2023年6月30日
【岩附通信vol.29】 ジャニー喜多川と日本
岩附通信で何について書こうか、という相談をしたら「ジャニーズ事務所の一件は?」とスタッフから提案を受け、そうだよね、子どもの権利の活動をしているモノとして、この件は書かなくてはいけないことだよね、となり、今日は重たいですがこのテーマです。(具体的な性被害の描写はないですが、読まれる方によっては、気持ちが重くなるかもしれません。)
そのため、カウアン岡本さんの記者会見と、BBCのドキュメンタリーの動画を見て、晩御飯の支度をして(お弁当用含め唐揚げを900g揚げました)、ご飯を食べ、エプロンをしたまま、いまこれを書いています。もう明日これをみなさんに送付する段取りになっているので、急いで書かなくてはならないのですが、晩御飯のあとソファに寝ころび、天井を眺めながら、さぁなんと書こうかと考えて浮かんできた言葉は「絶望」でした。
ひとつめの絶望は、被害人数の多さと、性的虐待が行われてきた期間の長さです。カウアン岡本さんの記者会見によれば、ジャニー喜多川の所持する部屋で寝泊まりしていた少年たちは1日につき最大20人。カウアンさんがジャニーズJrに在籍していた間にも、100人~200人の少年が被害にあっていたのではないかといいます。絶句です。そして、ジャニー喜多川のこうした性加害は事務所設立当初から指摘されていました。50年以上、それが続いていたということは、被害にあった少年の人数は相当なものです。
ふたつめの絶望は、1960年代から何度も裁判所でジャニー喜多川の性加害について扱われてきていたこと。また1999年に性加害を報じた週刊文春を、名誉棄損でジャニーズ事務所側が訴えた際、性加害があったこと自体は裁判所で事実認定されていたということです。にも拘わらず、警察も、メディアも、動きませんでした。このときがひとつの介入すべきタイミングだったはずと思うのですが、そうした動きがなく、それ以降も止められなかったことへの絶望です。
みっつめの絶望は、ジャニーズ事務所がメディア界でかなりの権力を持っていること、ジャニーさんが性加害を行っているらしきことは日本国民の多くにとって「周知の事実」となっていたことです。私も含めて。ジャニーズJrの間でも、この性加害は「よくあること」と受け止められていたようです。「今日は、あいつか」という反応や、同じ部屋で寝ていて、音が聞こえるなど、みな知っていたとのこと。
まだまだ絶望をあげられそうなのですがこれぐらいにして、ジャニー喜多川が行ってきたことは、深刻な子どもの権利の侵害であり、Sextortion(セクスト―ション)です。権威を持つもの(この場合は、誰をデビューさせ、CMに出させ、ドラマに出させるかというプロデュース・キャスティング権限)が、その提供と引き換えに性的な行為を強制することを指します。それを巧みに何十年も行ってきて、誰もそれを止めることが出来てこなかったというこの事実は本当にそれ自体が恐ろしいことです。これは日本のワインスタイン事件(ハリウッドで大きな影響力を持っていたプロデューサーの長年にわたる一連の性加害。#me tooの運動のきっかけにもなった)、いやそれ以上の事件です。
私が企業の社会的責任の文脈で学んだキーワードに「暗黙の加担」という概念があります。
人権侵害があるのがわかっていながら見過ごす、あるいは影響が及ぶことが予見されていたにも関わらず、沈黙する、また沈黙することで利益を得るようなことをさします。
ジャニーズ事務所所属のタレントを使えなくなることを恐れて、これまで性加害の告発自体も、裁判の結果も、ほとんど報道してこなかった TVを中心とした従来の新聞・雑誌などのメディアは、沈黙を守り、はっきりと、この加害構造に「加担」してきました。
私自身も遠い昔に駅の売店かスポーツ新聞的な何かでジャニーズ事務所を元Jrが訴えている!という見出しを見た記憶があります。それが1999年の文春の報道だったのかもしれません。中学生の頃、少年隊を歌って踊れた私にとって、「これ、本当だったら一大事じゃない?」と思いましたが、そのあとの報道もあまり記憶になく、「逆恨みで訴えたのかな」ぐらいでスルーしてしまっていました。
BBCのドキュメンタリーでは、ジャニー喜多川の写真や動画がいくら探してもどこからもほとんど出てこないことを「彼は守られている」とし、「何より最も恥ずべきことは、子どもを守らなくてはならないという考えの行動がこれまでなく、その認識がほとんど感じられないことだ」と結んでいます。
この最後の一言が、本当にショックでした。
そしてショックなのは、事実だからだと思いました。
1人の少年の人権より、おとなの都合とビジネス(金儲け)を優先し、それによるサービス提供を享受していた日本社会。みんな共犯です。
絶望感から抜けだしきれないままこの通信を書いてしまいました。
改めて感じたのは、日本は人権後進国だということです。また、「そういうものなのだから、しかたがない」という考え方―これは、「児童労働は必要悪」という言説にも感じるのですが―は、人権の、子どもの権利の「敵」かもしれないということです。
このような日本社会の中で子どもの権利の視点をもたらすことはさらにハードルが高いことだと思います。しかし2023年4月から施行されたこども基本法が、これまでとは異なる視点と行動をもたらしてくれるきっかけになれば。というか、しないといけない。
この絶望感から這い出すには、そう自分で自分を説得するしかないような状況ですが、毎月、毎年のみなさまからのご支援に感謝しながら、「子どもの権利」が日本社会にとってあたりまえになっていくように、ACEに出来ることを前に進めていきたいと思います。
2023年6月 ACE代表 岩附由香
※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。