幸せへのチョコレート

ガーナで深刻な「カカオ危機」と「金採掘」の現状

こんにちは。ACEの伊藤です。私はACEでリサーチャーとして、児童労働やガーナのカカオ生産などについてリサーチを行っています。

昨今のガーナで深刻な「カカオ危機」と「金採掘」の現状についてみなさんにも知っていただきたく、ACE支援地での様子も含めてご報告できればと思います。

「カカオ危機」に負けない農家をめざして

カカオ危機とは

2023年末ごろから、「カカオ危機(カカオショック)」としてチョコレートの原材料であるカカオの価格高騰がニュースで大きく取り上げられるようになりました。

気候変動や病害虫の被害、森林伐採、違法な金鉱採掘による土壌汚染などが原因で、カカオの収量が激減しています。2023-24年シーズンの世界生産量は、国際カカオ機関(ICCO)の推計で前年比13.1%減となり、供給不足が深刻化しました。
これによりカカオの国際価格が大きく高騰している事態が「カカオ危機(カカオショック)」と呼ばれています。
2023年12月の1トン約4,400ドルから2024年12月には約11,500ドルと、約2.6倍に上昇しました。

しかし、国際価格の高騰がそのまま農家の収入増加につながっているわけではありません。

例えば、2024/25年シーズンにガーナの農家がカカオ豆1トンを売って得られる価格は約3,700ドルで、同時期の国際市場価格(1トン1万ドル超)の約3割にとどまっています。

さらに収穫量も減少しているため、もともと低かったカカオ農家の収入はさらに悪化しています。

このため、子どもたちが学校を辞めざるをえなかったり、家計を助けるために働く子どもが増えるなどの影響が危惧されています。

干からびてしまったカカオの実

 

カカオ危機の現状と見通し(2025年春現在)

カカオ危機は2025年春現在でも続いています。

供給不足と価格高騰が続き、2025年4月のカカオ国際価格は1キログラムあたり約8.15ドルとなり、2023年10月(約3.63ドル/kg)と比べて2.2倍以上という歴史的な高値圏にあります。

大手チョコレートメーカーは2024年までは先物契約や在庫で価格上昇を抑えていましたが、2025年にはそのバッファーが尽き、原材料コストの上昇が価格や製品サイズに直接反映されています(いわゆる「シュリンクフレーション」)。

一方で、2025年に入り西アフリカの天候は改善傾向にあり、2024-25年シーズンの生産量が7.8%増加すると予測されています。ガーナの生産量も50万トンから60万トン程度への回復が見込まれています。

供給が需要を上回る可能性が出てきたことで、価格も2025年後半から落ち着く見通しです。

ただし、気候変動、病害、農園の高齢化、低収入による離農などの構造的な課題は依然として残っており、今後も供給不安や高水準のカカオ価格が続く可能性があります。

ブラックポッド病にかかったカカオの実

 

ACEの支援地では

ACE支援地も例外ではなく、カカオの収穫量は激減しています。
減少幅は農家によって異なりますが、土地(カカオの農地)を持っている農家は3~4割、土地を持たない農家(たとえば、土地の持ち主と収穫したカカオの利益を分け合う「シェアクロッパー」や、地主から土地を借りてカカオを育てる「借地農家」など)では、7割も減っているようです。

収穫量の減少にともない、家庭の収入も減っています。特に、土地を持たない農家は2.5~3割減っているとのこと、インフレ率(ここ2年は20%台で推移)も考慮すると実質収入はさらに減っていることになります。

ACEプロジェクトで実施している対策は

カカオの栽培研修

農家が正しい知識を身に着けて農園管理をすることでカカオの収穫量を増やすことができます。

カカオ生産の技術を高めるため農業トレーニングを実施

稲作研修

米を栽培することでカカオ以外の収入源を作ります。売らない分は食料にもなります。

参考:
【ガーナ便り】子どもたちの笑顔を守りたい ー フィールドスタッフ、クワメさんのプロジェクトにかける思い
【ガーナ便り】「子どもたちの教育を支えていきたい」家庭の収入向上のために稲作研修をしています

学用品や制服の提供

本来は保護者自身で買いそろえてもらうべきなのですが、カカオ収量の減少のため困窮している家庭がまだまだ多く、無償提供を継続しています。

参考:
【ガーナ便り】学用品を受け取ったヘレンさん「将来は医者になって病気のお母さんを診てあげたい」
【ガーナ便り】学用品と学校給食で出席率が急激に向上!「医者になりたい」夢を見つけたナンシーさんの話

子どもたちの様子

児童労働をなくすためには家庭の収入を増やし、かつ安定させることが重要です。

また、「カカオ危機」として課題が表出する前から、農家の低い収入やカカオの木の老朽化、森林破壊などは課題として存在しており、ACEとしても認識していました。

そのためスマイル・ガーナ プロジェクトでは、農家の収入を安定的に増やしていけるよう、カカオ危機以前から前述のような施策を行ってきました。

少しずつですが農家の経済的な体力がついてきていたこと、村の住民同士で協力し合う体制ができたこと、そして児童労働が子どもに与える悪影響や教育の重要性について住民が理解したことが功を奏したのか、支援地の子どもたちは今も変わらず学校に通っています。

2025年5月時点での出席率は100%と、カカオ危機以前よりも出席率は向上しています。

ガーナ政府の対策と見通し

ガーナ政府も何もしていないわけではありません。病害虫に強い品種の苗木や肥料・農薬の配布や、病気にかかった樹木の伐採・再植林、カカオの買取価格の引き上げなど、カカオ産業の持続可能性を確保するための施策が実施されています。

しかし、こうした施策の恩恵を受けやすいのは主に土地を所有している農家です。土地を持たない農家は、収益分配や補償の仕組みが異なるため、支援の効果が限定的になりがちです。

すべての農家が十分な収入を確保し、安定した生活を送れるようになるにはまだ時間がかかりそうです。

金採掘が、カカオの村を壊している

ガーナは世界第2位のカカオ生産国であると同時に、金の主要な輸出国でもあります。近年、この「金」をめぐる動きが、同国のカカオ産業や地域社会に深刻な影響を与えています。

中でも注目されているのが、「ガラムセイ」と呼ばれる小規模な金採掘です。もともとは、失業中の若者たちが手作業で砂を洗いながら金を採る、小規模な非公式採掘を指していましたが、20年ほど前から外国資本がこの分野に参入し、重機や金洗浄プラントなどの機材を導入したことで、採掘は大規模かつ効率化され、環境や社会への負の影響も急速に拡大しました。

現在では「ガラムセイ」という言葉は、許可の有無を問わず、持続不可能な方法で行われる金採掘全般を指すようになっています。

2024年後半には金の国際価格が1グラムあたり約3,000ドルという過去最高値を記録し、ガーナ全土で採掘への新規参入が急増。簡易な設備でも始められることから、多くの貧困層がこの活動に流入し、女性や子どもが過酷な労働に従事する事例も後を絶ちません。児童労働の増加や学業の放棄も深刻な問題となっています。

カカオ農地と農家への深刻な打撃

違法採掘の拡大は、ガーナの主要なカカオ生産地—イースタン州、ウェスタン州、アシャンティ州など—に深刻な影響を与えています。ブルドーザーなどの重機による採掘でカカオの木が引き抜かれ、農地は破壊されて使用不能となっています。2024年末の時点で、約3万ヘクタールの農地がすでに失われ、さらに5万ヘクタール以上が危機にさらされていると報告されています。

農地を失えば、当然ながら収穫は減少します。多くの農家が生計を立てられなくなり、借金返済の困難、土地の喪失、さらなる貧困の連鎖を招いています。

ガーナのガラムセイ現場

 

環境と健康を脅かす化学物質

違法採掘では、金を抽出する際に水銀やシアン化合物などの有害な化学物質が使用されます。これらが土壌や河川に流出し、飲み水や農業用水を汚染。ガーナ国内の水源の65%以上が鉱業活動によって汚染されているという調査もあります。水銀は環境中に1000年残留する可能性があり、魚や作物を通じて食物連鎖にも影響を及ぼします。

ガラムセイ現場に流れる水は、採掘に伴う土壌の流出および水銀などの化学物質によって赤く変色している

 

拡大する児童労働と事故のリスク

金採掘は即時の現金収入をもたらすため、教育よりも労働を優先する家庭も増えています。10歳前後の子どもが、地下の危険な坑道で掘削作業を行ったり、水銀を取り扱ったりしている例が報告されています。また、採掘現場では水のたまった穴に子どもが落ちて死亡する事故も報告されています。

村に隣接するガラムセイサイト。住民たちは歩いて作業に向かう

 

なぜ「ガラムセイ」は止まらないのか

この問題の背景には、ガーナ国内の深刻な経済危機があります。物価高騰や失業率の上昇により、特に農村部の人々が採掘に活路を見出しています。一部の労働者は週に2,000セディ(約200ドル)を稼ぐこともあり、これは教師の平均月給に匹敵します。こうした収入格差が、違法採掘への依存を強めています。

金を掘り終え業者が撤退した後に残された土地。土壌は掘り起こされたまま放置されている。水遊びに訪れた子どもたちが事故に遭うことも

 

解決に向けた取り組みと、私たちにできること

ガーナ政府は、小規模金採掘を監督・管理する制度を整備し、違法採掘の取り締まりや環境対策を進めています。しかし、問題は根深く、現地の人々が安心して農業に取り組める環境を取り戻すには、長期的な支援が必要です。

私たちACEは、ガーナのカカオ農家や子どもたちの声に耳を傾け、持続可能なカカオ生産と地域づくりを目指しています。現在、国際労働機関(ILO)からの委託を受け、ガラムセイサイトに隣接する地域でプロジェクトを実施しています。子どもたちが危険な作業や金採掘現場に関わることなく、安全に暮らし、学校で安心して学べるよう、地域住民や郡の行政官、他の開発パートナーと協力しながら活動を進めています。

ガーナで起きているこの現実は、決して「遠い国の話」ではありません。私たちが手に取るチョコレートの背景にある現実として、ぜひこの問題に関心を持ち、ともに向き合ってください。

活動報告会を開催しました

2025年7月23日に、ガーナでの支援活動「スマイル・ガーナ プロジェクト」も含めたACEの「しあわせへのチョコレート」プロジェクトについて、オンラインでの活動報告会を実施しました。

今回は特別企画として「カカオのサステナビリティ」に取り組む複数のNGO(JATAN 熱帯林行動ネットワーク、WWFジャパン、フェアトレード・ラベル・ジャパン、レインフォレスト・アライアンス、ACE)によるトークセッションを実施しました。

開催レポートのページではアーカイブ動画も視聴いただけますので、ぜひお読みください。

しあわせへのチョコレートプロジェクト活動報告会2025 レポート──分野を超えて5つのNGOが語る!カカオ産地の“いま”

  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2025.07.31