しあわせへのチョコレートプロジェクト活動報告会2025 レポート──分野を超えて5つのNGOが語る!カカオ産地の“いま”
こんにちは。「しあわせへのチョコレート」プロジェクトを担当している佐藤です。
今回は、2025年7月に開催したオンラインイベント「しあわせへのチョコレート活動報告会2025」その模様をダイジェストでお届けします。
「スマイル・ガーナ プロジェクト」を含むガーナでの活動、ガーナ政府と協働で進める児童労働フリーゾーン、日本のチョコレート業界との連携、国内外における政策提言、消費者啓発にて構成される「しあわせへのチョコレート」プロジェクト。報告会前半では、特にガーナでの取り組みについてACEが活動報告を行い、後半では、環境、人権、フェアトレードに取り組む4つのNGOとともに「カカオ産地のリアル」について本音で語り合う特別トークセッションを実施しました。
当日のアーカイブ動画はこちらからご視聴いただけます:
https://youtu.be/4bszDnbqhOg
また、本報告会にあわせて、2024年4月から2025年3月の活動をまとめた活動報告書も発行しています。プロジェクト開始からの17年を振り返る特別対談記事も掲載していますので、ぜひご覧ください。
活動報告書(PDF)はこちらからご覧いただけます:https://acejapan.org/info/2025/06/354373
ガーナでのACEの取り組み(2024年4月から2025年3月)
「しあわせへのチョコレート」プロジェクトは、カカオ生産地の子どもたちを児童労働から守り、日本の企業や消費者、日本やガーナの政府など、カカオの生産と消費に関わるみなさんとのコレクティブインパクト(立場や組織の垣根を越えて、共通の目標に向かって協力し合う方法)で児童労働を予防・撤廃し、児童労働のないチョコレートがあたりまえに手に入る社会の実現を目指した活動です。
今回の活動報告では、ガーナ現地の活動を担う3名のスタッフが登壇し、それぞれの現場での実践を通じて見えてきた手ごたえや課題を語りました。

ガーナ現地の活動を担うスタッフ:写真右から松本、赤堀、白木
白木(児童労働フリーゾーン制度構築・連携 担当)
「しあわせへのチョコレート」プロジェクトでは、「児童労働フリーゾーン(Child Labour Free Zone) 」の拡大にも力を入れています。児童労働フリーゾーンとは、児童労働をなくし、子どもの成長を守るために必要な仕組みや支援が整っている地域をさします。教育環境の整備や生計向上支援、地域住民・企業・行政の協働による見守り体制づくりなど、複合的なアプローチを通じて、こうした地域を増やすことを目指しています。
ガーナ政府と連携し、JICA(国際協力機構)の委託事業として、児童労働フリーゾーン認定制度の構築と普及を進めています。行政や学校、地域の人々とともに、子どもを守る「地域ぐるみの仕組み」づくりに取り組んでいます。制度設計の段階から政府関係者と何度も議論を重ね、少しずつ前進してきたことにやりがいを感じています。
一方で、国のガイドラインに定められた制度を実態が伴うように機能させていくためには、政府や行政側のイニシアチブ(実行力)、そして地域への浸透に多くの時間と調整が必要で、根気のいる取り組みだと改めて実感しています。
松本(JICA事業・企業連携 担当)
企業や地域との連携を通じて、児童労働フリーゾーンの認定要件に沿った仕組みの構築を進めています。江崎グリコ株式会社と協力したプロジェクトでは、支援する村で地域の理解を深めながら、児童労働に関する啓発活動や、児童労働を予防・対処するための村の規則や計画づくりなどを進行中です。また、JICA事業では複数の村を対象に、児童労働フリーゾーン認定を目指して取り組んでいます。
制度づくりと実践の両輪を動かす難しさに直面しながらも、一歩ずつ前進しています。特に現場では、村に児童労働がないようモニタリングするボランティアの委員会が中心的役割を担いますが、委員である村人が日々の生活と両立しながら、いかに積極的に活動に参加してくれるかが課題の一つです。そうした状況の中で、地域全体が「子どもを働かせない」という共通の目標を持ち、話し合いを重ねながら進む過程に希望を感じています。
一方で、机・椅子の不足や教員不足、通学距離といった教育環境の課題は、地域の努力だけでは限界があり、行政や他団体との連携促進が次なる課題となっています。
赤堀(スマイル・ガーナ プロジェクト担当)
ACEは、ガーナのカカオ生産地で、今危険な労働にさらされている子どもたちを守り、教育を支援する「スマイル・ガーナ プロジェクト」を2009年2月から行っています。
スマイル・ガーナ プロジェクトの支援地も「児童労働フリーゾーン」として認定されることをめざして、地域住民と協力しながら、教育や生活環境の改善を通じて、子どもが安心して学び育つ地域づくりに取り組んでいます。
支援する村の学校が初めてチャリティーイベントを開催し、住民から日本円換算にて84,000円相当の寄付額を集めるなど、「自分たちの手で変えていこう」という意欲が嬉しかったです。
一方で、ガーナでは気候変動や金の違法採掘、作物病などの影響で、カカオの収穫量が大きく減少しています。プロジェクトでは農家60人を対象にカカオ栽培研修を実施しましたが、研修を受けていない農家がまだ多く、収量減少に十分対応できていない現状があります。今後も研修機会を継続的に設けられるよう検討していきたいです。
NGOトークセッション:カカオ産地のリアルに迫る―チョコレート成績表から読み解くサステナビリティの本質―5つのNGOが本音で語る現在地
後半のトークセッションでは、カカオのサステナビリティに取り組む5つのNGOが登壇しました。冒頭では、「世界チョコレート成績表」の結果を手がかりに、サプライチェーン全体に横たわる環境・人権・トレーサビリティの課題を可視化。そこから議論は、国際的に主流となっている児童労働対策の枠組みCLMRS(児童労働モニタリング・救済システム)の有効性や限界、森林破壊ゼロや再生型農業の必要性、そして農家や地域社会に根差した支援のあり方などへと広がっていきました。
モデレーターは、「しあわせへのチョコレート」プロジェクトを17年にわたり推進してきたACEの白木朋子が務めました。
JATAN 熱帯林行動ネットワーク 榎本肇氏
世界のチョコレート企業を評価する「世界チョコレート成績表」の日本窓口として、企業の情報開示や実効性ある取り組みの必要性を指摘。環境・人権・トレーサビリティといった観点からの多面的な評価が、企業の真の変化を後押しする鍵であると説明しました。その中で、児童労働対策として国際的に主流となっているCLMRSについて、「これだけで本当に課題を解決できるのか?」と問いかけ、議論の起点を提示しました。
ACE 白木朋子
榎本氏の問いに応える形で、CLMRSは有効な枠組みの一つであるものの、それだけでは課題の根本解決には至らないと指摘。特に農村部で児童労働をなくすためには、教育環境の整備や農家の生計支援に加え、地域住民・企業・行政が三者一体となって「子どもを守る仕組み」を構築することが不可欠であると説明しました。また、JICAや企業と連携した取り組みを通じ、制度や認証の枠組みと現場での実践をどう結びつけ、相乗効果を生み出すかが今後の大きな鍵であると述べました。
WWFジャパン 溝口拓郎氏
ガーナでは過去40年で森林が半減し、その約半分がカカオ農園に転換されたことを紹介。社会・経済の基盤である森林を保全するため、企業には森林破壊ゼロのサプライチェーンの確立を求めるとともに、農園の土壌の健全性を回復させるために、従来のアグロフォレストリーに加え再生農業の要素を組み込む必要があると訴えました。
フェアトレード・ラベル・ジャパン 潮崎真惟子氏
児童労働や生活所得、気候変動といった課題が複合的に絡む中、フェアトレード認証の仕組みに加え、現場に寄り添った支援の重要性を紹介。特に、農家の声を反映した仕組みづくりや、バイヤーとの連携の中で構造的課題にどう取り組むかが共有されました。
レインフォレスト・アライアンス 一倉千恵子氏
世界のカカオの約46%が認証農地で生産されているというデータを紹介。認証は重要な手段である一方、それだけでは限界があることを踏まえ、生産者との長期的な信頼関係や、現場に根ざした支援の必要性を強調しました。
セッション後半では、「認証や支援の限界をどう補うか」「企業・農家・地域・NGOがどう連携して責任を担うか」などをテーマに意見交換が展開。それぞれの現場で見えてきた課題と可能性を出発点に、制度と実践の接続、ステークホルダーの役割分担、そしてNGO同士の協働のあり方について、多角的な視点が交わされる時間となりました。
ACEのチャレンジとこれからの一歩
ACEがガーナで進めている活動では、地域住民・企業・行政・国際機関など、多様な立場の連携によって少しずつ変化が生まれています。
現在は、ガーナ政府による児童労働フリーゾーン認定制度の整備と、現地コミュニティでの実践的な取り組み(学校環境の改善、住民による見守り、農家への研修など)を両輪で進めています。
しかし、教育インフラの不足や農家の収入不安定といった課題は依然として大きく、「制度だけではなく、実際に子どもたちを守れる仕組み」を根付かせるには、時間と人の手が必要です。
ACEでは、現地の声に耳を傾けながら、現場のリアリティを国の制度作りに活かし、持続可能な変化を後押しできるよう、これからも丁寧に活動を続けていきます。
最後に
「カカオの問題」と聞くと、遠い国の話に感じるかもしれません。
けれど、チョコレートの裏側には、子どもたちの未来や環境破壊、貧困など、さまざまな課題が関わっています。
今回のイベントでは、異なる立場のNGOが、それぞれの視点から現場のリアルを共有し、「ひとつの団体だけでは解決できない」という共通認識が浮かび上がりました。
だからこそ、私たち一人ひとりの選択や、共感にもとづく支援の力が、大きな変化につながることを改めて実感しています。
ACEでは、児童労働のないチョコレートの実現に向けて、これからもガーナの人々とともに歩みを進めていきます。皆さまの応援が、子どもたちの未来につながっています。引き続きのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
ガーナの子どもたちを笑顔にするために
応援よろしくお願いします!
- カテゴリー:報告
- 投稿日:2025.08.22
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