【岩附通信vol.47】「ISO」という新しい世界 | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

児童労働のない未来へ-NPO 法人ACE代表 岩附由香のブログ(single-blog)

岩附通信

2024年12月31日

【岩附通信vol.47】「ISO」という新しい世界

11月も終わり、いよいよ師走に突入です。
この岩附通信はACEの会員・サポーターのみなさまに送らせていただいていますが、そのお一人である谷川俊太郎さんが亡くなられました。
心より、ご冥福をお祈りいたします。

これまでのご支援の感謝を、もっとお伝えしておけばよかった・・・というのが心残りですが、
谷川さんがACEのために書き下ろしてくださった詩「そのこ」とともに、
ご縁に感謝しながら、これからも私たちができることを問い続けていきたいと思っています。

「そのこ」の詩は動画でも見られますので、
このメールを受信いただいている方でご覧になったことがない方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧ください。
(2分と短い動画ですが、児童労働の抱えるエッセンスがぎゅっと詰まっています。)
YouTube|谷川俊太郎「そのこ」~児童労働のない未来へ~

……………………
さて、今月は最近はじめた新しい取り組みについてご紹介させてください。
11月初めに中国に出張に行ってきました。
深圳(シンセン)というITで有名な街で、ひとつ橋を越えたら香港という立地です。
今回の出張の目的はISO(国際標準化機構)の会議に、エキスパートとして参加させていただくというものでした。

ISOといえば、モノの規格やマネジメントシステム規格のイメージが強い方が多いと思います。
私もそうでしたが、以前2010年に発行したISO26000という社会的責任に関するガイダンス文書を作る過程に、
NPOからも委員として関わっておられた方々がいらっしゃって、その話を聞いていたので、
こうした社会的な部分についても取り扱うことがあるのだなぁという認識はしていました。

ISOは世界172カ国にメンバーをもつ非政府組織で、日本では日本規格協会がそのメンバーとなっています。
今回日本規格協会から「新しい国内委員会を作るので、市民社会側からも委員を出してほしい」という要請があり、
ACEが加盟しているビジネスと人権市民社会プラットフォームにも相談がありました。
お話を聞いてみると、今回新たに設置される「人権関連規格検討委員会」で主に取り扱う新しい規格が、
現代奴隷(強制労働、人身取引等。児童労働も一部含まれる)に関するものだということでした。
児童労働の撤廃に向けて、こうした規格ができればその一助となるかもしれないとの想いから、
手を上げて今年から議論に参加させていただきました。

この検討委員会は経済産業省、労働界、経済界(企業の方々も)、消費者代表や研究者の方、弁護士の方々など様々な方々によって構成されています。
ISOの開発プロセスは手順が決まっており、既に作成されている草案を元に、
議論をしたりコメントを出す、という委員会に出席する以外の時間もかなり必要とされるものでした。
私としては、児童労働がきちんと位置づけられることを意図して発言したりコメントを書いたりしていたのですが、そうして議論に参加している中で、
「11月に深圳で会議があるので、ISO/TC 309/WG 10エキスパートとして、日本を代表して会議に出ませんか?」
とのお誘いをいただき、この委員会での日本代表/専門家として参加させていただくことになりました。

今回はISO/TC 309の総会ということで、今回私が参加させていただいた総会の初日は、
他のワーキンググループの内容を知る事もできました。
大変興味深かったのは、組織のパーパスに関する規格も現在検討をしているということです。
企業が利益追求ではないパーパスを掲げることで、真にサステイナブルな活動ができるようになる、
という現代社会の国際的な課題に対しての企業の貢献をより促せるものになる気がしました。
昨年ACEもパーパスを新しくしましたが、ISOでもパーパスの議論があるとは!と驚きました。

私が参加しているワーキンググープは、組織のガバナンスをテーマとしているTC309の傘下にあるのですが、
同じ傘下にあるワーキングループの中には、ダイバーシティや、女性に対する暴力についての新しい規格を検討しているグループもあります。
どうやらそうしたそれぞれのテーマは提案国にすでに国内規格があり、
そうした国内規格をベースにISOでも国際化していこうとしているようです。
確かに、現代奴隷の提案も英国からで、英国には現代奴隷法があり、イギリスの国内規格もあるので、
なるほどこうして国の政策がISOにまで及んでいるのだな、ということを感じる次第です。
こうした規格は企業だけでなく、あらゆる組織が適用できるように作られているため、
政府やNPO等でも活用できるものになるはずです。
こうしたISO文書は通常は有料で、利用するには購入が必要ですが、
英国の現代奴隷に関する規格は無料で公表されているそうで、
その趣旨などによってはそうした誰でも参照できるような文書として公開されることもあるそうです。

世界の人権に関する認識の高まりがこうしたISOという場にも反映されていること、
そしてここで議論されていることが、まだまだ日本ではこれからな部分もあるかもしれないことを感じた中国出張でした。
世界各国の関心事が凝縮されたISOという新しい世界に触れる貴重な機会をいただいたことに感謝しています。
実は現代奴隷のワーキンググループの議論は現地では終わらず、オンラインで12月まで会議は続きます。
児童労働についても詳しい説明などを提案していますが、
これからこの文書はISOの決められた手順を経て、最終化されていきます。
まだこれからのプロセスで変更が生じることも大いにあり、どうなっていくかわかりませんが、
こうした国際的な文書にもきちんと児童労働が位置づけられるよう、働きかけていきたいと思います。

2024年11月30日 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものを代表ブログにて一般公開しています。

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