コットンのやさしい気持ち

【お知らせ】「ピース・インド プロジェクト」終了に関して

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いつもACEの活動を応援していただき、ありがとうございます。

ACEは、2010年から現地パートナー団体SPEEDとの協働で実施してきた、インドのコットン生産地で児童労働をなくし子どもの教育を支援する支援活動「ピース・インド プロジェクト」を2023年8月(予定)をもって終了することを決定いたしました。9月以降のプロジェクトの活動は、これまでともにプロジェクトを実施してきた現地パートナー団体が引継ぎ、実施してまいります。

ACEのインドにおける新たな展開としては、テランガナ州のより広範な地域で、児童労働の解決と子どもの権利が守られる地域コミュニティづくりを目的としたプロジェクトを開始することを計画しております。

ここで改めて、これまでピース・インド プロジェクトをご支援いただいたみなさまに、これまでのプロジェクトの実施経緯や成果と課題、そして今後についてお伝えさせていただきます。

インドの子どもの写真

 

ピース・インド プロジェクトの17年間の歩み

2007年~2009年 事前調査、プロジェクト立案
2009年~ 「コットンのやさしい気持ちプロジェクト」開始
2010年 パートナー団体SPEEDとピース・インド プロジェクト開始
2010~2014年 第1フェーズ:A村で活動
2014年~2019年 第2フェーズ:B村、C村で活動
2017年 A村のプロジェクト評価実施(終了から3年後の現地調査)
2019年~2023年 第3フェーズ:D村、E村、F村で活動
2020年3月 新型コロナウイルスの感染拡大による現地活動の一時停止、海外出張の停止、ニーズ調査と緊急支援の実施
2020年~2021年 JICAインド事業・コロナ禍における児童労働からの子どもの保護(Child Labor Protection Program under COVID-19 Pandemic in India)実施
2022年~ 活動した全ての村で参加型プロジェクト評価実施

 

ピース・インド プロジェクト立案にいたるまで

2007年当時ACEは、世界でも特に児童労働が多い国の1つであるインドで「子どもにやさしい村プロジェクト」を実施(2003年~2013年)していましたが、国際協力事業をより戦略的に進めるため、日本に住む私たちにとって身近な「コットン産業の児童労働」に取り組むことを決定し、実態を把握するための情報収集と現地調査を行いました。

現地調査で分かったことは、コットンの種子や綿の栽培が盛んなインド南部で経済的に困窮した家庭が多く、識字率は44%程度と低く教育の普及が遅れていること、児童婚の慣習が根強くあり、特に女の子が義務教育を十分に受けられずコットン畑で働くことが多いということでした。また困窮した保護者が雇用主から受け取った前払いの給料が負債となり、それを返済するために債務労働者となった子どもが労働から抜け出せなかったり、コットン栽培に使用される農薬の影響で健康被害を受けて命を落とす子どもがいたりする状況も見られました。さらに、行政による様々な支援が十分に行き届いていない、そもそも住民に知られていない、ということも分かりました。

そこで、コットン生産地での危険な児童労働から子どもを守り就学を徹底するとともに、住民の自立を図ることを目的とし、インドのアンドラ・プラデシュ州(現テランガナ州)で現地団体SPEEDとともに「ピース・インド プロジェクト」を開始することを決めました。

コットン生産地域での児童労働についてはこちら:https://acejapan.org/cotton/childlabour

 

2010年、プロジェクトの開始~現地団体SPEEDとともに新たなアプローチにチャレンジ~

ピース・インド プロジェクトは、村単位のコミュニティに根ざした住民参加促進プロジェクトとして、児童労働をなくし子どもの教育を支援するとともに、住民自身が児童労働のない村づくりに持続的に取り組んでいけるようになることを目指しました。その実現のために、ACEとSPEEDの両団体がそれまで行ってきた活動手法を変え、より効果的な活動を模索しながら新たなチャレンジを始めました。

例えば、新たなチャレンジとして行ったのは、「ブリッジスクール」や「職業訓練センター」といった施設の設置・運営、保護者の収入向上による貧困問題解決への取り組みです。
ブリッジスクールは、労働から解放された子どもが正規の学校へ就学できるよう橋渡しをするための補習学校です。この施設の運営にはコストがかかることや、SPEEDにとって寮制ではなく通学制の学習支援施設を運営するのは初めての経験だったことから、初めのうちは実際に子どもたちが継続して通えるかどうか分かりませんでした。
義務教育年齢を過ぎた女の子には、ブリッジスクールに来る子どもとは別のアプローチが必要でした。女の子への差別、児童婚の慣習、思春期の課題、基礎教育を受けられないまま過酷な労働に従事し抜け出せないリスクなどがあったからです。そのため女の子向けの「職業訓練センター」を村の中に設置することになりましたが、これも初めての試みで、住民の理解を得ることができるか、女の子の自立・収入向上につながるか確証がないまま試行錯誤を重ねながら取り組みました。
また、貧困層の保護者の収入向上支援もプロジェクトで直接取り組んだ経験がありませんでしたが、保護者の教育への意識向上と合わせて、家庭が困窮状態から抜け出すことが児童労働をなくす方法の一つと考えチャレンジしました。

インドの子どもの写真

一方、ACEがこれまでの経験から活かそうとしたことは、まず村の中で子ども、女性、青年等、住民の組織化と能力強化をすることです。当事者として子ども自身が権利意識をもち子どものための活動をする「子ども権利クラブ」、義務教育年齢を過ぎた女の子が権利やライフスキルなどを学ぶグループ、女性自助グループ、児童労働の見回り活動等をする住民ボランティアグループ「子どもの権利保護フォーラム」の結成などを行いました。

特に住民ボランティアグループは、畑の見回りや家庭訪問を行い、働く子どもやその保護者に働きかけを行うなど、日常的に子どもの権利について住民の意識を高め、児童労働をなくすための大きな役割を担っています。
この他にも、行政機関と連携して教育・福祉・雇用・農業などの行政サービスが行き届くよう働きかけることや、住民が行政制度を知り自ら活用できるようになるための能力強化も重要だと考えて取り組みました。

これらの活動を通じて、村全体で住民の意識や行動を変える住民のエンパワメントに取り組みました。

住民の写真

 

プロジェクト実施による子どもたちや住民の変化

2010年以降、6村および2つの小集落のコミュニティにおいて、主に以下のような成果が見られました。(2023年5月時点)
・約950人の義務教育年齢(6~14歳)の子どもたちが労働から解放されて正規の学校に通うようになり、3,500人以上の子どもたちが教育を受けられるようになりました。
・約325人の義務教育年齢を過ぎた女の子たちが危険な労働から解放されて基本的な教育を受け、安全な職で収入を得られるようになりました。
・約124家庭が収入向上に取り組み、少額融資による小規模ビジネスを継続しています。
・女子教育の重要性も認識されるようになり、男女ともに初等教育の就学率だけではなく、中高等教育への進学率も高まりました。
・村の正規の学校の教育環境改善のため、必要な設備を行政に求める声を住民があげられるようになり、教室の増築や教員の補充が行われるようになりました。
・貧困はいまだ存在しますが、保護者が教育の重要性を理解し子どもに投資するようになったり、以前よりも行政制度を活用して生活向上に取り組むことができるようになったりという変化が見られました。
・児童婚の慣習や子どもの債務労働も減少し、女子差別やカーストによる差別が軽減しました。
・2023年5月までにプロジェクト活動を終えた3つの村では、義務教育年齢の子ども全員が児童労働から抜け出し、各村の住民グループが子どもを守る活動を引き継いでいます。
・波及効果として、直接的な活動を実施していない周辺の村でも子どもの教育への意識が高まり児童労働者数の減少が起きています。

また、現地パートナー団体SPEED についても、プロジェクトを通じて組織運営の基盤を整え、住民や行政と活動するノウハウも得て組織として成長しました。このことから、ACEとともに活動を行うフェーズを終え、SPEED単独で「ピース・インド プロジェクト」の活動を継続していくことができるという見通しが立ちました。

現地パートナー団体スタッフの写真

 

プロジェクトを行う中で感じた課題

プロジェクトでは以上のような成果が見られましたが、まだインドでの児童労働はなくなっていません。インド全体のコットン種子生産地で児童労働に従事する子どもの人数は、調査報告によると、プロジェクト開始当時には約40万人、2015年には約48万人に増え、2020年には約35万人だったことが分かっています。※

SDG8.7で掲げられている「2025年までに世界のあらゆる児童労働をなくす」という目標に対しては、このまま今の活動を続けていては間に合わない、という焦りも感じています。またテランガナ州政府がSDGsに合わせて「児童労働のない州」になることを宣言したにもかかわらず、児童労働をなくすために必要な取り組みを行っていないことも懸念されます。

そこで、ACEはもっと多くの子どもたちが子どものうちに児童労働から抜け出せるよう、これまでのインドでの経験を活かしつつ、新たな取り組みに移行することにいたしました。

 

ACEのインドでの活動は、次のアプローチへ

今後の新たなプロジェクトは、現在検討中ではありますが、対象地は引き続きインドのテランガナ州で、州内のより広範な地域において、各地域で活動する住民ボランティアグループ「子どもの権利保護フォーラム」のネットワークを通じて、児童労働のない、子どもの権利が守られるコミュニティづくりを展開していく予定です。子どもも当事者として課題解決に参加し、子ども自身の声が反映されるシステムを実現することを目指したいと考えています。

これまで、ピース・インド プロジェクトにご関心を寄せ、応援してくださりありがとうございます。ここまで活動を行ってこられたのは、支援者のみなさまのおかげです。心よりお礼申し上げます。

今後も、プロジェクト終了まで活動・ご報告を行ってまいります。プロジェクト終了までの期間は短いですが、実は最後の活動を行うための資金が不足しています。引き続き活動を見守り、応援していただけますようどうぞよろしくお願いいたします。

これまでの活動についてのご報告はこちら:https://acejapan.org/cotton/info


2023年6月12日(月)の児童労働反対世界デーに、代表岩附がピース・インド プロジェクト実施地からオンラインでつながるイベントを実施します。詳細は改めてお知らせします。ぜひご参加ください。

インドの子どもの写真

※’Child Bondage Continues in Indian Cotton Supply Chain’ Davuluri Venkateshwarlu, September 2007,
Cotton’s Forgotten Children, Davuluri Venkateshwarlu, July 2015,
‘Sowing Hope’, Davuluri Venkateswarlu, June 2020

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2023.05.24