藤田和芳さん(大地を守る会 会長) | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)

児童労働のない未来へ-NPO 法人ACE代表 岩附由香のブログ(single-blog)

この人に会って話を聞いた!

2006年2月9日

藤田和芳さん(大地を守る会 会長)

1月24日に上智大学で藤田和芳さん(大地を守る会 会長)を迎えた講演会があり、参加してきました。テーマは環境NGOと社会的起業」。

ずっと前から会ってみたいと思っていたので、間近でお話がきけて、うれしかったです。

上智大学でこんなセミナーが定期的に開催されているのもずっと知りませんでしたが、ユニセフ日本事務所の浦本さん、元カリスマバイヤーの福助社長の藤巻さんなど、話を聞きたかった方々がソフィアン(上智大生のこと)で、これまでもこの会で講演をされていました。ああ、惜しいことをした。。

今回はその場で「今日のお話、まとめてくださらない?」とソフィア会事務局の方に素敵な笑顔で頼まれたので、報告用にまとめました。以下貼り付けます。長いけど、是非読んでください。私は思うところがほんとにたくさんありました。

藤田和芳さんは「社会起業家」の先駆者

藤田さんが会長を務める大地を守る会は、1975年に活動をスタートした環境NGO。「農薬の危険性を100万回叫ぶよりも、1本の無農薬の大根を作り、運び、食べることから始めよう」を合言葉に、1977年には株式会社大地を設立し、有機農業を営む生産者から農作物等を買い上げ、消費者へ届ける事業を始めた。以来30余年を経て、会社は150億円の供給高、無借金経営を続けている。そんな藤田さんの事業家、活動家両方の側面を紹介したい。

藤田さんが著書に『ダイコン1本からの革命』と名づけ、観念的な運動ではなく、現場で実際に取り組むことを大切にしてきた背景には、上智大学時代の学生運動があった。藤田さんは上智大学新聞の主幹として政治活動を禁止している学則に対し、政治参加を認めるよう活動するなど、1960年代の学生運動の中心にいた人物である。

そこでの経験から、頭でモノを考える「観念的」な立場からの脱却をはかり、自分の手で新しいモデルを作ること、小さくてもいいから変化を起こすこと、自分たちの社会に伝統的にあったものに学ぶこと、を目指して、大地を守る会の活動を上智大学卒業後にスタートさせた。

その中で注目したのが「食べる」行為。これは「生きる根幹」でもある。社会に問題があるとすれば「食」はそれが如実にあらわれる場所に違いない。農業と食べることをセットにして、そこから社会に働きかけていこう。こうして大地の会の「運動」と「事業」の両輪がスタートした。その両輪は、いわば「理想の追求」と「日々の営み(現実)」の両輪でもある。

「食べる、寝る、SEXする、という動物的欲求と同時に、『何らかの社会的正義を実現したい』という欲求が、人間には誰にでもあるのです」と藤田さんは語る。社会的責任を果たす会社として株式会社大地を作るため、1株5000円の株券を全国練り歩き販売、1ヶ月で1699万円を集めて起業した。いまや株主は約26千人。最近話題になっている「社会起業家」の先駆者である。

有機野菜の宅配サービスの老舗「大地を守る会」

「大地を守る会」の事業のひとつに、学校給食に有機農産物を提供する事業がある。お母さんたちからの要望で始まったこの事業だが、「観念が現場におりてきた時に、真実のことがでてくる」。有機農産物を導入することは誰でも総論OK。しかし有機じゃがいもを実際にいざ導入しようとすると、現場の調理員さんたちから「皮むき、面取りが大変、労働時間が増える!」、トマトを導入しようとすると「欠品があったら困る!」との声。各論反対がたちまちでてくる。そんな難題をひとつひとつクリアし、現在は130校で7000万円の売り上げがある。

現在の主軸事業は、農産物、畜産物、水産物、加工食品などを各家庭へ届ける宅配事業。これは当初共同購入という形でスタートし、たとえばミカンなら1箱、という具合に農産物をまとまった量届け、グループで分けてもらう作業をしてもらっていた。

ところが、徐々に共同グループの人数が減少し、会社側の手間が増えてきた。そこで1985年、クロネコヤマトが事業を開始した頃に「宅急便」に目をつけ、試験的に会社から半径5キロのお宅にのみ夜6時から12時に宅配してみたら、それが大当たり。現在130億円の供給高で、生産者2500人と消費者74200人をつなぐネットワークに発展した。

「100万人のキャンドルナイト」を成功させた現役の活動家

こうして事業家として成功を経験した藤田さんだが、いまでも現役の「活動家」だ。最近では「100万人のキャンドルナイト」を成功させた。これは夏至と冬至に夜8時から10時の間2時間、電気を消そうという運動。その背景には原発反対という活動の目的があるのだが、ただ「原発反対」というだけではたくさんの人の心を揺り動かせない。

「気軽に参加できて、小さくても自己決定がそこにはあり、そして世界とつながること、それで社会とつながっている実感が持てるような行動」としてこのアイディアを推進。環境省の後援、東京タワーなど名所の協力やメディア報道もあって、昨年は644万人の参加を得たほか、日本の名所22千箇所があかりを消し、160カ国へ呼びかけ、ロンドンや上海などでも取り組まれた。「宇宙から見て暗闇のウェーブが起これば、原発の問題をブッシュ大統領も真剣に考えてくれるかも」と期待している。

活動家としての藤田和芳さん

藤田さんが講演の最後にお話されたのは、「いとみみず」の話。稲作で有機農法をする場合に一番問題になるのが雑草対策。そこで大活躍するのがこの5ミリから8ミリにも満たな「いいとみみず」なのですが、「自然の力はすごい」と感動を覚えるこのいとみみずの話は、是非直接、藤田さんの臨場感あふれる解説で聞いていただきたいと思います。

「事業と運動の両輪と、生産者と消費者を結ぶネットワーク」という新しいモデルを作り、いとみみずから「自然や社会の伝統に学ぶ」ことをしてきた大地を守る会での藤田さんの軌跡は、「小さくてもいいから変化を起こす」目標をとうに達成している。これまで積み重ねられた小さな変化と30年の間に築かれた大きなネットワークが、次の大きな変化を起こすのもそう遠い日ではない、そしてその大きな変化にわたしも連なりたい、と感じた講演であった。

ページの先頭へ戻る