいでスルーしてしまっていました。

BBCのドキュメンタリーでは、ジャニー喜多川の写真や動画がいくら探してもどこからもほとんど出てこないことを「彼は守られている」とし、「何より最も恥ずべきことは、子どもを守らなくてはならないという考えの行動がこれまでなく、その認識がほとんど感じられないことだ」と結んでいます。

この最後の一言が、本当にショックでした。
そしてショックなのは、事実だからだと思いました。

1人の少年の人権より、おとなの都合とビジネス(金儲け)を優先し、それによるサービス提供を享受していた日本社会。みんな共犯です。

絶望感から抜けだしきれないままこの通信を書いてしまいました。
改めて感じたのは、日本は人権後進国だということです。また、「そういうものなのだから、しかたがない」という考え方―これは、「児童労働は必要悪」という言説にも感じるのですが―は、人権の、子どもの権利の「敵」かもしれないということです。

このような日本社会の中で子どもの権利の視点をもたらすことはさらにハードルが高いことだと思います。しかし2023年4月から施行されたこども基本法が、これまでとは異なる視点と行動をもたらしてくれるきっかけになれば。というか、しないといけない。

この絶望感から這い出すには、そう自分で自分を説得するしかないような状況ですが、毎月、毎年のみなさまからのご支援に感謝しながら、「子どもの権利」が日本社会にとってあたりまえになっていくように、ACEに出来ることを前に進めていきたいと思います。

2023年6月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2023年5月31日

【岩附通信vol.28】倉敷労働雇用大臣会合参加の裏側と公開

岩附通信28

いつもご支援ありがとうございます!ACE代表岩附です。4月22日、23日に岡山県倉敷で行われたG7倉敷労働雇用大臣会合に参加してきましたので、今日はその裏ストーリーをお話させてください!
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さて、今年5月に広島で開催されるG7サミット。議長国として、日本はこの首脳が集まるサミット以外にも、様々なテーマ・省庁による閣僚会議が開かれています。その閣僚会議は、準備会合や作業部会が事前に官僚の方々中心に行われ、最後の宣言の採択の場で大臣級の方々が出てくるという仕組みです。

今回、ACEは労働雇用大臣会合の準備にあたる雇用作業部会にスタッフの太田が、そして閣僚会議に私が参加させてもらいました。

ACEにとって、児童労働に関する各国政府のコミットメントを強めることは、重要なテーマです。なぜなら、私たちがNGOとして行う児童労働撤廃のプロジェクトは、もちろん有効性を信じてやっていますが、今のACEの予算規模でリーチできる子どもの数はとても限られています。一方、G7諸国が、国際協力を通じて、あるいは貿易やサプライチェーンに関する政策を通じて、児童労働の問題が大きい政府と協力しながら、児童労働への積極的な取り組みが促進できれば、私たちがプロジェクトでもたらす数十倍、数百倍のインパクトがあり得るからです。
児童労働が最も関連の深い雇用労働大臣会合の宣言文に児童労働が入るか、どのように書かれるか、がそのあとの各国政府の政策にも影響してくる、というわけです。

そういう意図で、G7に関するアドボカシー(政策提言)活動に参加していました。G7には公式エンゲージメントグループというものがあり、Civil 7(Civil はCivil Society=市民社会の略)、略してC7が今年も構成され、ACEもいちメンバーとして加盟し、ワーキンググループに参加して、児童労働に関する提言を、C7のコミュニケ(提言書)に入れてもらえるよう、議論に参加していました。議論は英語、会議は他の国との時差を考慮して夜の時間帯(20時~とか21時~とか)となります。

ACEの戦略としては、準備会合の段階できちんとインプットを行ったほうが議論の中身に反映されやすいだろうと判断し、準備会合への参加に手を挙げ、もう1人手の上がった方と協力し、またプレゼン内容についてはワーキンググループのメンバー(様々な国から参加しています)にも意見をきいて、とオープンなプロセスを経ながら、今回の労働雇用大臣会合のアジェンダに沿って提言をまとめました。

もうACEは準備会合に参加させてもらったので、大臣会合は他の人が行くのだろう、と思っていたのですが、結局また閣僚会議にもACEからとなり、今後は私が参加させてもらったというわけで、全く予定していなかった機会に恵まれました。

この大臣級のみなさんが集まる会議の直前に作業部会が開かれているため、G7労働雇用大臣会合の宣言文は、私が参加させてもらう4月22日の段階ではもうほぼ決まってしまっていると思われました。とすると、ここで提言したことが宣言に反映されるチャンスは正直ありません。ならば、C7としての提言書を踏まえながら、なるべく印象に残るスピーチをしようと考えました。
与えられた時間は7分。パワーポイントを使ってもいいし、スピーチだけでもよい、ということで、迷いましたが今回はスピーチだけにしました。
言語も日本語でもよかったのですが、あえて英語にしました(Y7もW7の方も英語でした)。英語のほうが、その場にいるほとんどの方に直接伝えることができるからです。

内容は、もちろん児童労働に関して各国が撤廃に向けた行動計画を作ってほしい、またビジネスと人権に関しても企業に人権デューデリジェンスを促す法律を作り義務化してほしい、等ACEが直接関係してきていることも入れているのですが、雇用労働大臣会合で取り扱う内容はより幅広く、またC7としてこのような場で直接大臣にお話ができる貴重な機会として、強調したいことを伝えなくてはなりません。
雇用の差別や強制労働、セーフティーネットなど雇用にまつわることに言及しつつ、所属していたワーキンググループの書いた現状の課題に関する考察を入れながら、C7のコミュニケの冒頭にあった、広島サミットはAAA格付けでなくてはならない、このAAAとはAmbition(野心)、Action(行動)、Accountability(説明責任)の3つだ、という話と、ロシアのウクライナへの侵略戦争が起きているさなかで、広島でサミットが開催される意味を考えたとき、核兵器廃絶へ向けた行動計画を作るべき、という平和のワーキンググループが提言していたことをまじえました。

中身は至極真面目なのですが、それだとあまりにも印象に残らないと思い、岡山県といえば桃太郎、と思ったので、桃太郎の話を引き合いに出してみました。
事前にドラフトとして提出していましたが(同時通訳が何か国語も入るので、その準備のために)、4月21日の夜レセプションでお話した伊原木岡山県知事と、「スピーチは冒頭の掴みが大事」という話をする機会がたまたまあり、そうだな!と思ったので、夜中の3時までかかって、桃太郎の話を前半にもってきて、桃太郎がいかに誰もそれまでしたことがなかったことをやり(Ambitious)、行動を起こし(Action-oriented)、宝物を村の人に返した(Accountable)か、というような構成に変えて、スピーチに臨みました。
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私の横に座るのは国際労働機関(ILO)の事務局長、またテーブルについているのは各国の大臣あるいは代表団の代表(官僚の中でも偉い人)、OECD事務次長、そしてエンゲージメントグループ(B7、L7、W7、Y7)のみなさん。そもそも、こうした大臣会合に同じロの字のテーブルについていること自体が極めてまれ(他の大臣会合では聞いたことがないです)な機会です。

とてもじゃないけどスピーチは覚えられませんでした。何度かリハーサルし、ちゃんと7分に収まることを確認して臨みました。目の前にあるスクリーン、会場の大型スクリーンには与えられた7分をカウントダウンしていくタイマーが画面の右端に映っています。

現実世界では、鬼(英語ではDemonと表現しました)はこのストーリーほど見えやすく明らかなものではない。それでも私たちは平和、反映、また尊厳、自由、平等を人々が享受できるような透明性という宝物を取り戻すために闘わなくてはならない。そして、桃を食べるたびに桃太郎を思い出して、G7をAAAにしてほしい、とスピーチを締めくくると、ちょうとぴったり7分でスピーチを終えることができました。

議長を務めていた加藤勝信厚生労働大臣(地元が岡山)からも「桃太郎伝説に言及いただきありがとうございます」と受けていただき、関係者の方からもスピーチ良かった、と言っていただけたので、ほっと胸をなでおろしました。
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ちなみに、今回の会議にロの字の机の中側に座る方々はピンバッチを、そしておつきの方々は首にぶら下げるIDカードをつけていて、セキュリティを通るのですが、もう、何度も何度もいろいろなところで止められました。スカーフでピンバッチが隠れてしまっているからだと思って2日目はちゃんと見えるところにつけたのですが、それでも中年の日本人のおばさんが代表団の長には見えなかったのか、私の貫禄が足りないのか、会議室に入ろうとして警備の方にとめられました(笑)。

そしてこの2日間にG7各国の取り組み、官僚の方々との人間関係を作って、想像以上の手ごたえを得て自宅に戻りました。興奮気味で誰かに話したくても、家族はインドにいるので誰も日本の自宅にはいません。そこで、行きつけのイタリアンのお店にいって、カウンターでマスターに話をきいてもらいました。

そこで桃太郎のスピーチの話をしたところ、「でも桃太郎の元の話って、実は鬼って言われているのは悪い人じゃなくって、侵略戦争だったって説もあるよね」と、マスターが教えてくれたのです。

もし私の横にいたら「サーッ」と血の気が引いていく音が聞こえたかもしれません。

そもそも、G7というのは勝手に政府7か国が集まっている場で、国際的な意思決定を行う正当性があるものではない、という考え方があります。加盟国が1票を持つ国連とは性質が違うのです。そのためG7そのものを問題視する考え方もあります。権力構造の強化になりえるからだと思います。

そのような会議で、市民社会側の人がG7に責任を果たすように求めるスピーチなのに、そしてG7は植民地支配をしてきた側の国々なのに、侵略戦争がベースにある話を引き合いにだして美化して話してしまったのか・・・・・と。諸説あるようではあるのですが、そのあとやはり気になってしまって、なかなか寝れませんでした。

というわけで、このスピーチについて褒めていただくたびに、チクッとどこかが痛みます。

それは、やはり市民社会の立場として、声を上げられない人、弱い立場にある人、抑圧されている側の立場にたたなくてはらならい、そちら側にたちたいのに、という私の願いの現れであると自分の中で解釈することとして、お役目を果たすことの難しさを感じた経験をお伝えさせてください。

岩附通信、今月は長くなってしまいましたが、最後までご一読いただきありがとうございました!

2023年4月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2023年4月30日

【岩附通信vol.27】マラソンとNPOは似ている?

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いつもご支援ありがとうございます!ACE代表岩附です。

先日ご報告させていただきましたが、ジャパンSDGsアワードの本部長(内閣総理大臣)賞を受賞いたしました。
これも、毎年のご支援の継続があったからこそ、ACEが存続し活動を続けられてきたからだと思います。
心より感謝申し上げますと同時に、改めてこの賞を分かち合わせていただきたいと思います!!

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(写真出典:首相官邸ホームページ https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/17sdgs_award.html)

さて、今月はじめに東京都内で開催されたマラソン大会では、海外・国内合わせて200名を超えるチャリティーランナーのみなさまが、暑すぎず寒すぎないほどよい天気の中、東京の街を疾走される姿を沿道から応援させていただきました。
私が2019年にACEのチャリティーランナーとしてマラソンを走らせていただいた際には朝から冷たい雨でしたので、特に海外からの参加者は「3年越しで待ちに待った・・・!」という方々が多い中、天候に恵まれて本当によかったです。
自己ベストを大幅に更新した!という方もいらっしゃいました。

アメリカ、中南米、イギリス、ドイツ、ケニア、オーストラリア等、本当に世界各地のランナーから集まったACEチャリティーランナーのみなさんと、お話させていただきました。
数ある寄付先NGOの中でなぜACEを選んでくださったのかを伺うと、「病院で働いていて、いろんな子どもを見てきたから」「子どもこそは大事にしないとね」等、お一人お一人の想いがありました。
「ACEはいい仕事をしているね!これからも頑張って!」と応援をいただくことも多かったです。

ふと、マラソンとNPOは共通点がありそうだと思いました。

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まず一つ目は自主性。
走れメロスのような状況ではない限り、「マラソンを走りたい」という意思がある方々が参加されるマラソンは、「今の世界のここの部分をもうちょっとなんとかしたい」という意志を持つ市民が自主的につくるNPO活動と通じるものがあると思います。

二つ目はプロセスの大事さ。
マラソンはハードなスポーツなので、アスリートではない限り練習をしないでいきなり42キロを制限時間内に走りきれる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
この大会を走る!と目標を決めてから逆算して徐々に走る距離を伸ばしていったり等、その日に向けてのプロセスが重要です。
NPOの活動も、多くの積み重ねがあって今があります。
今回ジャパンSDGsアワードの賞をいただけたのも、これまで児童労働に関する日本国内での啓発、直接支援、企業との連携やアドボカシー等の積み重ねによるものかと思っています。

三つ目は応援が力になること。
これは私自身がランナーとして感じたことでもありますが、本当に応援が力になります。
知っている人からの応援はもちろん、知らないひとからも声をかけてもらったり、声援が聞こえると、がんばろう、とエネルギーが湧いてきます。
ACEもこれまで本当にたくさんの方々から、寄付・支援という有形だけでなく、ご縁をいただいたりご紹介をいただいたり、また私たちが多分見えていないところでの評価や推薦など、無形の形も含めて、応援をいただいてきて今があるのだと思います。

チャリティーとマラソンの相性が良いのは、そういう共通点があるからなのかもしれません。
これを機に、ACEのチャリティランナーとして走ってみたい!と思われたら、お気軽にお問合せください。

さて、そんなことを考えているうちに3月はあっという間にすぎ、明日から日本の暦は新年度ですね。
4月から、職場や、保育園・幼稚園や学校(お子さんやお孫さんが)等で新しいスタートを切る方も多いかもしれません。

みなさまが、今年のチャリティーランナーさんのように、穏やかな環境の中、祝福をうけながらさわやかにスタートできるよう、お祈りしています!

2023年3月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。

岩附通信

2023年3月31日

【岩附通信vol.26】つながって見えた世界。

岩附通信26

バレンタインですね★
ACEへの問い合わせも増えるこの時期、2009年からはじめた「しあわせへのチョコレート プロジェクト」にまつわるエピソードを今日はご紹介させてください。

2008年に白木と私が初めてガーナに行き、その後白木が中心となってガーナでスマイル・ガーナ プロジェクトを立ち上げました。それと同時に、日本で進めていたチョコレートと児童労働にまつわる啓発活動や、企業との連携など事業横断を含めて「しあわせへのチョコレート プロジェクト」とした枠組みをつくります。

しかしそれを立ち上げた当初、企業連携はゼロ。
そうです、まだ実績ゼロの中ほぼ「願い」と「理想」でたてた企業との連携でしたが、その後森永製菓さんの「1チョコfor1スマイル」の支援パートナー(対象商品の売り上げに対し1円の寄付になる特別期間が2/14までです。詳しくはこちら:https://valentine.acejapan.org/20230105-2/ )に選んでいただき、毎年ご寄付をいただいていることに加え、今では複数の企業さんからのご寄付をいただけるようになりました。
それに加えて学校、NPO、企業、個人等、本当に様々な方々からのご寄付をいただき、チョコ募金はこのしあわせへのチョコレート プロジェクトを推進する力となってきています。ありがとうございます。

ACEは、個別企業とのパートナーシップだけでなく、JICAが設立したサステイナブル・カカオ・プラットフォームにおいては児童労働に関する分科会の事務局を務め、普段は競合としてしのぎを削る企業さんたちが、児童労働という共通課題に「協働」する場もつくっています。

ACEのガーナでの活動に注目が集まり、様々な国の企業やNGOとの交流が盛んになる中、カカオ栽培がかかえる問題は児童労働だけではないことに私たちは気づかされました。カカオを栽培するには、森を開墾し、カカオの苗を植えなければなりません。森林伐採・環境問題とも関連しますし、そもそも農家の収入が少なく安定しないのは、世界の貿易の中でのカカオ豆の取引の中で、農家が手に出来る収入があまりにも少ないという課題があります。

そのようなカカオ・ビジネスが抱える課題をまとめ、隔年でレポートを発行しているのが、オランダに拠点を置くNGO、Voice network(ボイスネットワーク)です。この度ACEも正式なメンバーとして加盟し、この「カカオ・バロメーター」の日本語版概要を発表しました。
▼詳しくはこちら:ACE|2022年版カカオバロメーターの要約(日本語版)を初めて発行
https://acejapan.org/info/2023/02/348170

このように世界で活動する団体とのつながりは、チョコのプロジェクトだけではありません。今年日本でG7が開催されますが、そのG7に向かって、動き出したC7(シーセブン、CはCivil Society=市民社会の略)でも、児童労働への取組強化を求めた政策提言活動を行うため、世界各国の団体と意見交換をはじめています。

こうして動いて、つながって、あらためて、気づかされたことがあります。
それは、「課題のつながり」と「システム(構造)の変化の必要性」です。

ACEの「児童労働をなくしていこう」というチャレンジに向かって目標を立て、それにむかって動いてきた結果、カカオ業界の直面する課題は児童労働だけでなく、環境、人権、貧困があり、それぞれがまたつながっているということ、それを解決するにあたっては、そもそものカカオの貿易そのものの「システム(構造)」を変えていかないといけないということに気づかされました。いま、欧州で議論されている「環境と人権のデューデリジェンスを義務づける法律」を作るというようなことも、こうしたシステムの変化をもたらすことを意図していると思います。異なる課題に対し、共通のソリューションとなる可能性があるのではないでしょうか。

これは自分たちの活動の経験から「そうかもしれないな」と得ていた感覚が、他の企業、NGO、政府がどのように考え、どう動いているかを知るにつれて「やっぱりそうか」という確信に変わっていくプロセスでもありました。

とはいっても、課題は大きく、日本のいちNGOが単独で解決できるようなものでは到底ありません。それでも、そういう視点を持って活動していくことに意味があると思っています。この難しいチャレンジにしり込みせず、ACEと共に果敢に取り組もうとしている企業や団体がいるというありがたみを感じながら、カカオ農家のみなさんにとっても、ハッピーなバレンタインとなっていくよう、取り組み続けたいと思います。

今日はなんだかちょっと固めの話になってしまいました。
もっとやわらかいバージョンとして、ぜひ、2月中は無料公開しているACE制作の映画「バレンタイン一揆」を、おいしいチョコレートをほおばりながら見ていただけたら幸いです。(高校生以下は無料なので、おこさんとぜひご一緒に!)
▼詳しくはこちら:映画「バレンタイン一揆」期間限定公開2023
https://acemovie2023.peatix.com/
movie-main_600

PS ACEバレンタインキャンペーンのウェブページもぜひご覧いただければ幸いです!
https://valentine.acejapan.org/
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2023年2月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。

 

岩附通信

2023年2月28日

【岩附通信vol.25】「ボスはパーパス」

岩附通信25

いつもご支援ありがとうございます!ACE代表岩附です。
今年もどうぞよろしくお願いします!

サポーター・会員のみなさまに、毎月生の声をお届けしたい!と始まったこの岩附通信、2021年は動画、2022年は音声でお届けしましたが、2023年は・・・テキストでメールベースでお届けしてみよう!ということになりました。引き続き、どうぞよろしくお願いします。

今日は、ACEの組織づくりについてお話してみようと思います。
「ティール組織」という言葉、お聞きになったことありますか?
一言でとても説明しづらく、未だにできないのですが、組織がひとつの生命体のように動く組織のことです。そしていま、ACEは「ティール的な組織への進化」真っ只中にあります。

ティール的な組織の組織構造はいくつかパターンがあるのですが、ACEではその構造として「ホラクラシー」と呼ばれる、ホラクラシーワンという会社が開発したシステムを活用した組織運営を導入することになりました。このホラクラシー導入を「自己組織化」と呼んでいます。

ACEでは、そのための自己組織化研修を昨年11月から開始し、1月で一通りの研修が終わりました。いよいよ、2月から徐々にホラクラシーの運用をはじめていきます。

その運用の前提となるのが「セルフ・マネジメント」。自分で自分の仕事を管理する、といえば当たり前のことのように聞こえますが、言うはたやすく、行うは難し。今回ホラクラシーの前提となる、セルフ・マネジメントのスキルとして、GTD(Getting Things Done)やLOS(Langage of Sapces)という手法を学びました。少しご紹介したいと思います。

まず、今回の自己組織化の考え方は「ボスはパーパス」。そしてパーパスを実現するために「ロール」(役割)があり、そのロールが持つパーパスと果たすアカウンタビリティがあり、それに伴うプロジェクトやアクションがある、という構造ととらえています。

このLOSの考え方は、なにかうまくいっていない!という「テンション」があったときに、それがどの文脈で起きているのかを見つけるのに役立つと思いました。

LOSは4つの部屋にわかれていて
1.オペレーショナル・スペース:日々の業務の進め方について
2.ガバナンス・スぺ―ス:組織全体を眺めたときの役割分担や過不足について
3.関係性のスペース:人間関係の中での期待やニーズについて
4.個人のスペース:自分の物事の受け取り方、内側の感情、反応のパターン

があります。
今感じている「テンション」困りごとを、この4つの切り口で分けてみていくことで、具体的な解決方法が見えやすくなってくる、というものです。

これを聴いて、なるほどなーと思いました。ACEはこれまで、NVC(非暴力コミュニケーション)をベースとした研修を行ってきたので、3と4のスキルは組織としても高まっていると思います。でも、1や2については、これまでこの部分の能力を伸ばしたり、皆で仕事の進め方をそろえたり等はしてこなかったエリアであると思いました。今回の研修ではとくにこの1・2に関係する能力を高めないと、ホラクラシー運営の前提となるセルフ・マネジメントが成り立ちません。

それと関係して、「ローレーションシップ」という新しい言葉も出てきました。
ローレーションシップとは、ロール同士の仕事のしかたで、ロール(仕事)と人を分けて考えるということです。つまり、ロール同士のコミュニケーションと、人としてお互いを大切にするコミュニケーションを分ける、ということです。

たとえば、何かしらの組織内締め切りがあって、それを提出していない人がいた場合、ついつい「○○さんも忙しそうだし、今リマインドするのも申し訳ないかな・・・」とか考えてしまいがちなんですが、そこは「ロール」として、思いやる心とは切り分けて、任務遂行する、ということです。

また、受け取る方も「ロ―ルとしてこの人は発信しているんだ」と受け取る、ということです。

実際にやってみようと思うと、なかなかに難しい場面もあるのですが「ロールとしてお伝えしますね」ということで、お互いいいやすく・うけとりやすくなる部分もあるかな?と思いました。

このLOSの考え方、子育てにもちょっと当てはめて考えられるなぁと思いました。
実は、私の子どもたちは「学校に行きたくない」ということが頻繁にあります。が、特に日本でワンオペをしていて、まだACEが事務所があったころには1.オペレーション上、子どもを1人で家に置いていくことをしたくない という事情がありました。2.のガバナンス上は、一応、「学校に行くのが子どもの仕事」と位置付けているので、その仕事を果たすことが子どもたちには求められています。しかし、3.の関係性のスペースとしては「行きたくない気持ちがあるのはわかったよ」と、気持ちを一旦受け取ります。そしてそのとき、4.個人のスペースでは「子どもの気持ちを優先するか」「自分の仕事を調整するか」「リスクをとって子どもを1人で置いていくか」「子どもを学校に行かせることすらできない私は母親失格なのか・・・」などなど、直面している状況に応じてどの選択肢をとるかの選択と、感情の中でものすごい葛藤が起きています(笑)。

家庭内の「母親」ロールとしては、この頻発するテンションに、日々難しい選択を迫られているわけですが、その判断をするにたっての「ボスはパーパス」なので、、まずはうちの家庭のパーパスを定めないといけないんですね、ということに気づきました。

このような形で、組織運営にあたっていろいろみなで学び・気づきながらティール的な組織に向かっている現状をお伝えさせていただきました。ACEの活動の成果を出しやすくし、1人1人のスタッフの持つ力を最大限に引き出す結果につながることを意図し、その進化を遂げる2023年になることを期待しています。みなさまにとっても実りの多い1年となりますように!

2023年1月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。