2023年5月31日
【岩附通信vol.28】倉敷労働雇用大臣会合参加の裏側と公開
いつもご支援ありがとうございます!ACE代表岩附です。4月22日、23日に岡山県倉敷で行われたG7倉敷労働雇用大臣会合に参加してきましたので、今日はその裏ストーリーをお話させてください!
さて、今年5月に広島で開催されるG7サミット。議長国として、日本はこの首脳が集まるサミット以外にも、様々なテーマ・省庁による閣僚会議が開かれています。その閣僚会議は、準備会合や作業部会が事前に官僚の方々中心に行われ、最後の宣言の採択の場で大臣級の方々が出てくるという仕組みです。
今回、ACEは労働雇用大臣会合の準備にあたる雇用作業部会にスタッフの太田が、そして閣僚会議に私が参加させてもらいました。
ACEにとって、児童労働に関する各国政府のコミットメントを強めることは、重要なテーマです。なぜなら、私たちがNGOとして行う児童労働撤廃のプロジェクトは、もちろん有効性を信じてやっていますが、今のACEの予算規模でリーチできる子どもの数はとても限られています。一方、G7諸国が、国際協力を通じて、あるいは貿易やサプライチェーンに関する政策を通じて、児童労働の問題が大きい政府と協力しながら、児童労働への積極的な取り組みが促進できれば、私たちがプロジェクトでもたらす数十倍、数百倍のインパクトがあり得るからです。
児童労働が最も関連の深い雇用労働大臣会合の宣言文に児童労働が入るか、どのように書かれるか、がそのあとの各国政府の政策にも影響してくる、というわけです。
そういう意図で、G7に関するアドボカシー(政策提言)活動に参加していました。G7には公式エンゲージメントグループというものがあり、Civil 7(Civil はCivil Society=市民社会の略)、略してC7が今年も構成され、ACEもいちメンバーとして加盟し、ワーキンググループに参加して、児童労働に関する提言を、C7のコミュニケ(提言書)に入れてもらえるよう、議論に参加していました。議論は英語、会議は他の国との時差を考慮して夜の時間帯(20時~とか21時~とか)となります。
ACEの戦略としては、準備会合の段階できちんとインプットを行ったほうが議論の中身に反映されやすいだろうと判断し、準備会合への参加に手を挙げ、もう1人手の上がった方と協力し、またプレゼン内容についてはワーキンググループのメンバー(様々な国から参加しています)にも意見をきいて、とオープンなプロセスを経ながら、今回の労働雇用大臣会合のアジェンダに沿って提言をまとめました。
もうACEは準備会合に参加させてもらったので、大臣会合は他の人が行くのだろう、と思っていたのですが、結局また閣僚会議にもACEからとなり、今後は私が参加させてもらったというわけで、全く予定していなかった機会に恵まれました。
この大臣級のみなさんが集まる会議の直前に作業部会が開かれているため、G7労働雇用大臣会合の宣言文は、私が参加させてもらう4月22日の段階ではもうほぼ決まってしまっていると思われました。とすると、ここで提言したことが宣言に反映されるチャンスは正直ありません。ならば、C7としての提言書を踏まえながら、なるべく印象に残るスピーチをしようと考えました。
与えられた時間は7分。パワーポイントを使ってもいいし、スピーチだけでもよい、ということで、迷いましたが今回はスピーチだけにしました。
言語も日本語でもよかったのですが、あえて英語にしました(Y7もW7の方も英語でした)。英語のほうが、その場にいるほとんどの方に直接伝えることができるからです。
内容は、もちろん児童労働に関して各国が撤廃に向けた行動計画を作ってほしい、またビジネスと人権に関しても企業に人権デューデリジェンスを促す法律を作り義務化してほしい、等ACEが直接関係してきていることも入れているのですが、雇用労働大臣会合で取り扱う内容はより幅広く、またC7としてこのような場で直接大臣にお話ができる貴重な機会として、強調したいことを伝えなくてはなりません。
雇用の差別や強制労働、セーフティーネットなど雇用にまつわることに言及しつつ、所属していたワーキンググループの書いた現状の課題に関する考察を入れながら、C7のコミュニケの冒頭にあった、広島サミットはAAA格付けでなくてはならない、このAAAとはAmbition(野心)、Action(行動)、Accountability(説明責任)の3つだ、という話と、ロシアのウクライナへの侵略戦争が起きているさなかで、広島でサミットが開催される意味を考えたとき、核兵器廃絶へ向けた行動計画を作るべき、という平和のワーキンググループが提言していたことをまじえました。
中身は至極真面目なのですが、それだとあまりにも印象に残らないと思い、岡山県といえば桃太郎、と思ったので、桃太郎の話を引き合いに出してみました。
事前にドラフトとして提出していましたが(同時通訳が何か国語も入るので、その準備のために)、4月21日の夜レセプションでお話した伊原木岡山県知事と、「スピーチは冒頭の掴みが大事」という話をする機会がたまたまあり、そうだな!と思ったので、夜中の3時までかかって、桃太郎の話を前半にもってきて、桃太郎がいかに誰もそれまでしたことがなかったことをやり(Ambitious)、行動を起こし(Action-oriented)、宝物を村の人に返した(Accountable)か、というような構成に変えて、スピーチに臨みました。
私の横に座るのは国際労働機関(ILO)の事務局長、またテーブルについているのは各国の大臣あるいは代表団の代表(官僚の中でも偉い人)、OECD事務次長、そしてエンゲージメントグループ(B7、L7、W7、Y7)のみなさん。そもそも、こうした大臣会合に同じロの字のテーブルについていること自体が極めてまれ(他の大臣会合では聞いたことがないです)な機会です。
とてもじゃないけどスピーチは覚えられませんでした。何度かリハーサルし、ちゃんと7分に収まることを確認して臨みました。目の前にあるスクリーン、会場の大型スクリーンには与えられた7分をカウントダウンしていくタイマーが画面の右端に映っています。
現実世界では、鬼(英語ではDemonと表現しました)はこのストーリーほど見えやすく明らかなものではない。それでも私たちは平和、反映、また尊厳、自由、平等を人々が享受できるような透明性という宝物を取り戻すために闘わなくてはならない。そして、桃を食べるたびに桃太郎を思い出して、G7をAAAにしてほしい、とスピーチを締めくくると、ちょうとぴったり7分でスピーチを終えることができました。
議長を務めていた加藤勝信厚生労働大臣(地元が岡山)からも「桃太郎伝説に言及いただきありがとうございます」と受けていただき、関係者の方からもスピーチ良かった、と言っていただけたので、ほっと胸をなでおろしました。
ちなみに、今回の会議にロの字の机の中側に座る方々はピンバッチを、そしておつきの方々は首にぶら下げるIDカードをつけていて、セキュリティを通るのですが、もう、何度も何度もいろいろなところで止められました。スカーフでピンバッチが隠れてしまっているからだと思って2日目はちゃんと見えるところにつけたのですが、それでも中年の日本人のおばさんが代表団の長には見えなかったのか、私の貫禄が足りないのか、会議室に入ろうとして警備の方にとめられました(笑)。
そしてこの2日間にG7各国の取り組み、官僚の方々との人間関係を作って、想像以上の手ごたえを得て自宅に戻りました。興奮気味で誰かに話したくても、家族はインドにいるので誰も日本の自宅にはいません。そこで、行きつけのイタリアンのお店にいって、カウンターでマスターに話をきいてもらいました。
そこで桃太郎のスピーチの話をしたところ、「でも桃太郎の元の話って、実は鬼って言われているのは悪い人じゃなくって、侵略戦争だったって説もあるよね」と、マスターが教えてくれたのです。
もし私の横にいたら「サーッ」と血の気が引いていく音が聞こえたかもしれません。
そもそも、G7というのは勝手に政府7か国が集まっている場で、国際的な意思決定を行う正当性があるものではない、という考え方があります。加盟国が1票を持つ国連とは性質が違うのです。そのためG7そのものを問題視する考え方もあります。権力構造の強化になりえるからだと思います。
そのような会議で、市民社会側の人がG7に責任を果たすように求めるスピーチなのに、そしてG7は植民地支配をしてきた側の国々なのに、侵略戦争がベースにある話を引き合いにだして美化して話してしまったのか・・・・・と。諸説あるようではあるのですが、そのあとやはり気になってしまって、なかなか寝れませんでした。
というわけで、このスピーチについて褒めていただくたびに、チクッとどこかが痛みます。
それは、やはり市民社会の立場として、声を上げられない人、弱い立場にある人、抑圧されている側の立場にたたなくてはらならい、そちら側にたちたいのに、という私の願いの現れであると自分の中で解釈することとして、お役目を果たすことの難しさを感じた経験をお伝えさせてください。
岩附通信、今月は長くなってしまいましたが、最後までご一読いただきありがとうございました!
2023年4月 ACE代表 岩附由香
※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。