2023年8月31日
【岩附通信vol.31】 「迷惑かけてなんぼ」の世界
「人に迷惑をかけない」というのは日本で生まれ育った人たちにとってとても重要な価値観となっているように思います。今月、家族がコロナにかかり、行くはずだった沖縄出張を取りやめようかどうしようか迷っていた時にも「ACEのスタッフ、沖縄のちゅらゆいさんのスタッフにコロナをうつしたら大変」という「迷惑をかけてしまう恐れがあるのでやめておこう」という判断をしました(結果、そのあと私自身もコロナになったのでそれが正解だったと思ってはいるのですが、判断するにあたって自分にもその軸が大きくあることを自覚しました)。
「迷惑かけてなんぼ」とは、インドに駐在している女性たちと話していた時に出てきた、インドの価値観を表現したもの。人の手を煩わせることが、あたり前であり、それが出来ることが、その人自身の評価、存在意義にもつながる、そんなような感覚ではないかと思います。先日7月19日に、谷口真由美さんと子どもの権利に関する対談をさせてもらったのですが、その際に思い出してご紹介したのがこのフレーズでした。「迷惑」が何を指すかにもよりますが、日本の場合「迷惑」の範囲がかなり広くとらえられ、本来「個人の意見の主張」「個人の自由」も一部迷惑にカウントされているような気がしています。
保育園や学校の子どもたちの声が「迷惑」ととらえられ、新しい保育園が建てられないというような自治体がある中で、もしかしたらこれは「迷惑をかけないように」ブレーキが社会として利きすぎてしまっているのはないでしょうか。また「迷惑をかけないため」のルールが決められ、それが画一的に適用され、厳格に運用される、というのも日本的だと思います。本来の目的が忘れられかけ、そのルールだけが活きて人を縛る、そんな感覚があります。それは結果的に自分の権利を獲得するための自己表現を制限し、子どもの権利を保障しづらくなっているのではないでしょうか。
そうした「目的が忘れられかけてルールだけが活きている状態」がよく見られるのが、学校ではないでしょうか。特定の髪型の禁止や、前髪は目にかかってはいけない等の細かい指定や、下着は白としなければならない等は、そもそもそのように設定された意図がよく理解できないルールです。教科書を持って帰らなくてはならないというルールも、ランドセルが重すぎる問題を生じさせていました。髪の毛の色が黒でなくてはならないというルールや、また「地毛証明」を出さなくてはならない等は、人権侵害そのものです。
これまで多くの人が「?」と思いながらも「そういうものだから、仕方ない」とあきらめて従ってきたルールがあると思います。しかし近年そうした「ブラック校則」は注目を浴び、「やっぱりおかしいよね」と、各地の教育委員会でも校則見直しの動きが起きるなど、改善のきざしがあります。自分の権利を獲得するためには、声をあげなくてはなりません。その声をあげる子どもたち、それを見守り、声を聴くおとなたちが増えてきている、そんな変化を感じています。
子どもが平日起きている時間の三分の一ぐらいを過ごす学校。その学校でどのように子どもの権利が守られていくか、それは子どもたちにとって、とても大きな変化になると思います。不登校がこれだけ増え、先生になりたい人も減り、長時間労働が問題視されている教職現場にとって、またやることが増えるのか!という負担感がもしかしたらあるかもしれませんが、実は子どもの権利条約を保障するという観点からも、公教育の現場における先生には、子どもの権利を守る義務が生じています。
子どもの権利条約は、国が、子どもの権利を保障する宣言でもあります。子どもは権利を持つライツホルダー、国は権利を保障する責任(英語でデューティー、Dutyともいいます)を持つ、デューティーベアラーです。子どもの権利条約を批准するということは、「その権利を国が保障します。その権利保障のために国は政策、予算を準備します」という国の子どもたちに対する約束です。国とは、中央政府だけでなく、自治体や、公務員も含みます。したがって、公立学校の先生方も、このデューティーベアラーとなるわけです。
2023年4月、こども基本法が施行されました。1994年に子どもの権利条約を批准して以来、日本になかった「子どもの権利を包括的に保障する法律」が、今回曲がりなりにも出来た、というこまとになります。「こどもまんなか」を標ぼうするこども家庭庁も出来、子どもたちの意見を聴くメカニズムを国として準備するなど、これまでのことを考えれば画期的な取り組みが進んでいます。
こうして、法律上は子どもの権利条約の4原則である「差別の禁止」「子ども最善の利益」「子どもの生命、生存および発達の権利」「子どもの意見尊重」が反映された基本理念をもつこども基本法の存在により、日本国内での子どもの権利保障がなされる素地は整いました。
「子どもが意見を言う権利があること、それをおとなが真剣に受け止める義務があること」が徐々に広まっていくことで、「どうせ無理だから」「どうせ変わらない」と子どもが嫌なことを我慢してしまうのではなく、表明し、対話して課題を明らかにして解決に向けて協働する、そんな関係性が子どもとおとなの間に築けたらいいなと思っています。「迷惑かけてなんぼ」の世界に突然ジャンプすることは難しいかもしれませんが、「迷惑をかけていはいけない」方に偏ってしまった意識を「迷惑かけてなんぼ」の方にシフトさせていく、そんな意識の変化が必要なように思っています。
それをどのように学校で活かしていけるのか。子どもたちに子どもの権利を伝え、活かすためのヒントをいただくために、ACEが事務局を務める「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」では教員向けセミナーを企画しました。8月10日(木)対面で東京で行うため、ご参加いただける方は限られるかもしれませんが、じわじわと来ている変化の波を感じている先生方も多いのではないかと思いますので、ご関心のありそうな方にぜひご案内いただければ幸いです。
▼8/11 教員向けセミナー「学校で、どう伝える?どう活かす?子どもの権利」
https://crcc-20230810.peatix.com/
そして最後に、クラウドファンディングのご報告をさせてください。7月31日まで展開してきた活動資金を募るクラウドファンディング 、おかげさまで無事目標金額の1500万円を超え本日最終日を迎えることができました。会員、サポーターの皆様におかれましては、多大なご支援・ご協力を賜り、誠にありがとうございました。
暑い日が続いています。ACE会員・サポーターの皆様におかれましては、体調変化に注意していただきながら、楽しい思い出に残る夏を過ごされますよう、お祈り申し上げます!
2023年7月 ACE代表 岩附由香
※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。