【岩附通信vol.35】 国連ビジネスと人権フォーラムに参加してきました | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

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岩附通信

2023年12月31日

【岩附通信vol.35】 国連ビジネスと人権フォーラムに参加してきました

岩附通信35

継続的なご支援、いつもありがとうございます!
現在欧州に出張しており、この通信は本来月末に送付するはずなのですが、1日ずれてのお送りになってしまいました(欧州はまだ11月30日ということで…)。

さて、今回11月27日~29日まで、国連ジュネーブ本部で行われていた「ビジネスと人権フォーラム」に参加してきました。
昨年もこの時期に音声でこの報告をお届けしたことを覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。毎年この時期に行われる会議です。

実は大学の先生が主催する「ビジネスと人権」に関する研究プロジェクトに私が参加しており、今回はその研究プロジェクトの関係で出張しました。
12回目を迎えるこの会議は、会場とオンラインで140ヵ国から3393人の登録があったそうです。

「ビジネスと人権指導原則」という言葉、きいたことがおありでしょうか?
2011年に国連で発表されたこの指導原則は、3つの柱からなっています。
【1】国家の人権保護の義務
【2】企業の人権尊重の責任
【3】救済へのアクセス

これだけ書かれてもなんのことかしら?と思う方もいるかもしれませんが、何が新しいかというとこの【2】が新しいのです。
これまで国際的な条約は国同士がお互い守りますよ、というもので、拘束力は国に対してしかありませんでした。
でも、この指導原則に【2】が入ったことで、条約のような拘束力はないものの、国際的に「企業も人権を尊重する責任がある」ことが、世界のスタンダードになったのです。

私はこれまで4回この会議に参加したことがあります。
「児童労働」はこの【2】の企業の人権尊重の責任と深く関係していて、実際に今回も多くのセッションで児童労働に関する言及がありました。
企業は、ものを製造する際に、その原料のサプライチェーンまで辿って、人権侵害がないかを確認したり、予防したりすることが、この指導原則が出来たことによって、求められるようになってきたからです。

今回は残念ながら児童労働を正面から取り上げたセッションはなかったのですが、いま、世界の企業の人たちがどのような関心事があるのか、また人権に関する様々な関係者が一堂に集まるこの機会に、多くのカギとなるプレイヤーのみなさんとつながることができました。
また、この期間中に国連のビジネスと人権作業部会の委員と、意見交換を行うこともできました。

さて、今回のビジネスと人権フォーラムで印象に残ったことをいくつかお伝えできればと思います。

1.欧州の人権・環境デューデリジェンス指令
この数年間、ずっと世界の注目を浴びてきたのが、欧州で議論されているこの指令です。
一説によると、早いと年内にこの内容が合意に至るかもしれないそうで、それが一旦決まると、今度はEU加盟国各国がそれに従った法律を作ることになります。
この法律は、企業に対して、人権や環境に関して企業が負の影響を与えていないか確認し、与えているとしたらそれをどう軽減し、また予防策をとるかの策を練ることを義務化するもになります。

この言葉自体はほぼあらゆるセッションに出てきたといっていいぐらい出てきたのですが、興味深かったのは、先進的に取り組んでいる企業(ネスレや、ウォールトディズニーなど、世界の名だたる企業の方々が来ていらっしゃいました)が気にしているのでは、どこまでの範囲でデューデリジェンスをしなくてはいけないか、ではなくて、「透明性」の部分だったということです。

これは、企業が把握した情報の開示を全てしなくてはいけないかどうかについてです。
情報を公開することによってネガティブな影響も企業にとってはあり得るとのことで、そのことをとても気にしている様子が印象的でした。

2.プラスチックに関する国際条約を作ろうとしている企業アライアンスがあること
ビジネスと人権フォーラムは3日間行われ、1日4コマ、最大3つのセッションが同時並行で行われています。

1日目の最後の時間枠がすべて環境系のセッションだったので、わたしの関心ズバリなものがない中なんとなく参加したプラスチック関係のセッションで知ったのは、プラスチックの汚染に関する国際条約を作ろうという動きがあることでした。
しかも、それを推進しているのがネスレとコカ・コーラが作った企業アライアンスということで、企業がアドボカシーを行っている実例を見れて、興味深かったです。

残念ながら日本に本社を置く会社はほぼ入っていないようですが、企業がイニシアティブをとって積極的にグローバルなルールを設定し、プラスチック汚染を食い止めようとしている(もちろん、各国政府がバラバラの法律を作られると困るので、グローバル基準があったほうが良いというビジネスのメリットもあると思います)のが印象的でした。
https://www.businessforplasticstreaty.org/

3.国内人権機関
日本には国内人権機関はありませんが、世界120ヵ国にはあります。
実は各国でビジネスと人権の取組を進める中心となっているのが、こうした国内人権機関だったりします。
でも日本にはないので、外務省の人権人道課が少ない人数で対応しているという状況です。
今回様々なセッションに国内人権機関の方々が出ていて、やはりこうした国内人権機関があることが、日本で「ビジネスと人権」を含む、人権の意識啓発や浸透を図るのには重要ということをつくづく感じました。
日本はこれまで何度か試みがあったものの法案の成立に至らなかった経緯があり、国連から何度も作るように指摘されています。
ビジネスと人権作業部会が7月に日本に来て調査を行った最後の記者会見でも「国内人権機関がないことを深く憂慮する」とのコメントを残しています。

こうした国際会議の内容自体はオンラインで見ることができるものも多いのですが、リアルにその場にいることもメリットもやはり大きいです。
セッション後に登壇者に質問にいったり、あるいはセッションで質問をしている人の中に、話したい!と思っていた団体の人だ!というような人を発見したりして、近寄って行って話をしたり名刺交換をしたり等は、やはりオンライン参加では出来ないことです。
また今回偶然目の前の席に座った人がILO(国際労働機関)のジュネーブ本部にずっといらっしゃる児童労働担当の方で、その方から最新情報を教えていただき、こういう場に行くことでリアルに人と会えるメリットはやはり大きいなと感じました。
また、ACEの存在を知ってもらう機会にも少しはなったかなと思います。

そんな形で、とても充実した3日間となりました。 
ここで得た知識やネットワークをこれからもACEの活動に活かしていきたいと思います。
 
長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございます!
いよいよ師走となりますが、みなさまお体に気を付けてお過ごしください!

2023年11月 ACE代表 岩附由香

※「岩附通信」は、会員・子どもの権利サポーターの方の特典として毎月1回配信しているコンテンツですが、配信から一カ月以上が経過したものは代表ブログにて一般公開しています。 

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