【ガーナ便り】カカオ危機の実態 | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

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【ガーナ便り】カカオ危機の実態

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こんにちは!3月よりリサーチャーとしてACEに入職した伊藤です。

今回は、ガーナ訪問レポート(前編)に引き続き、9月にスマイル・ガーナ プロジェクトで支援している地域を訪れた際に見てきた、カカオ生産地の現状と、カカオ生産量の減少の背景にある要因についてご紹介できればと思います。

今年はカカオ豆の主要生産国で生産量が大幅に減少し、国際価格が急騰しました。この「カカオ危機」と呼ばれる事態は、ガーナのカカオ産業にも深刻な影響を及ぼしています。

農園管理に関する知識不足

プロジェクトの支援地では、樹齢25年以上の古いカカオの木が大半を占めており、カカオ膨梢ウイルス病、ブラックポッド病、そしてアリの侵食により、多くのカカオが収穫できないまま放置されている状況が見られました。話を聞いた農家の方々は、病気にかかった木の影響で収穫量が半分に減り、さらに政府からの農薬配布が遅れていること、そしてインフレによって自力で農薬を購入することも難しくなっていると嘆いていました。

ブラックポッド病にかかったカカオの実

 

現地でプロジェクトを支えているCRADAスタッフ、フィールドオフィサーのクワメさんは、こうした作物病の被害が広がっている一因として、農園の適切な管理に関する知識が不足していることを挙げています。農薬の適切な使用が行われておらず、土壌が疲弊しているほか、政府から配布されたシェードツリー(日差しを和らげ、カカオの木の生育環境を整える木)が植えられないまま放置されている状況も見受けられました。また、作物病にかかったとしても農家の人たちが木を伐りたがらないことも問題のひとつです。カカオ膨梢ウイルス病に感染した木は引き抜かなければならないものの、政府のカカオ再生プログラムによる補償金が少ないため、農家たちは木を切りたがらないのです。

カカオ膨梢ウイルス病に罹った木。幹が膨張している。

 

プロジェクトでは、こうした状況を改善するため、カカオの栽培技術に関する研修を実施しています。研修では、バナナの皮を吊るすなどの伝統的な虫除け対策に加え、枝を払って通気性を良くすることやカカオ膨梢ウイルス病の予防のための正しい農薬の使用方法を指導しています。さらに、感染した木は引き抜いて感染拡大を防ぐ必要があることも伝え、作物病に関する知識を高めながら、農家が自分たちの農園を適切に管理できるよう、しっかりと研修を続けていきたいとクワメさんは話してくれました。

違法な金鉱採掘

ガーナのカカオ豆収量の減少の他の要因として、ガラムセイと呼ばれる違法な金鉱採掘が広がり、カカオ農園の浸食を引き起こしていることもあげられます。カカオ農家の土地が奪われ、カカオの木が伐採されることで、カカオ生産の構造的な衰退が進行しています。違法な金鉱採掘は、森林破壊や土壌の劣化、さらには水質汚染を引き起こし、カカオの木の成長にも悪影響を及ぼしています。特に、鉱業の過程で排出されるシアン化物や水銀などの有害化学物質が、カカオ栽培地域の水系に流れ込むことが懸念されています。

違法金採掘サイト

 

プロジェクトの支援地から車で30分くらい移動したあたりでも、2つのガラムセイサイトが確認されました。合法な金採掘サイトも存在していましたが、それに対してガラムセイサイトは乱雑に穴を掘り、掘り返された土が放置され、土地はでこぼこで、灰色の水が溜まったままの状態でした。このガラムセイサイトのすぐ隣にカカオ農園があったのですが、木が枯れ、灰色の実がぶら下がっているという深刻な状況が見られました。

違法金採掘サイト。乱雑に掘り返された地面に灰色の水が溜まったまま放置されている。

 

さらに、カカオ生産量の減少の背後には、カカオ農家の高齢化という問題もあります。プロジェクトに参加している農家たちからも、若者がすぐに得られる収入を求めてガラムセイに流れていき、カカオ農業から離れていっているとの声が聞かれました。 

住民に寄り添う支援

訪問レポート(前編)では、学校に通えるようになったニーナさんや、稲作研修で自信をつけた女性たちの姿を紹介しました。こうしたポジティブな変化が見られる一方で、依然として厳しい状況にあるカカオ農家の現実がある現場で、クワメさんは、村人との深い信頼を築きながら、日々の活動に取り組んでいます。

こうした地道な活動により、「子どもが農園で家族を手伝うことは当たり前」という考え方から、学校に通って勉強することの重要性が認識されるようになってきました。休日に子どもが農園の仕事を手伝う際も、ナタを使う危険な作業や重い荷物を運ぶような体に負担をかける作業は避けるべきだという認識が広まりつつあります。人々の意識や行動を変えるには時間がかかりますが、こうした変化は着実に進んでいます。

今回のプロジェクトサイト訪問を通じて、クワメさんをはじめとするCRADAのスタッフが、住民ボランティアグループである子ども保護委員会(CCPC)や村の人々と密接にコミュニケーションを取り、強固な信頼関係を築いていることが、成果の基盤となっていると強く感じました。

クワメさんは、カカオ農家との信頼を深めるために、村の人たちが農作業を始める前の早朝に家庭訪問したり、稲作研修では研修期間中だけでなく、毎日女性たちの作業場を訪れて一緒に作業を手伝いながら話を聞いたりと、地道な取り組みを続けています。このような現地スタッフの献身的な姿勢と、住民に寄り添いながら築かれた信頼関係こそが、プロジェクトの成功を支える大きな要因であると実感しました。

稲作研修を受けた女性たちとクワメさん

 

これらの活動は、みなさまからのご寄付で支えられています。カカオ農家の収入の安定と、子どもたちの学校生活をこれからも守っていけるよう、今後とも、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

伊藤 愛

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2024.11.19